曽良尼家の居候、ルーシィとジョセフィーヌ。
主人である有樹が小学校に行っている間、この二人がどのように過ごしているのか。
その秘匿された一日を覗いてみよう。
ある平日の昼下がり。人間は誰も居ない家の二階、有樹の自室の段ボールの中で、もぞもぞ蠢いている影がある。
ピンク色の肉塊、ルーシィ。そしてその弟分、ジョセフィーヌである。
二人はクーラーのよくきいた部屋の中で、すやすやとお昼寝中だ。
『ムミィ……ムミィ……』
《てけ……り・り……》
まるで鏡餅のように重なって、寝息に合わせて膨らんだり縮んだりする二人。ルーシィの体からぷくぷくと鼻提灯のように皮膚が膨らんで、ぱちん、と弾ける。
『ムミッ』
その音で目を覚ますルーシィ。彼がぶるぶる、と体を震わせると、膨らんで弾けた体表の一部がするすると元に戻る。
『ムミィ』
《てけり・り?》
そして彼が声をかけて、ジョセフィーヌも目を覚ます。不定形の蒼い粘液の表面に、ぽこり、と一つ目が浮かび上がる。
二人の不定形生命体はもぞもぞと段ボールから這い出すと、閉ざされた扉の下の隙間を通り抜けて一階へと降りて行った。
向かうのはキッチンである。冷蔵庫の中身をあらためたルーシィは、そこから卵と牛乳を取り出す。一方、ジョセフィーヌは、キッチンの棚から常備しているパンケーキミックスを運び出した。
『ムルルミィ!』
《てけり・り》
名付けて、二人の力を合わせて有樹を喜ばせよう大作戦、である。
いつもは一方的に施しを受ける立場の二人。たまには、彼の帰宅に合わせておやつを用意して喜ばせよう、という考えだ。
勿論、事前調査はばっちりである。何度かお手伝いをして、作り方もしっかり把握している。ルーシィもジョセフィーヌも自信満々だ。
『ムルミィ、ミミ、ミュフゥ~』
スカスカの鼻歌を歌いながら、まずはボールにミックスをぶちまける。ちょっと飛び散った白い粉が体につくが、にょろりと生えてきたいくつものベロが忽ち嘗めとる。ジョセフィーヌは青い体に粉がまぶされてグミみたいになっていたが、ぐるり、と体を裏返して元通り。
ボールに粉を出したら、次は卵である。キッチンに並べた二つの卵を、ルーシィがここん、と叩く。
『ムルムルミィ……』
触手を伸ばして念じると、カタカタカタ、と一人でに卵が震え始める。やがて殻を中から突き破って、どろりとした粘液が蠢いた。
『キシュシュ……』
『ングヌ……ヌルイ……ンガァ……』
こぽこぽと体表を泡立たせ、呪詛の言葉をつぶやきながら卵スライムが自分でボールに入っていく。それを確認すると、ジョセフィーヌが計量カップを持ってきて、ルーシィがそれに牛乳を注いだ。
カップに満たされていく真っ白な牛乳。ちゃぷん、と揺れるその中身が、ごぽ、ごぽ、と蠢いている。中に何かが生まれようとしている。
勿論ルーシィはそれを気にせず、カップの中身を少しずつ、ボールの中に注いでいく。ジョセフィーヌが泡だて器に変身すると、ボールの中身を混ぜ始めた。
『ギュィイイイ……!』
『アアアアア……!』
攪拌される卵スライムの断末魔がキッチンに響く。その後も、蠢く白濁した液体を、少しずつボールに注ぎたしながら混ぜる二人。最後まで注ぐとカップの中に半透明の何かが蠢いていたが、ルーシィはおやつと言わんばかりにそれを摘まみ上げるとヒョイパク、と口の中に放り込んだ。
ボリボリとそれを齧りながら、フライパンに油を引いて火にかける。
『ム~ミィ~、ミミィ~』
《てけり・り!》
フライパンが温まったら、濡らした布巾に乗せて粗熱を取り、生地を一枚分注いでふんわりと焼く。生地の表面にふつふつと腫瘍のようにブツブツが浮かびあがり、目玉がぎょろぎょろするのを見て、ルーシィとジョセフィーヌは焼き上がりを想像してにっこりと笑った。
『ムミィ!』
《てけり・り!》
ふふ。喜んでくれるかな?
「……それで? この惨状?」
『ムルミィ…………』
《てけり・り…………》
帰って来た私は、目の前でしょんぼりと床に這いつくばる不定形生命体二人に深くため息をついた。
その向こうでは、キッチンが今まさに、得体のしれない怪物達に占領されているのが見て取れる。
『パパパ、パンケェーキ』
『パン、ケェエエキィイイイ……』
寄声を上げて蠢いているのは……なんていえばいいんだろう。
生きてるパンケーキ?
見た目だけは美味しそうなパンケーキ、その表面に無数の目玉が浮かんだ怪物みたいなのが、生焼けの生地を粘液みたいにひきずりながら、キッチンを這いまわっている。おかげでキッチンはぐっちゃぐちゃだ。どうしろっていうんだこれ。
あとなんか段々大きくなってないかなこれ。あ、棚の砂糖を食べて……増えた? 牛乳飲んでる個体も居る……。
これほっとくと大変な事になりそうだなあ。
無限増殖する生きてるパンケーキかぁ……。下手な怪異よりやばない?
「…………仕方ない。他の魔法少女にバレる前に片付けるよ」
『ムルミィ!!』
という訳で、人知れずダークネス・ルーシィの活躍によって、街の平和は守られたのであった。
ちゃんちゃん。
「……ルーシィもジョセフィーヌも今後一週間おやつ抜きね」
『ムルミィ!?』
《てけり・り!?》
当たり前だろうがちったあ反省しろ。