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「ふん。他愛もない」
電柱柱の上に着地し、燃え上がる蜘蛛の残骸を見下ろす。景気よく燃えている、あれなら汚物を残す事無く数時間後には灰になっているだろう。まあそんなもんが屋上で燃えているビルの持ち主には多少同情しなくもないが、多分保険か手当が降りるからそれで我慢してくれ。
「やれやれ。ちょっとした買い物のつもりがとんだ騒ぎになってしまったな」
大分予定が狂ってしまった。今日はありあわせで済ますか……。
そんな事を考えていると、シュタリ、と背後のビルに降り立つ気配。
振り返ると想像通りの人物がいた。
「黄金ドリルか」
「だからエリザベートでしてよ!!」
「わかったわかった、エリザベードリル。くくく」
「貴方わざとやってるでしょう!?」
うきー、と地団駄を踏むエリザベート。リアクションが面白い君が悪いのだよ、ふふ。
「……まあ、いいですわ。それよりさっさとここを離れた方がよろしいのではなくて? 本来この地区の担当であるビーストの皆さんがこちらに向かっているようです。仲が良くないのでしょう?」
「仲が悪いっていうか、勝手に危険視されているというか……」
ソード・アリスのように敵視されてるとまではいかないだろうが、初めて顔合わせた時の反応はなんかこう新しい仲間っていうより新たな脅威を見る顔だったしな。多分、揉める。
「ふ。下々には私の黒き高貴さが分からぬか……」
「まあ逆に言えば、この私の、高・貴・なるノーブルアイズを通せば貴方が善良な魔法少女である事は一目瞭然ですけどね、おーっほっほっほ!!」
「そのノーブルアイズとやら、正直者には見えないレンズが嵌ってると言われないか?」
「なんですってえ!? 誰の目が節穴ですって!?」
おっと思ったよりもマジな反応。普段から言われてる様子と見える。
「失敬、失敬。では、袖に埃をかけられる前に撤収するとしよう」
「それがよろしいですわ。あ、ちょっとお待ちになって。これを」
「?」
飛び去ろうとする私に、エリザベートが差し出してきたのは……なにこれ? 名刺?
「私の連絡先と住所ですわ。もし会う気がありましたらご連絡ください」
「……いや、お前、これはちょっと……」
「何ですの? 誰にでも渡している訳ではありませんわ、貴方をひとかどの、根性ある魔法少女と認めての事ですのよ」
「そ、そうか……」
……あれ、考えてみれば、魔法少女デビューしてからここまで友好的に接して貰えたのって初めてじゃない? 最後まで敵視されてないのこれが最初? え、まじで?
「わ、わかった。有難く頂戴する……」
「大丈夫ですの? 何か急に挙動不審になりましたけど」
「な、なな、なんでもない! そ、それではこれ以上揉める前に失礼する。さらばだ、友達2号!!」
「あ、ちょ」
これ以上何かを言われる前にぴょいーんとその場を後にする。
どうしようどうしようルーシィ! ほんとに友達2号が増えちゃったよ! しかもリアルの住所と電話番号まで!! ど、どうしよう! やっぱ連絡するべきだよねこれ! うはあー!
と、とりあえず、お気に入りのケーキ屋さんで手土産用意して、あとそれから……そうだね、理髪店も予約しないと!
うはあー!
魔法少女の友達だぁーーー!!
「いってしまいましたわ。…………。…………2号?」
「エリザベートさん、お待たせしました、遅れてもうしわけ……ひぃい!? お、おこってる? なんかちょーおこってる?!」
「お、怒ってませんわ! そう、別に私が初めてじゃないから怒ってる訳じゃありませんわー!! キィイイイイ!!!」
「やっぱ怒ってるじゃーーん!?」
◆◆
なお。これはちょっとした余談である。
「ひぃわー。大変な事になっちゃったわねー」
崩れたビルの陰からひょい、と顔を出すのは、一人のOL。
銀鯉香蓮。
彼女はパシャパシャ、と崩壊した瓦礫と、その撤去に精を出す魔法少女の姿を写真にとると、にやりと頬を緩めた。
「うーん、これは推しが増えてしまったかもしれません。ルーシィちゃん……いえ、ダークネス様、かあ。いえいえ、センチちゃん。これは浮気じゃなくてですね……推しは何人いてもいいっていうか……」
ブツブツと誰に聞かせるでもなく弁明をつぶやきながら、銀鯉はさっそくスマホの写真アプリをチェックした。
「いやあ、しかし、今日はアンラッキーでありラッキーでもありました。まさかあんな至近距離で魔法少女を激写できるなんて。いくらピンボケするとしても、あの距離なら服のデザインぐらいは記録できたはず。どれどれ……え?」
しかし、内容を確認した銀鯉はきょとんと眼を丸くした。
「な、なにこれ?」
魔法少女ダークネス・ルーシィを撮影したはずの写真。
しかしそこに写っているのは、やたらとピンボケした、ピンクで丸っこいマスコットキャラクターみたいなものが何やら自信満々にポーズ(?)を取っている奇妙な姿だけであった。
「え、ええええー……? うっそでしょー……」
かくん、と肩を落とす銀鯉。数百枚と取った写真全部がその有様である。これでは到底資料にはならない。しかし……。
「い、いいわ、別に写真が可笑しいのなんていつもの事! 諦めちゃ駄目よ銀鯉香蓮! いつだって私達は自分の目と妄想で戦ってきたじゃないの! うぉおおお燃えてきたわ! 家に帰って記憶が薄れる前に早速スケッチよ!! 見ててくださいダークネス様、きっとご満足いただけるフィギュアを作り上げて見せますわー!!」
逆境にむしろ闘志を燃やし、銀鯉は自分のアパートの部屋へと直走った。
頑張れ、ヲタク戦士! でも崇拝対象は推されたくはないそうだぞ!
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とまあ、そんなこんなでイベント盛りだくさんの夜から一晩と一日。
相変わらず学校は休校のままだが、世間は土曜日という事で、私は早速、名刺の連絡先に電話してみる事にした。
昨日は先走って色々考えたけど、とにかく一度は連絡してみないとね。
ちなみに、名刺にはエリザベートさんの本名らしきものが書いてある。なんかこう流出させたらヤバそうなので管理には気をつけないとね。
『ミフフフフ……』
「よ、よし。じゃあ電話するよ?」
『ミィフ!』
ルーシィと二人で、どきどきしながら携帯電話から連絡する。ちなみに家の固定電話じゃないのは、万が一それで正体が露呈したら困るからだ。私はエリザベートさんみたいに正体ばれを歓迎している訳ではないので……。
どきどきどき……。
『……はい、もしもし。天神川家ですが』
「あ、あの。僕、曽良……じゃなかった、ダークネス・ルーシィと申します。エリザベートさん……じゃなかった、天神川恵梨香さんは御在宅ですか?」
『……ああ! お嬢様が仰っていた、あの! 失礼しました、わたくしは当家の執事をやっておりまして、どうぞ気軽にセバスチャン、とお呼びください。お嬢様は申し訳ありません、今現在、塾にでかけておりまして……』
「あ、そうですか……」
あらら、残念。まあなんかお嬢さまっぽかったもんね、土曜日も忙しいに決まってるか。
『ですが言伝を授かっておりまして。もしダークネス・ルーシィ様がよろしければ、明日、日曜日に待ち合わせというのはいかがでしょうか? 場所や時間は、そちらのご都合がよろしい時間で……』
「え? いいんですか? それじゃあ……」
『ムルミミィ』
ルーシィをちらりと見ると、あちらもそれでいいようだ。カレンダーを確認して、よし、特に明日は用事がないから……。
「じゃ、じゃあ、10時前に、ハム公像の前で待ち合わせ、という事で……」
『承りました。それでは、お嬢様にはそのように』
「よ、よろしくお願いします……」
電話を切って、ふぅ、と息を吐く。途端にルーシィが、ぴょーん、と私の膝の上に飛び乗ってきた。
『ムルミミィ!』
「ふふ、やったね。お友達大作戦、第二段階だ!」
『ムミミィ!』
ふふ。明日が楽しみになってきたな。
とりあえず、まずは散髪にいかなきゃ……んでもって、ケーキ屋さんにも……。
お、お小遣い足りるかなあ?
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