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混沌との闘いから、数か月がたった。
じっとりとした残暑は遠くに過ぎ去り、毎日肌を震わす寒さが押し寄せる。
そんな中でも、怪物達は襲ってくる。
昼夜どころか暑いも寒いも問わずに暴れる怪物達に、私達魔法少女は相も変わらず大忙しだ。
それでもまあ、休むべき日は休むし、祝うべき日は祝うのだ。
「じんぐるべーる、じんぐるべーる、くりすーますー♪」
『ムルルミィ』
《てけり・り!》
クリスマスイブ。しんしんと雪の降る夜、私達はお家でパーティーの準備を整えていた。
どうせ母さんは帰ってこないので、ルーシィとジョセフィーヌで三人で祝う。
ふふ、去年は私とルーシィだけだったけど、今年は三人で賑やかだ。
「はいはーい、テーブルの上に皿を並べてね」
『ムミィ!』
《てけり・りー》
サンタクロース帽を被った二人が、ふにょんふにょん弾みながらテーブルに皿を並べるのを微笑ましく見ながら、私は料理の準備。
オーブンからチキンを、冷蔵庫からケーキを取り出す。いつもの常連のお店がなんか突然閉店しちゃったから、今年のケーキはエリザベートお勧めのケーキ屋さんだ。
お金持ち推薦という事でびびったけど、値段はまあ普通でちょっと安心した。あとは味がいかほどのものか、である。
『ムルミミィ~』
《てけり・り!》
「ははは、もうちょっと我慢してね」
すでにテーブルについて、今か今かと料理を待っている二人に笑い掛けながら、大きなチキンをテーブルに並べる。ケーキも一切れずつ皿にのせて、はい。
『ムルミィ~』
《てけり・り!!》
ははは、ルーシィ、口から滝のように涎が垂れてる、気持ちはわかるけど落ち着いて、みっともない。ジョセフィーヌも。頭の中がケーキ一色になってるせいか、形までケーキになってるよ。もうちょっと落ち着きなさい。
「それでは、いただきまー……」
ガチャリ。
玄関の方で、鍵の開く音がした。
突然の事に、頭が真っ白になる私。一方でルーシィとジョセフィーヌの反応は早かった。
『ムミ!』
《てけり・り!》
一瞬のうちにテーブルの下に身を隠す二人。遅れて、玄関からコツコツ上がってきた足音が、リビングにがちゃりと入ってきた。
姿を現したのは、ブラウンのコートを羽織った中年の女性。ちょっと草臥れた顔で、ウェーブのかかったロングヘアの。
「た、ただいま……」
「母さん?!」
突然の親の帰宅に目を丸くする私。
ここ数年、彼女がクリスマスに家に帰って来た事など無かったのに。一体どういう風の吹きまわしだろう。いや、そもそも、魔法少女関係の保証の仕事をしている彼女は、先日の二大怪獣大決戦(イカの化け物とタコの化け物が街で大暴れした)の後始末に追われて到底帰ってこれるような状況ではないはずだ。
どういう風の吹きまわしだ?
「ど、どうしたの、お仕事は? ていうか帰ってくるなら電話してよ」
「ご、ごめんね。その、帰る予定はなかったんだけど、同僚に今日は絶対に帰れ、って追い出されちゃって……」
「ええ……?」
一体何があったんだ? 今更、母さんに子供がいたと知った訳でもあるまいし。
困惑する私。しかし一方で、それ以上に母さんは困惑した顔で、その視線をテーブルに向けていた。
「そ、それでその。ユウキ……? この、テーブルは?」
「あっ」
やべっ。テーブルの上には三人分の皿を並べたままだった。一人の晩御飯なのに三人分はいくらなんでもおかしすぎる。
一体どうやって誤魔化そう、と私は灰色の脳細胞を回転させていると、何故かテーブルをまじまじと眺めていた母さんの顔が、くしゃっと涙にくもった。
「ま、まさか、これ、毎年……? 私が帰ってくると、信じて……父さんの分まで……?」
「え? あ、う、うん! そ、そうだよ、今年こそ帰ってくるかなって……」
何やら勘違いをしているようだが、ここは全力で乗っからせてもらおう。
これ幸いとコクコク頷いていると、次の瞬間、私は飛びついてきた母さんに正面から抱きしめられていた。
「わ、わぶっ」
「ご、ごめんねっ! ごめんね、駄目なお母さんで!! わ、わたし、わたし、全然ユウキの気持ちなんてわかってなかった……っ! 聞き分けの良いいい子だって甘えて、貴方がどう思っているなんて、全然……!!」
「か、母さん……」
私を抱きしめて、おいおい泣く母さん。
ちょっと戸惑ったあと、私はその背中をぽんぽん、と軽く叩いて、母親を抱きしめ返した。
「んもう。大の大人が情けない。僕は気にしてないよ。それより、顔を洗って、手を洗って、ご飯をたべよう。ね?」
「うん、うん……っ」
顔を涙でべしょべしょにしている母さんの手を引っ張ってリビングから連れ出す。
ちらり、と振り返ると、テーブルの下からこっそり顔を出すルーシィとジョセフィーヌの姿が見えた。二人とも興味深げにこっちを見ているが、その視線は優しく、暖かかった。
「(ごめんね、この埋め合わせは今度するから)」
『(ムルルミィ~)』
《(てけり・り)》
ごゆっくり、とでも言いたげに触手をゆらゆらさせる二人の気持ちに感謝しつつ、母親を手洗いにつれていく。私はその日、数年ぶりに母親と一緒にクリスマスを過ごす事ができたのだった。
はっぴー、めりー、くりすます!
『ムルルミィ』
《てけり・り? てけり・り!》
『ムミィ、ムルルミィ~』
◆◆
ちなみに。
埋め合わせで、一人1ホールのケーキを買わされる事になり、私のお小遣いが消し飛ぶのは数日後の話である。
とほほほ。
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あとがき
はい、これにてTS転生外宇宙系魔法少女ダークネス・ルーシィ、堂々の完結です!!
最後までお付き合いいただきありがとうございました~。
えー、本作は、私がビルドロボオンラインとリストラ社会人を同時執筆してた時に、なんかこー、胡乱な奴書きてーという欲求に苛まれて、ノリと勢いだけでかき始めたのがきっかけです。まあそれが割と読んでいただけたので、チマチマ続きを書きつつ、落ち着いたところで本格的に連載開始した訳です。
いかがでしたか? 中二病っぽい言動は初めて書いたのですが難しかったです。普段使わないような語彙が要求されますね、あれ。
本作は見ての通りクトゥルフ系の怪物がわらわら出てくる話ですが、読んでいただければわかる様に専門用語の類はほとんど使っておりません。これは作者がクトゥルフ検定不合格のなんちゃって知識しか持っていないというのもありますが、それ以上に「外宇宙の大いなる存在を人間の言葉で語れるものだろうか」「語られているものなど全体のごくわずかでしかないはず」という思想に基づくもので、そういう意味ではダーレス氏よりもラブクラフト氏の考えに近いのかもしれません。ダーレス氏による編纂の結果、クトゥルフ神話は万人に受け入れられやすくはなりましたが、同時にある種の枷をはめられてしまったという側面もあるのは周知の事実。本作はそれを逆手にとって、クトゥルフ神話というものはちっぽけな人間の尺度で張り付けられたラベルにすぎず、人間が勝手に彼らをクトゥルフだのクトゥグアだのイタクァだの呼んでいるだけである、という解釈から膨らませていきました。
というか、そもそもラブクラフト氏の海産物嫌いと唯一神教の価値観で語られるクトゥルフ神話って日本人とある意味相性が悪いんですよね。基本的に海産物大好きだし、多神教が基本で唯一神何それですし。世界が神によってつくられたなんて思想も薄いし。なので、もっと馴染みやすい形にアレンジするのは必然ではありました。
それに加えて、作者の思想として「知性体の偉業は無意味なものに価値を与える事である」というものがありまして。ただの分子構造体でしかない金に希少価値を見出し、ただの言葉の羅列でしかない物語に夢を見て、そしてそれらは実際に人にとって価値を持つ。そういった思想と、逆説的なクトゥルフ神話解釈を組み合わせる事で、本作の世界観は構成されました。
クトゥルフ神話において真実を知る事は必ずしも良い事ではなく、知らなくていい真実を知った事で足元を見失い破滅していく登場人物達に対し、本作は「例え明日世界が亡びるとしても今日を生きて行かないといけない」という形で返歌してもいます。例え世界が邪悪なモノの上にあるハリボテだったとしても、そこで生きている事は変わらない、と。これも一つの人間賛歌というものなのですかね?
まあでもぶっちゃけ最初はノリと勢いで話を書いていたので、終盤うまい具合にこれまでの全てがキチンと伏線になったのはもう最高に楽しかったですね。これが楽しくて長編作品書いてあるまであります。アドレナリンがドバドバでるぞい~。
個人的に終盤の這いよる混沌は悲しき悪役ポジションとして気に入っても居ます。彼もまた、拾ってくれる誰かに巡り合えるといいね。
まあ、そんなこんなで、いかにもな宇宙規模に発展した展開が、最後は素朴な感情で収まるところにおさまった、そんな話なのでした。世界なんてそんなものでいいのです。
さて。長くなりましたが、あとがきはここまで。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました~。
ビルドロボオンラインも引き続き、よろしくお願いします~。