TS転生外宇宙系魔法少女ダークネス・ルーシィ   作:SIS

49 / 57
ドンキホーテつかまつる

 

 

 郊外の高架道路が、巨大な怪物によって崩される。

 

 ゆっくりと街に近づく巨大な怪物。その黒い影を前に、街はパニックに陥っていた。

 

 あちこちで交通事故が起き、混乱した人々が通りを右往左往。中には火事場泥棒のつもりなのか、お店を襲う暴徒まで現れる始末。

 

 それらの対処に追われながら警察が懸命に避難誘導を行うが、到底それは進んでいるようには見えなかった。

 

 ここ最近、連日のように怪物が出現していたにも関わらずこの混乱ぶり。

 

 それは偏に、今、街に迫ってきている怪物が、それらと一線を画す化け物だからである。

 

 邪神。

 

 教団が蘇らせたその得体のしれない存在は、見る人の心に恐怖を呼び起こす。心弱き人々はその恐怖に囚われ我を失い、理性を失って暴れるばかりの肉人形と化していた。

 

「不味いですわね……! 早くも影響が……」

 

 その邪神を追う影が一人。

 

 無数の車が乗り捨てられた高架道路を走るエリザベートは、ちらりと見えた街の惨状に顔をしかめた。

 

 姿を見せただけでこの有様。実際に邪神が街に乗り込み、破壊活動を始めればどれだけ被害が拡大するか想像もできない。

 

 いや、それだけならまだいい。

 

 最悪、マスコミなどを通じて、狂気が拡散してしまう恐れもある。

 

「これ以上、街には近づかせませんわ……!」

 

 高架道路を飛び移ってショートカットし、エリザベートは怪物との間合いを詰める。

 

 怪しげな星空の下、オーロラに照らされるその巨体はあまりにも現実感がない。だが、その防御力が並大抵のものではないのは、先ほど食い殺された怪獣が教えてくれた。

 

 左右や背後からの攻撃は、甲殻に阻まれる。かといって真正面にまわるのも得策ではない。であるならば……。

 

「術者を叩く!」

 

 邪神の頭部には、今も教祖の変じた怪人が佇んでいる。あれがあの巨大な邪神を操っているのなら、それを排除すれば動きに変化があるかもしれない。

 

 どのみちこのような企みを実行に移す連中だ。生かしておける道理はない。

 

「行きますわよーーー!」

 

 ギャギギギィ、とアスファルトをブーツで削りながら急停止。ランスを槍投げのように構え、投げ放つは必殺の一撃。

 

「ゴールデン・エトワール……てぇええい!!」

 

 エリザベートの手から、投げ放たれる黄金の一撃。夜の闇に黄金の虹を描くように飛翔する一撃が、邪神の頭部に鎮座する教祖を狙い撃つ。

 

 ありったけの魔力を込めた一撃。邪神そのものはともかく、それにひっついている怪異程度なら、と思われたが。

 

「あら」「まあ」

 

 耳をつんざく衝撃音。

 

 コンクリートのビルも貫く一撃は、しかし教祖に命中する直前で、見えない壁に阻まれたかのように空中で停止していた。魔力を帯びたランスが防壁を突き破ろうとビリビリと突き立つも、見えない何かはいっこうに破れる気配がない。

 

 ついには力尽き、ぐらり、と落下したランスは地に落ちる前に粒子にほどけて消滅する。

 

「な……っ」

 

「「おやおやお可愛い。その程度の一撃が、邪神の守りを貫いて我々に届くと思ったのですか?」」

 

 邪神の加護によって救われた教祖が、眼下のエリザベートを嘲笑う。そして邪神そのものは、いまの一撃も意に介さず、ただひたすら前に進み続ける。エリザベートの事など、目にも入っていない様子。

 

「「あわよくば自分を狙わせれば、と思っていたのでしょう? 今更貴方達のようなコバエには構いませんよ。我らが神は数万年ぶりの晩餐を心待ちにしているのですから」」

 

「く……っ!」

 

 内心の考えすらも看破され、ぐっ、とエリザベートは歯を食いしばる。

 

 もはや打つ手なし。このまま、街が邪神に蹂躙されるのを見守る事しかできないのか?

 

 否。

 

 魔法少女は、一人ではない。

 

「セイクリッド・ザンスラッシャー!」

 

「デッドリーワイドスレッド!!」

 

 響き渡る高らかな祝詞。放たれる光の刃が夜を切り裂き、さらに追い打ちをかけるように巨大な黒糸が投げかけられる。

 

 その聞き覚えのある声に顔を上げたエリザベートの前に、とう、と着地する何人かの魔法少女達。

 

「ソード・アリス、オブシディアンスパイダー! ほかのみんなも!」

 

「よう、増援に来たぜ」

 

「邪悪、絶つべし!」

 

 陽動組の魔法少女達だ。疲弊し戦力としては期待できない突入組と違って、彼女らはまだ余裕を残している。何より彼女らは、そのありあまる大火力故突入から外されたメンバーでもある。巨大な怪物を相手にするには心強いことこの上ない。

 

 まだ光は潰えていない。そう示す魔法少女達を、しかし教祖は嘲笑う。

 

「「ふふ、コバエが集ってきましたか。ですが、お前たち程度、どれだけ集まったところで何もできはしません。今の一撃とて、神は何の痛痒も感じていない」」

 

 その言葉と共に、爆発の煙の中から無傷の邪神が姿を現す。巨大怪異を切り裂く光の刃も、不滅の粘液を焼く毒もこの巨体には通じていない。

 

 だが、それを見ても魔法少女達はにやり、と不敵に笑って見せた。

 

「それは、どうかな?」

 

「「何……?」」

 

 ぐらり、と一歩踏み出した邪神が姿勢を崩す。見れば、その踏み出した脚の裏の地面に、先ほどの斬撃によって深いくぼみができている。脆くなった地面を踏み抜いて傾ぐ体を、さらに張り付いた黒い糸がひっぱる。ダメ押しにさらに必殺技が叩き込まれ、ダメージはなくとも邪神は大きく体勢を崩した。

 

 ついには復旧不可能なまでに傾いたその体が、ぐらり、と地面に倒れこむ。

 

「「なんと……!」」

 

 教祖の驚愕する言葉を最後に、地響きを立てて地に邪神の巨体が伏せる。地面が揺れ、衝撃で周囲の道路や建物が崩壊し、魔法少女達は身を低くしてその衝撃に耐えた。

 

「やった!」

 

「よし、これで少しは時間を稼げるはず……!」

 

 渾身の成果に、ガッツポーズを取る魔法少女チーム。

 

 彼女達とて、自分達の手に余る相手なのは一目でわかった。であるならばするべきは、市民の避難を促すための時間稼ぎだ。その見込みは成功し、巨大な怪異は確かに一時、その進行を停止した。

 

「今のうちだ! 戦力外通知を言い渡された魔法少女達を、マジカルアイランド経由で総動員している! 皆で一人でも避難させるんだ!」

 

「んでもって、私達はここで引き続き足止めね。……ううん、生きて帰れるかなー……」

 

 倒れこんだ邪神が、ずもももも、とゆっくりと身を起こそうとしている。まだ土煙に包まれたその全容はうかがえないが、先ほどまでと違い、敵意のような圧力をヒシヒシと感じる。

 

 どうやら、魔法少女達を無視できない邪魔だと認識したようだ。好都合ではある。

 

 あとはどれだけ、自分達が粘れるかだ。

 

 スパイダーは残してきたチームメイトの事を思い浮かべ、震える脚でニヒルな笑顔を強がって浮かべた。

 

「さーて、やるか……ん?」

 

「私も……戦わせてください……!」

 

《てけり・り》

 

 そこに、たっ、と足音を立てて現れるのは、ブレイブライオン。彼女は真っ青な顔に色濃い隈を浮かべながらも、有無を言わせぬ眼力で参戦を願い出た。

 

 肩には、青い不定形の生命体。一つ目を血走らせたジョセフィーヌは、甲高く鳴いて戦意を露わにする。

 

「ライオン! 貴方は休んでいなさい、ここは私たちが……」

 

「ダークネス・ルーシィが命を落としたのは私のせいです」

 

「え……」

 

 突然の告白に、エリザベートが言葉を失う。

 

 ブレイブライオンは暗い瞳で、脚を引きずるようにその横を通り過ぎて前に出た。炎を宿した瞳が、ゆっくりと起き上がろうとする邪神を見つめている。

 

「逃げ遅れた私を庇って、彼女は瓦礫の下に……だから、私は彼女の分まで頑張らないといけない。彼女が救うハズだった人を、守らないと……いけないの」

 

「それは破滅への道だぞ、ブレイブライオン。死者の代わりになど誰にもなれない」

 

 絶句する魔法少女の中にあって、オブシディアンスパイダーだけが冷静に彼女の無謀を咎めた。

 

 誰かに代わって、聞こえはいい言葉。

 

 だが、想像の中の誰か、基準も目的もはっきりしない存在に誰が追従できる? あの人ならできた、あの人ならこうした、その果てに待ち受けるのは自らを苛む無間地獄だ。

 

「わかってます、でも……」

 

「ならばいい。今は体を動かさねば納得できないというなら、私がフォローしよう。それでいいな、エリザベート」

 

「……ええ。でも一つ訂正を。貴方は勘違いしてますわ、ライオン」

 

 再び新しい槍を取り出し、前に出るエリザベート。彼女は訝し気なライオンの隣に立つと、小さく勝気に笑って見せた。

 

「ダークネス・ルーシィが岩に潰された程度で死ぬはずがありませんわ。今頃は、登場の口上を考えているのではなくて?」

 

「……ふふ。案外、出待ちのタイミングを計っているのかもしれませんね」

 

「そういう事ですわ。ほら、いきますよ」

 

 魔法少女達が一斉に身構える。その視線の先では、雲海のように立ち上る土煙の中から、巨大な邪神が身を起こす所だった。

 

 お喋りはここまで。ここからは死闘の時間だ。

 

「さあ、行きますわよ……!!」

 

 エリザベートの号令の元、魔法少女達が一斉に駆け出していく。

 

 その、瞬間。

 

 世界は突如、闇に閉ざされた。

 

 魔法少女のみならず、邪神さえも空を仰ぎ見る。

 

 ああ、見上げるがいい。天幕を閉ざす怪しげなオーロラは消え去り、そこに輝くのは満天の星空と血のように赤き三日月。

 

 そして、笑う天の傷口に腰掛けるようにして舞うのは一人の魔法少女。

 

 

 

 

 

「我は三天を支配する暗黒の巫女。我が上に王ありき、我が下に下賤なる者あり。並ぶ者は、居ない」

 

 

 

「我が名は、星刻の魔法少女……ダークネス・ルーシィなり!」

 

 

 

◆◆

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。