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フェアリーキャッスルの根元にある受付窓口。ファンシーな外見に似合わない、実利的な四角い受付に必要項目を記載した書類を提出。しばらく待つと、顔の見えない受付からパンダの手みたいなのが、マイナンバーカードみたいな証明書を手渡してくれた。
『これが許可証だクマ。無くした場合は隣の窓口で再発行を受け付けてるクマけど、出来るだけ大事にしてほしいクマ』
「ありがとう。ところであなたはパンダでは?」
『パパパパパンダじゃないクマ、ちょっと色が白いだけのクマでクマ』
さいですか。
動揺で言葉がどもってる窓口を尻目に、エリザベートの元に戻る。彼女は何やら腕を組んでご機嫌の様子で私を待ち受けていた。
「これで! 貴方も立派な魔法少女ですわ!」
「審査がザルすぎて草なんだが。大丈夫なのかこれ」
「大事なのは行動ですから。許可証の発行はまあ、その、確かに雑ですけどポイント審査は厳密でしてよ? 民間人の救助活動、敵の撃退、様々な活動を総合的に評価されますの。他人の足ひっぱったり被害拡大させたりしたらマイナスもありますから注意してくださいね」
ふむ。となるとこのカードを通して常に監視されているようなものか。
……不味くない? いやまあ、迂闊に右目の力を解放しなければ問題ないか。
カードを確認すると表には「闇に呑まれよ」ポーズの私の顔がばっちり移されている。その隣には、「魔法少女ダークネス・ルーシィ」の文字。ランクは……F級か。まあさもありなん。
写真はこないだ、エリザベートと合体攻撃で敵を仕留めた時のやつか? ばっちり私の事は調査済み、という事だな。何か無言の圧力を感じる……というのは己惚れすぎか?
「ふぅん。ところでもしマイナスになったらどうするんだ? ここに入れなくなるのか?」
「まさか。設備が使えなくなるだけですわ。その場合は、草むしりやゴミ拾いの慈善事業に従事してマイナスを返済するのを推奨されますね。ま、そもそも、悪戯に被害を拡大するような性格の悪い子は、そもそもスカウトされませんわ。マイナスにつっこむのは、つい張り切りすぎて被害拡大させちゃった子とかが大半ですね。あとは変な使命感に取り付かれて一人で頑張ろうとする子とか」
「なるほど」
話を聞くにザルなんだか綿密な審査なんだかわからなくなってきたな。
所詮超常存在の考えてる事なんぞ私にはわからん、か。
カードをひっくり返して裏面を確認すると、今現在溜まってるポイントが確認できた。100ポイント、か。ジュースの一つぐらい奢ってやれるか?
「まあいい。手間をかけさせた礼だ、ジュースの一つぐらい奢ってやる」
「あら、いいんですの? ポイント、まだ溜まっていないでしょう?」
「足りなければこの話は無かった事でいい」
ぐだぐだお喋りしながら自販機に向かう。さて、今のポイントで足りる、かな……って……。
思わず自販機に並ぶ値札に目を見張る。
一つ1ポイントって……え、つまり今の私は一万ぐらい持ってるって事か?
「どうなさいました? まさか足りなかったとか?」
「あ、ああ、いや。大丈夫だ。ほれ」
「……100ポイント!? 貴方、いつの間にそんなに稼いでたんですの!?」
目を見張るエリザベート。ああやっぱこれ多いのか。そうだよな。
「こないだの大蜘蛛、私でもそんなに貰いませんでしたわよ!? 貴方、一体どれだけ人知れず善行を積み重ねてましたの!?」
「ぜぜぜぜ善行違う! 私は、星刻の魔法少女ダークネス・ルーシィ。三天を支配する暗黒の巫女なり! 世俗の平穏など無縁!」
いや実際好き勝手暴れてただけだし! そりゃあその結果、街をぶっ壊してた大怪獣を食い殺して、サラリーマンを襲ってた透明な怪物を吸い殺して、学校を襲ってた吸血クラゲみてーなでかい怪物を他の魔法少女と協力してぶち殺したけど…………いや結構善行してるかこれ?
「……ははーん。なるほど。そういう事ですの」
「なんだそのニヤニヤした笑みは」
「いいえー? なんでもー? ありませんわー?」
どう見ても含む所のある笑みを浮かべながら、顔を逸らして鼻歌なんぞ歌い始めるエリザベート。
ええー。何か変な勘違いされてる気がするー。
「おい、あんまり人を揶揄うようならジュースは無しだぞ」
「あら? せいこくの魔法少女ダークネス・ルーシィたる者が、一度口にした事を翻すのかしらー?」
「……ちっ」
これは厄介な奴に弱みを握られたかもしれん。めんどくさく思いながら、私は自販機のボタンを押した。
がこん。
「ほれ。冷やしいちごチョコレートお汁粉だ。有難く飲め」
「ありがとうございますわー私これ大好きですのよ!」
私の差し出した悍ましい物体を、エリザベートは心から嬉しそうに受け取ると、カシュ、と封を切る。そのまま止める暇もなく、ぐいっと傾ける。
ぐび、ぐび、ぷはーっ。
「やっぱ一仕事した後はこれですわー!」
「そ、そうか……」
ちぃ、嫌がらせのつもりで出来るだけ変なの選んだんだが。金持ちの舌は分からん。
なおも缶を傾けるエリザベートを、私は口をもごもごさせながら見守る。さて、こいつが飲み終わったら次はどうするかね……そんな事を考えていた時だ。
「……っ。……ルーシィ……?」
「? どうかしましたか?」
「いや……」
痛みを覚えて右目を手で押さえる。どうしたルーシィ、何かを感じた?
遅れて、私の感覚もまた、汚らわしい存在を捕らえる。だがどうして、ここは魔法少女達の本拠地のはず……!
「敵襲だ、エリザベート!!」
「え?」
私の上げた声に彼女がきょとんとするのとほぼ同時、アイランド中に響き渡るような音量で不協和音が鳴り響いた。同時に、そこかしこで点灯する赤いパトランプ。
警報だ。
『緊急事態! 緊急事態! マジカルアイランド正面ゲートにおいてカテゴリCディザスターの顕現を確認! B級以上の魔法少女はただちに迎撃をお願いします! それ以外の人員は、直ちに誘導に従ってシェルターに避難してください! 繰り返す、マジカルアイランド正面ゲートに……』
「敵襲!? どうやって、ここは異次元に存在する施設ですわよ!?」
「ぐだぐだ言ってる暇があれば走れ。現実は愚者に合わせてはくれんぞ」
「あ、ちょっと!?」
ぼさっとしているエリザベートを置き去りに、私は近くの売店の壁を駆け上った。そのままファンシーな外壁を駆け上り、その上からアイランド全体を見通す。
「あれか……!」
色とりどりの建物が並ぶモザイクアートのようなアイランドの一角が、空も地面もどす黒いオーラに覆われている。建物の上を跳躍して渡り、最初に潜ったゲート前まで来た私は、変わり果てた景色の有様に思わず口元を袖で隠した。
「これは……」
かつてはマスコットが風船を配っていた円形の大きな広場。そこは今や、ぐずぐずとした汚らしい緑色の粘液に覆われていた。ゲートは完全にゼラチン状のそれに埋め尽くされ、まだ抵抗を試みる鉄柵の隙間からところてんのように次から次へと半固体の物質があふれ出している。
それらの表面に無数の目玉、そして口、あるいは臓器未満の肉塊が浮かび上がっては融けて消え、つんざくような断末魔を上げた。
《てけり・り!》
《てけり・り!!》
「ちっ。自由の意味も知らないくせに一際強欲な、出来損ないの奉仕種族か……!」
汚らわしき粘液状の生命体の姿に舌打ちする。しかし、どうしてこいつらがここに? この怠慢なる種族は、自分で目的を持つ事は出来ないはず。誰か、何者かがここにこれを送り込んだ……?
とにかく、一刻も早くどうにかせねば。対策を練る私の背後で、すたたん、と誰かが着地する音がした。振り返ると、そこにはそろそろ見慣れてきた金髪縦ロールの姿。
「追いつきましたわ……ってなんですのコレェ!?」
「エリザベート、こいつは触れる者を吸収する、物理攻撃主体のお前は手を出すな!」
「えっえっ、そうですの?!」
手の早い彼女が自滅する前に静止すると、間一髪、早速槍で一撃を加えようとしていた彼女は慌てて槍を引っ込めて視線を往復させた。
「そ、それじゃ私何もできませんわよ!?」
「なあに。ここをどこだと思ってる?」
慌てるエリザベートを宥めつつ、私は頭上を見上げた。
私達を飛び越えて、前線に飛び込んでいく色とりどりの影。それらは不定形生命体を取り囲むようにして建物の屋根に着地すると、それぞれの決めポーズをとって構えた。
「ここまでだ!」
「マジカルアイランドで、好き勝手はさせないよ!」
「お前が何者か知らないけど、ここが年貢の納め時、ってね!」
そう、ここは魔法少女の本拠地。
普段はお目にかかれない、遠い土地を守護する魔法少女も加わっての、強豪魔法少女そろい踏みである。
右目のルーシィも大興奮!
気分はまさに特別劇場版。心のペンライトも大回転! である。
「さて、先輩達のお手並み拝見といこうか」
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