TS転生外宇宙系魔法少女ダークネス・ルーシィ   作:イア! イア!!

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増殖する黒歴史

 

 

 

 

「ふわーあ……」

 

 その日の朝、私はいつになくさわやかな気持ちでベッドから身を起こした。

 

 妙な涼しさに顔を上げると、何故か窓が開きっぱなしで、早朝の涼しい風が部屋に吹き込みカーテンを揺らしている。

 

「朝か……あれ、昨晩いつ寝たっけ……?」

 

 なんだか妙に眠い。

 

 ベッドの横の段ボールを覗き込むと、いつものようにルーシィが丸まって眠っている。が、なんだろう。今日は箱の中に魔法少女グッズがこれでもかと詰め込まれており、やたらと細かく裂けたルーシィがそれらをギュッとして眠りこけている。なんか嫌な事があったのだろうか。

 

「ん、んぅー……?」

 

 私は寝ぼけた頭を回して意識を巡らせ、記憶を掘り返し……。

 

 そして、思い出した。

 

 

 

「あ、あおあ、ああああああああおあああああああああっ!?」

 

 

 

『ムミィィイ!?(ガタ-ン)』

 

 羞恥のあまりに絶叫を上げて、ベッドの上で丸くなる。

 

 ひ、光がまぶしい! こんな私を照らし出さないでくれ! 赤裸々に明かさないでくれえ!

 

 シーツを引き寄せて丸くなる。

 

 しかし目を閉じて意識を閉ざそうとすればするほど、昨晩の醜態がはっきりと頭に浮かび上がってくる。

 

「あ、あああ、ああああ!!」

 

 中二病なんて遥か昔に卒業しましたぁ!! 無知な子供故の全能感なんて遥か過去でございます! ぐえええ!!

 

 だいたい男なのに女になってるのはそれはそれでどうなの!!? 少しは気にしろ私!

 

 おまけに語彙の貧弱さから熊本弁としても中途半端だわ!! 恥ずかしいでしょ! 本物に鼻に笑われる奴だ!!

 

 うぼええええ!!!

 

 全身の筋肉が痙攣をおこす。胃がずんがずんがして脳がぐわんぐわんする。だ、誰か、誰でもいいから私の意識を止めてくれ!

 

 あ、そか。自分で止めればいいのか。こう頸動脈を自分できゅっとして……えへへへへへ……気持ちよくなってきたぁ……。

 

『ムミミ!?』

 

「……はっ!?」

 

 ベッドの上でセルフ自殺を試みていた私は、しかしシーツの上からゆっさゆっさと揺さぶられて正気に戻った。

 

 恐る恐る顔を出すと、ベッドの上に上がってきたルーシィの姿。彼は目をぽつぽつ浮かべて、触手で私をぺたぺた撫でまわしている。

 

『ミミィ?』

 

「ルーシィ……あ、そっか、朝ごはんね、お腹すいた……そうだね……準備するよ……」

 

『ミィル? ミミミ?』

 

 私はルーシィを抱え上げると、ぺたぺたと洗面所に向かった。

 

 今は何も考えたくない。

 

 とりあえず……顔を洗ってしゃっきりしよう……。

 

 

 

 

 

 本日の朝ごはんはトーストとちぎりレタスとホットミルクである。

 

 ボウルに顔をつっこんでレタスを食べているルーシィをぼんやり見ながら、私はジャムを満たした小皿に千切ったパンを適当につっこんで口にはこぶ。なんかもう、ジャムをナイフでトーストに塗るのもおっくうだったの……。

 

「…………はあ……」

 

『ミィル?』

 

 不思議そうにルーシィがボウルから顔を上げてこちらを見る。その顔には小さな口がいくつもつきだし、レタスの葉っぱをそれぞれがもしゃもしゃと齧っている。なんかギリースーツみたいな見た目に、ちょっとだけ愉快な気持ちになる。

 

「ふふ。ほら、こぼしてるよ」

 

『ミィルル』

 

 テーブルにおちてた切れ端を拾い上げて顔に突っ込むと、新しくできた小さな口がもしゃもしゃする。ちいさなお口でカリカリ食べるのかわゆいですねー。

 

「……ふぅ。まあ、うん。済んだことだ、今落ち込んでもしょうがない、か……」

 

 日常ルーチンをこなす事で気持ちも落ち着いてきた。

 

 記憶は、かなりはっきりしている。びくんびくんと跳ねる肩をこらえながら、私は慎重にそれこそ爆発物を取り扱うように昨日の事を思い返した。

 

 ……変身してからの意識ははっきりしている。人格が乗っ取られていたとか、そういう訳ではない。

 

 ただなんていうか……異常にハイになっていたというか。体に満ちる魔法少女のエネルギー、それがもたらす全能感に自己肯定感がバグってあんな言動になっていたというか。

 

 ある意味では正気を失っていたという表現はただしいのか?

 

 お酒を飲んで酔っ払ってもああはならない。

 

 一つ良い事を上げるとしたら、そうやってハイテンションになった私が街で好き勝手やらかした結果、たまたまとはいえ不幸なサラリーマンの命が救われたという事だ。

 

 うん。

 

 あの人の命と私の尊厳を引き換えにできたのだとしたら、それはそれでそう悪い事ではないのでは?

 

 そう考えて気持ちを落ち着ける。

 

「……しかしどうしよ。現地の魔法少女に全力で喧嘩売っちゃったよ……」

 

『ミィル……』

 

「あ、ごめんねごめんね。ルーシィを責めた訳じゃないんだよ~」

 

 私の迂闊な一言で、目に見えてルーシィが落ち込む。

 

 昨晩、ご挨拶しただけで相手のSAN値が吹っ飛んだのを気にしているらしい。お前はこんなに可愛いのにねえー。

 

 テーブルの上でへんにょりするルーシィを抱きかかえて、くるくると丸めるように抱きかかえる。

 

「昨日は何か星の巡りとかそういうのが悪かったんだよ。また次に会った時は、きちんと挨拶するようにしよう。ね?」

 

『ミィルル……』

 

「そうそう。その調子」

 

 ちょっと元気を取り戻してきたらしいルーシィをテーブルに戻し、私は自分の分の朝ごはんに手を付けた。

 

 その時だ。

 

 食堂に置いてある電話機が、プルルル、と音を立てた。

 

「あ、はい、曽良尼です。……え? 学校、今日は休校?」

 

 

 

 

 

 まあ考えてみれば当然の話である。

 

 二日連続で怪物が暴れたせいで街はぐちゃぐちゃ。巻き込まれた人も結構な数に上るらしいので、普通に学校は休校である。

 

 幸いうちのクラスに怪我人は居なかったらしいが(私を除いて)、それでも身内にかかわった人はたくさんいるだろう。

 

 という訳で、平日堂々、こうして街の中を散歩している訳である。

 

「ふんふふふーん」

 

 ルーシィのカバンを抱えて私が向かうのは、怪獣被害を受けたのとは反対側の街。こっちはあっちの騒ぎがウソのように、日常そのものを送っている。

 

 こっちに来たのは関係者と顔を合わせたくなったのもあるが、他にも理由がある。

 

「こっちに魔法少女関係のグッズ販売所があるんだよね」

 

『(ガタガタガタ)』

 

「こら、興奮して暴れない」

 

 ひとりでに動き出すカバンを押さえて、テナントビルの3Fを目指す。この先に、同人系列が展開している魔法少女グッズのお店がある。ここでいう魔法少女とは、アニメやゲームではなくて、現実に活動している人たちのファングッズである。

 

 べつにここで買った資金が彼女らの活動資金として提供されてる……なんてことはなくて、勝手にやってるだけなので割とグレーラインだが、二次創作や同人というのはそういうものなのでアホな奴が突っ込んでこない限りは問題ない、みたいな。実際の魔法少女がどう思ってるかは知らない。

 

 お店の中に顔を出すと、色とりどりのグッズが並ぶ空間が広がっている。ルーシィにとっては夢のような空間なので、カバンの中でビクンビクンしているのがよくわかる。

 

「んー……でも……」

 

 棚からぶら下がっているアクリルキーホルダーに目を向ける。

 

 ここにあるのは基本、アニメや漫画調のイラストばかりだ。写真は当然アウトだし、そもそも魔法少女ってカメラやビデオにちゃんと映らないらしい。なので、肉眼で目撃したファンが、記憶を頼りに描いているらしいのだが、それもなんか微妙に似てない。

 

 彼女達にも自分の生活があるのだから正体がばれないに越したことはないのだが……あまりにも各々の独自解釈すぎて、同じ魔法少女でもデザインが全然違ったりする。

 

 これじゃあ、魔法少女達についての情報収集には使えないなあ。

 

 昨日みたいな事にならないよう、活動中の彼女達についてもっと知ろうと思ってきたんだけど……。

 

「まあいっか。ルーシィ、ほら、見る?」

 

『(ガタガタガタ)』

 

「ふふ。ちょっとだけカバンを空けてあげるから、おとなしく見てね」

 

 抱えたカバンにほんの少しだけ隙間を空けて、ルーシィにも店内が見れるようにする。

 

 私からするとクオリティが微妙とはいえ、推しのグッズがひたすら並んでいる空間はルーシィにとっては天国を越えたなにかだろう。カバンの中で、喜びのあまりデロデロにとけてるのが伝わってくる。物理的に。

 

「あ、こら。溶けすぎ、カバンからしみ出す。もうちょっと固体を維持して」

 

『ミィルゥ~~~~……♪』

 

「そうそう。楽しんでいるならいいよ。何か買う?」

 

 ご満悦のルーシィに私も嬉しくなりながら、天井近くまで積み上げられたグッズの棚の間を徘徊する。

 

 そうこうするうちに、私はふと見覚えのある姿を見かけて首を傾げた。

 

「あれ、これって……ヴァイオレット・センチピードちゃん?」

 

 棚にででーんと鎮座する美少女フィギュアに目を止める。おそらく、それは私が昨晩失敬した魔法少女のそれなのだが……。

 

「んー。雰囲気はつかめてるけど、似てないね。彼女はもうちょっと背が低かったし、尻尾も丸みを帯びていたし……あともうちょっと長いよね」

 

『(ガタガタ)』

 

「ああ、そうだね。確か背中に切れ込みが入ってて、そこから尻尾だしてたから……こういうトレーナーの裾からぺろん、じゃなかったよね」

 

 クオリティそのものは高いのだが解釈が間違っている。

 

 そんなこんなでルーシィと記憶を頼りにダメ出しをしていた、その時だった。

 

「君」

 

「!?」

 

 背後から声をかけられて私はびっくりして振り返る。

 

 そこにいたのは、大人の女の人。黒い紙をみつあみにして、丸い眼鏡をかけている。白いシャツに黒いスカート……たぶんOLのお姉さん。

 

「な、なんでしょう? ぼ、僕、このお人形を見ていただけですけど……」

 

 ビクビクしながら問い返す。べ、別に何も悪い事はしてないもんね。今日は学校は休学だし、単に商品を眺めてあれこれ言ってただけだし……。

 

「それ。製作者、私」

 

「えっ」

 

 びっくりして振り返る。

 

 よく見ると、このフィギュア非売品だ。スタンドの横にその表示と、製作者の名前が書いてある。

 

 振り返ると、OLさんはそっと名刺を私に名刺を差し出してくる。……同じ名前。

 

 伊達川商会の、銀鯉香蓮、さん。

 

「それで。私のフィギュアが、どうしたって?」

 

「あ、え、それは、その……」

 

 ああああああああどうしよう!!

 

 こ、これは大ピンチという奴なのか!? どうしよルーシィ、助けて……って興奮してる場合じゃないって!? 『神造形師キタコレ』って興奮してるんじゃないよぉー!?

 

 

 

 

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