TS転生外宇宙系魔法少女ダークネス・ルーシィ 作:イア! イア!!
◆◆
「うーん。これは眼帯で誤魔化すしかないか……」
『ミミミ』
「気にしなくていいよ。ルーシィはルーシィだもの」
目の前には、鏡を覗き込む子供の顔。その右目があった所には、ぽっかりと虚空が穿たれている。まあ、ルーシィは右目になって私と融合していたんだから、それもやむなし。どうも本来の右目は、あの崩落に巻き込まれた時に潰されてしまったらしい。
まあ幸いな事に痛みとかそういうのはないから問題はない。ただまあ、昔聞いた話だと目がない状態だと頭蓋骨が歪な成長をしてしまうから、その対策はした方がいいだろう。なんか適当なサイズのビー玉でも目につめて義眼にしようかな。こんどショップに探しに行こう。
私は眼帯を戻すと、腕の中のルーシィを抱えなおした。
「しかし、うーん。今更だけど、“アレ”は何なの、ルーシィ?」
『ミィフ』
「ほら。ちょっと記憶があいまいなんだけど、瓦礫に潰された後ルーシィが助けてくれて……その後、なんかおかしなことになってたじゃない?」
そう。
確かにあの後、光が見えて……気が付いたら私は、おかしな恰好でビルの上に立っていた。
体が煮えたぎるように熱くて、あの状況を招いた何かしらが憎くて、怒りと全能感のままにふるまい諸悪の根源を滅ぼしたけど……あれはいったい何だったんだ?
「あれ、もう一回できる?」
『ミミィ!』
もちろんできるよー、ルーシィは元気よく鳴くと、にゅるり、とその体を変形させた。
質量保存の法則なんのその。ぐにぐにしながらサイズを小さくしたルーシィは、小さな赤いビー玉のようなものへと姿を変えた。それが、ちょうど私の右目にすっぽりはまるサイズであるのは言うまでもない。
「ええと……これをつけるの?」
答えはない。おっかなびっくり、私はルーシィ玉を手にすると自分の右目にはめこんだ。
ぐちゅり。
「む……」
自分の体の中に異物を埋め込む、奇妙な感覚。温度とか、質感とか、確かにちょっと違和感が生じる。それもすぐに馴染んで違和感は無くなるけど……取り付けたルーシィが、眼窩の中で何やら蠢いている感じがする。失われた目玉の代わりに、視神経に融合し、脳に閉じたはずのチャンネルが無理やり開かれる感覚。
ぱっ、と視界が大きく広がる。いや、視界だけではない。
認識そのものが、大きく拡張していくのを感じる。
自らの意思と関係なく、私の口が言葉を紡いだ。
「ダークネス・ルーシィ、セットアップ!」
私の体が光に包まれ、姿が変わっていく。
数秒後には小学二年生男児は、黒いゴスロリドレスで着飾った少女の姿に変じていた。
「わ、わああ……」
洗面台の鏡を前に、何度も自らの恰好をあらためる。
ふわふわ! さらさら!!
こういう恰好はごわごわしていて動きにくいかと思ったのだけど、想像以上に着心地がいい。あちこちに締め付けてあるベルトのおかげで身じろぎしてもずれたりしないし。
というか何の素材で出来てるんだこれ? いくら布といってもこれだけ重ね着してたら結構重たそうなのに風船のように軽い。それでいて触った限りは、やすっぽい手触りはしない。ちゃんとした布のように感じる。
っていうか……。
「……無い、な」
スカートの上からぽんぽん、と叩いてみるが、男の子の証の存在はない。
まあどうでもいいか。
大した問題じゃない。この年頃は見た目で区別あんまりつかないし。
「えへ、えへへー」
それよりも今はこの恰好を楽しもう。
黒くてゴチャゴチャしていてアシンメトリー! 心の中二病がときめいてたまらない! まあこの体は中学二年生どころか小学生なんだけどそれは些細な違いだ、いやむしろこの年の子がこういう恰好をするのは背伸びして微笑ましいぐらいなのでは?
「ふふふ……我は闇の巫女! この世に真実の黒を齎すものなり、なんちって!」
赤く輝く右目を見せつけるように指で顔を隠し、ジョジョ立ちっぽいポーズを鏡に決めてノリノリにセリフなんかを言ってみたりする。
しばし自分で自分に見入ったあとで、頬を緩めて地団太する。
「くぅー、かっこいー。たまらないー!」
なんかこう、変身アイテムで本当に変身できたみたいな。わあー、もう、気持ちぃいいいいい。
「ふ、ふふふ。変(ギリギリギリ)……身(ギュッ)! ちょっと違うか……変身(きゃぴるるんるん)……これも違うな。えへへへへへー」
うへへへへ、楽しすぎてほっぺが落ちそう。
「おっと、変身ポーズばっかり練習していられないな。決めポーズとかも考えなきゃ。ええと、こう、かな?」
ばっさばっさとスカートと袖のフリルを振り回して鏡の前で何度もポーズを変える。
と、その拍子にフリルが流しの石鹸ポンプをひっかけて床に落としてしまった。
「あっ」
慌てて拾い上げて元に戻す。
むぅ……家の中でやるもんじゃないな。ちょっと狭いし。
「でも、このフリフリの恰好を人に見られるのは恥ずかしいな……」
外を見ると、いつの間にか日は傾き、夕闇が迫っている。この時間帯はあまり衆目にさらされる事はないかもしれないけど、万が一目撃されると謎の不審者として近所のうわさになってしまう。
どうしようかな……えっ?
頭の中になんか意思が伝わってくる……?
「ルーシィ? ……ええと、飛んでいけばいい?」
いまいち言葉になっていない、曖昧なイメージに首を傾げながら、私は自分の部屋の窓を開けた。窓枠に脚をかけたところで、下を覗き込んでごくりと息を呑む。
窓の下には小さな中庭が広がっている。手入れもされていない草ぼーぼーの荒地……この高さからなら、落ちても大けがにはならないだろうけど……。
「え、ええい、ままよ!」
私はルーシィを信じる!
覚悟を決めて、私はぴょーん、と窓枠から勢いよく跳躍した。
跳躍、ちょうやく、ちょう、や……く……。
「うわおああああああ!?」
重力に逆らうように、何かに引っ張り上げられるように勢いよく舞い上がる私の体。まるでホームランのボールのように、私は薄闇に染まりつつ町の夜空にかっとんでいった。
これはもう跳躍ではなくて飛行では!?
耳にごうごうと唸る風切り音に、私は目を白黒とさせた。
◆◆