ジャズ好きパイロットの相棒、異世界にて歌う 作:月光舞詐称者姫
迫るノイズ、隣には、守らなきゃいけない妹。絶体絶命、そんな言葉がどうしようもなく似合う空間で、
「(嫌だ……)」
きらりと光る、赤いペンダント。ノイズにフレミング邸が襲撃された後、遺産として弁護士から渡されたペンダント。
「(まだ……)」
どこで買ったのか聞いても答えてくれなかったシンプルなそれは
「(死ねないんだ!)」
彼女にここを切り抜ける、歌を与えた。
その詠を口ずさんだ瞬間、彼女の姿が切り替わってゆく。纏っていた衣服は量子へと変わり、ブラックのシャープなアーマーが装着されて行く。
ライトブルーのラインの入る、西洋甲冑のようなアーマーがピッチリとしたボディスーツの上から身につき頭には鹿のように、途中が枝分かれした二本のブレードアンテナが。
完全に装着されたが最後、ライトブルーのラインは全身を覆うように広がり、ブラックの部分と反転する。
「な、な……」
様変わりした自分の姿と右手に持つ剣、その周囲を旋回する複数の黒く細長いビット。それらを見渡し
「何これーーーー!?」
彼女は思わず悲鳴を上げた。
「どういうこと!?どうなってるの!?」
一瞬で衣服が様変わりするなどまるでコミックだ。こんな技術は夢に見るSFの世界にもありはしなかった。
「リリー」
「イース!?貴方、自分から……!」
「歌って。」
「歌って……こんな時に!?」
普段滅多に喋らない妹からの言葉。意味がわからない。だが、
「頭の中に浮かんでくる……!」
歌詞も、響くメロディも、そして何より、自分自身の生きたいという思いが。
「失くした、大切なものよ」
右手に持った剣を、左手にはイースを抱え、リリーはかける。
「どこかで、また出会えるかなーーーーー」
彼女の背後に浮かぶ黒く細長いビット……正式にはソードビットと呼ばれるそれらが飛翔し、前方のノイズを切り裂いて道を開く。
バーニアをふかし、寄って来るノイズを切りつけながら駆けていく。この死線を越える為に。
「焼きついた後悔だって戻らない」
ノイズを切り裂きながらいつもの道から外れ、木々の間を進んで行けば、そこには切り立った崖が
「裏返す衝動ーーー生きてたいッ!」
ビルから飛び降り、剣を地面に投げつけイース両手で抱えて負担をかけないように着地
歌いながら戦っている。全くもって奇妙なことではある。だが、不思議と違和感がない。どう動けばいいのか、頭に浮かんでくるような感覚がある。夢の自分はテレパスを持っていたが、こっちでもおかしな力が芽生えでもしたのだろうか。
「ッ!」
咄嗟にビットを自分の前に並べて盾にすれば、そこには砲撃を飛ばして来るノイズが
「このっ!」
その場から走りながら、ソードビットにて切り伏せる。さらにやって来たノイズを手の直剣で切り伏せる。しかし
「(イースを守りながらじゃ……!)」
どうしても、自分と同じ身長の少女を抱えたままというのは厳しいものがある。
「(何か、何か他に武器は……範囲攻撃とかないの!?)」
いきなり纏ったこれは、自分が何を出来るのか、何から何まで教えてくれた訳ではない。彼女に出来るのはやったらめったらにソードビットを振り回す程度だ。
そんな状況では、次第に追い詰められていく。
「(どうしたら……!)」
「たああぁぁぁぁっ!」
そこに、気合の入った声と共に飛び込んでくる声が一つ。勢いよく飛び込んできて、こちらに向かっていたノイズを蹴りで吹き飛ばすのは……
「大丈夫!?って、リリーちゃん!?」
「立花!?アンタこんなところで何を……」
白を基調にイエローとブラックでカラーリングされた、彼女同様のアーマーを纏う友人だった。
「おかしな反応があるからって向かって来たんだよ!そっちは!?なんでシンフォギアを……」
「これがシンフォギアっていうこと自体初耳!イースと歩いてたらいきなりこうなってて、何が何だかよ」
「わかった!なら……!」
イースを守るように、彼女の後ろに立つ。
「一緒に切り抜けよう!協力するから!」
「……いいの?不明勢力を捕獲しろとか言われてるんじゃない?」
「大丈夫!司令はそういう人じゃないから!」
警戒心を出すが、むしろ毒気を抜かれる笑顔に、ため息をつく。
「そうね、まずはこの場をなんとかしないと……ね!」
言葉と共に、ビットを飛翔させた。
「立花……騙したわね?」
「いやぁその……そういえば私も最初はこんな感じだったな〜アハハ……」
その後、グラサンと黒服で固めた怖そうな人たちに取り囲まれ、手錠でガッチリ拘束されて、自分の母校であるリディアンまで来たと思えば、そのままフリーフォールみたいなエレベーターで地下の隠し施設まで高速運搬されることとなったリリーは、さっきの共闘の感動を返せと言わんばかりに響を睨みつける。
苦笑いする響だったが、じーっと拗ねたように睨みつければ、次第に居心地が悪くなったかのような顔と共に口をもにょもにょさせていく。
「えっと……その……ごめんごめんごめん!本っ当にごめんなさい!まさかこんな私みたいなことになるなんて……」
「貴方が経験したんだから私も似たようなことになるに決まってるじゃない!」
「ひええぇぇぇおっしゃる通りですぅ!」
「まぁまぁ、僕達も、本当に申し訳ないとは思ってるんですよ……」
そんな様子のリリーを、着いて来た若い男性が宥めるように言う。
「……まぁ、このまま檻に放り込むとか、そう言うつもりはないみたいね。」
手錠こそされているし、ここまで来るのは強制だったが、無理矢理に引っ張ったりされた訳じゃない。最初に手錠をかけられた時も、響があわあわとしていたし、何となくだが、傷つけたい訳じゃないと言うのは察せる。
「でもちょっと、居心地が悪いわね。」
ふと横を見れば、まるでステンドグラスのような装飾が施された、地下施設の壁と思わしき場所が目に入って来る。
初めて来る場所だが、なんと言うべきか、奇妙な、嫌な雰囲気を感じる。前にも似たような場所に来たことがあるようななんとも言えない違和感を。
「そうかな?でも確かになんかちょっと不思議だよねぇ、このデザイン
あっ、でも安心して、二課の皆んなはいい人だよ!」
「貴方が言うとイマイチ信用に欠けるわね……」
趣味が人助けというこのお人好しは、いつか悪い人にコロッと騙されそうだ。いや、今も騙されているのかもしれない。そんなことを少しばかり思いながら、エレベーターが止まる。扉を開けた先では……
「ようこそ、リリー・シェリーナ君!人類守護の砦、特異災害対策機動部二課へ!」
火薬と紙吹雪が舞い、パーティー用のハットを被り笑顔を浮かべた壮年の男が、他の職員と共に拍手で出迎えて来た。その時点で確信する。
あぁ、この人
後ろを見れば、苦笑する男性とうんうんと腕を組んで頷いてる響。あぁおんなじ事やったんだな、という呆れと見てないで助けてという思いが入り混じる。
手錠を外され始まったのは、顔合わせと歓迎会だった。ポテトや唐揚げなどの料理と飲み物、紙皿が並んだテーブル。そこで状況を説明される。
「なるほど……つまり二課っていうのは政府直属の組織で、大元になってるのは戦時下のは特務機関……大丈夫なやつなんですか?それ、」
「勿論、表立って世に出るのは駄目だ。世論も認めないし、国家間でも非難されることになるだろうな。」
「ま、他の国の政府だって似たような機関を抱えてるし、お互い"なかったこと"で済ましておくのがいいのよ。」
最初に代表して歓迎してくれた赤髪の男こと、この二課の司令官、風鳴弦十郎の言葉に補足するようにそう言うメガネの女性は、櫻井了子。
櫻井理論と呼ばれる、リリーの持つペンダントなどの"聖遺物"と呼ばれるノイズに対する武器開発、研究における確信的な理論を提唱した、聖遺物研究の第一人者。
彼女の解説によれば、リリーが纏ったのは聖遺物と呼ばれる伝説、神話上の武器の破片を元に作られたパワードスーツ、シンフォギアと呼ばれるものらしい。
「詳しい科学技術の解説とかは面倒でしょうし、ざっくりと言えば、"ノイズに対抗できる、歌で強くなるスーパーパワードスーツ"ってカンジに覚えて貰えばいいわ。」
よくわからないけど大体そんな感じだと言う。
「まぁ、問題はそれなんだけどねぇ。」
「出所不明のギア……ですか。」
「そう、私が作ったギアは3つしかないはずなのよ。」
一つ目は天羽々斬。かの日本神話の絶刀。奏者は2年前まで超人気ユニット、ツヴァイウィングとして活動し、ライブ会場にノイズが襲撃した事件で、相棒である天羽奏を失ってからもソロで活動を続けている、リディアン音楽院の先輩、風鳴翼
あの時のライブでも、もう一つの聖遺物、ガングニールの奏者でありツヴァイウィングの相棒でもある天羽奏も一緒に戦って、奏が己の命と引き換えにギアの性能を限界まで引き出す切り札たる唄、絶唱によりノイズを薙ぎ払ったらしい。
そして、その際に、戦闘で破損したギアの破片が体に入り込み融合してしまったのが、
「響……ってわけね。」
「アハハ……リリーちゃんはそういえば知らなかったね。」
その時間の後も色々とあったらしい。といっても、2つ目のギア、ガングニールが発現したのはこの間のことで、まだまだ戦い方を学んでいる最中らしい。
「3つ目って言うのは?」
「イチイバル。例のライブの際の事件で、目覚めさせようとしていた聖遺物、ネフシュタンの鎧と共に、現在も行方不明の聖遺物だ。」
北欧神話に登場する弓が元になったと言うその聖遺物の特性は長距離高火力攻撃。どう考えてもリリーが身に纏った聖遺物とは違う。
「と言うわけで、その聖遺物は完全に出所不明のシンフォギアなのよ。」
「……そう言われても、私も彼の出所はわからないわよ
そこまでの話を聞けばなるほど、怪しさ満点だ.彼女以上に聖遺物に、シンフォギアに詳しい人間は居ない。出自不明のシンフォギア。警戒するのも当然だ。
「と、言うわけで、このペンダントを、ちょっとの間預からせて欲しいの。お願いできないかしら?」
「まぁ、そう言うことなら……」
「ありがとっ、じゃあそれから……」
がっしりと肩を掴まれる。了子のメガネが怪しく光った。
「身体検査したいから、脱いでもらいましょっか♪」
「もしかして……強制?」
返答は嫌ににっこりとした笑顔だった.リリーは天を仰いだ。
「マジで……恨むわよ……」
職員達と談話しながら料理をパクつく立花を、連れ去られながら睨みつけてぼやくのだった。
今回リリーの歌った歌は、Monarkというゲーム作品に登場する『強欲』という歌です。
ダークな感じですが、彼女の思い、願いが反映されてると思います。
リリーの聖遺物は……
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ギリシャ神話:英雄殺しの骸
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アーサー王伝説:王の宝剣が一振りの破片
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インド神話:王子の弓の弦
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ケルト神話:猛犬の戦車の残骸
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中国史:武帝の天裂く剣の欠片
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日本神話:地に穿たれし矛の先端