頭のおかしい四葉の双子   作:四葉のクローバー

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 最終的に世界を破壊したい文字通り無敵な人系の女主人公二人のお話です。



プロローグ

 

 魔法。それがおとぎ話の産物ではなく現実の技術となってからおよそ一世紀。その魔法を実用レベルで使いこなす者は魔法師と呼ばれ、今では日常に受け入れられるまでに至った。

 魔法師は何の変哲もない一般家庭に生まれる事もあれば代々魔法師を生み出してきた名家に生まれる事もある。そして、代々魔法師を生み出してきた名家の中でも日本で最強だと謳われる十の家系は十師族と呼ばれている。

 

 十師族の内の一つの家系である四葉家は触れてはならない者たち(アンタッチャブル)などと呼ばれて恐れられている。かつて一家のみで大漢という国家を崩壊させた事を考えればそれも妥当と言える。当時の事を知らない者でも四葉家が異端である事は口には出さないまでも理解しており、そして恐れていた。

 そんな四葉家の当主、四葉真夜は書斎にて溜め息をついていた。

 

「まったく……どうしてこうなったのかしら」

 

 悩みの種は自身の遺伝子を受け継いだ娘だった。

 四葉真夜は大漢崩壊を引き起こす原因となった事件で生殖能力を失ったが、保存していた冷凍卵子によって子を作る事が出来たのだ。双子の娘であり、姉を真央、妹を真奈と名付けた。

 二人が生まれるまで、真夜は世界を呪い、いつか復讐する事を望んでいた。

 しかし、娘が生まれた事でその考えは変わった。自身の姉である四葉深夜が生んだ子供には感じなかったが、自身の娘には愛情を感じたのだ。目に入れても痛くない。それまでの自分が聞けば鼻で笑うであろう、そんな想いさえ抱くほどに。

 二人の娘が全てとなった真夜にとって、もはや世界への復讐など小さな事になっていた。むしろ、二人の生きる世界だ。何かがあれば守ろうとすら思うようになっていた。

 娘たちさえいればそれで良い。娘たちの成長を楽しみにしながら真夜は輝かしい日々を過ごしていた。

 

 ところが、話が変わってきたのは双子の姉である真央がどこからか、かつての事件のこと、そして真夜が世界を呪っていたという情報を聞き付けてきた時だった。

 子供に聞かせる話ではないかもしれないが、その話を四葉家の中で知る事自体はおかしくない。ただ、それを聞いた真央が問題だった。世界に復讐したいという真夜の意志に共感し、そしてその手伝いをするなどと言い出したのだ。

 

『母様。私も母様が世界を滅ぼす瞬間を見たいわ』

『そ、そうねぇ……』

 

 真夜の一つ目の失敗は、その時の真央の様子があまりに迫真であったためにしっかり否定する事なく誤魔化してしまった事だった。それを受けて真央はいつの間にか本気になってしまっていた。

 

『あのね、真奈。真央が言っていた事なのだけど』

『大丈夫です、お母様。私は例え何があってもお母様のそばにいます。世界が終わるその時まで』

『いや、あの……そうじゃなくて……』

 

 真夜の二つ目の失敗は双子の妹の真奈の認識をしっかりと正さなかった事だった。

 真央は突っ走りやすい性格で、一度走り出したらなかなか止まらないが、妹の真奈は比較的冷静で落ち着いて物事を考えられる子供だった。しかし、改めて真夜が話をしようとした時には真奈の頭の中で可哀想な母親とその意志を受け継ぐ姉、そしてその二人を支える自分という公式が出来上がっていた。

 

 結局真夜は双子の認識を正す事が出来ずにズルズルと今まで来てしまった。

 

「失礼ながら、今までなあなあで済ませてしまっていたツケが回ってきたのかと」

「分かってるわよ……」

 

 執事の葉山へぞんざいに返す。

 しかし、真夜にだって言い分はある。姉の真央に関しては突っ走り過ぎていて真夜一人ではどうにも出来なかった。ならば妹の真奈を味方につけられれば良かったのだが、それも出来なかった。

 真奈が生まれ持った固有の魔法は精神構造干渉魔法だった。それ自体は四葉深夜と同じもの。だが、出来る事が段違いであり、使い方によっては世界を滅ぼす事が出来るのだと、物心がついてから少しして発覚した。下手に刺激すれば、真奈が世界を滅ぼしてしまうかもしれない。

 否、それは言い訳だった。何よりも大切な娘だ。その手で死ぬならそれでも良い。ただ、失望されるのが怖かっただけだ。

 

「今年からはあのお二人と同じ第一高校への進学です。一波乱ありそうですな」

「頭が痛くなってくるわね」

 

 今年度から双子は国立魔法大学付属第一高校へ通う事になっている。魔法科高校とも呼ばれる魔法大学付属の高校は魔法師を育成する高校だ。十師族である四葉家の人間が通う事には何の不思議もない。

 ただ、問題は同じ学校に進学する予定となっているとある兄妹だ。司波達也と司波深雪。特に司波達也が問題である。司波達也は世界を破壊し得る力を持った人間だ。そのせいで一時、生かす殺すなどと四葉家が荒れた事もあった。

 双子の頭の中でも達也が世界を破壊する張本人となっているらしい。世界滅亡へのプラン──のようなものがあるかどうかは分からないが、何事もないという事はないだろう。

 

「はぁ……」

 

 再び書斎に溜め息が響いた。

 一応司波兄妹には、あまり双子に関わらないように言っているが、どうせ双子側から接触するためほとんど意味はないだろう。

 ちなみに、双子に対して何か言っても無駄である。大抵の場合は真夜の言う事に従うのだが、司波兄妹──特に達也が関わると勝手に解釈を捻じ曲げて行動するのだ。

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

 名古屋港、倉庫街。

 

「あははは!! 弱い弱い! 魔法師を相手にするならもっと威力がないとねぇ!!」

 

 全身を黒い装束に包んだ黒髪のボブカットの少女の狂ったような声と共に、発砲音が倉庫内に響く。

 銃弾は少女の方へ向かっていき、しかし弱いなとどと言いながら、少女は魔法はそれを防ぐ事もせずまともに受けた。そんな事をすれば当然身体は銃弾に貫かれ、血が飛び散る。

 だが、少女は倒れない。それどころか、抱擁を受けるかのように両手を大きく広げたまま銃弾を放った下手人たちの方へ歩みを進めていく。

 

「ぐぁっ!?」

 

 銃弾を放った男が身体中から血を噴き出しながら倒れた。

 他の男が発砲し、少女の肩へ突き刺さり血が噴き出す。同時に男の肩からも血が噴き出した。

 さらに他の者も発砲するが、少女へ与えた銃創と同じ創傷が下手人たちへ現れる。

 

 少しして、倉庫内には静寂のみが残った。

 

「あーあ。もう終わり?」

 

 血の海に伏せる者たちは、とある反魔法主義者で構成されるテロリストだった。四葉家が情報を掴み、秘密に処理する事となっていた。

 少女の名は四葉真央。四葉真夜の娘の片割れであり、認識した構造情報を対象に同期させる魔法の使い手である。ただ、違う人間同士の身体の構造情報は違い過ぎるため、そのまま同期させる事は出来ず、普段は構造情報の外的要因による変化を同期させるために使っている。簡単に言えば、認識した構造体の変化──主に自分の身体が負った怪我を魔法の対象とした人物にも負わせるという魔法として使用しているという事だ。

 

「終わったなら引き上げるよ。明日入学式なんだから」

「早く登校する必要があるのはあなただけなのだから、先に帰っていて良いのよ?」

「それでこの前余計にややこしい話になったでしょ」

 

 戦闘が終了し、人が変わったように言動が落ち着いた真央へ話し掛けたのは、戦闘中倉庫の入口付近で待機していたもう一人の少女だった。

 同じく黒い装束に身を包んだ、黒い髪をポニーテールで纏めたその少女の名は四葉真奈。四葉真夜の娘であり、真央の双子の妹である。

 

「今回はただ殺すだけで良い任務を母様が回してくれたのでしょう?」

「それ、ポジティブな事じゃないから。暗にイノシシ娘だって言われてるの自覚して」

「暗に? 普通に面と向かって言われてるわよ」

「もっと酷かった……」

 

 溜め息をつく妹を横目に真央は魔法を発動する。

 発動したのは先ほどと同じ構造情報同期の魔法だった。しかし、同期元と対象は先ほどとは違う。同期元とするのは現在の自身の身体の構造情報ではなく、記憶領域に刻まれ保存されている正常な身体の構造情報だ。それを傷だらけの本体の構造情報へ同期させる事で、傷は塞がり何もなかった事になるという訳だ。元々が同じ構造体であるため、まるごと上書きするように同期させる事が出来る。

 結果だけ見れば、再成と呼ばれる魔法と同じような効果が現れる。こちらは同期元が保存されている自分にしか使えないが。

 ちなみに、記憶領域へ真央の構造情報を刻み込んだのは妹である真奈の精神構造干渉魔法である。

 

「まぁ、でも。今回のは小粒も良いところね。これを使う機会がなかったわ」

 

 傷が塞がったその手の中で真央はナイフを弄る。何の変哲もないただのコンバットナイフであるが、それは相手を斬りつけるためのものではなく、自傷用であった。

 

「掃除は手配したから、さっさと帰るよ」

「分かったわよ」

 

 四葉真央は異常者だ。殺し合いに悦びを覚えるのはもちろんとして、戦闘においてはほとんど自分の傷を相手にも与える用途でしか使われない固有魔法を真央は何の躊躇いもなく、むしろ嬉々として使用する。

 本来なら避けるべきはずの痛みを喜んで受け入れる。真央には先天的に精神に異常があった。

 

「服を直してくれないかしら」

「裏方の人に言えば良いでしょうが」

「明日は入学式だとあなたが言ったじゃないの。私も余計な手間はかけたくないですわ」

「はぁ、もう……取ってつけたような“ですわ”止めて」

 

 再び溜め息をついた真奈は真央へ手のひらを向けた。

 そして、魔法を発動する。すると、身体だけが無事な状態に戻ったものの、銃弾に貫かれて穴だらけになっていた装束が戦闘開始前のきれいな状態に戻った。

 

「ホントに便利ねぇ、再成」

「使えるようにしてあげようか?」

「いらないわよ。こんなものに魔法演算領域が占有されては堪らないわ」

 

 四葉真奈は常識人のように振る舞っているが、能力そのものは異常であった。固有魔法である精神構造干渉魔法は伯母である四葉深夜も使用していた魔法。しかし、同種の魔法でもその人間によって出来る事は変わる。精神構造干渉魔法は文字通り精神の構造を認識し、それを改変する魔法だ。四葉深夜はそれを用いて息子の意識領域を組み換え、仮想魔法演算領域を作るといった事を成した事もある。

 

 そもそも精神には意識領域と無意識領域があり、意識領域には記憶を司る領域や情動を司る領域、無意識領域には魔法を発動する際に必要な魔法式を構築する魔法演算領域などがある。四葉深夜は主に意識領域を改変する事しか出来なかった。無意識領域に関しては、意識領域との境界辺りに何とか干渉出来る程度であった。

 しかし、真奈は当然のように無意識領域にも干渉出来た。魔法演算領域は魔法を行使する魔法師本人にもどのような処理が行われているのか知る事は出来ないブラックボックスとなっている。それを、真奈は精神構造干渉魔法と共に備えた知覚能力によって認識する事が出来た。

 知覚出来る者にしか分からないが、魔法演算領域は魔法師によって色や形のようなものが違う。特定の系統の魔法が得意という場合にはそういう色や形となっているのだ。精神構造干渉によって魔法演算領域の色や形を変えれば得意な系統を弄る事も出来る。属人的な固有魔法に関しても同様の事が言える。固有魔法を持った人間の魔法演算領域を再現すれば、別の人間でもその固有魔法を使えるようになる。

 真奈にはそれらとは別に一度見たものを忘れない完全記憶能力があるため、ひと目視る事が出来れば後でいくらでも再現出来た。

 再成はそうして再現したものである。

 

「私も意識領域を使えるように出来ないの?」

「精神構造干渉合わないって言ってたでしょ。これが使いこなせないと無理」

「普通の精神干渉系ならともかく、私には合わないのよ。何というか、鳥肌が立つ」

「鳥肌が立つぐらい気にする? 普段というかさっきも、もっとすごい事になってるのに。それか、そうならないように精神構造変えてあげようか?」 

「絶対やめなさい」

 

 無意識領域も意識領域も真奈にとっては同じ精神。領域によって働きは違うが、精神構造干渉魔法を使用すれば意識領域を魔法演算領域の回路として使用出来た。

 再成のように本来なら莫大な容量を取られる魔法であっても、使いたい時だけ適当な記憶領域などで代替すれば魔法演算領域の容量を取られる事もない。

 

「まぁ、良いわ。帰るわよ」

「はいはい」

 

 異常な精神を持つ姉、四葉真央。

 異常な能力を持つ妹、四葉真奈。

 四葉の双子の再来などとも言われている二人が進む未来には何が待っているのか。それは誰にも分からない。

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

 2095年4月3日。国立魔法大学付属第一高校入学式。

 入学式はその学校にこれから通う者たちにとっては最初の一大イベントだ。特にこの学校は魔法科高校。そもそも魔法を扱えるという土台に立てる者が全人口から見て少数であり、入学すればそれだけでエリートと言える。例年浮足立った空気が広がっている。

 今年も例に漏れず式が行われる講堂への道中、新入生たちは談笑しながら歩いていたが、今年は例年以上に騒々しかった。

 そしてそれは、一足先に講堂へとたどり着いていた者たちの間でも。

 

「やっぱりインパクトが大きかったからかしら。いつもよりも賑やかね」

「私個人としては不服ですけど仕方ないですね。四葉ですし」

 

 講堂舞台裏。入試において最も優秀な成績を収めた真奈は新入生総代として答辞を読むために舞台裏に待機していた。

 そんな真奈に話し掛けているのは、ふわふわとした巻き毛を揺らす少女だった。生徒会の任に就いている七草真由美、真奈と同じく十師族の一員である。

 

「大丈夫よ。答辞で親しみやすさをアピールすれば」

「いえ、むしろ近付いて来られると困ります。私はともかく姉は頭がアレなので」

「トップは真奈さんに譲ったけれど、入試は総合2位だったわよね?」

「そういう勉強的な頭じゃなくて、何というか性格? というより(へき)? が終わってるので。安易に近付き過ぎると真由美さんでも火傷しますよ」

「へ、癖……!?」

 

 何らかのパーティーなど十師族同士で顔を合わせる機会はある。四葉家当主である母親に付き添う形で真奈もそれに参加し、同じく七草家の当主に付き添う形で参加していた真由美と顔を合わせた事があり、入学する前から知り合いだった。

 四葉の双子である真央と真奈は、それまで全くといって良いほど社交の場に姿を表さなかった真夜が積極的に参加し、娘自慢のようなものを繰り広げたため、それなりに顔を知られている。しかし、そういう場において自由に動き回っていた真奈に比べて真夜の横で退屈そうにしていた真央は顔と魔法ぐらいしか知られていない。

 

「まぁ、せめて生徒会のメンバーぐらいは偏見なく接してほしいんだけどね……あーちゃんなら話が合うんじゃないかと思ったのに」

「ああ、精神情動干渉魔法。確かに私と話が合うかもですね。今度、ウチに遊びに来ます?」

「ひぃいいん!?」

 

 中学生とも見間違えるほど小柄なあーちゃんと呼ばれた少女は表の生徒たちにも聞こえるぐらいの悲鳴を上げた。

 

「……冗談です。ごめんなさい」

 

 思ったよりもビビらせてしまい、真奈は素直に謝った。

 四葉の双子の再来。それが意味するのは単に四葉家に双子が生まれたという事ではない。双子の操る魔法を以ってそう呼ばれているのだ。

 公式に発表されている姉真央の得意魔法は母親と同じ流星群(ミーティア・ライン)、そして妹真奈の得意魔法は伯母と同じ精神構造干渉魔法だった。それ故に、一般に知られる情報の中では真奈の方が恐れられていたりする。真奈にとっては甚だ不本意ではあるが。

 流星群(ミーティア・ライン)は確かに強力な魔法だが、言ってしまえばただの攻撃用魔法の一種。しかし、精神構造干渉はそもそもが存在すら忌避感を示される事も少なくない精神干渉系魔法であり、かつ通常の精神干渉系魔法よりも凶悪と目される魔法だ。そこに四葉の人間という冠が付けばどう受け取られるかなど分かりきった答えでもあった。

 

「あの、冗談ですから……」

 

 と、真奈は未だ頭を抱えて震えている少女、中条あずさへ語り掛けるものの、効果は薄そうであった。一応、式前に打ち合わせとして何度か顔を合わせているのだが、その程度では固まっていた凶悪な印象を覆せなかったようだ。

 

「あー……私が言うのもなんだけど、慣れるまでそういう冗談はやめた方が良いかもしれないわね」

「気をつけます……」

 

 姉ならともかく、自分は比較的常識人だと思っている真奈にとっては少しグサッときた一幕であった。

 

「春の息吹が感じられる今日──」

 

 入学式は順調に進行し、新入生答辞の時間を迎えた。

 内容としては至ってシンプル。真奈は無難オブ無難、ほとんどテンプレートに沿ったような内容のものをそのまま読んだ。ここで何か個性を出そうものなら、それが良くない方向へ進む事が分かりきっていたからだ。

 着席している生徒たちの方へ目を向けると、最前列のど真ん中に真央が居座っており、それを取り囲むように一席か二席の空席があった。明らかに遠巻きにされている。予想通りの光景であった。

 そこから見渡せば少し離れた席には絶世の美少女と言って差し支えない司波深雪や後ろの方の席にはその妹と比べると地味な青年、司波達也がいた。二人とも双子の従兄妹である。特に司波達也に関しては、真奈にとってはいつか世界を破壊してしまう人物であり、要注目であった。

 

「──以上をもちまして、新入生代表の挨拶とさせていただきます」

 

 そう締め括り、お辞儀をした。

 ポツポツと疎らな拍手に見送られながら、真奈は舞台脇へ戻った。

 

 入学式はほどなくして終了した。

 

「お疲れ様でした。あんまり緊張はしていなかったみたいね?」

「ええ、まあ。そういう精神的なやつは得意……はい、すみません。冗談です」

 

 新入生たちが退場していくのを舞台袖から眺めながら、真由美とのやり取りで再びあずさを震え上がらせた真奈は、それほど怖がらせるような事も言っていないはずであったが謝った。

 このままでは何を言っても怖がらせそうなので、真奈は真由美の耳元に口を寄せ、小声で話す事にした。

 

「あの、私の言動ってそんなにおかしいですか? これでも自分の事は常識人だと思ってるんですけど……もしかして、四葉の影響を受けてズレてたりするんですかね……」

「うーん、私はそうは思わないけど……強いて言うなら慣れるまでは精神の話や四葉家の話はあまりしない方が良いかも?」

「気を付けます……」

「そうだ、この後時間はある? お話したい事があるの。なんなら真央さんも一緒に」

「全然大丈夫ですよ」

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

 一方その頃。

 そんな決まりはないが、講堂の席では前が一科生、後ろがニ科生と分かれていたために分かれて入学式に臨まなければならなかった司波達也と司波深雪の兄妹が合流したところへ、周囲の人混みを割りながら近付く者がいた。

 

「久し振りねぇ。達也さん、深雪さん」

 

 四葉真央。司波兄妹にとって因縁のある四葉家の人間。

 

「達也くん、知り合いなの……?」

 

 入学式で達也と出会ったばかりの千葉エリカが恐る恐る尋ねた。同じく知り合った柴田美月は達也の後ろに隠れている。

 

「昔、少し会った事があるだけだ」

 

 嘘は言っていない。実際、司波兄妹はまだ小さな頃──具体的には達也が意識領域に仮想魔法演算領域を植え付けるという手術を受けたおよそ半年後に四葉家の本邸内で一度顔を合わせただけだった。それ以降、司波兄妹は四葉の双子と会っていない。

 

「覚えていてくれて嬉しいわ」

「……忘れろと言われても難しいだろう」

「これからは一緒の学校ね。よろしくしてくれると嬉しいわ、深雪さんも」

「はい……よろしくお願い致します」

 

 たった一度の邂逅。しかし、兄妹の記憶に深く刻み込まれた四葉家当主の娘である双子。

 目の前にいる四葉真央。今でこそ取り繕ってはいるが、当時は人間として壊れている事を隠そうともしていなかった。時々叔母から聞かされる娘自慢では美化されているが、伝え聞く情報では本性は変わっていないだろう。

 そして、今ここにはいない四葉真奈。まるで精神の奥底まで見通すような眼に晒された事を、達也も深雪も忘れていない。底知れないという意味では真央以上。入試においても、本来なら同世代で並ぶ者がいない魔法力を持つ深雪の上を行った真央をさらに引き離しての一位。まるでどこにでもいるような少女のような言動が、不気味さを際立たせる。

 

「この後一緒にお茶でもどうかしら。その二人も一緒に」

 

 一体何を考えているのか、分からない。

 司波兄妹は叔母から四葉との繋がりを周囲に悟られないようにと厳命されていた。双子とは出来る限り関わらないように、とも。

 にも関わらず、向こうから接触してきている。意思の疎通が取れていないのか、あるいはそれを分かった上で逆らっているのか。

 

 周囲の生徒からは一線を引かれたような状態での膠着は、生徒会メンバーを伴った真奈が現れるまで続いた。

 それは、波乱の幕開けであった。

 

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