この素晴らしい世界に祝福を!オールマイティ! 作:円卓騎士夫婦別姓
――バタム!
……八方に揺れる、紫のダブルスイカ……!
「――ロナさんロナさん! 玉の解析、済みましたよ!」
揺らしながら店裏から出てくるウィズは、いつの間に、俺で無くロナに宣言の先を変えやがった。
さてはて、このポンコツ店主は、俺たちの焼いてやった世話の数々を忘れたのだろうか。
ウィズを落とすときにロナは、「お金稼ぐだけが目的じゃないからね」とかよく分からない擁護の仕方で、このガラクタマーケットの存在を無理やり肯定していた。
巨乳店主と渡り合うのもスムーズだなと思っていたが……いやはや、タラシ、恐るべし。
「お、良いねぇ。結局どんな効果だったの、そのよく分からない『玉』の魔法は」
「……それが、ですね……」
* * *
……いきなりだが、話は遡り、先程の巨大トカゲ討伐でのこと。
あそこで俺達は結局、爆裂魔法であの超デカブツを処理した。
その後、理性が崩れた状態でなければ、アクセルの城壁から身投げを考えてもおかしくない状態だったダクネスを回収して、クエストの報酬金を貰ってギルドを出た。
……のだが。
トカゲを爆砕するエクスプロージョンの詠唱完了の直前、めぐみんエクスタシーのその直前に、デカブツ新人くんに肩を叩かれ、こう聞かれたのだ。
「リーダー、トカゲにスティールできる?」
と。
そんなのは普通に考えれば分かるように、トカゲの目ヤニくらいしか得るものの無い魔力のドブ捨てに等しい。
まあそういうわけなので、当然俺は真顔で手のひらを横に振らせてもらったのだが……。
ロナ曰く、黙ってスティールすればクリムゾンビールを一杯奢って頂けるとの事。
俺は、爆焔がトカゲを包む直前に渾身のスティールをかましてやった。
……すると、なんとなんと。
嘘みたいな紫色の宝玉が、俺の掌にスティールされていたのだ。
ロナによると、分かる人の所に持ってくべきものらしい。
めちゃくちゃ金目のビジュだったので悔しかったは悔しかったが、クリムゾンの安寧もあったので渋々従うことに。
そんで行くアテというアテもなかったので、なんか適当に、そういうのが得意そうな心当たりの二人が居る所へ。
* * *
で、現在。
ウィズの魔導具店。
ウィズの胸元に、玉が三つ並んでいる。
「それが何故かは分からないんですが、アンデッドの……呪いの類いに近いような魔術が、この玉の中に組み込まれていたんです。今はもう無力化できましたが、かなり強力で、複雑な魔法回路が入っていまして……」
さっきから、やたらと注目の先がロナだ。
俺は高身長イケメンの隣に行って、なんとか注目を戻そうと。
「……強力で複雑な魔法回路、か。アンデッドの呪いってのも気になるが、取り敢えずなんかしら魔法が組まれてたんだな。……でも、魔法回路っつっても色々あんだろ? どういう効果をもたらすとか、何を標的にしてるとか」
「……それが……」
ウィズは何を意気込んだのか、少し息を吸って。
「……その魔法の効果が、人の『感情』に作用するものだったんです。この魔術にかかった人物の感情の幅を増幅する、特に……その人の後ろめたい部分の性格を、大きく伸長する魔法のようで」
「んー、後ろめたい部分の性格と感情……なんというか、案の定って感じだね。次はまあ、誰が何の為に、を探るべきかな」
……まあ、なるほどというか、やはりと言うか。
俺の感じていた違和感そのまんまの代物だ。
欠点が前に出る、そんで、理性的な振る舞いを失う。
それなら全て説明できる。
街のステレオ化、欠点の伸長、ダクネスのタラシへの過剰反応……。
……あと、爬虫類に脱糞された人の今の仏さんを見て、術中にあった頃の記憶自体は、ちゃんと引き継がれているらしい事も分かった。
この玉がそういう効果だったなら、俺の、誰かの手によって人々の心に手が加えられているのでは、という洞察は見事に的中していたことになるが……。
この新人と来たら、この紫玉の存在がトカゲの裡にあると分かっていたのだろうか。
それとも、賢者らしくその場で解を導出したというのか。
と、またもや色々取られたので、奪取すべく俺は。
「おい、謎が解けた時のかっちょいいセリフを持ってくなよ。ここの参謀役は俺が埋めてんだから、お前の無駄に高い知力にはそうそう出番無いぞ」
「これに知力いる筈ないけどね、勝手に点と点が繋がるレベルの話でしょ」
「うるさい黙れ」
容赦ないしょっぴきに、ロナの口が冷笑を湛えている。
「ウソだろう」
「いいや嘘じゃない、黙れ」
「……ウソじゃなかった」
ざまあみろ、シニカルだろうが関係ない。
脳味噌ある奴には超然主義だ。
俺はこのひと月で身をもって知らされた。
ロナを制圧すると、隣のめぐみんが顎をさすっていて。
「後ろめたい部分の性格……ですか。確かに、ここ最近のアクセルは、なんだか殺伐としていましたよね。私が一日一発の爆裂で城壁を吹き飛ばす度に、街の門兵が般若で説教を垂れまくる、クエスト消化中の冒険者達の僻みの視線が降る、そういうレベルの違和感でした」
と、めぐみんはさも、世界の回転軸が自分の爆裂魔法であるかのように語った。
こいつ、未だに魔法にかかってるんじゃないのか。
「……おいめぐみん、お前が抱いた違和感の正体の原因を、俺が丁寧に噛み砕いて教えてやろうか? その原因はな、お前が一日一発の爆裂で城壁を吹き飛ばした事だ。冒険者のクエスト消化の邪魔になった事だ。何も、そこの気持ち悪い玉がある故の不慮のアクシデントでは無い」
俺の至極真っ当な批評に、めぐみんの紅い目が細まって。
「……ふん、何ですか、いつもの説教タレかと思って聞いてやっていれば……それでもアナタは魔王を討ち取った英雄ですか? 私はね、城壁の一枚や二枚、『んなもん気にすんなって』と、広い器で受け止めてくれる事を期待していたんですよ」
「は? ……お前な、誰が借金生成爆裂娘に『ンナモンキニスンナッテ』とか呑気に戯言吐けるかってんだ。俺はこの一ヶ月な、英雄扱いウイニングランで、エリスジャブジャブ生活できた筈のを見事に回避して、懐かしの負債パレード生活に逆戻りさせられてんだよ……他でもない、お前らのせいでな!」
俺が正論パンチングをかますその間に、珍しくアクアが割り込んで来る。
「んまぁまぁ、そういう縁起の悪いことも全部、この良く分からない玉のせいだったんでしょ? めぐみんだって、なりたくてそうなった訳じゃない……この件は、誰も悪くなかったのよ、ね? ……だからカズマさん。私の分のシュワシュワ代を……どうにか全額、肩代わりしてくれませんかぁ?」
魔法解けても懲りないだけなんだな、クソが。
聞いたロナは、無機質に首を傾げていた。
「縁起の悪い……縁起の悪い、か。やっぱり、かなり愉快な人らなんだね」
「あぁ、ホントにな。素でもまともに話せない、頭のおめでたい奴ばかりだ」
と、店の隅で机に突っ伏していたダクネスが、その昏ーい面をスっと上げた。
「……本当に、めでたい奴らだろうな、私達は。……だって、だって私なんか……一ヶ月、自分の性癖を暴走させて、最後には……最後には、モンスターの…………糞、の中から、発見、され、て……」
……そこまで言ってダクネスは、再びテーブルに突っ伏した。
腕のインナーの盛り上がった部分をチラ見して、再び咽び始めてしまう。
……まぁあれは食らうわ、誰でも。
後でコイツには、温かい紅茶でも淹れてやることにしよう。
やっぱ記憶はそのままか、ドンマイ。
俺は、無責任な仲間への悪感情を抑えて、ウィズに更なる魔法玉の詳細を。
「……なぁウィズ、ところでその玉って、なんか、効果範囲とか設定されてなかったか? 俺の感覚だと、アクセルの街全域は間違いなく傘下だったと思うんだが、他の地域にもそういう魔法はかけられてたりしたのか?」
ウィズの目が少し研ぎ澄まされて。
「そうですね、私が見た限りですが、範囲と効果の強さから逆算して、この玉に限れば、アクセルの街一帯程度が範囲と見るのが妥当かな……と」
視線の端で、当然と言うようにロナが眉を上げているのがムカつく。
ウィズは続ける。
「この魔法は殆ど、アンデッドの呪いのような性質でして、普通の魔法として作用しないことで、より広範且つ多くの人に作用してたんだと思います。ですから、私達みたいなアンデッドとか、バニルさんみたいな悪魔の方々には勿論、アクアさんのような特別な方にも効かないものだった……という感じかと。あとはまあ、元々感情を抑えるのが得意な人は、そもそも効果が外に出ずらいでしょうが」
と、気弱の筈のウィズは珍しく胸を張って、さも誇らしそうに言い終えた。
自信の演出に慣れていないのか、顔がちょっと引きつってる。
おお、このポンコツ店主、たかが魔王軍幹部、しかしやはりされど魔王軍幹部だな。
こんなに甲斐甲斐しいウィズは、ビジュ系フォーリンエンジェルの時ぶりに見た。
「まああとは、知力の高い人程その効果はより効くように――」
何時に無く頼もしいウィズの弁舌に俺達が眉を上げ下げしていると……店裏のドアが、バンっと開いて……。
「ッブハハハハ! ……なにやらなにやら、ほーんのりとした後ろ暗さの感情を感じるかと思えば? この赤字錬成ポンコツ無能失恋店主が、自らの浅はかさを自覚しながらも、人の手柄を横取りした際の羞恥の感情であったか! その玉の解析は、ほぼほぼ、というかなんなら全部我輩の力により行ったものであるにも関わらず……? あろうことか、魔王を討ち取り英雄と謳われた直後に、相変わらず負債に塗れている愚か者共四人とその新たな駒に対して、笑みを作り! 胸を張り! 大して自慢する価値もないこの者共に胸を張り! ……自らの誇り高き功名であると、声高に宣言してみせたわけだ!」
バニルの奴が、可哀想な事実を宣言しにやって来たのだった。
……え、ウィズさん?
という具合で、というか実際そうな集まる俺達の視線に、ウィズのトマト顔が。
「……バニルさんっ! ……別に良いでしょう、もう! 私だって、私だって格好つけたい時ぐらいあるんです! 私だって、魔王の討伐に僅かながらでも助力したんですよ……ちょっとぐらい、いい格好したって罰は当たらないじゃないですか、そうでしょ?」
「っえい黙れい! ちょっとやそっとそこの小僧のレベル上げに付き合ったなどという、吐き気のする程些細な事を誇る前に、貴様はまずこの店の将来の廃れ行く採算を憂うべきであろうがぁっ! ……ン、コホン……さてさて今日も今日とて、この店の予算からは、とんでもない額がとんでもない魔道具の仕入れの為にスポンと消えて無くなって行った訳だが、貴様! このよく分からん……音楽がどうたらこうたらという、この謎のポーションを、一体いくらで仕入れた!」
言われながら指をおでこに突き刺されるウィズが、俺は可哀想になって来た。
「…………う、ううぅっ、…………五千万……エリス、です……」
たっっっっか。
関東の……いや、流石に二十三区はムリにしろ、千葉市とかなら普通に家建てれるくらい、はあるであろうのその額を聞いて、可哀想なバニルは悶絶してしまった。
「っ五っ千万エリス! ……貴様……ハァッ、貴様やはりふざけておるなあっ?! いや、ふざけておらんでそれならば、貴様にはもう殺人光線で引き裂かれる以外の道は無いぞ! このシリアル採算キラーめがぁっ!!」
「いやっその……ふざけたつもりは無いんですけど……! 皆さん、懐かしい音楽を聞きたいものだと思って……頭の中の音楽が流せれば、それで解決するかな、と……だからバニルさん、お願いだから、店頭の商品を気にして、店の裏で光線の刑に処そうとするの……やめてくれませんか……?!」
「喧しいわぁ! 経営判断として最良の選択をするまでよォッ!」
……そう言って二人は、倉庫に続く扉に消えていく。
続いて、悲鳴も。
俺は、残されたカウンター上の玉を見た。
……ウィズがこの魔法食らってたら、なんて考えると、バニルの瞳孔が上に向かって消えていくんだろうな、と。
その変わらない一部始終を、ジト目で見てためぐみん。
「アナタたちも、大概変わって無いですね……いつまでこの店はガラクタばっかし並ぶんでしょうか」
訪れた静寂の中で、ダクネスの向かいに座ったロナが人差し指を立てていて。
「私は、魅力的だと思うけどね、『頭の中の音楽を流すポーション』。……値段がちゃんと値段なら」
「教えてやるがロナ、この魔道具店はな、何か買ってみようにも選択肢が無い、繁盛させようにも商売力が無い、……そういう、そういう悲しきお店なんだよ」
聞いて、最早タラすポイントすら見失ったのか、ロナは立てた人差し指を唇に当てて。
「……成程、愉快なのは街ぐるみだった、って訳か。……やっぱり、この街戻って来て正解だったよ」
「……んん、そうか。……まあお前も、これから分かるようになるぜ」
ロナにアイロニーを込めて、俺は親指を立てる。
よかったな、これからお前は、お望み通りの「愉快」なトラブルに巻き込まれ続ける人生だ。
一通り裏からの悲鳴と怒号が止み、静けさが戻って来る。
示しを合わせたように、俯いて咽いでたダクネスの鎧が、カチャッと鳴った。
……俺たちは、立ちはだかる難題を解決はする。
でも、ラストは必ず締まらない。
良くも悪くも、いつも通りが戻ってきたんだな。
続いていたその寂寥感を破るように、アクアが急に声を張り上げた。
「……っまぁでも、無事に違和感も解決したんだし、今日のとこはもう、ゼル帝達にご飯あげに早く帰りましょ! ……ほら二人とも、元気出して! どうせまた来週にはお小遣いも振り込まれるんだし!」
腕を広げて。
「確かにここまで、色々散々だったけど……結局みんな元の皆に戻れたじゃない!」
そのいつにない励ましに、肩を叩かれためぐみんも、少し顔が緩んでいる。
「……まあ確かに、この一ヶ月、三人には色々負担をかけてしまいましたから……こんな所で油を売っている暇は、無いのかもしれませんね」
そう言うとめぐみんは、伏せるダクネスの傍らに膝を下ろして。
「ほら、ダクネス? ……確かにアナタは、トカゲの糞の中から、糞まみれの状態で発見されました……が」
「……糞、まみれ……」
確実に、言わない方が良かった。
言わない方が良かっためぐみんは、続ける。
「……が、それは、ちゃんとアナタが、仲間を守る盾としての役割を、責任を持って全うしたという証左でしょう? アナタは役目を全うし、私たちは守られた。アナタのやったことに何処にも落ち度はないんです。だからどうか、顔を上げて……」
「…………っめぐみん……」
その半ば無理やりな感じもする励ましに、ダクネスは少し面を上げることができたようだ。
「そうだな……私も少し、気を落としすぎていたかもしれない」
一息ついてから、俺の方を見据える。
「…………カズマ、私が計上した分は当たり前だが、この一ヶ月の詫びとして、四人分の負債は全て、私から出そう。ロナにもこれからの生活、あらぬ負担をかけさせるわけにいかないからな」
……マジかよ、あの負債、億とか行ってましたけども。
まあでも、であるからして今のお小遣い財布の俺にはキツイんだよな。
俺は自らの懐を垣間見て、気の引けを無理やり引っ込める。
「あぁいや、そこまでしてくれんのか? それは流石に額が額だし、遠慮しとく……と言いたいとこだがまぁ、お前の厚意だもんな。ありがたくお願いするよ」
「お、ノビリティさんやっぱ頼もしいっす」
「あおい黙れ余計なこと言うな」
……ダクネスの天啓を聞いたロナは、俺の気の引けとは対極に、ドヤ顔に対して鶏の感じで首を突き出して手を合わせている。
すると、ドヤが深まって。
「あぁ、任せておけ。王国の貴族の懐は伊達で無いぞ?」
……何だろう、コイツの適当な担ぎ上げは流されたのだろうか。
まあなんだかアテンションも拮抗したし、良しとしよう。
「おう、有難くな。……よしお前ら、ウィズとバニルは多分、今日のところは当分出てこないだろうし、一通り済んだら、屋敷帰んぞ」
そうして俺達は、久しぶりに来た魔導具店のトンデモラインナップを適当に確認してから、店のドアベルを鳴らした。
俺は癖で、扉の前でウィズ達に一言挨拶しようとする……が、おっと、そういえば居なかった。