TS転生外宇宙系魔法少女ダークネス・ルーシィ 作:イア! イア!!
「ジャガー、大丈夫!?」
「な、なんとか……!」
落ちてきた瓦礫の下からはい出しすのは黄色い猫耳を頭から生やした黒いジャンバーの魔法少女。そんな彼女を、白い猫耳に紫色のワンピースを着た魔法少女が助け起こす。
チームビーストの魔法少女、ジャガーランサーとマウンテンキャッツ。
灰色の石埃を払って立ち上がった彼女らは、眼前で暴れる怪物を見上げた。
「コイツ、昨日より強い……!」
街で暴れているのは、ビルほどもある黒い怪獣だ。真っ赤な瞳を爛々と輝かせ、ワニのように牙が並んだ顎でビルをばりぼりと齧っている。大きくて太い尾が振り回され、背後のビルが数件まとめてなぎ倒された。
怪物そのものは昨晩出現し、ほかならぬ二人の手で撃退したものだ。
だが倒されたはずの怪物はこうして復活したばかりか、以前より強力になっている。
「応援は!?」
「残りのメンバーにも声をかけたけど、到着には時間がかかるって……!」
「くそ、それまでは私達で何とかするしかないか……! これ以上の犠牲を出す訳にはいかない!」
休日の繁華街、すでに多数の市民が巻き込まれている。瓦礫の下に、どれだけの命が消えていったかもわからない。
「いくわよ、キャッツ!」
「うん!」
上空に飛び上がり、各々の必殺技の構えに入る魔法少女達。対して黒い怪物は鷹揚に向き直った。
「プレデター・スピア!」
「ラベンダー・ストーム!」
ジャガーランサーが名前の由来にもなっている長槍を投擲し、それに重ねるようにマウンテンキャッツの両手から紫色の花吹雪が迸った。
その二つは混ざり合い、花吹雪が推進力となって槍を強烈に突撃させる。
これぞ、昨晩の怪獣を仕留めた合体必殺技、ラベンダー・スピア。
しかし……。
『ガアアア!!』
「くそっ、効かない!」
「私達の攻撃を学習してる……?!」
その一撃は、あえなく怪物の強固な外殻に跳ね返された。
合体攻撃をものともせずに暴れる怪物を前に、苦渋の顔をする魔法少女達。
このまま、暴れるにまかせるしかないのか。彼女達が自分の無力に歯噛みした、その時だった。
不意に、世界を闇が閉ざした。
一瞬、雨雲でも流れてきたのかと幸運に感謝したジャガーは、しかしすぐに違和感に気が付いた。
曇り空、なんてものではない。
見る間に太陽の光が消えていき、空を暗雲が閉ざす。かと思えば黒黒とした雲は融けるように消えてゆき……後には、満点の星空と、煌々を輝く鎌のような鋭い三日月。
「ば……っ?!」
「嘘、今昼だよ?!」
目の前で起きる異常現象に、言葉を失う魔法少女達。
だがそれは彼女達のみにあらず。暴れていた怪物も、突然の変化に戸惑うような声を上げて周囲を見渡した。
『グガアアア……ガァッ!?』
と、突然その巨体が、横から何かに殴られたように激しく吹き飛ぶ。
あまりの衝撃に全身でビルに倒れこみ、倒壊させながら崩れ落ちる怪獣。
突然のことにきょとんとする魔法少女達の耳に、鈴を鳴らすような場違いな笑いが聞こえてきたのはその直後の事だ。
「嘲笑。所詮は黙示録の獣、その真似事に過ぎない」
「?!」
見れば、怪獣が倒れこんだビルから道路を挟んで反対側、倒れこんだ怪獣を見下ろすようにして誰かがビルの屋上に立っていた。
フリルのやたらと多い黒いドレス。いわゆるゴスロリドレス、と呼ばれる衣装だが、腕や脚にガチャガチャとベルトを巻き付けているのが特徴的だ。全体的にアシンメトリーで、それはドレスを纏う少女本人にも表れている。
右目は赤、左目は黒。オッドアイを爛々と輝かせる少女は、口元をドレスの甘え袖でそっと隠しながら、奇妙に響く声で怪獣を嘲笑った。
「真の闇を知らぬ幸福なる愚者よ。それを捨てる覚悟はあるか?」
クスクスとあどけなく哂う少女は、常人とは思えない妙な威圧感を放っている。その圧迫感に息を飲みつつ、ランサーが訝し気に眉を顰めた。
「私達の知らない、魔法少女……?!」
「誰、貴方? 一体どこのチームの子?」
「失笑。我は三天を支配する暗黒の巫女。我が上に王ありき、我が下に下賤なる者あり。並ぶ者は、居ない」
魔法少女は、チームを組んで活動するのが常識。それ故の質問を、謎の魔法少女は嘲笑うように不可思議な言葉を返した。意味はさっぱりわからないが多分、罵倒されていると感じ取ったジャガーが、眉を顰めて手にする槍に力を込めた。
「てめえ……!」
「ま、まってよジャガー、魔法少女同士で喧嘩は駄目だよ!」
「愚物。私の時間は砂金よりも重く流れる。些事に煩わされている時間はない」
ますます眦を吊り上げるジャガーを無視して、謎の魔法少女は怪物へと向き直った。一方、最初の衝撃から立ち直った怪物は、身を起こすと天地に轟くような雄叫びを上げた。
爆発そのものの大音声に、至近距離の魔法少女二人が思わず耳を押さえる。
開かれた怪物の顎に、光が満ちる。喉の奥から吐き出された赤い閃光が、謎の魔法少女目掛けて吐き出された。
「あ、あぶねえ!!」
ジャガーの警告も虚しく、少女の小さな姿が破壊の閃光に飲み込まれていく。
いくらなんでも、無防備にあんなのを食らったらただでは済まない。ジャガーのその心配を、しかし、低く響く声が否定する。
「愚かな獣よ。冥途の土産に、貴様にこの世の真理を教授してやろう」
燃え上がる炎が内側から弾け飛び、黒い魔法少女が姿を見せる。あれほどの破壊の力に晒されたというのに、彼女の装束には傷一つない。
ぼう、と彼女の赤い目が光り輝く。その膨大な魔力を放つ瞳が人間のそれではない事に、果たして二人の魔法少女が気が付いただろうか?
「虹の夢を見る白痴の王よ。我が願いに応え一時微睡みから目覚めん」
高見から見下ろすように、少女が手を伸ばす。虚空を掴むような指の動きに合わせて、暗い夜が蠕動する。
何かが。
見えない何かが、街の明かりを、星の光を、月光を捻じ曲げて闇の中で蠢いている。
「666の刑罰が一つ、凌食刑……エクスターミネーション」
そしてそれらが、一斉に巨大な怪物へと殺到した。
苦悶の声を上げる怪物。その巨体が、魔法少女の必殺技すら跳ね返すほどの頑強な外殻が、見えない何かによって圧迫され、罅割れ、千切られ、端から少しずつ解体されていく。噴き出した鮮血すらも虚空に融けていくその様は、まるで見えない無数の化け物に生きたまま貪り喰われているかのような壮絶な光景だった。
「う……っ」
「ひ……」
運悪くその場に居合わせた二人の魔法少女は、その悍ましい光景に言葉を失う。
そしてその様を、謎の魔法少女は笑みすら浮かべて見下ろしている。
「闇に食われるがいい」
やがて巨大な怪物はその首を残すばかりとなり、それも不可視の顎に咥えられ、ごくん、と丸呑みされて虚空に消える。
跡には何も残らない。
残されたのは怪物が暴れた破壊の残滓だけで、身の気もよだつ凄惨な暴食の宴の痕跡を示すものは、何一つなかった。
吐き気を堪えるように口元に手をやりながら、ジャガーランサーが呻くように吐き捨てる。
「マジかよ……あの化け物を、こんな簡単に……っ」
「! じゃ、ジャガー! 居ないよ、あの子の姿が見えない、どこにも!」
「なんだって!?」
そう。いつの間にか、立っていたビルの屋上から謎の魔法少女の姿は消えていた。それだけではない、闇に閉ざされていた世界はいつの間にか、明るく太陽の光が差し込む休日の昼下がりへと姿を戻していた。
あれだけ禍々しく存在感を示していた魔力も、今や微塵も感じない。
まるで世界が、唐突な悪い夢から目覚めたようだ。
「ど、どうする、探す?」
「……いや。それより救助作業の方が優先だ」
意識を切り替えて、ジャガーはキャッツと共に瓦礫の山へと向かう。
遠くから、サイレンの音が近づいてきていた。
◆◆