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林の奥から姿を現した巨大蜘蛛。地響きを立てて動き出した怪物に、夜の街を人々が悲鳴を上げて逃げまどう。
「くぅ、まずは避難誘導ですわ! 貴方も手伝いなさい!」
「ふ、言われずとも」
袖からリボンをしゅるしゅると伸ばし、混乱している野次馬達を縛り上げる。身動きを封じられて衝動的に暴れる彼らを、強制的に公園の外にシュゥー! エキサイティン!
とにかくこの場から離れさせれば安全、そう思っての行動だったが、即座に背後からお怒りの声が上がった。
「こらー! 何やってんですのぉ!?」
「てっとりばやいだろう?」
「手早くても乱暴なのは駄目です! 普段から私達だって堪えて好感度UPの為に配慮してるんですから!」
ちぇー。
あと内心やっぱいい子ちゃんぶるの大変なのね。わかるわー。
パニックになってる一般人ってただ邪魔なだけの迷惑キャラだよねー。まあそんな事いってもしょうがないんだけど、ってね!
「わかった、わかった。じゃあ私が愚民を導く道を作ろう」
「それでは私が誘導しますわ! みなさーん! 落ち着いて付近から移動してくださーい!」
しぶしぶリボンを張り巡らせて誘導路を作ると、エリザベートは外灯の上をぴょんぴょんしながら、槍で民衆を誘導する。最初は混乱していた市民も、見た目華やかな彼女の呼びかけと、分かりやすく張り巡らされた黒いリボンの道に落ち着きを取り戻し、ぞろぞろとこの場を離れていく。
「きゃー! ルーシィちゃーん!! お気をつけてー!」
「はいはい貴女も避難してね?」
そして最後まで残っていた銀鯉さんを逃がして、とりあえず周囲の一般人はクリアだ。これで戦える。
まあそうこうするうちに大蜘蛛は公園を出て、近くのビルによじ登っているんだがそっちまでは責任を持てない。巻き込まれないよう大人しくしていてくれ。
「それにしても大蜘蛛か……。何匹か子蜘蛛を始末したが、その親か?」
「あら貴方も? 私も公園に来るまでに何匹か仕留めましたわ」
「ふむ……」
しかし、あの巨体でありながら動き出すまで全く気が付かなかったぞ。なんだったらそのまま潜んでいれば私達をやり過ごせただろうに。なんでわざわざ、魔法少女が二人そろった所で動き出して……あ。
そういう事か?
自分が潜んでいる公園に、まるで申し合わせたように魔法少女が二人集まったから、自分を仕留めにきたのだと勘違いした? それで観念して暴れはじめた……?
つまり。
奴が暴れはじめたのは、つまり私の……。
……。
よし! 証拠隠滅の為に速やかに仕留めよう!!
「……とりあえず仕留めるぞ金髪ドリル。騒がしい夜は好みではない」
「合点承知の助ですわ! って誰が金髪ドリルですの!?」
「他に表現のしようがないと思うが」
いや確かに名前の通りでっかい馬上槍持ってはいるけどさ。それよりやっぱ金髪縦ロールっていう属性は強すぎるって。特濃味噌味みたいなもんで、他の味付けが全部些事だよ。
「ウキィー! エ・リ・ザ・ベー・ト! ですわ! ランサー・エリザベート!!」
「いいから仕掛けるぞエリザベードリル。被害が拡大する前に黙らす」
「だから誰がドリルだって……をほん! 無礼な言い分はともかく、方針には賛成ですわ!」
二人してぴょんぴょんとビルの屋上を跳躍して、巨大蜘蛛に迫る。
紫色の大蜘蛛はこちらをぎょろりとその目で捕らえると、口からずばばばー、と糸を噴き出した。直撃コースのそれを二手に分かれて回避すると、糸を浴びた電柱がぐずぐずに溶けて崩れるのが見えた。
強酸性の糸か。殺意が高いね。
「お前は右! 私は左だ!」
「命令しないでくださいます!?」
文句を言いつつも、連携は取った方がいいと判断したのか素直にこちらの言葉に従うエリザベードリル。狙いは、巨体を支える8本の脚。
まずは関節部分を狙って、機動力を削ぐ!
「闇の螺旋よ……」
「エリザベート・カッパーランス! ですわー!」
袖のリボンを螺旋状に回転させて突進し、蜘蛛の足を2本一気に吹き飛ばす。反対側では、エリザベートが猛烈な勢いで馬上槍を繰り出し、放たれたエネルギーの刺突で肢を4本纏めて引き千切っていた。
なかなかの攻撃力だ。チーム・ナイトとやらの魔法少女は、どうやら打撃力に優れたメンバーが揃っているらしい。その分、どうにも絡め手に弱そうだが。
「おーっほっほっほ、私にかかればこの程度……うばあ!?」
「調子に乗るから……」
ランスを構えたまま高笑いしていたエリザベートが、突如横なぎに吹っ飛ばされる。正確には、脚にくくりつけられていた糸を、巨大蜘蛛が引っ張って振り回したのだ。ビルに叩きつけられる前に割って入り、糸を切断して彼女を抱えて離脱する。
「大言壮語に劣るような真似をするな。金メッキと揶揄されたくなければな、真鍮娘」
「ち、違います、私は黄金の……!」
「愚者の金というものを知っているか。貴金属の価値など、主観では決まらん。その価値は常に俯瞰的なものだ」
というかカッパーとか思い切り叫んでたじゃん。まあ色々と事情はあるんだろうけど。
ちょっとしゅんとしたエリザベートを抱えて、蜘蛛から距離を取る。
いつの間にか奴の周囲には無数の糸が張り巡らされている。魔眼を持つ私からすれば一目瞭然だが、エリザベートからするときついか?
一応、6本もの足をフッ飛ばしてやった事で奴は直ぐには動けないようだ。引き千切った脚がビルにめり込んでいるが、まあ、うん。多少の被害はコラテラルコラテラル……。
「ならばこのまま遠距離からなぶり殺し……と行きたいが。ちっ。造りが単純な奴は気楽でいい」
「肢が再生していますわ!?」
エリザベートの言う通りだ。引き千切った奴の足の付け根に風船のような瘤が出来たかと思うと、それを突き破って新しい肢が生えてくる。
ええい面倒な。蜘蛛は脱皮すると足が生えてくるとはいうが、だったらせめて脱皮しろ脱皮!
「あ、新しく生えてくるなんてズルっこですわ! 蜘蛛のくせに! あ、でもあれって本当に蜘蛛なのかしら。8本脚だけど生えてる位置が変だし、頭に髪の毛みたいなの生えてるし、あ、あれ?」
「おいしっかりしろ」
あんな馬鹿げたもんを真正面からガン見するんじゃない、斜めに見てればいいんだあんなもん。
こつん、と金髪ドリルの斜め後ろ45度を軽く小突くと、その衝撃ではっとエリザベートは我に返った。
「はっ。私とした事が何を」
「やれやれ」
世話のやける先輩だ。しかし、さて。どうしようか。右の魔眼を解放すればさくっと始末できるだろうが、そしたらこないだのソード・アリスみたいにエリザベートの不信感を買う恐れがある。かといって、普通にやりあってたら割かし手間がかかりそうだ。
……ん? 何々ルーシィ、私にいい考えがあるって? その言い回しは不吉すぎるんでやめてくれない?
まあそれはともかく、アイディアは悪くなさそうだ。早速私は、横に抱えたままのドリルに声をかける。
「エリザベート。ちょっと力を貸せ。このままやりあってもいいが、それだと面倒くさそうだ。見た所、お前の方が打撃力は上。ここは協力プレイといこうじゃないか」
「それって……友情の合体攻撃という奴ですわね!? いいでしょう、乗ってあげますわ!」
「いやさっき知り合ったばかりで友情も何も……いやまあいいか」
どうにも今晩はアクの強い奴ばかりに遭遇する。ちょっとげんなりしながら、私は伸ばしたリボンをぐるぐるとエリザベートに巻き付けた。
それを見て察したのか、彼女は素直に身を任せつつ、ランスを突き出して構えてくれる。
よし。いくぞ、即席の在り合わせだが、合体攻撃……!
「いくぞ黄金ドリル! 闇のトッカータ、第三番! “ドンキホーテの突貫”!」
「誰がドンキホーテで黄金ドリルですの!? ええい、行きますわよ、“ダークネス・ゴールデン・スパイラル”!!」
「「いっけえ!!」」
ベーゴマのように、リボンでエリザベートを高速回転させながら大蜘蛛目掛けて射出する。ランスを構えた彼女は回転にも目を回す事無く、その全エネルギーを切っ先に集中させながら、勢いよく突き刺さった。
高速回転するランスがその巨体をぶち抜き、反対側に突き抜ける。大穴をぶち明けられた蜘蛛を挟んで私達はそれぞれ背中を向け合い、決めポーズを取った。
「闇に……呑まれよ!」
「これが私の輝きでしてよ!」
その直後、大蜘蛛は迸るエネルギーに内側から弾け飛ぶようにして爆発し、飛散した無数の破片は金色に輝く魔力に焼き尽くされて消失する。
天を貫く黄金の炎の柱。それを持って、夜の馬鹿げた騒ぎは終わりとあいなったのであった。