TS転生外宇宙系魔法少女ダークネス・ルーシィ 作:イア! イア!!
「どうぞ。粗茶ですが」
「えっと、はい……」
魔法少女グッズショップでの邂逅から30分後。
私は銀鯉さんにつられるがまま、彼女の借りているアパートの一室に招かれていた。
最低限の設備しかない狭い部屋。あんまり掃除は行き届いている感じじゃなくて、部屋の隅には埃がちょっと溜まっている。部屋の隅にはベッドと作業机。……ほんの少し、鼻をつく化学薬品の匂いがする。エポキシパテの残り香。
「え、えと。銀鯉さん、とおっしゃいましたっけ。その、お店では作品を貶すような事をいってすいませんでした……ご、ごめんなさい」
「いえ。その点は気にしていません。というか、私自身、貶されて当然ではあると思っていますので」
「え、ええと……?」
真面目くさった顔の銀鯉さんに困惑する。え、機嫌を損ねたから私に声をかけたんじゃないの??
困惑していると、彼女は何かをがさごそと机の下から取り出して、私に差し出した。
「……? ノート?」
「はい」
真っ白な自由帳とボールペン。それを受け取って困惑する私に、すっと銀鯉さんは流れるような動きで頭を下げた。
土下座である。
「どうか、私に御教授御鞭撻の程をよろしくお願いします、師匠!!」
「ちょ、ま、えっ!?」
突然の展開に、困惑しきった私の口から意味のない言葉が漏れる。横に置いたペットのカバンの中で、ルーシィがガタガタッと小さく身じろぎしていた。
話をまとめると、こういう事らしい。
彼女、銀鯉香蓮さんは会社勤めの傍ら、原型制作に勤しむモデラ―さんだそうで、その創作対象はもっぱら現実に出現した魔法少女なのだそうだ。
数少ない資料から彼女達のデザインを把握し、造形を試みているものの大本の資料が少なすぎ苦戦していた所で、店先でさも物知り顔でダメ出しをしていた私を遭遇。
矢も楯もたまらず、話を聞くためにこうして招き入れた、という事らしい。
ちなみに彼女の会社も例の怪獣大暴れの被害を受けたそうで、しばらくは休みになるらしい。
「そういう訳で、是非師匠には協力していただきたく……」
「は、はあ……」
頭を下げたままひたすらお願いの一手である銀鯉さんに、状況は把握したものの今度は私は呆れかえってため息をついた。
行動力はあるものの流石にそのままの勢いで小学生を連れ込むとか考えなしにもほどがある。私が通報したらどうするつもりだったのだろうか。
まあ、いい。悪い人ではないのはわかった。
「いいですよ。協力しましょう」
「ほんとですか!?」
「え、ええ」
べつに減るもんじゃないしね。あと、さっきからカバンの中からルーシィの圧が凄い。手伝うよね? ねっ? といった感じの無言のプレッシャーを感じる。
私は右目を覆う眼帯の位置をちょっとずらして、白紙のノートに向かい合った。
「でも私が知ってるのはセンチちゃんと、ジャガーとキャッツぐらいですけど、それでもいいんです?」
「えっジャガーランサーとマウンテンキャッツもお詳しいんですか……センチちゃん?」
「あ、そっちの方が可愛い響きだと思って勝手に呼んでます」
えーと、えーと。記憶を頼りに、彼女の衣装をスケッチする。シンプルではあったけど、ワンポイントでちょっと凝ったおしゃれをしてた感じだよね、彼女。
記憶と格闘しつつスケッチを起こしつつ、私は銀鯉さんに思いつくがままに質問を投げかけた。
「ところで、センチちゃん推し? それともたまたま?」
「そうですね。ヴァイオレット・センチピードは私の推しではあるのですが、正確に表現するなら彼女の所属するチームポイズンまとめて推している、という処でしょうか」
「ほいほい」
そういえば、たいていの魔法少女はチームを組んでるって話だったな。
大体は特性とかでひと固まりになってるって話だ。初めてあった魔法少女、ジャガーランサーとマウンテンキャッツは動物系のモチーフの集まりであるチームビーストに所属している、という話だ。あまり詳しくはしらないが、チームポイズンは名前の通り毒のある生き物モチーフの集まりか?
しかし魔法少女のモチーフでそういう有害生物ってのは珍しいな。まあ創作じゃなくて実物だから、戦闘能力とかが優先されてる感じなのか。
「チームポイズンは全部で4人。百足の魔法少女であるヴァイオレット・センチピードの他にも、蜘蛛の魔法少女であるジェット・スパイダー、毒キノコの魔法少女であるマジック・マッシュ、毒蛇の魔法少女であるエメラルド・ボアがいらっしゃいます」
「へえー。やっぱ皆、センチちゃ……ヴァイオレット・センチピードみたいに強いの?」
「それは勿論!! ですが、彼女達を推せるのはただ強いからではありません!」
ぐぐっ、と拳を握りしめるようにして力説する銀鯉さん。お、おおぅ。熱いね。
「彼女達の推せるのは、その孤高な精神! 毒のある生き物モチーフの魔法少女という事で、彼女達は世間から腫物のように扱われていますが、その扱いに対して彼女達は己のスタンスを貫き、弱きを助け悪をくじく魔法少女として活動しているのです! 多少言動がぶっきらぼうな所はありますが、それも過酷な世間からの逆風に立ち向かうために自分を鼓舞していると思えば可愛い物! むしろ長所です、ラブリーです! 義賊、アウトローのスタンスを取りながらも誰よりも魔法少女としての使命に実直! そんな誇り高き仕事人集団こそがチームポイズンなのです!」
「な、なるほど……」
熱のこもった演説に首を思わず引きながらも、確かに納得できるところはある。
確かにセンチちゃんはそんな感じだった。ほかの三人もあんな感じでワルぶってる感じの良い子ちゃんというなら、うん、まあマニアが好きそうなメンツだ。
当の本人たちはこういう感情を向けられているのを知っているのだろうか……?
「はあ。となると、現地でおっかけとかしてたり……?」
「そんな、とんでもない! 彼女達の迷惑になるような事はしていませんとも! あくまでネットや同好の士からの情報提供頼りです。真のファンは遠くから見守るもの!」
という訳でこれが資料です、と彼女が部屋の隅からもってくるのは、プリントアウトされた山積みの写真。
ほとんど全てがピンボケ状態だが、魔法少女を撮影した写真であるというのはわかる。どんだけ集めてるんだこれ……。
「ま、まあ、熱意はわかりました。僕でよければ協力しますけど、絵心はありませんからね? そこは期待しないでくださいね」
「ありがとうございます師匠!」
「だから師匠はやめてくださいってば!」
勢いよく頭を下げてくる銀鯉さんに両手を振ってなんとかとりなす。
ああもう……悪い人じゃないけど変なのにひっかかっちゃったなあ……。
その後、私は何時間かかけて数枚のスケッチを書き上げ、コメツキバッタのように頭を下げて感謝する彼女に、車で家の近くまで送ってもらったのだった。
え、なんで家まで送ってもらわなかったのかって?
なんか居住地把握されるとストーカーされそうで怖かったんだもん……。
『ミルルルゥ!』
「素敵なお姉さんだったね、って? はあ……気楽だねえ……」
ルーシィから見れば同じ魔法少女の熱烈なファンって事でシンパシー感じたのかもしれないけど。
一応、本来の目的であった魔法少女についての情報収集はこれ以上ないぐらい捗ったけど、その代償でとにかく精神的に疲れた。スケッチしている間、ひたすらノンストップでしゃべり続ける彼女に脳みそに情報を詰め込まれ続けたのでね……。
明日の学校に備えて今日は早く寝よう。うん。そうしよ……。