魔法陣から何か出てきたとおもったらルーシィだった。
自分でも何を言っているのか分からない。頭がどーにかなりそーである。ポルポル。
狂ったように笑う狂信者たちの声をBGMに、しばし私はルーシィと見つめ合う。
恐らくおやつの最中だったのだろう。ルーシィは手にしたナイフに刺さったままのパンケーキの欠片をぱくりと食べると、ごくり、と嚥下。
あらためて、その赤い視線が周囲を睥睨する。
黒フードの知らない男達。
椅子に座らされてべそかいてる子供達。
床に縛られたまま転がされてる私。
そんでもって、首の無い鶏と魔法陣。
『ムルミィ』
なるほど、だいたい分かった。ルーシィは小さく頷いて……。
『ムルルルルルミミミミィイイーーー!!!』
無数の瞳から、虹色の大閃光を放った。
「ぐわああああ!?」
「目が、目がぁああああ!?」
「うわあああ!?」
突然の目潰しに悲鳴を上げる狂信者たち(と子供達。ごめんね)。のたうち回る彼らを他所に、ルーシィはぴょんと私の元に飛び降りると、シュルルと触手を伸ばして縄を引き千切った。
『ミィル!』
「ありがと、ルーシィ。よし、変身だ!」
こくんと頷いたルーシィが赤い義眼に変形する。眼帯を捲ると、右目にすぽんと飛び込んできて、視界が開ける。
「ダークネス・ルーシィ、セットアーップッ!」
そして、黒ゴスパンクの魔法少女に変身だ。
私は早速袖から黒い霧を噴出すると、ぴょーんと飛び上がって工場の梁へと身を隠す。
下では、強烈な光に目くらましされていた男達が、遅れて視界を取り戻す所だった。
「お、驚いた……あ、あれ、天使様は!?」
「ああ、なんという事だ。我らが懊悩している間に、生贄を平らげて帰られてしまったのか!」
「なんと勿体ない。他にも生贄は用意していたというのに!」
口々に勝手な事をいう男どもに、視界が赤くそまる。全く都合のいい方向に考える天才という奴だな。はてさて、目の前に絶望が訪れても果たしてそう都合よく考えられるものかね。
「ふん。汚らわしい蠅の羽音が囀りおるわ。貴様らの用意した贄など、真の神の口に合うものではない」
「っ! 誰だ?!」
「誰? 誰かと問うたか。ならば答えてやらなくもない」
私はぴょーい、と天井から飛び降りると、すたりと男達の前に着地した。場違いなゴスパンク風の黒ドレス姿に、目に見えて男達が怯んだ様子を見せる。
「我が名は星刻の魔法少女、ダークネス・ルーシィ! 三天を支配する暗黒の巫女なり!」
「こ、コイツ……報告にあった……!」
「汚らわしい裏切り者めが……! 一体どうやってここを嗅ぎつけた?!」
てんで筋違いな罵倒に、口元が引き攣る。さっきから、妙に癪に障る事をさえずる羽虫どもだ。あまりおかしな事をいうと、うっかり手加減を間違えてしまうかもしれないぞ?
「貴様らの腐臭など、三千里先からでも匂うというもの。それもわからず理由を尋ねるとは、滑稽、滑稽」
「ち……! まあいい、貴様ら魔法少女など恐れるに足らず! 血祭りにあげ、我が神への供物としてくれよう! あれを出せ!」
リーダーの合図に、男の一人が懐から取り出したリモコンを操作する。するとガコン、と工場の端に詰まれたコンテナの扉が開いた。
と同時に、鼻を劈くような猛烈な悪臭が工場に立ち込める。
「う……っ」
「あ……っ」
あまりの強烈な匂いに、子供達が気絶してしまったようだ。まあ、ここで気絶しておいた方がまだマシか。教育に悪いモノを見せられるよりは、な。
「ふはははは、どうだ! 我らが秘術で呼び出した神の下僕! 魔法少女などどうという事はない!」
勝ち誇るリーダーの言葉と共に歩み出てくるのは、全長6mを越える巨大な怪物。毛むくじゃらで一見大猿と見まがうが、肘から腕が分かれた四本腕が明らかな異形。そして何より特徴的なのはその頭部。
普通の生き物ではありえない、縦に裂けた口。その向こうには無数の歯が並び、獲物を欲してじゃりじゃりと噛み合わされている。
ふぅん。なるほど、確かに。ここ最近、やたらと出てくる怪物達と、似た雰囲気がする。
となると、やはりこいつらが騒ぎを起こしている張本人という事か。
「…………は」
口元に笑みが浮かぶ。
私は右手を掲げて、小さく友の名を呼んだ。
「ジョセフィーヌ、おいで」
《てけり・り》
カァン、と工場の壁をぶち抜いて、高速で飛来する大鎌。唸りを上げて高速回転するそれを、私は振り返りもせずにキャッチ。
手に馴染む重さと長さのそれを、優しく撫でながら労いの言葉をかける。
「いい子、いい子。ルーシィの反応を追ってきたのかな? 流石だね、あとでおやつを上げよう」
《てけり・り!》
ずらり、と大鎌を構えて、怪物に対峙する。
「さあ、処刑の時間だ。せいぜい抵抗してくれよ? あまり早く斃れると、勢いあまってそこの連中も殺してしまうかもしれないなぁ……?」
「図にのるなよ、ガキが。やれ!」
『グルゥアアア……!』
怪物が地響きを立てて襲い掛かってくる。振り下ろされる二本腕を、すらりと飛び退って回避する。腕が枝分かれしているせいで間合いが広いな。回避し続けるのも面倒だ。
『ガアア!』
私を追って振り下ろされる反対側の腕。こちらを叩き潰そうとするその両腕に、私はジャキリ、と大鎌を構えて相対する。
一閃。
『ギャアア!?』
「もろいな」
悲鳴を上げて後退する怪物、その左腕は肘の手前で切断されている。鎌をふってどす黒い血を払う背後、どすん、と音を立てて切り落とされた腕が落下する。
直後、床から跳ね起きて飛び掛かってきた腕を、振り返る事もなく鎌を振り回して切り刻む。
くず肉になって飛び散る肉片を踏みしめて、前へ。
「しかし脆いなりにはタフなようだな。これでは埒があかないか」
『ギィイイ!』
見ている前で、傷口が沸騰するように泡立ち、ずるりと新しい腕が生えてくる。造りが単純な分、再生が効くようだ。
「ふはは、どうだ! そいつは我らの秘術によって強化されている! その程度の刃物で殺せるものか!」
馬鹿が何かいっているが、相手をするのもめんどくさいのでとりあえず無視。
さて、どうしたものか。べつにちょっと再生するぐらい、問題ではない。
だったら再生できなくなるまで切り刻むのも一つの手だが、何よりそれはめんどくさい。
だったらもっと簡単で、ストレス発散できるやり方がいいだろう。
「ジョセフィーヌ」
《てけり・り》
私の意を受けて、大鎌がぐにゃりと変形する。チャラチャラ、と小気味いい音を立てて床に落ちるのは、鈍く輝く金属の鎖。そしてその先に繋がれた巨大な鉄球が、どすん、と床に落ちた。
「知っているか? 安い肉は、叩くと美味しくなるそうだぞ」
鎖を手にして、ひゅん、と回す。巨大な鉄球をブンブン回しながら、私は怪物に向けて笑みを浮かべる。それを見て、怪物が怯んだように一歩、後ろに下がった。
だがそれも一瞬。恐れを感じた自らに怒りの声を上げて、怪物は大きく牙を剝く。
『ギアアアア!』
「…………潰れろ」
雄叫びを上げて向かってくる怪物。その顔面目掛けて、私は勢いを乗せた鉄球を投擲した。
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