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魔法少女達の本拠地を襲撃した不定形生命体。
それに立ち向かうのは、選りすぐりの魔法少女の精鋭たち。
不気味に嘶く怪異を取り囲む彼女達の顔に、不安や恐れは微塵も見当たらない。
「ふむん」
成程。少しは出来るらしい。
ここはしばし見物と行こう。私だって好き好んで悪目立ちしたくはない。
決して、右目の中のルーシィがかぶりつきでこの光景を眺めたいと駄々をこねている訳ではないからな。
「え、えっと……?」
「まあ座れ、エリザベート。こんなショーは滅多に見れるものではないぞ?」
「言いたい事はわかりますが不謹慎ではありませんか……?」
ぶつくさいいながらも、私の隣、売店の屋根の上にハンカチを広げて女の子座りするエリザベート。とりあえず、これだけ戦力が揃っていれば無理に手を出す必要はあるまい、という点では私達は一致を見たようだ。何よりである。
「いくぜ、キャッツ!」
「うん、ジャガーちゃん!」
先陣を切るのは、どこぞで見た覚えのあるケモミミ魔法少女。
たしか、ジャガーランサーとマウンテンキャッツか?
でも確か、こいつらの必殺技って……まあいいか、効果がないと実地で知るのも大事な事である。
頬杖をついて見守る私の前で、二人の必殺技が発動する。
「プレデター・スピア!」
「ラベンダー・ストーム!」
猛烈な勢いで投げつけられる槍に、それを後押しする花吹雪。勢いを増した槍が怪異の体を貫き、続けて吹き荒れた花吹雪が傷口を広げていく。
大穴を開けられて飛び散る不定形生命体。一見するとそれで仕留めたように見えるが……。
「よぉしっ、どんなもんだい! って、ああ……?!」
「ぜ、全然効いてないっぽいよぉ!?」
キャッツの言う通り。千々に引き裂かれた怪異は再び一か所に寄り集まると、何事もなかったように巨大な粘液の塊に戻ってしまう。
かなり強烈な一撃だったが、やはり物理攻撃では通じないか。
「ならば、私達の出番だな」
「チームエレメンツ、出動!」
ビーストの二人が駄目だったとみて、即座に前に出るのは四人組の魔法少女だ。オーソドックスな、フリルのついたワンピース。カラーリングはそれぞれ違うが、基本デザインは共通しているようだ。赤、青、緑、黄色、か。信号機かな?
んでもって、チームエレメンツって事は、やっぱり……。
「みんないくよ! エレメント、アターーック!」
魔法少女がステッキを振りかざし、各々必殺技を放つ。ある意味見た目通りというか、赤は炎を、青は水流、緑は風、黄色は電撃。いわゆる魔法攻撃タイプか、これまで見てきた魔法少女は大体物理でノすタイプだったのである意味新鮮である。
ちらり、とエリザベートを見やる。私の視線に気が付いた彼女は座った目で睨み返してきた。
「なんですの?」
「んいや、なんでも」
どうやら自覚はあるらしい。苦笑を噛み殺して、戦いの観戦に戻る。
さて、魔法攻撃の効き目は、と……。
「お、お? 割かし効いてるぞ?」
見た所、水と風は物理攻撃の延長なので効いてる感じはしない。だが炎と電撃はどうやら怪異にも通じているようだ。炎に炙られた粘液は蒸発して体積を減らし、電気を流された怪異はボコボコと沸騰しながらただの水に戻ったように地面に染み込んでいく。どうやら連中、死ぬとただの水みたいに溶けてしまうようだ。
《てけり・り》
《てけり・り》
しかし、効き目があるのと効果的かはまた別の話。あの勢いでは、圧倒的な質量を誇る不定形生物を消し去るまでどれだけの時間がかかるのかわからない。
それを向こうもわかっているのだろう、耳障りな嘶きが嘲りのように響き渡った。
「く……っ!」
「反撃来るよ!」
不定形の粘液がぼこぼこと膨れ上がる。どろりとした汚濁が、蟹の鋏、鋭い鉤爪を持った腕、膨れだった触手、あるいはそのどちらでもどちらでもない形へと変化する。
そんな形質化した殺意を、やたらめったらと振り回す怪物。タイル張りの床が砕け、建物が柱を折られて崩れ落ち、広場の噴水が半ばから砕かれる。
それらの攻撃が振るわれる前に魔法少女達は素早く退避していたが、その顔色はよくない。攻撃を凌ぐだけならどうとでもなるが、こちらの攻撃も通じないのだ。しかも敵は次から次へと、ゲートからあふれ出すように質量を増している。これではキリがない。
「一体どうしたら……」
「おおっと、お困りのようだな……ここは俺達に任せてもらおうか」
「え……」
困惑する魔法少女達に、長く伸びた影がかかる。彼女達が見上げると、屋根の上に佇む四人組の魔法少女チームの姿があった。
「チームポイズン?!」
「どういう化け物か知らねえが、生きてるなら殺せねえはずがない。そういう戦いなら、俺達の出番、ってなあ!」
真っ先に飛び出したのは、チームポイズンのリーダーたるジェット・スパイダー。大きく跳躍した彼女は、いつのまにか高所に括り付けていた糸をロープのようにしてターザンのように高速移動。ぴょーい、と怪物の頭上を取ると、脚を縮めて両腕を交差させた。
「デッドリースレッド!」
放たれるのは、黒く輝く毒の投網。怪物の巨躯を押さえ込むように投げかけられた投げ網は、その粘着力で怪物の体を床に縛り付ける。しかしながら、怪物はそれをものともせずに網目から体を這い出させようとしたが……その途端、ジュウ、という音と共に煙があがった。
猛毒の糸に触れた怪物の体が、どんどん爛れて黒く変色していく。
《てけり・り!》
響く嘶き。それは初めて、苦痛らしき色を宿していた。
「はっはあ! 流石に毒は効くらしいな?!」
「リーダーに続くよぉ、トラブルパウダー!!」
「そーれ、食らえ! ポイズンスプラッシュ!」
さらにマジック・マッシュ、エベラルド・ボアが続く。手にしたズタ袋からキラキラする粉を振りかけると、粘液の表面にぼこぼこと人面模様のキノコが生えてくる。かと思えば、袖から噴射された緑色の毒液を浴びた粘液塊が、熱湯をかけられた雪のようにしおしおと崩れて汚水へと変わっていく。
物理攻撃も魔法もイマイチ効き目の悪い不定形生物だが、生物だからこそ強烈な毒には弱いらしい。
そして駄目押しに、よろよろと歩み出る黒いフードの魔法少女。
我らがセンチちゃんである。彼女は口元から垂れる虹色の唾液を手の甲で拭いながら、相変わらず具合悪そうな真っ青な顔で怪物の前に立ちはだかった。
「センチピード、具合悪いなら無理しなくとも……」
「で、でえじょうぶだりーだー……こ、このぐらい……うっ! ヲロロロロ……」
が、やっぱり無理があったのか、その場で跪いてエロエロし始めてしまう。口から滂沱のように拭きだす虹色の汚物が、傾斜に従って怪物の方に流れていく。
ちょん。
《てけり・り!?》
汚物に触れた途端、怪物から明確に苦痛の悲鳴があがった。そればかりか、デッドリースレッドで体が焼けただれるのも厭わず、粘液は汚物から距離を取るようにもぞもぞと後退していく。どうやらあのゲロ、よほどの劇物らしい……ねえ、ほんとにセンチちゃん大丈夫なの?
「お、おええ……えろろ……」
「だ、大丈夫か? しっかりしろ、傷は浅いぞ」
蹲るセンチちゃんの背中をスパイダーが撫でさすり、落ち着いた所で抱えて後方に下がっていく。
お、お大事にー。私とエリザベートは微妙な気分で手を振って後退する二人を見送った。
ま、まあとにかく。状況はこちらに優勢。毒攻撃で明らかに敵は勢いを失っている。
これなら多少効き目が悪くても魔法攻撃で押し切れるだろう……そう思った時だ。
《てけり・り》
《てけり・り》
汚らしい不定形生物の体表が、ずぐずぐと蠢く。また肉体の一部を変性させての攻撃かと、あきれながら見守るが……実際は、もっと下劣で汚らわしい行為だった。
どぷん、と不定形の体の中から何かが浮かび上がっている。
それは、汚濁で汚れているが、色とりどりの髪や衣装、そして白い肌……。
「なんて事……?!」
「…………」
それは、囚われの身となった魔法少女達だった。
恐らく、襲撃の現場に居合わせ、捕らえられたまだ弱い新人達なのだろう。意識を失っているらしい彼女らを、まるで見せつけるようにして粘液が進行を開始する。
文字通りの肉の壁。人質という訳だ。
立ちはだかる魔法少女は、しかし、後輩達の姿を前に攻撃に踏み切る事ができないでいる。
「そ、そんな……!」
「く、くそ。今攻撃したら巻き込んじまう……!」
《てけり・り》
躊躇う魔法少女達は、迫りくる粘液を前にたじろぎ、少しずつ後ろに下がらざるを得ない。そんな彼女らを嘲笑いながら、どんどん、怪物達はアイランドへとその浸食を広げていく。
ざ、と隣に座っていたエリザベートは語気も荒く立ち上がった。
「卑怯な……!!」
「どうするつもりだ?」
「知れた事! 人質を奪還し、あの腐れ水まんじゅうを叩き潰します!」
「どうやって?」
私の指摘に、むぎぎぎ、とエリザベートは歯噛みする。ここで踏みとどまれるぐらいの理性は残っていたか。激情家だと思いきや、意外と考えてるよねこの子。
そんな彼女の真っすぐな正義感に苦笑しながら、私はよっこらせ、と座っていた屋根の上から身を起こす。眼下にはすぐ下にまで迫っている汚物の姿。
「さて。私は別に、清掃員ではないのだが……」
視界に入るのも汚らわしいゴミには、とっととご退場してもらおうか。
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