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平和な昼下がりのお茶会は、突如として異様な緊迫感に包まれた。
相手は変身もしていない小娘が一人。だが、ここでの対応が私の進退を決める事となるだろう。
さて……どうしたものか、これは……。
「どうして、そう思ったのかな?」
「能力で判別した訳ではありませんわ。魔法少女の能力は千差万別ですもの。ただ……ガイドの事を知らない。そして、数度大型の怪物を仕留めたにもかかわらず、そのリターンを求めに現れない。明らかに、私達とは別系統の存在……それぐらいは、理論立てて説明できます」
「まいったな。その通りだ」
弁明しようにも知識の欠如を理由にされれば喋れば喋るほどボロが出る。ここは黙るしかない、か。
すぐにどうこう、というつもりはないらしいので、紅茶をゆっくり傾けながら考える。さっきはあれだけ美味しかった紅茶は、今となっては味も香りもわからない。
しばらく考えた末に出てきた言葉は、ありふれた凡庸なものだった。
「……私をどうするつもり?」
「それは、この後の結論次第。……一つお聞きしたい事があります。貴方は何故、怪物と戦うのですか?」
「なんでって……」
思わぬ質問に困惑する。
「町を荒らす怪物を倒すのに理由なんている?」
「ほうっておいても、どうせ私達魔法少女が仕留めますわ。私達には防衛の他にも怪物を倒す理由がありますので。貴方は自分の身だけ守って、静観している、という手もありますわ」
エリザベートの言葉に、思わず目を見開く。その発想はなかった。
いや、でも確かにそれはそうだ。力があれば、戦わなければならないのか? そんな事はない。
大いなる力には大いなる責任が伴う……それは理想論だ。聖者のような心を持った人には響く言葉だろうが、私のような凡俗には大して響きはしない。
力は力だ。それ以上でも以下でもない。だからこそ、それを何の為に使うかはその人の判断である、その人の責任だ。
であるならば。怪物と戦うのもまた、私の判断であって。
「いやあ。やっぱそれはないよ。だって……」
どうして怪物と戦うのか。
フラッシュバックするのは、崩壊するビル。
崩れた瓦礫の下敷きになる私。泣き叫ぶルーシィ。
あの時触れた闇の冷たさは、まだ指先から消えない。
「あいつらは敵だ。敵は、滅ぼさないと」
視界を赤く染めて、私は断言する。
そう、怪物どもは私の敵だ。私の大切な者を奪おうとした、相いれない敵。
倒すべき敵が在る事は幸せだ。戦うべき理由がある事は幸福だ。そこには迷いがない。人生に意味がある。
「……仇討ち、ですの?」
「まあそんな所かな。理由としてはありきたりで悪いけど」
「いえ。逆に分かりやすくて安心しましたわ。ここで、世の中人の為、とか言い出されたら逆にこっちが困っていました」
カップをことん、とテーブルに戻すエリザベート。見ればそのカップの中身はずっと空だったようだ。
……緊張していたのは、私だけじゃなかった、か。
「でも、いいの? 私はアイツらじゃないけど、同類だよ」
「人の言葉を喋る。無辜の民を守る為に戦う。そして、裏がない。それだけわかれば十分ですわ。私は貴女を同胞として歓迎します、ダークネス・ルーシィ」
「やれやれ。お人よしもそこそこにしておきなよ? いつか裏をかかれるぞ?」
「お金持ちですので。馬鹿正直なだけではやっていけませんわ」
さいですか。ま、本人がそれでいいならそれでいいか。
私は緊張を解いてぐったりと椅子に背中を預ける。ちょっと精神的に疲れた。
あと目の中のルーシィがさっきからなんかこう煩わしい。なんかこう、アニメで見たような若い展開に「これが……魔法少女のナマ友情……!!」みたいに感涙しているらしい。
ところで第1シーズンラストとか何のこと?
「そうと決まれば、色々説明しないといけませんわね! 魔法少女の集まりとか!」
「やっぱり組織的な運用がなされているのか?」
「ええ。そのあたりもまとめてお話しますので、こちらにどうぞ!」
? 説明するならここでもいいと思うが……いや、ここは住宅街の庭だしな。つっこんだ話をするには不向きか。
「こっちですわ。おいでなすって」
「あ、ああ。カップはここに置いていっていいのか?」
「あとで恵さんが片づけますわ」
さいですか。
私はカップの底に残ったお茶をぐい、と飲み干すと、手招きするエリザベートさんに続いて家の中に入った。
案内されたのは、飾り気のない真四角な部屋だった。絨毯もなく、壁には妙な模様の描かれたカレンダーが貼り付けられている。
全体的に生活感の無い部屋だ。ベッドと机はあるから、まあ、部屋として使えない事はないんだろうが……。
「ちょっとお待ちになって」
「あ、ああ。いや、しかし生活感の無い部屋だな……お金持ちってあまり家によらないって本当なのか?」
「え?」
私のぼやきにきょとんとして、続いてくすくすと天神川さんは笑い始めた。
「ふ、ふふふ、ここは私の私室ではありませんわ。人が住めるようにしてますけど、まあ、色々する雑用の部屋ぐらいの場所ですわ」
「あ、そ、そうか。出会って昨日の今日だもんな。そりゃそうか……うん……」
恥ずかしさに顔を押さえる。うーん、さっきから調子がくるってるなあ。
「ふふ、私の自室にはあとでお招きしますわ、お気になさらず。さて、これをこうして、と」
エリザベートが壁に貼り付けた大きなカレンダーに指先で触れる。すると、描かれた文様が光り始めて……。
「お、おぉ……魔法っぽい……」
「そりゃ魔法ですもの」
現れたのは、いかにもワープゲートでござい、といった感じの光のゲート。その横でどやあ、と胸を張る天神川さんに、私は思わず右目を押さえた。
痛い痛い、ルーシィそんなに興奮しないで! あと目玉って360度回転しないから!! 不審に思われる! 気持ちはわかるけど!
「あれ、どうかしました、ルーシィさん?」
「い、いや、なんでもない。それで、これが……?」
「ええ。とりあえず、この光に触れてくださいな」
「こ、こうか……?」
促されて、恐る恐る左手で光に触れる。途端、視界が真っ白に閉ざされて……。
「これは……」
そして気が付けば、私は見知らぬ場所に立っていた。
私達が立っているのは、どこかの遊園地の入口と思わしきゲート前の広場。丸い広場は周囲を、壁のようにオフィスビルに閉ざされている。
だが、なんだろう。こころなしか雰囲気が変というか……やたらとメルヘン?
そこら中にぽっぷな装飾が施されていて、ピンク色の気球がビルの間に浮かんでいる。道行く人々は皆、マスコットみたいな着ぐるみで……その間に混じって魔法少女みたいなフリフリの恰好をした子供が歩いている。
彼女達は次々にゲートをくぐると、遊園地に入っていく。ゲートの隙間から、悪夢一歩手前のファンシーな建物が立ち並んでいるのが垣間見える。ごごごごー、と音を立てて、一台のジェットコースターらしきものが近くを走り抜けていく。
空を見上げると、そこには目に優しい柔らかな光を放つ太陽が一つ……いや、太陽なのかあれ? なんか違う気がする。
というか、ここどこだ? 日本にこんなテーマパークあったっけ?
説明を求めて振り返った先で、天神川さんがにこやかに笑った。
「ようこそ、ダークネス・ルーシィ! 私達魔法少女の本拠地、“マジカルアイランド”へ!」
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