TS転生外宇宙系魔法少女ダークネス・ルーシィ   作:イア! イア!!

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夜の舞踏会(ソロ)

◆◆

 

 

 

 眠らない街。

 

 前世の記憶をもってしてもお前らいつ寝てるんだっていうネオンライトに彩られた明るい街は、しかし反比例するように闇を深くする。

 

 灯台下暗しとはいうが、光の根本がもっとも暗い。その闇の中を、私はぴょいぴょい、と飛ぶようにビルの屋上を渡り歩いていた。

 

「ひほほほほ……」

 

 明らかに人間の出せる速度のそれを上回る脚力に、風を受けてひた走る。楽しくてなんか変な声が出る。

 

 そのまま街で一番高いビルの屋上、鉄骨が張り巡らされた光る看板の裏を駆け上り、私は高見から街を見下ろした。

 

「ふはははは、見るがいいルーシィ、人がゴミのようだ! いやまあ見えないんだけど」

 

 とりあえずお決まりのセリフを叫んで、上機嫌でビルの屋上でステップを踏む。

 

 腕を振り回し、スカートを翻して、ポーズの練習。

 

「るんたったー、るんたったー。ららー」

 

 気分は真夜中の舞踏会。輝く地上の星の明かりを背景に、色濃い闇の中で思うように踊る。

 

 おかしいな、私ってこんなのを楽しむようなキャラだったっけ? なんだか気持ちがたかぶってるせいか、自分の知らない新しい一面を見た気分だ。

 

 まあどうでもいい事か。

 

「はは、はははは、あははははは!」

 

 見上げれば夜空には満点の星空、輝く月がこんなにも綺麗だなんて考えた事もなかった。

 

「星がきれーい!」

 

 いつだって夜の空なんて、帰り道を急ぐ時の背景でしかない。だが今は、私を照らす天然のコンサートライトだ。

 

 考えてみれば贅沢な話だ。星の光が、どれぐらいの遠くから、どれだけの時間をかけてやってくるか考えてみよう。

 

 幾千、幾万、幾億年。途方もない時間を乗り越えてこの地球に降り注いだ無数の光、それらは今私の為だけに輝いている。

 

 それはつまり、宇宙全部が私の為に光を放っているって考えられないかな?

 

 単なる意見の飛躍、ハイテンションになった思い上がりの妄想。だけど見方を変えればそれは一つの真実だ。

 

 世界に意味はない。価値もない。だからこそ、意思一つで全ては変わる。

 

 この世に存在するものすべてに意味と価値を与えられるのが知的生命体だ。

 

「あはははは! ルーシィ、素敵だね! 素敵かな?!」

 

 フリルを振り回してくるくる踊り、TVで見たアイススケートの選手をまねてステップを刻んで、くるりと跳躍する。上から糸で引っ張られるようにふわりと浮かび上がって、スカートを回転させながら着地する。

 

 こうしてみると子供の体ってすごいね、間接の許す限りどんな動きでもできる。

 

 やわらかーい!

 

「もしかしたらバレエの才能もあったりするのかな、なんてねー」

 

 一通り満足するまで踊りあかして、ビルの屋上のヘリに腰掛ける。

 

 ここから見下ろすと、まあなんていうか電力の無駄遣いみたいな光景が一望できる。まだそこまで遅くないから道路に車が溢れかえっているが、これもじきに閑散とするのだろうか?

 

 それも夜中も車は多いのだろうか? 気にした事なかったなあ。

 

「んー……」

 

 脚をプラプラさせながら、ビルの明かりに目を向ける。そういえば返ってこないうちの母親も、この明かりのどこかに居るのだろうか?

 

 この明かり一つ一つに人の人生があって、そこに生活がある。なんだか不思議な感じだ。

 

 それにしても怪物が暴れたばかりなのに、世間はすでに元通り。

 

 たくましいとみるか、無神経とみるか。まあでも経済的には戦争があったってそれまで通りの生活をしている方がいいんだろうけどね。

 

「ふーんふふーん……」

 

 しかしそう考えると、魔法少女達も普通に普段は生活している訳か。……それを考えると大変じゃない? 割と。

 

 だってこないだの怪物、確か最初に出現したのは真夜中。という事は彼女達は学生にも関わらず、就寝中にたたき起こされたという事か?

 

 というか、どうやって起きたんだろ。事件があるとどこからともなく現れる辺り、索敵担当班がいるのだろうか。

 

 自分自身が思わぬ流れで魔法少女らしき存在になってしまったから、いままで全く気にしていなかった事が気になってきた。

 

 というか……そもそも。私は魔法少女なのか?

 

「ルーシィ、もしかしてお前って魔法少女のマスコットだったのか? 今の僕はつまり魔法少女?」

 

 疑問を投げかけても返ってくるのは曖昧な意識だけ。どうやらルーシィもよくわからないらしい。

 

 うーむ。魔法少女とはなんぞや?

 

 哲学的な疑問に手を顎にあてて首を傾げていると、ふと感覚にひっかかるものを覚えて私は顔を上げた。

 

「これは……」

 

 なんと言語化したらいいものか。冷たい水の中に熱いお湯が混じっているというか、水の中に浸したところてんというか。

 

 些細な違和感ではあるが、そうと気が付いたら無視できない明瞭な異物感。

 

 何か嫌な感じがする。

 

「ええと……こっちか……?」

 

 私はビルの屋上から飛び降りると、感覚に従って暗闇の谷間に飛び降りた。

 

 

 

 

 

◆◆

 

 

 

「ああ……疲れた……」

 

 男はとある商社のサラリーマンだった。

 

 本来なら定時でとっくの昔にあがっているはずだったが、システム周りのトラブルで残業となり、こんな遅くまで仕事をしていた。

 

 あとはもう帰るだけだが、酷似しすぎた頭の疲労感は抜けない。なのでしばしこうしてコーヒー片手に公園で休憩し、リラックスしている所である。

 

「ああもう、思いつきで上が新しいシステムを導入なんかするから……」

 

 ぐちぐちいいながら缶コーヒーを煽りつつ、頭上を見上げる。

 

 頭の上に広がるのは黒々とした低い空。気圧の関係だろうか? 星の輝きはまばらにしか見えず、月の輝きも色あせたメッキのようだった。

 

 だから、男はその夜空に重なって、透明な何かがうごめいている事に気が付かなかった。

 

「なんか空が暗いな、一雨きそうだ……あ、噂をすれば……ってあれ?」

 

 湿気にぼやいていた所で、ぴとり、と頬を冷たい感触が濡らす。早速一滴降ってきたか、と思った男は、しかしその冷たい感触がぬるりと絡みついてくる動きを見せた事に目を丸くした。

 

「わ……あああ!?」

 

 気が付けば、冷たい感触は男を包み込むようにして身動きを封じていた。見えない何かが男をからめとり、ベンチから引きはがす。取り落とした缶コーヒーが地面に落ちて、真っ黒な水たまりを作り出す。その黒光りする水面に映りこむ男と……それに絡みついた、異形の存在。

 

 オニヒトデを思わせる、トゲトゲとした異形の軟体。光と同化し、しかし鏡や水にはその姿を見せる奇怪な怪物。到底この世のものとは思えない何かが、空から男を捉えて持ち上げていた。

 

「た、たすけ、助け……ムググ!?」

 

 悲鳴を上げようとした男の口に軟体がつっこまれ、声を封じる。据えた匂いと鼻につく刺激臭に、男は目を白黒とさせる。

 

 そして不可視の怪物は、そのまま男を暗黒の空に連れ去ろうとした。

 

「(だ、だれか、だれかたすけてくれぇー!)」

 

 その、心の中で助けを求める叫びに、しかし答える声があった。

 

「チェスト暗黒天」

 

『?!』

 

「えっ?!」

 

 突如として横合いから何かがぶつかってきたかと思うと、不可視の怪物の触手を引きちぎる。解放された男が呆けた声を上げた直後、その体は重力に従って下に引っ張られた。

 

 すなわち、落下。

 

 気が付けばかなり高い所まで上昇していた状態から、解放された男は真っ逆さまに地面に落ちる。

 

「う、うわああああ!?」

 

 あのまま怪物の餌食になっていたよりはまし、と思う暇もあったかどうか。絶叫を上げて落下していく男……それを、柔らかでふわふわした何かが突如受け止めた。

 

「?!」

 

 それは、黒のドレスを纏った年若い少女だった。彼女は見た目によらない怪力で男を抱きかかえると、ふわりと重力を無視したように地面に着地した。

 

 そして雑に男を地面に投げ転がす。

 

「うわあ!?」

 

「今宵は星々の光が近い。輝きに紛れ、よからぬ物が地上に這い出ている。命惜しくば、いと早く帰れ」

 

 土塗れになって身を起こす男に少女は託宣のように言葉をつげると、たんっ、と軽く地面を蹴る。

 

 それだけで、黒いドレスの姿が、浮き上がるようにして公園の街灯の上に舞い上がる。光の生み出す黒い闇の中に、溶け込むように姿を消していく少女。

 

 彼女の言葉だけが、闇の中に響く。

 

「今見た事は全て忘れよ。覚えているだけで毒になる真実もあると知れ」

 

 それきり、少女は闇の中に姿を消す。

 

 不可視の怪物も、黒い少女も、消えてしまった。だが、地面に転がる缶コーヒーが、それが悪い夢ではなかった事を示している。

 

「今のは……一体……。いや、とにかくここを離れよう。それから警察に連絡だ……」

 

 男は困惑しながらも立ち上がり、土を払うと駐車場に向かった。

 

 

 

◆◆

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