バスジャック犯によって、他の子供達ごと攫われた私。
最悪だったのは犯人の目的。身代金目当てならまだよかった。
なんせ連中の目的は、私達の命そのもの。
犯人はまさかの、最近魔法少女達が追いかけているという悪の秘密結社、星辰連盟だったのだから。
「どうしたもんかな……」
腕や足を縛られて椅子に座らされている私達を品定めするように見つめる無数の瞳。黒いフードの奥から覗くその視線は、とてもじゃないが同じ人間とは言い難い無感情なもの。
爬虫類のような視線、という表現があるが、それは肝心の爬虫類に失礼な話だ。こいつらと比べればまだトカゲやヤモリの方が感情を感じられる。
到底、子供の首を捩じ切る事に躊躇を感じるような連中には思えなかった。
「ひん、ひん……」
「ぐすん、おかあさん……」
異様な雰囲気を敏感に察してか、子供達は朧げに自分達の末路を想像したのか騒ぐ事もなく涙に暮れている。
正直助かる、ここで変に騒いで犯人を刺激する方がよっぽど不味いからな。
とにかく、ここは時間を稼いで、他の魔法少女が助けに来てくれるのを期待するしかないが……さて。
稼げるような時間があるだろうか?
「聞け、お前達」
しばしの間、品定めに興じていた男達。その代表が、重々しく、時代がかった言葉遣いで口を開いた。
「お前達は選ばれたのだ。我らが奉じる偉大なる神への供物として。嘆くな、笑え。喜ぶがいい。お前達の魂は、偉大なる神の一部として永遠になるのだ」
「ひぐっ、えぐっ、びぇええ……」
「ママァ……びえええ……!」
男が大声で語る言葉に、とうとう恐怖が決壊したのか、何人かの子供がせきを切ったように泣きはじめる。その涙にも、男達は眉一つ動かす様子もない。
この人でなしどもめ。
「さあ。最初の栄光は誰が望む? それとも、我々で選ぼうか。……そこのお前。神に血を捧げる名誉は、お前のものだ」
リーダーが指さしたのは、よりによって私の隣に座っていた男の子だ。
無言で配下の男達がにじり寄るのを見て、男の子が顔をくしゃくしゃにして泣き叫んだ。
「や、やだ、いやだっ! おかあざんっ、おがあざん~~っ!!」
真っ赤な顔で泣き叫ぶ子供を、無言で手荒に立たせようとする男達。
……流石に、黙ってはいられなかった。
「待て!!」
私の叫びに、この場に集った人間の視線が集中する。
その視線の圧をひしひしと感じながら、私はゆっくりと声を上げた。
「……私が最初だ。その子より、私を連れていけ」
「ほぅ?」
リーダーがフードの下で肩眉を吊り上げる。
どうだ……?
「……いいだろう。それでは、まずお前から捧げてもらおう。お前達、そいつを連れてこい」
「はっ」
男の子から手を離し、男達が私の肩を引っ張り上げる。そのまま乱暴に引きずられていく私を、助かった男の子は感謝と悦びと罪悪感と絶望の入り混じった顔で見つめていた。
「あ……ああ……」
そんな顔するなよ。私が自分で決めた事だ。
男の子に小さく笑い返し、私は前を向くとリーダーの顔を正面から睨みつける。
魔法陣の前まで引きずられ、床に転がされた私をリーダーはさも楽しそうに上から見下ろしていた。
「随分と勇敢な男の子だ。覚悟も座っていると見える」
「は……っ。どうかな? 案外首を切っても青い血が流れているかもしれないぞ?」
「そして減らず口もなかなかのようだ。よかろう、神への捧げものとして申し分ない。だが……」
がっ!
衝撃に視界が明滅する。リーダーの靴に頬を蹴り飛ばされたのだと、遅れて理解する。じんわりと後から痛みがやってきて、私は顔を顰めた。ええい、眼帯している相手の顔を蹴るんじゃないよ、非常識め!
「ふん。しかし、恐れが足りぬと見えぬ。どうやら現実が分かっていないようだ……おい。あれを持ってこい」
リーダーの指示で、男の一人が工場の隅に向かい、何かを連れて戻ってくる。その手に鷲掴みにされているのは、赤いとさかと白い羽毛が特徴のでっぷり太った鳥類……ニワトリ?
いやまあ。確かに生贄の儀式には定番といえば定番か。
「コケッ、コケケッ」
甲高く鳴いて抵抗する鶏を、男は私の目の前、魔法陣の中央の机の上に押さえつける。そしてもう一人が、ギラリと鈍く光る大ナタを持ってその隣に立ち、そして……。
「よく見ていろ、次はお前がこうなるのだ」
スパン、と振り下ろされたナタが、鶏の首を切り落とした。
衝撃で頭が机から転げ落ち、残された体から思い出したように血が噴き出す。それは机から滴って、床の魔法陣へと広がっていく。
背後から子供達の悲鳴が響く。リーダーが、狂ったように笑った。
「はははは、ははははは! 恐れろ、怯えろ! お前達の末期の悲鳴が、神々へ奉じる鎮魂歌となるのだ!」
どく、どく、と溢れ出していく血液。それがやがて床の魔法陣へと染みわたり……ぼぅ、と赤い光を放った。
昏い工場の中を、禍々しい光が包んでいく。
「お、おお……これは!」
「まさか、我々の祈りが神に通じたというのか!」
「イア、イア!」
狂信者達が驚愕する前で、赤い光はますます輝き……一転して、収束する。魔法陣の中央に光が収束して出来た光の柱の中、何かが机の上に姿を露そうとしている……。
「おお……神よ! 我らにそのご尊顔を拝見させたまえ!」
そして、生贄の目前。赤い光の中から姿を現したのは。
「みよ……神の麗しき姿だ!」
「なんと神々しい……!」
「目が焼けただれる様だ……!」
悍ましき、ピンク色の肉体。
ぼこぼこと浮かび上がり、ぎょろぎょろと蠢く無数の真っ赤な目。
肉体が裂けるように解けるように開閉する口、うねる無数の触手。
その手には銀色の祭器が握られ、先端に突き刺さった供物からは黄金に輝く蜜が滴っている。
ああ、その悍ましき、不定形の異形はまさしく……。
『ムルミィ?』
ルーシィだった。
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