マジで妙な事になったぞ。
私は夜の公園で銀鯉さんにパシャパシャ写真を撮られながら、状況の推移に只管困惑していた。
買い物の帰り道、暗くなりつつ街に漂ってきた異形の気配を追いかけたらまさかの知り合いがディナー一直線だったので助けた。それはまあいい。
問題はその後である。
圧縮言語だか高速言語だかでまくしたてる銀鯉さんの勢いに押されて、あれよあれよと夜の街に連れ出され。今はこうしてライトアップされた公園の噴水の前でポーズ決めてるのは一体どういう事なのだ? 時空間が歪んでいる、はっ、これも敵の異能の攻撃なのか!? すでに私は何者かの脅威にさらされている?!
「いいですよ、いいですよー! ルーシィさん、もっとこう勿体付けて……そうそう! 闇の炎が燃え盛ってる感じで!」
「ふ……! 闇に呑まれよ!」
「きゃー! 素敵! カッコいい! 闇の御子!」
……まあたまにはこういうのもいいよね。
というか流石は魔法少女ヲタク。カッコいいポーズの引き出しが半端ない。私も自分で鏡の前で決めポーズとか練習してたけど、銀鯉さんのセンスの足元にも及ばない。
むふん。ま、まあ、これを機に、ポーズの引き出しを増やしておくというのも悪くはないしぃ?
滅茶滅茶喜ばれてるし? 褒められまくるのもまあ悪い気分じゃないしぃ……?
ルーシィも無茶苦茶喜んでるし、まあ、たまにはね??
「いいわいいわー! もっとこう、顎をくいっと! 地べたの蟻を見下ろす感じで!」
「ふ……位階の低い有象無象どもが……」
「きゃー! 見下し目線素敵ー!!」
パシャパシャ!! とカメラのフラッシュが夜に煌めく。それに照らされて、誉め言葉のラッシュを浴びていると、なんだか背筋がムズムズしてくる。
ふ、ふふふふ……ちょっと楽しくなってきたかも……。
と、そんな感じで噴水の縁に乗ってポーズを決めまくっていると、夜にもかかわらず公園にたむろする連中がざわざわし始めた。
「なんだあれ、コスプレの撮影会?」
「きゃー、あの子可愛いー」
「魔法少女のコスプレか。気合入ってんなー」
どうやら、私の恰好はあくまで気合入ったコスプレ、と見なされているらしい。まあそりゃそうだよな、現状私は謎の第三者勢力だし、実質的にも自称魔法少女だ。世間に認知されてるはずがない。
それはそれとして恰好を褒められるのは悪い気はしない。ぞろぞろ集まってくる野次馬が礼儀正しく銀鯉さんの後ろで見物するのに気分を良くしながら、私はピシッとポーズを決めてカメラのフラッシュを浴びた。
「ふふふ……全ては些事! 闇の声が導くままに!」
「きゃー! 素敵よルーシィちゃん! 世界で一番綺麗だわー!」
「ふふ、そうだろうそうだろう。我は三天を支配する暗黒の巫女。闇よりなお黒く暗く輝ける暗黒!」
「おーーーほっほっほっほ! ちょーっとそれは聞き捨てなりませんわねー!」
夜の公園に、傲岸不遜な美声が響き渡った。人々が声の出元を探して顔を上げると、公園の外灯の上に一人の少女の姿があった。
黄色と白をベースにした華やかなドレスに、随所をカバーする銀の鎧。手には長大な馬上槍を掲げ、その髪型は在ろうことかドリルじみた金髪縦ロール。日本人離れした碧眼で口元に手を当てて高笑いするその少女の名は……。
「ら、ランサー・エリザベート!?」
「おほほほほ、どうやら名乗るまでもないようね! そう、
流石銀鯉さん、どうやら見知らぬ魔法少女もばっちりフォローずみらしい。名前からして、ソード・アリスと同じチームの、近接系魔法少女か?
担当区域ではない場所にまで名前が知れ渡っている事に機嫌を良くしてか、外灯の上で仰け反るようにして高笑いするエリザベート。……あの高所であんなポーズをして少しも不安定に見えない、というか人間で担ぐ事など不可能な大槍を軽々と抱えている所を見るに本物かどうか疑うような余地はない。
まさかの本物の乱入にざわざわと外野が騒めいている。まあ私も本物なんだが?
「それはともかく! そんな私を差し置いて魔法少女ベスト1を自称するなど許せませんわー! 名を御名乗りなさーい!」
「ふっ。御指名に与り自己紹介と行こう! 私は、星刻の魔法少女ダークネス・ルーシィ。暗黒の巫女にして、のさばる獣に裁きを降す執行者なり!」
これは盛り上がってまいりました。ノリノリで相手の問いに応じて、ぴょーいと噴水から近くの外灯の上に飛び上がる。睨み合う二人の魔法少女を照らすように、公園のイルミネーションが切り替わった。
「えっ、い、いま、ひと飛びで……」
「うっそ、あっちもコスプレじゃなくて本物!?」
「しゃ、写真とれ写真! 本物をこんな近くで見られる事なんてそうそうないぞ!!」
俄かに無数のフラッシュが私達を下から照らす。しかし、私の意識は有象無象ではなく、目の前の麗しき魔法少女にのみ向けられている。
大言壮語を叩くだけの事はあり、その佇まい、身なり、ともに洗練されたものだ。形だけではない、たゆまぬ努力で磨かれた武と美がその肢体に漲っているのがはっきりとわかる。
この魔法少女……出来る!
そんな私の感嘆を読み取ってか、にやり、とその美貌に挑発的な、しかし相手を称えるような笑みが浮かぶ。
「……ふっ! どうやら、私の美しさが理解できる手合いのようね! よろしい! 強さとは美しくなければならない、どうやら三流の蛮族ではないようね! 安心したわ!」
「ふっ。真の強者はまた強者を知る。当然の事」
「ますます気に入りましたわダークネス・ルーシィ! 最近、他のチームのテリトリーを荒らす魔法少女がいると聞いておりましたが、どうやら勘違いだった様子! ここの担当には口添えしておきますわ」
おおぅ、思った以上に話が分かる相手だ。
現役の魔法少女から話を通してくれるなら有難い。そもそもどこから誰に話を通せばいいのかもわからんかったしな。
とはいえ、それで話は終わるまい。
案の定、好意的な態度から一転、エリザベートはビシィ、と馬上槍を私に突きつけて胸を張った。
「それはともかく! 私を差し置いて美の頂点を名乗るなど笑止千万! ここで美しさと力とは何たるかを教え込んでやりますわ! 覚悟なさーい!」
「ふ! 恐怖を知らぬ幼子には、闇の帳がいかなるものか、教育してやる必要があるようだ。よかろう、七日七晩、消えぬ瞼の虚像に怯えるがいい!」
突きつけられる馬上槍に、しかしこちらも臆するつもりはない。両手を広げ、闇のオーラを纏うこちらに対し、あちらも不敵な笑みを浮かべつつ魔力を立ち昇らせる。
穏やかならぬ雰囲気に、慌てて野次馬が公園から逃げ出していくのが見える。残っているのは、なおもフラッシュを焚く銀鯉さんぐらいのものだ。
いいから逃げてくんない?
「きゃー! 志を同じくする魔法少女同士、されど譲れぬものの為にぶつかり合う! 宿命ねー!」
駄目だ完全に舞い上がってる。
まあいっか。
勿論別に殺し合うつもりではない。あくまで、お互いに一撃交えて相手の底を伺おう、というだけだ。別に説明された訳ではないけど確信がある。
なんかこー波長が合うんだよねこの子。いいね、友達2号になれたらいいな。
「では、いざ」
「闇に呑まれよ」
そして、互いに裂帛の気合をこめ、一瞬だけ魔力を収束し、それを爆発させようとした、その瞬間。
『ヒィイイイイイン……!』
公園の奥の林から、巨大な蜘蛛が木々をなぎ倒しながらその姿を現した。
「なっ」
「ちぃっ」
どうやら今晩は、まだまだこれからが本番らしいな。
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