頭のおかしい四葉の双子   作:四葉のクローバー

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勧誘

 

 

 入学式が終了した後、真奈は真由美を筆頭とした生徒会メンバーと共に司波兄妹にちょっかいを掛けていた真央と合流し、生徒会室へ招待された。

 

「改めて、お久しぶりですね、真央さん。この度はご入学おめでとうございます」

「ええ。真由美さんもお元気そうで何よりですわ」

 

 生徒会室に設置された長机。上座に生徒会長の真由美、そして他の生徒会メンバーとなぜかいる風紀委員長の渡辺摩利に向かい合うように真央と真奈は着席した。

 

「真奈さんはもう知ってるとは思うけど、紹介しておきますね」

 

 そう言って、真由美は自分に近い位置に座っている者から順に目線を移した。

 

「手前から会計の市原鈴音、通称リンちゃん。書記の中条あずさ、通称あーちゃん。それから風紀委員長の渡辺摩利。最後に副会長の服部刑部少丞範蔵、通称はんぞーくん」

 

 ストレートな長い髪のスラリとした美人、小動物を思わせる小柄な少女、ショートボブの麗人、その場唯一の男子が順に紹介された。

 

「渡辺委員長には通称がないのかしら」

「あっ、確かに! この機会に摩利の分も考えようかしら」

「待て待て。そんな事のために集まった訳じゃないだろう?」

 

 ポツリと呟いた真央の言葉を拾った真由美が話を脱線させようとしたところを摩利が軌道修正した。

 

「質問しても?」

「どうぞどうぞ」

「例えば彼女、中条さんの事はどう呼べば良いのかしら。中条先輩? それともあーちゃん先輩?」

 

 しかし、再び真央が蒸し返す。

 

「あ、あの……あーちゃんは……」

「あーちゃんは?」

「ひぅ……あーちゃんです……」

 

 矢を向けられた──と表現して良いのかは分からないが、あずさは何とかあーちゃん呼びを阻止しようとしたものの、向けられた真央の視線に耐えられず失敗した。

 逃げるように下を向いたあずさへ、真央は軽い微笑みを浮かべていた。小動物っぽいし好きそうだなー、と真奈は思った。

 

「私の事は市原と」

「私も服部で構いません」

「私は渡辺でも摩利でも構わんぞ?」

「ええ、どうも。それじゃあ、話を進めてくださる?」

 

 と、言い出した本人が話を本題へ戻したため、真由美は改めて真央と真奈の姿を視界に収めて話し始めた。

 

「そうね。では、本題に入りましょうか。単刀直入に言います。我々生徒会は四葉真奈さんが生徒会に入ってくださる事を希望します。お望みであれば、真央さんも一緒に入ってくださっても構いません」

 

 薄々分かってはいた、生徒会への勧誘。姉を差し置いて妹を第一とするような勧誘をしたのは恐らく入試成績を見ての事だろう。

 真奈にとっては正直面倒くさいという思いもあるが、真央に生徒会をやらせるのは不安が大きいし、かといって四葉の人間を抑えて他の者が生徒会入りするというのも四葉家的に外聞が良くないかもしれない。

 一応、メリットに目を向ければ、生徒会のメンバーは一般生徒が授業時間中いちいち預けなければならないCAD──魔法を発動する際の補助を行なう装置を預けずに携帯しておいて良いという規則があったはずなので、毎日の煩わしさを感じなくて済むという点はある。

 

「分かりました。じゃあ、私一人で受けます」

「あら、私の意見は無視?」

「どうせ受けないでしょ? 受けないよね?」

「まぁ、どの道事務作業とかは好きじゃないから入るつもりもないけれど」

「という事です真由美さん」

 

 絶対に真央はそのうち何かやらかすので、仮に真央を生徒会に入れた場合、大変な事になるという確信が真奈にはあった。

 

「そ、そう……それでは私たちは四葉真奈さんを歓迎します」

「よろしくお願いします」

 

 そうして、顔合わせだけを行ってその日は終了した。

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

 翌日は履修登録と上級生が行っている授業や実習の見学がある事になっていた。

 クラス分けは真奈がA組、真央がB組となっていた。双子が同じクラスになる事はないため、これ自体には何の問題はないが、A組には深雪もいた。入試成績一位と三位が同じクラスという事は、クラス分けは入試成績で決めている訳ではないのだろうか。

 授業時間が始まるまでの空白の時間、新入生たちは既にグループを作って好き好きに話している。怖がられている事を分かっている真奈は、座席順が四葉の"よ"で教室の端になっていたため、一人静かに席に座って始業時間を待っていた。

 

 一方B組の真央は怖がられている事などお構いなしであった。

 

「そこのあなた」 

「あ、えーと、私……?」

「ええ、そうよ。赤髪の」

 

 既に女子でグループができていたところへ、あずさほどではないものの小柄な赤髪の少女に標的を定めて話し掛けた。

 

「四葉さん、だよね?」

「ええ。でも、妹も四葉だから真央で良いわ。ところで私、犬が好きなのだけれど」

「えっと……そうなんだ?」

「あなた、犬みたいで気に入ったわ。仲良くしてちょうだい」

 

 これまで犬を飼った事などないが、真央は犬好きを自称しており、そして犬をイメージするような小柄で快活そうな人物が個人的に好みであった。小中学生時代にもそういう人間を取り巻きにしていた。あずさのようなタイプも、それはそれで臆病な子犬っぽいので好みである。

 

「あ……うん。よろしくね! 私、アメリア=英美=明智=ゴールディ。エイミィって呼んで?」

「よろしくお願いね、エイミィ」

 

 他の女子はいつの間にかどこかへ消えてしまったが、真奈が一人窓越しで空を眺めている間にこうして真央は取り巻きを一人ゲットしていた。四葉の名は知れ渡っているため、大抵は怖がられて避けられるが、たまにそういう事をあまり気にしないタイプの人間もいる。真央はそういう人間を見極めるのも上手かった。

 

 そして昼休み。

 真央はエイミィを伴って真奈と合流した。

 

「相変わらずボッチなのね」

「ボッチじゃないし」

 

 軽く自己紹介を交えて真央と真奈、エイミィの三人は食堂へと向かった。

 食堂には既に多くの生徒たちが溢れていた。

 

「あっ! あそこ空いてるよ!」

 

 どこか空いている席はないかと見渡したエイミィがちょうど三人分の席が空いている場所を指さした。他の生徒に相席する形になるが、混み合っている時間帯である事を考えれば仕方ないだろう。

 

「君たち、そこの席を譲ってくれたまえ!」

 

 少し離れた場所では一科生のグループと二科生のグループが何やら争っているようだった。その中心には司波兄妹がいる。

 

「全く、野蛮ねぇ」

「深雪さんは人気者だから……」

 

 どうやら深雪を取り合う形になっているらしい。取り合うというには、一科生側が一方的に言い掛かりをつけているようにも見えるが。

 

「同席よろしいかしら?」

「ひ、もう私たちは食べ終わったのでどうぞっ!!」

 

 真央が声を掛けた生徒は慌てて食器を持って去って行った。

 言葉自体は穏便に掛けたものだったが、起こった結果だけを見れば向こうの言い争いの集団よりも穏やかでないように見える。

 

「野蛮とは……」

「黙りなさい」

「えっと……どんまい?」

 

 本人にその気はなくとも、真央の話し方や態度は結構威圧感がある。

 そこだけぽっかりと空いて静寂となったところへエイミィの慰めが沁みた。

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

「まったくくだらないよね! 一科生とか二科生とかでどっちが偉いとかね!」

「そうねぇ。でも学校はそれが狙いのようだし、きっとそれが正常な姿ね」

「えっ、学校が狙ってるの?」

「ええ。目に見える違いである花弁の有る無しは分かりやすく分断を招く。始まりは制服の発注ミスだったらしいけれど、それをわざと続けている以上、学校の狙いは明白でしょう?」

「そうだったんだ……」

 

 放課後、預けていたCADを回収した真央はエイミィと共に帰路につこうとしていた。真奈は生徒会室へ行っているため、ここにはいない。

 

「なんだかガッカリかも。他の魔法科高校と比べてもレベルが高いって感じだったからここを選んだのに」

「対立がある事によって切磋琢磨して伸びるという事もあるわ。方針としては悪くないと思うわよ」

「うーん、でもなぁ……」

 

 話題は一科生と二科生の間にある差別的な意識だ。

 今日だけでも一科生による二科生差別が行われている場面を何度か目にする事になった。見た限り一科生全員が差別意識を持っている訳ではないようであったが、少なくない一科生の人間が差別意識を持っているようであった。

 真央にとってはどうでも良い事で、エイミィはむしろ差別意識に対して反感を覚えていた。

 

「そんなに気になるようなら真奈に言えば良いわ。生徒会なら変えられるかもしれないし」

 

 そうして話しながら門へ向かっていると、何やら言い争っている声が聞こえてきた。

 

「いい加減にしてください!! 深雪さんはお兄さんと帰ると言っているんです!!」

「わわっ、なんだろ……また一科生と二科生の衝突かな?」

「みたいね」

 

 その諍いは正門近くで行われていたため、首を突っ込もうとしなくても帰ろうとすれば近くを通る事になる。

 

「同じ新入生なのに今の時点でどれだけ優れているっていうんですか!?」

「知りたければ教えてやる!」

 

 どうやらかなり加熱しているようだった。

 それだけならばそのままスルーしただろうが、特に表立っていた一科生の一人が拳銃型のCADを取り出したのを見て、真央は口角を吊り上げた。

 

「面白くなってきたわね」

「えっ」

 

 そして、直後に魔法を発動した。

 自らの身体を対象とした加速系魔法──自己加速術式。

 

「待て、二人とも!」

 

 CADの引き金を引こうとしていた一科生の男子と、それを迎え撃つために伸縮警棒を振りかぶっていた二科生の女子の間に、真央は魔法力に物を言わせた自己加速術式による超加速で割り込んだ。

 

「「なっ!?」」

 

 ちょうど止められないぐらいのタイミングで割り込んだ真央へ気が付いていたのは直前で制止しようと叫んだ達也だけであった。

 一科生のグループへ身体の右側を、二科生のグループへ身体の左側を見せるような形で真央は両グループの間に止まった。

 既に攻撃体勢に入っていた二科生女子──千葉エリカの伸縮警棒が真央の左腕を叩き付ける。一瞬怯んだものの直前までの動作を無意識で再開し、CADの引き金を引いた一科生男子──森崎駿はこれまた無意識のうちにターゲットを突如視界の真ん中に現れた真央に移して魔法を発動した。

 

「硬化魔法かしら。良い振り抜きね。でも、最後に躊躇ったのはマイナスポイントね。あなたの方は前後に揺さぶるただの移動魔法。面白くはないけれど、躊躇いなく人に向けられる点は好感が持てるわ」

 

 エリカと森崎の手から、それぞれ伸縮警棒と拳銃型CADが地面へ落ちた。

 真央が四葉の人間である事は半ば周知の事実である。二人は四葉の人間に手を出した事を自覚し、そして想像した。四葉家が触れてはならない者たち(アンタッチャブル)などと呼ばれているのは、手を出した者はただでは済まないから。ならば、自分たちは? 

 

「あら、震えているの?」

 

 そう言って真央を左手でエリカの手を、右手で森崎の手を取った。

 

「あなたたちは見どころがあるわ。そうだ、あなたは昨日名前を聞けなかったわね。名前を聞いても良いかしら」

「千葉……エリカ」

「あなたは?」

「も、森崎駿……」

「二人には、ぜひ仲良くしてもらいたいわ」

 

 それはまさしく蛇に睨まれた蛙であった。

 

「ちょっとー! 急にバッて行ったらビックリするでしょー!」

 

 と、静まり返ったその場を切り裂くように遅れてきたのはエイミィだった。

 

「あら、そう?」

「ていうか、魔法受けてたし棒で叩かれてたよね!? 大丈夫!?」

「ええ、問題ないわ。この通り」

 

 そうして真央がエイミィへ向けて手をひらひらと動かしていると、さらに新たな人物が現れた。

 

「お前たち、何をしている!」

 

 険しい顔の風紀委員長、渡辺摩利とそれに付き添った面倒そうな顔をした真奈だった。

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

 放課後、生徒会室を訪れた真奈は生徒会の業務を会長の真由美から教わっていた。

 

「とまぁ、こんな感じかしら。最初のうちはミスしても簡単にリカバリーの効く仕事を回すから、安心してね」

「なんだか生徒が処理するようなものじゃない仕事まで紛れ込んでるような気がしますけど、これが普通な感じですか?」

「そうねぇ。この学校は生徒の自治を重視しているから、生徒会の権限も普通の学校に比べて大きいのよ」

 

 まだ軽く仕事内容を教えてもらっただけであるが、分かった事は生徒会の権限が思ったよりもかなり強いという事だった。入試の成績一覧を見る事が出来るのを始めとして、顔写真付きで生徒の情報も見放題という情報閲覧権限は勿論として、真由美に至っては校内の監視システムに好きに介入していた。プライバシーのへったくれもない。

 

「あら、どうやら新入生が揉めてるみたいね」

「私が行こう」

 

 こうしている間にも情報を仕入れていた真由美。同時に、インカムから何かを聞いていた摩利が席を立った。

 

「あ、だったら真奈さんも行ってくる? これから先もこういう事はあると思うし」

「そういうのは風紀委員の仕事じゃないんですか?」

「それはそうだが、場合によっては生徒会の人間が出る事もある。風紀委員が出払っていたり、偶然近くにいたりした時にはな。生徒会がCADを携帯しているのはそういう事情もある」

「そうなんですか……ちなみに風紀委員の渡辺先輩がどうして生徒会室に?」

「……さあ、行くぞ!」

 

 真由美の言葉への疑問に摩利が答え、そして早足で生徒会室を出る。真奈もそれに続いた。

 

「しかしアレだな。私が行くと言った手前ではあるが、君一人行けば騒ぎは収まりそうだな」

「まぁ、かもしれないですね」

 

 真奈が四葉の人間というのは周知の事実だ。特に、総代として壇上に立った事もあって新入生で知らない者はいないだろう。控えめに言って四葉はかなり怖がられているので、いるだけで諍いどころではなくなり平和になるという事も十分に考えられる。

 

 現場が見えてきたところで真奈は少し離れた場所に真央がいるのを見つけ、そして真央が魔法を使おうとしたのを見てこれから起こると予想される惨状にうげー、と心の中で舌を出した。

 直後、真央の身体が加速して諍いの集団へ突っ込んで行くのが見えた。さらに続いて別の者の魔法発動の気配。

 悲鳴が上がらないのを見るとどうやら酷い事にはならなかったらしい。

 

「今のは君の姉か!?」

「喧嘩の仲裁ですかねー」 

「何という加速だ……あれほどの速度で体幹を維持するなど、並大抵で出来る事ではないぞ」

「魔法力に物を言わせてるだけですよ」

 

 摩利は真央の自己加速術式に感心しているようだった。摩利は近接格闘タイプの魔法師だ。同じく近接戦闘で用いられる事の多い自己加速術式についての知識も多いのだろう。

 しかし、真央の自己加速術式は戦闘のためというよりも、ただ敵に突っ込むためのものであって、敵を翻弄して攻撃を躱すのではなく、むしろ攻撃を食らいにいくために使う。摩利の思う自己加速術式とは使い方が全く異なる。

 

「そんな事より行かなくて良いんですか?」

「ああ、そうだったな。すまん」

 

 真央の他にも魔法使用の兆候があったにも関わらずそれほど慌てていないのは、真奈が適当に言った「喧嘩の仲裁ですかねー」という言葉を真に受けたからか、それとも四葉家の人間の実力を信頼しているからか、あるいは両方か。

 

「お前たち、何をしている!」

 

 摩利が声を掛け、真奈はその横に控える。 

 

「風紀委員委員長の渡辺摩利だ。何があったのか、事情を聞きます」

 

 真央が突撃した時点で静かになっいたが、風紀委員が現れた事で一層場が静まり返った。

 

「あら、渡辺委員長。昨日振りね」

「そうだな。君が仲裁してくれたのか?」

「ええ、そうとってもらって構いませんわ」

 

 摩利へ応えたのは真央であった。

 

「そうか、君の他に魔法を使っていたのは誰だ?」

「この子たちよ。ああ、駿とは初対面だったかしら。エリカは……面識があるようね」

 

 真央が集団の中で特に絶望したような顔持ちの男女を馴れ馴れしく下の名前を呼び捨てにしているのを見て、真奈は大体の事情を察した。二人は真央に目を付けられたらしい。

 エイミィは愛玩動物的な扱いで目を付けたようだが、この二人はもっと野蛮な理由で目を付けられたのだろう。

 

「分かった。君たちには詳しく話を聞く。三人とも、ついて来い」

「まあまあ。何もなかったのだから、それで良いでしょう? 反省しているようだし」

「そうは言うがな。自衛目的以外の魔法攻撃は校則云々の前に法律違反だ。見逃す訳にもいかん」

「ああ、それなら簡単ね。この子たちはきっと私が急に現れたから驚いて反射的にやってしまったのよ。攻撃されると思ったのでしょうね。四葉が急に出てきたのだから仕方がないわ。勘違いだけれど、それは次から気を付ければ良い。でしょう?」

 

 やけに庇うなー、と思いつつ真奈はそれを口には出さない。真央は自分に遠慮なく攻撃してくるような人間は好きなので、気に入ったのだろう。

 

「そうね、真奈。生徒会の人間から注意してもらえば良いんじゃないかしら」

「と、君の姉は言っているがどう思う」

「あー、まぁ、今回は注意だけで良いんじゃないですか? 怪我人とかもいないみたいですし、急に真央が飛んできたら私だって反射的に反撃するかもしれませんし」

 

 急に意識を向けられた真奈は、ひとまず真央が望んでいるであろう返答をした。

 

「分かった。良いだろう。この場は四葉妹に任せる。生徒会として収めてくれたまえ」

「了解です」

 

 そう言って、摩利は帰って行った。

 

「えーっと、生徒会はこの件を大きくするつもりはないので今後気を付けてもらえれば大丈夫です。それでは解散という事で……」

「駿とエリカ以外は帰って良いわよ」

「らしいので」

「心配しなくても、報復したりなんてしないわ。一緒にお茶したいと思っただけよ」

 

 一件落着という事で、真奈も生徒会室へ戻った。

 後から聞いた話では、エリカを見捨てておけない二科生と深雪の達也グループに真央、エイミィ、森崎、そして呼ばれてはいないが光井ほのかと北山雫を加えたメンバーで本当にお茶をしに行ったらしい。

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

 翌日、昼休み。

 

「そういえば、風紀委員にスカウトされたわ。教職員の枠で。昨日喧嘩を仲裁したのを評価されたのね」

「すごーい!」

「す、すごいね」

 

 真央と合流した真奈が最初に思ったのは、取り巻きが一人増えているという事だった。

 真央と同じB組の男子生徒であり、名は十三束(とみつか)(はがね)、男子生徒の中では小柄だった。性格的には大人しめで、取り巻きその一であるエイミィとは真逆に思えるが、エイミィとの仲も悪くないらしい。やはりというべきか、どこか犬っぽい印象を受けた。

 

「渡辺先輩経由だとしても耳が早いけど、受けるの?」

「ええ。生徒会よりも面倒はなさそうだし、時間潰しにもなって良いでしょう」

 

 真奈としては、真央の生徒会入りは反対したが、風紀委員入りはそこまで反対するつもりはなかった。昨日は穏便に済んだものの、どの道いつかやらかす事は分かっていた。もし共に生徒会に入った場合、やらかした場合の責任や処理が真奈の方まで回ってくるかもしれないが、風紀委員なら別の組織であるし、多少やらかしても恐らく風紀委員内で片付けてくれるだろう。

 

「えっと、あれ? 食堂ってこっちじゃなかったような……」

「こっちって確か、生徒会室があった方だよね! 真奈の生徒会の用事?」

「二人には言っていなかったわね。今日から昼食は生徒会室よ。毎日あの人混みの中で食べるのは疲れるから」

 

 実は昨日の放課後の活動中に、真奈は真由美から昼食を生徒会室で摂っても良いと言われていた。友達を呼んでも良い、とも。

 真央は昨日の夜の時点で聞いていたため知っているが、エイミィと鋼にとっては初耳だった。

 

「そうなんだ! 生徒会室って、なんだかワクワクするね!」

「い、良いのかな……部外者なのに」

 

 しかし、その反応は真逆であった。

 

 そして、生徒会メンバーとして入室が許可されている真奈のIDを使用して生徒会室に入ると、既に真由美、摩利、あずさ、鈴音が集まっていた。

 

「こんにちは、真奈さん、真央さん。そちらはお友達かしら?」

「こんにちは、真由美さん。二人は友達……友達です」

 

 さすがに取り巻きと言うのは憚られた。とはいえ二人は友達と思っているだろうし、真奈にとっても普通の友人であるので間違ってはいない。むしろ真奈にとっては正解である。

 

「いつも同じメンバーだから、新しい子が来てくれて嬉しいわ。さあさあ、座って」

 

 真由美に座って、とは言われたが、入室したその足で真央はダイニングサーバーへと向かった。

 

「いくつかメニューがあるから、選ぶと良いわ」

「い、良いの……? 勝手に」

「構わないでしょう? ねぇ、真由美さん」

「え、ええ……構わないわよ」

 

 鋼は居心地の悪さを感じているようだったが、若干困惑しながらではあるものの真由美から許可が出た事でエイミィは遠慮なくダイニングサーバーのメニューを吟味し始めた。

 真央、エイミィ、鋼と順にメニューを選び、最後に真奈が選んで、それなら並んで長机についた。

 

「二人ははじめましてね。生徒会長の七草真由美です」

「アメリア=英美=明智=ゴールディです。エイミィって呼んでください」

「十三束鋼です」

「エイミィちゃんに十三束くんね? よろしく」

 

 そして真由美が摩利、あずさ、鈴音について軽く紹介だけして食べ始める事になった。あずさと鈴音はほとんど会話に加わらなかったが、真由美と摩利に関しては積極的に会話に混ざっていった。

 

「それにしても意外だな。私は四葉妹の方が友達が多そうなタイプだと思っていたが、二人は四葉姉がきっかけで知り合ったのか」

「それは渡辺委員長の勘違いね。真奈は昔からボッチよ」

「ボッチだったのか、意外だ……」

「怖がっている子に無理矢理近付いたら可哀想だから無理して関係を持とうとしなかっただけですが?」

「……なんか、すまん」

 

 ちゃんとした学校に通わせてあげたいという真夜の意向によって真央と真奈はかなり良いところの小中学校に通っていたが、真央が取り巻きを侍らせていた一方で真奈はボッチであった。

 

「渡辺先輩って二人の事、四葉姉とか四葉妹って呼んでるんですね? 呼びにくくないですか?」

「それはアレだ、親しくもないのにいきなり下の名前で呼ばれたら困るかもしれないだろう? まぁ、四葉姉に関しては風紀委員に入るようだから、親しみも込めて下の名前で呼ぼうかと思っているが」

「私の事も真奈で良いですよ。四葉、四葉って口にするのも嫌かもですし」

「別に嫌という事はないが……分かった。これからは二人とも下の名前で呼ばせてもらおう」

 

 鋼はそこそこであったが、エイミィも積極的に会話に混ざり、その昼休みは賑やかに過ぎていった。

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

 放課後、生徒会室。

 

「真由美、そろそろ決まらないか? 風紀委員の生徒会選任枠。明日から勧誘週間なんだが」

「もう、人選中って言ってるでしょ? 昨日の話を聞いて真央さんが良いかなーって思ったら教職員枠に取られちゃうし」

 

 相変わらず何故かいる摩利が真由美を急かしている。

 風紀委員のメンバーは生徒会、部活連、教職員会からそれぞれ三名ずつ選ぶ事になっているが、現在は生徒会が選ぶ枠が一つ空いている状態になっていた。

 

「ねぇ、真奈さんは誰か風紀委員に良い人知らない?」

「私ですか?」

 

 一人で考えても風紀委員に相応しい人物が思い浮かばなかったのか、真奈に助けを求めた。他の生徒会メンバーではなく新人である真奈に聞いたのは、既に他のメンバーには聞いた上で候補が上がらなかったからだろうか。

 

「そうですね……」

 

 そもそもとして真奈の知り合いは少ない。この学校にいる同学年で話した事のある知り合いといえば、生徒会メンバーと摩利を除けばエイミィと鋼に達也と深雪ぐらいである。

 

「深雪さん……入試三位だった司波深雪さんなんてどうですか?」

「司波深雪さん? 確かに成績は十分だけど……お知り合い?」

「ええ、まぁ。戦力的にも問題ないと思いますよ」

「真奈さんが言うなら間違いないわね! 明日の昼休みに連れてきてもらう事って出来る?」

「言ってみます」

「お願いね!」

 

 という事で真奈は明日の昼休みに深雪を生徒会室に連れて行く事になった。

 

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