「とまあ、そういう事があったのだよ」
《てけり・り》
「は、はあ……なるほど……」
その翌日。
私はエリザベートの元を訪れ、一連のトラブルについての説明を行っていた。
なんせチームにも属していない一匹狼である私は、揉めた時に庇ってくれる相手もいない。今回の件は教団の事が絡んでいたのもあり、とりあえず事情を説明しておくに越したことはない、と思ったのである。
その判断は間違っていなかったらしく、一通りの話を聞いたエリザベートはカップを机に戻し、まずは私の苦労をねぎらってくれた。
「それは大変でしたわね、ご苦労様でした。教団の事は私も話に聞いています。まさか私生活の中で巻き込まれるなんて……」
「ああ。だがある意味では巻き込まれて正解だった。子供達が犠牲にならなくて済んだからな」
「それはそうですが、貴方も一歩間違えば危うかったんですからね?」
私の言葉に部分的に賛同しつつも、めっ、と窘めてくるエリザベート。……彼女には、私の正体の事……特にルーシィの力が無ければ戦う事が出来ない、というのは伝えていない。
たまたまルーシィが儀式で呼び出されてなかったら普通にそのまま首ちょんぱされていたかもしれない、と知ったら怒涛のようにお叱りを受けそうである。今後もその事は秘密にしようと固く誓う私なのであった。
「貴方が強いのは知っていますが、教団も得体がしれません。油断なさらぬよう」
「まあ、そうだな。今後は気をつけるよ。……しかし、教団員を連れ去り損ねたのは痛手だったな。教団の事を聞きだすチャンスだったのに……」
「……これはあくまで好奇心だったんですけど、連れ去れてたら一体どうするつもりだったんです?」
エリザベートの質問に、私は目をぱちくり。
「何って拷問だが」
具体的に言うと逆さにして水責めにしたり、●●●を歯茎に刺してえぐったり、●の間にナイフを刺したり、焼けた●で肌を焼いたり、後は●●を針で串刺しにしたり……。
「せ、説明は結構です! というか私達は魔法少女でしてよ!? ヤクザも顔負けの拷問なんかしていい訳ないでしょう!?」
「ええー?」
だって手っ取り早いだろそっちのほうが。どうせ苦痛に耐える訓練なんかもしてないんだろうし。話が早いぞ?
「痛いのとか血生臭いのはおやめになって!?」
「わかった、わかった。ほれ、ジョセフィーヌ、あーん」
《てけり・り》
口うるさい友人の文句を聞き流して、小さく砕いたフィナンシェをジョセフィーヌに刺し与える。にゅるん、と体に取り込まれたお菓子は、みるみるまに体の中で溶けていく。にっこり、と一つ目が嬉しそうに微笑んだ。
《てけり・り!》
「そうかそうか、美味しいか。よかったね」
「……この光景、見慣れていいものか悩みますね……」
何やら渋い顔をするエリザベート。なんだ、紅茶が不味かったか? 私も自分の分を口にするが、いつものように薫り高くマイルドな味わい。まあ、あっちは本物のお嬢様だからな、庶民には理解できない領域の良しあしがあるんだろう。多分。
「まあ、それはそうと、警察に引き渡したのは良策でしてよ。餅は餅屋、事情聴取は警察に任せるに限ります」
「えー。それじゃ私達が情報手に入らないじゃないか。大体、警察が有能とも限らんだろ? 最近話題になってるじゃないか、クソ無能警察」
「この街の警察は心配いりませんわー。お父様達の息がかかっていますもの、訳の分からない職務怠慢なんてさせませんわよ。ふふふ、そして、それがつまりどういう事かわかりますわね?」
ふっふっふ、と悪人顔(正直似合いすぎてビビるレベル)で笑うエリザベート。おい、それってまさか……。
「警察内部の調査書類とか、横流しできるのか?!」
「あらあらそんな外聞の悪い。善意の情報提供といってほしいですわあーおーっほっほっほ」
おいおい、それって大分暗黒金持ちのやり方だぞ。いいのかそれ?
「言ったでしょう、まっすぐなだけではお金持ちなんてやってられませんわー!」
「お、おぅ……色々大変なんだな……」
「本当ですわよ! って、をほん。私とした事がちょっとヒートアップしましたね……」
と、そこでようやく自分がえらく興奮してる事に気が付いたのか、エリザベートは椅子に座り直した。ストレスたまってんだなあ……お金持ちも大変だあ。
「まあ、そういう訳で色々とその事件についても情報を掴んでおります。まず一つ、子供達のあれからの安否ですが、全員無事ですよ。後遺症もないようです、ほぼ全員が即日退院できたようですわ」
「い、いや、別にそれは……」
「まあ、遠慮なさらず。聞くだけならただでしょう?」
内心、一番気になっていた事を真っ先に切り出されて、ちょっと気まずさに目を逸らす。内心を見透かされてる感じが凄い……。
まあでも、全員無事か。それは良かった。
「ええ。何名かは、怪物を見た―、と騒いでいたようでしたが……状況が状況故、幻覚を見たものとして処理されたようです」
「それは迂闊じゃないか? 怪物も魔法少女も現実にいるじゃないか」
「それはそうですけど……本人達の為に、幻を見た、と思わせた方がよろしいと思われたのではないですかね。真実が人を幸せにするとは限りませんわ」
そりゃ確かに、ごもっともな話だ。あんなグロイ怪物が実在するなんていう事実、毒でしかない。悪い夢を見た、そう思って忘れてもらうのが一番だろう。
勿論、その後のメンタルケアも大事だとは思うがな。
「他にも色々妙な事を言っていたようですね。ピンク色の何かキモ可愛いのが出た、とか、それが光ったら病院だった、とか……あとは……」
「僕の代わりに食べられちゃった男の子がいた、とか」
「…………」
「…………」
「…………そ、そうかー。で、でも、そんな子は居なかったけどなあー? な、何かの勘違い、だったんじゃないか、なあー?(汗ダラダラ)」
エリザベートから目を逸らす。目が笑ってなくて怖い。
私は机の上でもしょもしょクッキーを取り込んでいたジョセフィーヌを両手で抱え上げると、椅子からそっと席を立とうとした。
「ええと、悪いけどちょっと急に用事を思い出したので、私はこの辺で……「ルーシィ様」ひぅ!?」
真後ろからのささやき声に吃驚して振り返る。
すぐ後ろにセバスチャンさんが立っていた。
「もうじき、紅茶のクッキーが焼き上がるとの事ですので……よろしければ。よろしければ、もう少しお待ちいただければと」
「は、はひ……」
言外の圧力に、半ば無理やり椅子に座らせる。正面に視線を戻すと、にこやかーなエリザベートの笑顔。
「え、えと……」
「……(にっこり)」
「は、ははは……だ、大丈夫だよ、その子は無事に私が助けたから、あははは……」
「……(にっこり)」
エリザベートは笑顔である。
笑顔。
笑顔……。
えが。お。
「ごめんなさいその男の子が私です」
無言の圧力に耐えきれなくなり、私は素直に正体をゲロった。
◆◆