Hollow man   作:ナゴン

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AIの力って凄いですね。
頭の中にネタはあるんですけど、文章化するのが大変だったんで執筆が進まなかったんですけど、今はAIのおかげでスラスラ書けます。


3話 虚の男(ホロウマン)の誤算、あるいは猫の足跡

 ビジョン・コーポレーションが裏で動かしている不自然な資金。その内情を探るため、ハワードが放ったハッキングコードは、下町「六分街」近郊の未登録ホロウから発せられる奇妙な軍事通信を感知していた。

 

「クラウス、位置情報の同期は? 鼠ども、ホロウの中でずいぶんと派手な隠密作戦をやっているじゃないか」

 

『すでに完了しております、ハワード様。ですが、再度ご忠告申し上げます。現在の『虚の男(ホロウマン)』マーク1は、実戦データを一回分回収しただけの試作段階です。ホロウ深部の激しいエーテル変動に対する耐性テストは完了しておりません。治安局の介入を待つべきかと』

 

「お前は僕の頭脳を疑っているのかい、クラウス? 治安局の全防衛ラインに武器を供給してやっているのはどこの会社だと思っているんだ。……スーツの出力、最大。先行する」

 

 ジェットスラスターの爆音とともに、ハワードは単身、紫色の霧が渦巻くホロウへと降下した。TOPSに加盟する大企業の若き社長としての傲慢さと、天才としての絶対的なプライドが、彼にブレーキを踏ませることを許さなかった。

 

 超能力も魔法も持たず、エージェントのような特別なエーテル適性すら持たない生身の少年が、チタンの(スーツ)の力を信じて闇へと突き進む。

 

 * * *

 

 ホロウ内部。崩落した高架道路の泥濘の中で、激しい金属音が響いていた。

 

 ビジョン社が非公式に雇った裏社会の『ホロウレイダー』たちが、大型の『違法改造建設メカ』を駆動させ、何かを完全に破壊しようと容赦ないガトリング砲を浴びせている。

 

 彼らが襲撃していたのは、ビジョン・コーポレーションの不都合な『極秘データ』を持ち出し、口封じのために消されかけている哀れな内通者のコンテナだった。

 

 そしてその戦場のすぐ傍ら、瓦礫の影には、首輪に怪しい電子筐体をぶら下げた一匹の野良猫の少女(猫又)が、目を丸くして身を潜めていた。彼女はただ、ホロウに迷い込んでこの凄惨な現場に鉢合わせしてしまっただけだった。

 

「よし、裏切り者の身辺整理は終わりだ! あとはこの『データ入った箱』を回収してパールマンの旦那に――」

 

「――残念だが、その取引は破談(キャンセル)だ」

 

 頭上から響いた冷徹な電子音声。

 

 歪んだ空間を切り裂き、青いエネルギーラインを走らせたチタン合金の装甲――『ホロウマン』が、爆風を巻き起こしながら重機の真ん前へと派手に着地した。

 

「な、なんだアレは!? 治安局の新型ボンプか!?」

 

「僕をあの無能どもと一緒にするな。大人しくそのデータを渡すなら、命だけは保証してやる。僕の時間は君たちが思っている以上に高価なんだ」

 

「知るかよ! 邪魔する奴はまとめて圧殺しろ!」

 

 違法重機の巨大な鉄拳が、容赦ないガトリングの火線とともにハワードへ殺到した。 ハワードは咄嗟にガントレットを交差させ、盾としてその一撃を正面から受け止める。

 

 ガンッ!!!

 

 ――凄まじい金属音がホロウ内に轟いた。

 

 チタン合金の装甲はひび割れ一つ起こさなかったが、生身の人間を遥かに超越した質量兵器の重量感は、衝撃吸収素材を通り抜けてハワードの身体を大きく揺さぶった。

 

「……っ!」

 

 ハワードはグッと足元を大きくよろめかせ、アスファルトの上を一歩、二歩と後退する。 バイザーの奥で少しだけ顔をしかめ、腕に残る鈍い痺れにチッと舌を打った。エーテル適性も強化肉体も持たない生身にとって、世界最高の衝撃分散システムを以てしても、大型重機の物理的な質量を完全に無効化するのは難しかったのだ。

 

『ハワード様、車体に微弱なノックバックを検知。衝撃分散システム、まもなく最適化されます』

 

「フン……、挨拶代わりにしては、少しばかり重いプレゼントだな。だが、僕のテクノロジーを前にして、その程度の粗大ゴミでいつまでも威張っていられると思わないことだ」

 

 ハワードは姿勢を立て直すと、不敵に口角を上げた。天才のプライドが、目の前の機械の塊をこれ以上のさばらせておくことを許さない。

 

「クラウス、マルチロックオン。リパルサーの出力を限界までチャージ、肩部ミニミサイルポッド展開。……この粗大ゴミを消し飛ばす!」

 

『ハワード様、警告します! 試作装甲の熱排気システムが追いつきません! 出力をそこまで上げれば、内部回路が――』

 

「黙って僕の計算に従え!」

 

 ハワードは両手を前方に突き出し、全身の兵器のトリガーを引いた。 ドシュウウゥゥン!!! 眩いばかりの光の奔流と、数十発の超小型ミサイルがホロウの闇を爆音で満たす。圧倒的な科学力の暴力。一瞬にしてビジョンの大型重機は鉄屑へと変わり、ホロウレイダーどもは爆風で派手に吹き飛んで気絶した。

 

 だが、煙が晴れると同時に――ハワードの視界(HUD)が激しく点滅し、一斉に赤色のエラーログで埋め尽くされた。全身の装甲を走っていた青いラインが、嘘のように掻き消える。

 

「な……んだ? 動かない……!?」

 

『警告。ホロウ・リアクターの熱排気システムが限界突破(オーバーヒート)を感知。スーツの全電子回路を保護するため、駆動システムを一時強制シャットダウンします』

 

「おい、冗談だろ、クラウス!? 今ここで眠るな!」

 

 ガシャ、と重々しい音を立てて、パワードスーツは完全に機能を停止した。

 

 遺伝子強化も受けていないただの一般人のハワードには、数十キログラムのチタン装甲の重量を自力で支える筋力などない。彼は文字通り、指一本動かせない『ただの頑丈な鉄の棺桶』の中に閉じ込められてしまったのだ。

 

「くそっ……! 動け……!」

 

 絶体絶命の無防備状態。ハワードのバイザーの隙間から、焦りの冷や汗が流れ落ちる。

 

 その時だった。

 

「にゃはは! 漁夫の利、ごちそうさまにゃー!」

 

 瓦礫の影から、先ほどの野良猫の少女が身軽な動きで飛び出してきた。彼女は動けないハワードの頭をポンと小気味よく踏み台にし、ホロウレイダーの親玉が落とした『ビジョン社の電子ロックがかかった重厚なアタッシュケース』を、ちゃっかりと両手で抱え上げた。

 

「おい、待て……! その箱を置いていけ……!」

 

「ありがとにゃ、鉄の人! バイバ〜イ!」

 

 猫の少女はハワードの静止を聞くこともなく、奪ったデータを抱えてホロウの奥へと風のように駆け抜けて消え去ってしまった。プロキシのナビゲートすらなく、自身の野生の勘だけでホロウの最適な退路を見つけ出すそのスピードは、ハワードの演算を完全に置き去りにしていた。

 

「……ハワード様、排熱が完了、再起動します」

 

 ガシャリ、とスーツの自由が戻ったときには、もう猫の姿もデータの気配も完全に消え去っていた。ハワードは悔しげに、チタンの拳を地面に叩きつける。

 

「……あの素早さ、ただの野良猫じゃない。……クラウス、ビジョンの化けの皮を剥ぎ取るチャンスを、みすみす野良猫に奪われてなるものか。あの箱に入っている中身が何であれ、パールマンたちの致命傷(アキレス腱)になることは間違いない。あの猫の足取りを、限界まで追跡しろ」

 

『了解いたしました、ハワード様。……追跡の結果、対象の最終確認座標は、六分街近郊です』

 

 * * * 

 

数十分後、下町『六分街』の薄暗い路地裏。

 

 ホロウを脱出した猫又は、抱えたアタッシュケースを前にして、にゃははと満足げに尾を振っていた。

 

「これでビジョンの奴らも大慌てにゃ。あとはこのガチガチのロックをどうにかして……」

 

 ――ピピ、と不意に背後の暗闇から無機質な電子音が響いた。

 

 猫又がハッと振り返った瞬間、ゴミ箱の影から滑り出すように現れたのは、見たこともない洗練された流線型の黒いボディを持つ、ゼクス・インダストリー製の『隠密仕様特殊警備ボンプ』だった。そのレンズ状の瞳が、青く冷ややかに明滅している。

 

「にゃ、にゃにこれ!? さっきの鉄の人の仲間かにゃ!?」

 

 猫又が身構えた瞬間、彼女が抱えていたアタッシュケースから、ピピピピッ、と甲高い電子警告音が鳴り響いた。ハワードが本社の地下工房から、クラウスを介して遠隔でハッキングコードを送り込んだのだ。

 

『アタッシュケースの電磁ロックを、ゼクス・インダストリーの暗号化キーで外部上書き。――強制パージします』

 

 ボンプのスピーカーから、完全に音声加工された冷徹な合成音声が響くと同時に、ケースの取っ手部分からパチリと強力なスタン電流が放たれた。

 

「ひゃうっ!?」

 

 猫又が思わずケースを手放して飛び退く。地面に落ちて滑ってきた重厚なケースを、特殊ボンプは驚異的なサーボアームの動きで鮮やかにキャッチし、背中の格納デッキへと瞬時にロックした。

 

「……っ、うにゃぁ、痺れたにゃ! 汚いぞ、この泥棒メカ!」

 

『――これ以上の追跡は無意味と判断。警告、本機および回収対象へのこれ以上の接近は、自衛プロトコルの起動対象となります。……撤退を推奨』

 

 ボンプのハッチから、最高級の特製キャットフードの缶詰がコロンと小気味よく路地裏の地面に転がされた。ハワード流の、少し皮肉の効いた「お代」だ。

 

「あ、ちょっと待つにゃ――って、にゃにこれ、めちゃくちゃいい匂いがするにゃ……!」

 

 缶詰の誘惑に一瞬だけ猫の習性で視線を奪われた隙に、特殊ボンプは小型高出力のホバースラスターを静かに噴射し、路地裏の壁を垂直に駆け上がって夜の闇へと完全に同化して消え去った。

 

 悔しげに髪を逆立てる猫の姿を、ボンプの遠隔カメラを通じて本社のディスプレイで確認したハワードは、工房のソファーでフッ、と不敵に鼻で笑った。ホロウでの失態を、完璧な科学力と知略で塗り替えた瞬間だった。

 

 * * *

 

 数分後。ゼクス・インダストリー本社ビルの秘密地下工房。

 

 特殊ボンプが回収してきた『ビジョン・コーポレーションのケース』のロックが、クラウスの手によって完全に解除され、ホログラムディスプレイに膨大なデータが展開された。

 

 ハワードはコーヒーを一口啜り、ビジネス上の純粋な好奇心でその化けの皮を覗き込んだ。だが、画面に表示された文字を目にした瞬間、その知性溢れる瞳が鋭く細められた。

 

「……クラウス、これはビジョン社の公的な事業記録じゃないな。資金の流れが、ある特定の『思想団体』へ不自然に一元化されている」

 

『はい。ログに何度も登場する、新エリー都のいかなる公的データベースにも詳細が登録されていない完全な隠蔽組織です。その名は――『讃頌会(さんしょうかい)』』

 

「讃頌会……。あの冷徹な秘書、サラのアーカイブか。つまり彼女はビジョンの人間としてではなく、この組織の尖兵として動いているわけだ」

 

 ハワードは腕を組み、ホログラムディスプレイに展開されたサラの極秘暗号ログを睨みつけた。そこにはビジョン社の資金を流用し、新エリー都のあらゆるインフラ利権や「旧都時代の遺物」を強引に買い漁っている不穏な計画が記されていた。

 

 旧都――それは、男手一つで自分を育ててくれた、大好きな父さんが巻き込まれたあのホロウ事故、そして世界の崩壊が始まった因縁の場所だ。

 

「クラウス、この『讃頌会』という組織が過去に接触した、あるいは調査したという古いデータアーカイブの履歴を洗え。……彼らが旧都の技術を漁っているなら、父さんの遺した研究や、あの事故の真実に繋がる可能性がある」

 

『なるほど。単なる競合企業の汚職スキャンダルから、一気にハワード様の個人的な調査対象へと格上げというわけですね。了解いたしました、ハワード様。ですが、未確認の思想団体を相手取るのは、不確定要素が多すぎます』

 

「だからこそ、僕のテクノロジーでその化けの皮を剥ぎ取ってやるのさ。生身の脆弱な肉体だろうが、リアクターの負荷だろうが、父さんのあの日を暴くためなら、これっぽっちの反動なんてことはない」

 

 ハワードの瞳に、冷徹な知性と激しい執念の炎が灯る。ただの天災だと思わされていた父の件に、もしもこの『讃頌会』という闇が僅かでも掠っているのだとしたら――。

 

「クラウス、マーク2の設計を始めるぞ。今度はどんな高濃度環境にも耐えられる、完璧な排熱システムを組み込む」

 

『了解いたしました、ハワード様。……ですが、ハワード様。我々が横取りしたあのアタッシュケースですが、中身の暗号データを精査したところ、ビジョン・コーポレーション側の『焦りの原因』がもう一つ浮かび上がってきました』

 

 クラウスがホログラムに、ビジョン・コーポレーションが裏で走らせている非公式の暗号通信のログを映し出す。

 

『ビジョン・コーポレーションは、ラマニアンホロウの拡張工事区域における秘密のデータ輸送を、何者かによって妨害されたと考えているようです。……ですが実態は、ただの偶然の産物。先ほどの猫の少女が、ビジョン・コーポレーションの追っ手と輸送担当者がホロウ内で衝突した際、たままその近くに居合わせ、ドサクサに紛れてあの高価そうなケースをネコババしたに過ぎません。……そして、その後のログですが』

 

 クラウスがキーボードを叩くと、六分街周辺に展開していたビジョン・コーポレーションの部隊間で交わされた、焦燥に満ちた通信音声が再生された。

 

『ビジョン・コーポレーションの追跡班は、ケースの電波を追って六分街へと到達したものの、ハワード様が指示された通り、我が社の特殊ボンプがケースを回収した瞬間に追跡信号を完全に偽装・消去いたしました。そのため、相手側からは信号が突如として遮断されたように見えています。彼らは、あの猫の関与すら一切気付いておらず、ただ『六分街を根城にする、軍事規格のジャミング技術を持った強力なプロキシ、あるいは未知の武装組織』に、自分たちの機密データを組織的に強奪・隠蔽されたのだと勘違いしています』

 

「……フッ、ただの野良猫の気まぐれと、僕の気まぐれが重なっただけなのに、大企業が丸ごと見えない影に怯えているわけか。滑稽極まりないな」

 

 ハワードはコーヒーカップをデスクに置くと、不敵な笑みを浮かべた。

 

 ビジョン・コーポレーションの視点では、ケースは「六分街の謎の勢力」によって信号を消され、強奪されたことになっている。パールマンやサラの私兵どもは、データを奪い返すため、並びに口封じのために、六分街を丸ごと包囲・監視する構えを見せていた。

 

「データ自体はすでに僕たちの手元にあるが、あの鼠ども、焦りのあまり六分街を引っ繰り返すつもりだな」

 

 ビジョン・コーポレーション、そしてその裏に潜む讃頌会。奴らの動向を監視し、先回りしてその尻尾を掴むこと。それこそが、父の真実へと至る最短のルートだ。

 

「クラウス、ビジョン・コーポレーションの通信の全監視(ロギング)を継続しろ。奴らの動向を追う。あの猫が逃げ込んだ六分街……あの寂れた下町で、面白いショーが始まりそうだ」

 

『了解いたしました、ハワード様。天才社長の果てなき執念に、喜んでお付き合いいたしましょう』

 

 暗い工房の中、新エリー都の未来と、父の真実を追い求める『虚の男(ホロウマン)』の新たな心臓部が、青白い光を放って静かに脈打ち始めていた。




平日は仕事もあって投稿ペースが遅くなります。
ご了承ください。
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