とある平日の昼下がり。
リビングでルーシィとジョセフィーヌはTVを見ながらオヤツを食べていた。
地獄の一週間おやつ抜きの刑がようやく終了し、久方ぶりのパンケーキをしみじみと味わう二人。その表情は恍惚としていた。
『ミミィ……♪』
《てけり・り♪》
パンケーキを一口サイズに切り分けた後、添えられたホイップクリームをナイフの先で少しだけそれに乗せる。汁気を切った缶詰の桃も同じく小さく切り分けて一緒に乗せて、いざ口の中へ。
『ミルゥウウ……』
たちまち口の中に広がる美味しさのハーモニー。久しぶりだから猶更美味しい。
忙しい朝にわざわざこんなおやつを用意してくれるご主人様への感謝の念をあらたにしながら、二人はもぐもぐとおやつを堪能している。
と、TVでは最近はやりのスイーツ特集に番組が切り替わる。目を見開く二人にむかって、液晶画面の中のアナウンサーがにっこりと笑いかけた。
「という訳で、最近の流行りはこれ! イチゴ飴です! あまずっぱいイチゴに、カリカリの飴がかかってたまりませーん!」
『!』
《!》
がたたっ、と机の上で身を起こす二人。
これだあ! と二人は食器を流しに放り込むと、急いで冷蔵庫の中身を検めた。
『ムミミミィ!』
《てけり・り!》
これより、第二次プレゼント大作戦を開始する!
はい、隊長!!
台所を片付けて、流しの上で士気高くやりとりするルーシィとジョセフィーヌ。
その傍らには、パックのイチゴ(スーパーで有樹が買って来たもの)とグラニュー糖、そして鍋とバット(平らな器の方)が広げられている。
そう、いつもルーシィ達を可愛がってくれるご主人様への感謝の気持ちを示すべく、おやつ大作戦第二弾を実行しようとしているのである。
勿論、二人とも馬鹿ではない。
特段禁じられている訳ではないが、もし前回のように大失敗すれば、次はおやつ一週間抜きではすまないだろう。しかしそれでも、有樹の為にオヤツを用意する事は二人にとってそのリスクを上回る意義があった。
全ては親愛の為に!
一度失敗したからこそ、二人の熱意と決心は熱く、硬かった。
『ムルミミィ!』
《てけり・り!》
まずは分量をきっちり図ったグラニュー糖を、水と共に鍋に投入。焦がさないよう、中火で温めていく。この時、鍋の中身をかき混ぜないのがポイントだ。じれったくとも、自然に鍋の中身が沸騰するのを待ち続ける。
それは料理を失敗しない為でもあるが、それ以上に変な事が起きないようにするためだ。前回パンケーキが失敗したのは、工程が多く複雑であった為に、そこに異変が生じる余地があったからだと二人は考えている。ただ鍋の中身を温めるだけならそうそう変な事は起きるはずもない、たぶん。
二人だって反省するのである。自分の常識、人間の非常識。ルーシィ覚えた。
ぐつぐつ煮立ち始める鍋を他所に、次は飴にする果物の用意をする。
パックのイチゴをザルに並べて綺麗に水で洗い、痛んだりしているのはその場で食する。ふと手にしていたイチゴに違和感を覚えて、ルーシィはそれを目の前にもってきた。
「ギギギ……」
『ムルミィ』
手にしたイチゴは、表面に無数の目が生えていた。却下。
ぱくりと口にイチゴを放り込む。絶叫を上げるそれを咀嚼しながら、正常なイチゴを串に刺して、飴を絡める準備を進める。
「ンギギギィー!」
《てけり・り》
と、どうやら擬態していた奴がいたようだ。串を刺した途端に血を吹き出し断末魔の悲鳴を上げるそれを、ジョセフィーヌはぱくりと丸呑みにする。
体のなかでしゅわしゅわと溶けて骨だけが残ったそれをぺっと吐き捨て、串刺しにしたイチゴをバットに広げる。
『ムルミィ、ミミ』
《てけり・り!》
鍋もどうやらいい感じのようだ。フツフツと細かく沸騰しながらも、茶色く変色せず透き通った透明なままの水あめ。竹串の先端にそれをちょいちょい、とくっつけて水にさらすと、たちまちパキパキと固まっていく。
頃合いだ。
二人は脚立をもってくると、おたまで鍋の中身をすくいあげて、イチゴの上に振りかけた。透明の飴が真っ赤なイチゴの表面をコーティングし、たちまち固まってキラキラと輝く。
『ムーミィ……』
《てけり・り……》
その真っ赤な宝石のような出来具合にしばし見入ったあと、二人は我に返ってせっせとおたまで鍋の中身をすくいあげた。
早くしないと固まってしまう。
《てけり・り》
『ムミィ、ミミミ。ミィ……ミッ!?』
鍋の中身も残りわずかだ。ジョセフィーヌが鍋を傾けて、ルーシィが寄せ集めた飴をおたまですくう。見事な役割分担であるが……そこで、鍋の中を覗き込んでいたルーシィが足を滑らせた。
おたまを取り落とし、ぼちゃん、と鍋の中に落ちるピンクの肉塊。
《てけり・り!?》
慌てるジョセフィーヌ。だが幸いにも、すぐにルーシィから返事はあった。
『ムルミィミ……』
幸いな事に、鍋の中身はすでにそんなに熱くはなかったらしい。鍋のふちに手をかけて、自力で身をひっぱりあげるルーシィの姿に、ジョセフィーヌは安堵する。
だが……。
『ム……ミミィ……?』
鍋から出たルーシィの動きが、徐々に鈍くなる。見ればそのピンクの体にはべったりと飴がまとわりついており、それが急激に冷えてかたまりつつあるのだ。
やがてはルーシィを包み込んだ飴は完全に固まってしまい、あとにはカチンコチンに固まったピンクの飴像だけが残された。
《て……て……てけり・りぃーー!?》
悲鳴を上げるジョセフィーヌ。慌てて兄貴分を解放しようとするが、カチコチに固まってしまった飴は非力な不定形生命体ではびくともしない。
どうしようどうしよう、とおろおろと流しの上で右往左往するジョセフィーヌ。
その時、ちょうど玄関でがちゃり、と鍵の開く音がした。
「ただいまー。ルーシィ、ジョセフィーヌ、いい子でお留守番してたか?」
《てけり・りーーーーー!!》
「おうわあ!? な、何、なんだよ。え、キッチンに来て……? また何かや……る、るる、ルーシィが液体窒素で固められた●-1000みたいになってるぅううううううう!?」
えらいこっちゃえらいこっちゃ。
そしてまあ色々あったあと、ルーシィは無事救出され。
勝手にまた余計な事をしていた事へのおしかりは軽くあったものの、今回は変な事にもなってないし、という事でさっそく試食会となった。
「んー。これはなかなか美味しいね……」
『ムルミミィ』
《てけり・り!》
ぱりぱりにコーティングされたイチゴ飴を食べながら、有樹はご機嫌に頷いた。彼自身気にはなっていたが食べた事はなかったのだ。
ルーシィも、ジョセフィーヌも、一緒に皿に並べられたイチゴ飴をおいしそうに頬張っている。
「いいね、これ。作るのもそんなに難しくなさそうだし。今度、いろんな果物使って一緒に作ろうか」
『ミミィー!』
《てけり・り!!》
有樹の反応に、ルーシィとジョセフィーヌは笑顔で顔を見合わせた。
今度こそ、プレゼント作戦は大成功である!
そんな無邪気に喜ぶ健気な二人を笑顔で見守りながら、有樹はちらり、と机の上に置いたままの透明な像に目を向けた。
「……これ、どうしようかな」
机の上に鎮座するのは、やたらとリアルな不定形生命体の飴細工。言うまでもなく、ルーシィをかちんこちんに固めた飴である。
なんせ中にルーシィが閉じ込められている以上、ハンマーでかち割る訳にもいかず。試行錯誤の末、底に穴を開けたらでろりん、と中身が流れ出してきて無事脱出とあいなった為に、形がそのまま残っている。
「…………エリザベートさんにプレゼントしたら喜ぶかな」
どうやら、お金持ちは変な物が好きである、という偏見を持っているらしき有樹だった。
後日。
本当に謎の飴細工をプレゼントされ、引き攣った顔で辛うじて笑顔を浮かべるエリザベートの姿があったという。
なおそれから、彼女の家で夜な夜な徘徊する透明な幽霊を使用人が目撃するようになるのだが、それはまた別の話である。
別の話といったら、別の話だ。
どっとはらい。
◆◆