TS転生外宇宙系魔法少女イアイア・ルーシィ   作:イア! イア!!

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可愛いルーシィ

 

 

 私の名前は、曽良尼有香(そらに・ありか)。

 

 市立青空小学校に通う小学二年生だ。

 

 家族構成は私とママだけの、所謂シンママ家族。

 

 この時点でまあ色々とアレなんだけど、ママは毎日朝早くに家を出て、夜遅くに返ってくるし、休みの日は一日どこかに出ているから、顔を見るのは月に一回か二回ぐらい。

 

 ご飯だってまともに用意してくれない。ぶっちゃけネグレクトもいい所である。

 

 それでも何とか生きていけているのは、私にはある秘密があるからだ。

 

 そう。

 

 私は所謂、前世の記憶がある。

 

 名前とかどこに住んでたかは忘れちゃったけど、私にはかつて成人男性として過酷な現代社会でひぃひぃ言いながら何とか生きていた記憶がある。冷たい布団も、電子レンジで温めただけのおかずも私にとっては慣れ親しんだもの。それに加えてちゃんと健康も気にしていたから、牛乳だって納豆だってへっちゃらだ。

 

 そういう訳で、私は保健所や学校の先生に訝しまれながらもたくましく生きていたのである。

 

 そして最近、そんな私に家族が増えました。

 

 

 

◆◆

 

 

 

「ふわあ」

 

 早朝、朝六時。目覚まし時計が鳴り始める前に目を覚ました私は、欠伸をしながらベッドから這い出した。

 

 最近は気温も上がって来たけど、早朝はまだひんやり冷たい。今日は休みだし、まだまだ寝ていたい気分だけど、そうしたら切りがないから我慢、我慢。

 

 ベッドから這い出した私はカーテンを開き、枕元に置いてある段ボール箱に近づいた。箱にはタオルケットが被せてあって、外の光が差し込まないようになっている。

 

 そのタオルケットをはぎとって、優しい声で呼びかける。

 

「朝ー。朝だよー。ルーシィ、朝だよー」

 

『……ミミム……ミゥ……』

 

「ほら、朝だよ。起きなさい」

 

 段ボールの中には、まんまるな小さな塊が一つ。

 

 焼く前のパン生地というか、フワフワの丸パンというか、とにかくそんな感じのピンクの塊。見る限りにょきん、と一本だけ生えた角のような耳のような突起があるだけで、手も足もない。

 

 大きさは、そう、両手で抱えられるくらいだろうか。

 

「ルーシィ、朝、だよ」

 

『ミミゥ……』

 

 繰り返しの呼びかけに、ようやく諦めたのか。もぞもぞ、と震えるようにそれは動き始めた。

 

 ぽこぽこ、とパンケーキに気泡が浮くように、その表面に無数の目玉が浮かび上がってくる。てんで出鱈目に増えた赤い目玉は、まだ眠たそうに周囲を見渡して、最後に私の顔を見上げた。

 

『ミュファアア~~……』

 

 今度はその側面に米の字に亀裂が入って、解けるようにして裂けていく。触手状の口を大きく広げて、小さな生き物は大きな大きな欠伸をした。

 

 この子はルーシィ。

 

 私の、小さなお友達。

 

「はい、おはよう」

 

『ミィイ~……』

 

 口をもごもごさせながら、目玉が浮き沈みするルーシィを、両手でそっと抱き上げる。うっすらと産毛が生えるルーシィの体表はもちもちしていて、それでいて弾力がある。不思議な感触を楽しみながら寝床からルーシィを抱き上げると、私は洗面所に向かった。

 

「まずは顔を洗おうね」

 

『ミュフ……』

 

 お湯を出して、洗面台に貯めると、それにルーシィを優しく漬ける。

 

 どこかの目玉お父さんみたいな感じで、即席のお風呂に浸かるルーシィ。暖かなお風呂に文字通りとろけるようにリラックスしている彼に笑って、私も顔をばしゃばしゃと洗う。

 

「んー」

 

 鏡を覗き込むと、そこに映っているのはウェーブのかかった黒髪の女の子。いい加減自分が子供になったのは慣れたんだけど、この強烈なくせっ毛はどうしたもんだか。小さなころはいいのだけど、大きくなってから絶対困るよね。今の所対策はない。

 

 しかし若いっていいよね、目やにとか殆どでないし。

 

 水もバンバン弾くから、ちょっとタオルで拭くだけで綺麗さっぱり。

 

「はい、ルーシィもタオルで綺麗綺麗しましょうね」

 

『ミィー』

 

 洗面台からルーシィを取り上げて、流しの上で丹念に拭く。しっかり水気をタオルで取ると、たちまちふわふわの手触りになる。目を閉じていたルーシィが、終わったとみてぷるぷると身を震わせた。

 

 ぽこぽこっと目が浮かび上がってきて、私を見る。

 

『ミュッ!』

 

「はーい、しゃっきりしましたね。じゃあ、朝ごはんにしましょう」

 

『ミミィ!』

 

 しっかり目が覚めたルーシィが、ぽいーんと洗面所から床に飛び降りる。着地の際にべちゃっと潰れた体が、もこもこと再び膨らむと、ナメクジみたいに体の裏側を波打たたせながら床を這い始める。

 

 勿論、ルーシィは粘液とかで床を汚さない。

 

 逆に塵が落ちてたらちゃんと拾ってゴミ箱に捨ててくれるのだ、賢いでしょ。

 

 一足先にテーブルに着くルーシィを尻目に、私は冷蔵庫から牛乳を取り出し、パンをトースターで焼く。ルーシィはグルメだから、人間と同じ物を食べるのだ。

 

 ……食べていのかは、ちょっとわかんないけど……平気そうだから、まあいいよね。

 

「いただきます」

 

『ミュミィ!』

 

 手を合わせて、朝ごはん。パンにはバターをたっぷりぬって、牛乳は暖かいホットミルクに。

 

 隣では、口を大きく開いたルーシィが触手を伸ばしてパンを一口で頬張っている。飲み込んだパンをもぐもぐしながら、コップに触手の先端をちょん、と付けると、ぐんぐん中身が減っていく。

 

 便利だねえ。

 

『ミュイミュイ!!』

 

「はい、はい。もうちょっと待ってね、私はまだだから」

 

『ミュウ!』

 

 元気よく返事をすると、ルーシィは自分の食器を頭の上に乗せて、洗い場まで運んで行った。かしこいよねえ、偉いよねえ。おかげで助かっちゃう。

 

『ミュッミュッミュ~♪』

 

「ふふふ……」

 

 上機嫌に鳴きながら這いずる後ろ姿を眺め、ぼんやりと私はルーシィの事を考えた。

 

 言うまでもないが。

 

 ルーシィは、世間で認知されていない生命体である。あれが宇宙生物なのか、どこかの実験施設から逃げ出してきたミュータントなのか、それも定かではない。

 

 勿論最初は警戒した。可愛らしく見せかけて人間を捕食するクリーチャーなんて東西南北類例はいくらでもあるし、ルーシィが無害でもそもそも得体のしれない病原菌とか持っている可能性もある。

 

 当然それらの可能性を考慮した上で、しかし、私はこうしてルーシィと一緒に暮らしている。

 

 理由はいくらでもある。

 

 接触してしまった以上、もう今更、と開き直ったというのもあるし、二度目の人生も普段から色々我慢させられているのだから一度くらい特大のはっちゃけをしてみたかった、というのもあった。

 

 だけど一番の理由は。

 

 きっと。

 

 

 

 

 

 寂しかったからだ。

 

 

 

 

 

「はい、おまたせ、ルーシィ」

 

『ミュミュー』

 

 遅れて私も食べ終わり、洗い場で食器を水に漬けると、まってましたと言わんばかりにルーシィが体を伸び縮みさせる。くすっと笑ってそんな彼を抱きかかえると、腕のなかでリラックスしたように脱力した暖かかくて柔らかい生き物が、甘えるように体を擦りつけてくる。

 

『ミュ、ミュィ~……』

 

「はいはい、お前は甘えん坊だなあ」

 

『ミュミュ』

 

 ぷにぷに、とほっぺを指でつつくと、ぽこぽこと目玉が浮いてくる。大小それぞれ5つぐらいの目玉が私を見て、一斉ににっこりと微笑んだ。

 

 うーん、こういうのをキモ可愛いっていうんだろうなあ。ふふ。

 

 ルーシィを抱きかかえたまま、テレビの前のソファに。リモコンを押して、朝のニュースを確認する。

 

『それでは、朝のニュースのお時間です。まずは、昨晩発生した、ケースXの顛末についてです』

 

「お、やってるやってる」

 

『ミュイミュイ!』

 

 テレビに映るしかめっ面のアナウンサー。彼の言葉に、抱きかかえたルーシィが興奮したように頭の突起を振り回している。

 

「ふふ。お前は魔法少女の話が好きだものね」

 

『ミュイ!!』

 

『昨晩、午後七時過ぎに都心部に出現した怪生物タイプのケースXですが、駆け付けた魔法少女、ブラックシルキィとパープルフレアによって凡そ30分後に撃退されました。現場は道路が陥没するなど甚大な被害が出ていますが、警察の発表によれば今の所、死者や行方不明者は確認されていないそうです。これは、発生初期段階においての魔法少女の避難誘導が功を制した結果と考えられており……』

 

 腕の中でじたばたして喜ぶルーシィを落とさないように抱きかかえながら、私は次々と切り替わるニュース画面をぼんやりと眺めた。

 

 映像の中では、ビルほどもある黒い怪物が街を破壊する様子や、それと戦う黒と紫の少女の姿が映し出されている。

 

 そう。

 

 この世界には、魔法少女というものがいる。

 

 それが果たして何なのか、詳しい話は誰もしらない。ただ、常識では説明できないような何かがあると、彼女達はどこからともなく顕れて、人々を助け、怪物を退治する。

 

 魔法少女というのも彼女達が名乗った訳ではなく、助けられた人々が自然とそう呼ぶようになったものだ。そうするうちに彼女達もその呼び名を気に入ったらしく、人前で声高らかに自分達の名前を叫ぶようになった。勿論本名ではなく芸名のようなものだろうけど。

 

 私がルーシィを受け入れたも、彼女達の存在がある。もともと不思議な存在が居る世界なのだから、正体不明のクリーチャーの一匹や二匹、今更大騒ぎするような事でもない。

 

 そしてルーシィはどういう訳か彼女達が大好きなのである。憧れているといってもいい。

 

 彼女達のニュースになると子供のように大はしゃぎする。今もほら、勢いあまって腕から飛び出しかねないほどだ。

 

『ミュミュミュー!!』

 

『……それでは、次のニュースです。先日発覚した、大田商事の不正献金問題ですが……』

 

『ミュッ!?(がびーん)』

 

 が、ニュースがいつまでも同じ内容を流してくれる訳ではない。あっさり切り替わって、つまらない不正の話に話題がうつると、ルーシィは露骨にがっかりして膝の上で潰れた。

 

 あまりの落ち込み様に悪いけどちょっと笑いが出ちゃう。

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