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『おかえりなさい、ランサー・エリザベートちゃん! 入門カードを提示してね!』
「ええ、構いませんことよ。あ、それとこっちの子は私の友達で、新しい魔法少女ですの。まだ正式なカードは発行されていないそうですから、私の管轄で仮許可カードを発行してくださいませんこと?」
『ええー? ま、まあ、エリザベートちゃんなら悪い事には使わないと思ってるけど……今回だけだよ?』
「ええ。早い所正式な許可証を取らせますわ」
何やら早速、ゲートの受付で喋る縫い包みと取引を始める天神川さん。
その間も、私はぽかんと口を開けてアホ面晒して周囲を見渡していた。
「メ……メルヘン……」
周囲に広がっているのは、これでもか、というぐらいにファンシーな夢の世界。角度とか徹底的に計算されているのだろう、広場からビルの向こうは見通せず、ここだけ世界が切り取られたような雰囲気だ。
いや、実際にそうなのか? 空を見上げても、ここが現実に存在する場所とは思えない。
魔法少女の国……天神川さんはそう言っていたが。そんなものが本当にあったんだ……。
「お待たせしました……ってどうしましたの!?」
「え?」
「そ、その、右目からだくだくと涙があふれ出してますけども……あ、あの子達の毛が目に入ったとか!?」
俄かに慌てる天神川さんだが、いや何、どうという事はない。
ルーシィが夢にまで見た魔法少女の国に訪れる事が出来て感涙のあまり滂沱しているだけだ。楽園はここにあったんだ……という感じ。
いやホントにルーシィからすれば夢がかなったような感激なんだろうけど。
目をぐしぐしして涙をぬぐい、彼女からカードを受け取る。
「何、問題ない。在りし日の幻影に追いついた事に少し感傷に浸っていただけだ」
「は、はあ……。それより、それがゲートをくぐる為の許可証ですわ。わ・た・く・しの! 顔に免じて発行して頂いたものですから、変な事をしないでくださいませ」
「ああ。わかった。恩を仇で返すような事はしない」
真剣に頷き返すと、天神川さんはそれならよろしい、と小さく頷くとゲートに向かっていった。その後ろを続いて、私もゲートをくぐる。
『見ない顔だにゃー。楽しんでいってねー』
「う、うむ」
許可証をチェックされるときだけ少し緊張したが、何事もなく通り過ぎる。
ゲートの外では、いつの間にか魔法少女姿に変身した天神川さ……エリザベートが私の事を待っていてくれた。
「さ、とりあえずお喋りしながら本部に向かいましょう」
「わ、わかった。それはともかく、この施設は一体……」
「私達魔法少女の本拠地といったでしょう?」
「いやその、本拠地という割には……」
私は周囲をきょろきょろ見渡し、困惑を隠せずに首を傾げた。
確かに、周りを歩いているのは皆、変身した魔法少女達である。そんな彼女らは、動く縫い包みみたいなマスコット達に風船を手渡されたり、あるいは彼らが運営する屋台でクレープを食べていたり、あるいはお土産ショップみたいな所に詰めて居たり。
なんていうか、その。
「ただのテーマパークにしか見えないんだが……」
「まあ、そういう一面もありますね。ちなみに一番人気は大観覧車ですわ」
そう言ってエリザベートが指さす先、青空に霞む巨大な割っかが、って……。
「……成層圏まで届いてそうなんだが……?」
「一周3時間だそうですわ。入口で食べ物を買いこんで、のんびり過ごすのが人気だそうです」
「そ、そうか……」
何だかこう、真面目に考えると頭が可笑しくなりそうだ。安全基準とかどうなって……いや魔法少女相手にそんなもんいらんか……。
これが、魔法少女の夢の園……あ、ルーシィ、流石に今回はあの観覧車は勘弁してね。他にも色々用事あるから、ね?
そんなにしょぼくれないでくれよぉ……。
「とりあえず、あの屋台でクレープを買って食べながら行きましょう。ここは私が払いますわ」
「いいのか、お嬢様が食べ歩きだなんて」
「ふふん。ここではお嬢様も女子学生もありませんわ、魔法少女の名のもとに皆平等ですの!」
さいですか。
困惑しながら屋台の列に並ぶと、なんだか私もメルヘンな魔法少女の一員になったようだ。通りすがりのピンクと青の魔法少女達が、私達を見て何ごとかひそひそと話している。
「見て、ランサーさんよ。この間大物を仕留めたらしいわね」
「いいなー。とはいっても、私達じゃまだまだそんなの倒せないけどね」
「隣にいるのは……見ない顔ね。新顔かしら」
ひそひそ話しながら、少女達は遠ざかっていく。
てっきり何か因縁をつけられるかと構えていた私は拍子抜けした。これまで私の姿を見た魔法少女はだいたい突っかかってきたものだが……ここが、彼女らの本拠地という事が関係しているのか?
自分達の庭に、害ある者が入り込んでいる訳はないだろう、みたいな……。
実際の所関係ない存在である私としては、ちょっと気まずい。
「どうしましたの? 順番が来ますわよ。今回は何味に?」
「え、ええと。じゃあ、シュガーバターで……」
「そんなけち臭いメニュー選ばないの。私がケチだと思われるじゃないですの。店主ー、チョコバニラアイスクリームアーモンドトッピング生クリームマシマシで二つお願いしますわ!」
『あいよー!』
あれよあれよと、ずっしりとしたクレープというよりアイスと生クリームの塊を手渡される。どう食べればいいのか困惑しながらエリザベートを見ると、彼女はスプーンで中身をすくってパクパク食べ進めていた。
なるほど、ああ食べればいいのか。
見様見真似でクレープを食べながら、彼女の後に続いてテーマパークを歩く。うぉ、脳に響く甘さ……。たまらん……。
「しかし、ここは一体どういう施設なんだ?」
「基本的には私達魔法少女の慰撫施設ですわ。怪物相手に、怖いのを堪えて戦う訳ですから、これぐらいの役得が無ければやってられませんわ」
「へえ……」
それは、まあ。確かに、仰る通りなのだが。
「何も知らない貴方に説明しますと、魔法少女は慈善事業ではありませんの。チームを組んで、管理区域があるという事から察しておられると思いますが、怪物を多く討伐し、担当地域の平和を維持すれば維持するほどポイントがもらえますの。そのポイントを使う事で、ここでサービスを受けられたり、色々利益がある訳ですね」
「なるほど。魔法少女もふわふわしているだけではやっていられない、か。世知辛いな」
「対価があるのは良い事ですわ。アニメみたいに、痛い思いや怖い思いをした事への対価が何もない、ただのサービス業では不健全ですわよ。皆が皆、聖人君子ではありませんもの」
まあだからこそ、何の対価も求めず愛と勇気の為に戦う、創作の魔法少女は尊いのですけども、としめくくるエリザベート。右目のルーシィが文字通り痛いほど同意してるんだがとりあえず、眼窩でごろごろするのはやめてくれないかな?
「ちなみに、ここでどれだけ飲み食いしても現実のカロリーにはなりませんのよ。オールフリーですわ」
「神かな?」
「神ですわ」
そりゃあ年頃の少女にはたまらんサービスだわな……。たかが甘味、されど甘味。甘味を馬鹿にするものはカロリーに泣くのだ。
「まあ、そのせいで要らぬ諍いが生じる事もまた、事実ですが……おや?」
「どうした? ……んむ」
エリザベートが足を止めた先。他と微妙に雰囲気が違う、黒っぽい集団が店先でたむろしていた。ダークでラフで、アナーキーな感じ。
そのうちの一人、黒いフードを被り、節くれだった尻尾をゆらゆらさせている魔法少女には見覚えがある。
はは、となるとあれが……。
「ほほう。もしかして、あれは……チームポイズンとかいう連中かな」
「ええ。ちょっとめんどっちい奴らです。ここは迂回して……って、ちょっと、ルーシィさん!?」
「なあに、何事も挨拶が大事と言うじゃないか」
ぱくぱく、とクレープを一息に食べきるとエリザベートの静止を振り切り、私は黒っぽい集団に歩み寄ると声をかけた。
「ん? なんだテメー」
「これはこれは、名高いチームポイズンの皆さんかと伺いました。私は、星刻の魔法少女ダークネス・ルーシィ。三天を支配する暗黒の巫女なり!」
名乗りと共に、ピシィ、とポーズを決める。ふふふどうだ、ルーシィ、ばっちり決まっているだろう? 素敵、最高? そうだろうそうだろう。
果たしてポイズンの皆さんの反応は……?
「…………変なのが来たな」
「ええと……鏡はあちらですよ……?」
何だコイツら失敬だな。
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