この素晴らしい世界に祝福を!オールマイティ!   作:円卓騎士夫婦別姓

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このおかしくなってしまった街に疑問符を!(5)

 

 アクセルの石畳を、夕焼けが均している。

 

 約束通り新人にクリムゾンのやつを奢らせてから帰路に着いた俺の横を、ゆらりと歩くロナは。

 

「いやぁ楽しみだな、新居。あれでしょ? でかくて広いお屋敷なんでしょ? 広過ぎて迷子にならなきゃ良いけど」

 

「ああまあ、確かにデカい屋敷だが、迷子になるほどのデカさじゃねぇぞ、自分の部屋選びに困る事は無いだろうがな。……どうする? もしかしてお前また、ダクネスの隣の部屋とか言い出さねぇだろうな」

 

「……っな、お前……!」

 

 ダクネスが案の定遮ろうとするが、俺たちからしちゃ、不器用な女のそれなんざお粗末なもんだ。

 

 俺の軽口にロナは、あの餌付けられ顔でクイッと口角を上げて。

 

「……できることなら、だけどね」

 

 聞いたダクネスが分かりやすく朱になってるのが面白い。

 

「なっ、何ができることならだ! ……というかそもそも、そうも気安く、男女が部屋を隣合わせるものではないぞ!」

 

「え? 良いでしょ別に、私いつでも転移で逃げられるし。あぁそれに、隣の部屋なら君が筋トレに来るのもすぐだしね」

 

「おお前の部屋でする訳ないだろ! ……あ、あと、なんだ! 逃げられるとは! 何を想定した逃げだ!」

 

 流れが良いので俺は、さらなる追撃として肩を竦める。

 

「……いやぁな、ロナ。お前は良いかもしれんが、やはり、多感な男女が部屋を隣合わせるとなると、ちっとばかし問題があるんだ。想像してみろ……夜の屋敷、俺達が寝静まる頃になって、隣の部屋から、なにやら……ギシギシゴソゴソ……なんて聴こえちまったら、流石のお前も気まずくなっちまうだろ?」

 

「おおお前も、何故そう軽々しく!!」

 

 追撃をかますと、ロナは俺の悪い意図を汲んでくれたようで。

 

「あ、そういう……まあ別に耳栓するし、大丈夫かな」

 

「なんでお前が聴く側だ!!」

 

 おお、これは中々楽しいもんだ。

 と、俺の右隣でめぐみんも、相当な悪人顔でニヤついている。

 

「ほう、今日は中々調子が良いようですね、ダクネス。その勢いで、間違って新人を押し倒すような事が無いよう、気をつける事ですね」

 

 ……おお、なんと挑戦的な事を。

 と、ダクネスの腹からは号砲が飛ぶ。

 

「っはははぁっ?! っめぐみん、お前までぇっ……!!」

 

 ダクネスのもっともな憤慨に、ロナは俺の左肩にわざとらしく縋って、隣のダクネスをTレックスかのように恐れた。

 

「嘘、もしかしてララティーナ……両刀使いの聖騎士(クルセイダー)さんだったんですか?!」

 

「あぁ、ナルホド。屋敷の今日の夜は、ロナでも俺でもなくめぐみんのとこに夜這いに来るってこったな? 良かったなロナ。少なくとも今日のところは、お前の番じゃねえみたいだ」

 

「ょかったヒヤヒヤしたぁ」

 

「っはぁ、は……っ! はああああああ?! ……ち、違う! これは違うぞ、ロナ! この二人は、よく私を揶揄う癖があって……ある事ない事なんでも言って、私を貶めて来るんだ! 決して私は、誰でも襲える両刀のクルセイダーでは無いからな!」

 

「『誰でも』は無い事でも、『夜這いに来る』はある事なんだな、これが。あと、夜中のギシギシゴソゴソも――」

 

「カズマ! お前はもうそれ以上喋るな! 何も喋るなあ!! うおおおおおお!」

 

 ……安心しろ、お前はコイツからもう『どっかしら変』という、最低級の評価を頂いてる。

 お前の等身大はフィルタ無しで閲覧済みだ。

 

 と、ロナの震えるデカい体越しに、両手で空を切って来るダクネス。

 これまたまあお粗末な攻撃です事。

 

 流れ拳をそそくさと避けるロナ。

 

「あらやだ、流石にちょっと私」

 

 ……と、左肩の重さが右肩に移る。

 

「――こっち側来ますね」

 

「……あっ! テメェ、裏切りやがったな?! 魔法使うのは反則だろ――っブォッツ! ……あ、ヤバい、ヤバいこれは死ぬ……っ!」

 

 ダクネスの徒手空拳の射線が通って、首根っこを掴まれた……!

 

「ふぅん……! ふうぅっ!」

 

「おい、ダクネス……悪がった、悪かったから、流石に首絞めは止めてくれ、窒息死しちまう……!」

 

 必死の懇願に俺の両足は、段々と地面に着いてくれた。

 

 

 ……ああ、本日二度目の、呼吸に感謝。

 

 

 俺の右肩から、さも楽しんだであろう感じのロナが、肩を揺らしながら離れていく。

 

「初対面の人間に、いきなり……痴話を晒す奴があるか、少しは考えろ」

 

 

 ……呟くダクネスの横顔は、少しだけ俯いていた。

 

 

 まあ、楽しかったのは楽しかったが、ちょっくらやりすぎたかもしれない。

 

 俺は呼吸を整えてから、

「……ああ、済まん、ダクネス。俺達も別に、本気でお前を傷つけたかった訳じゃ――」

 

 代表して俺が謝意を述べかけると、ロナの羽織が翻り俺達の前にヒュルリと出る。

 夕日を背に、得意げに人差し指を立てた。

 

「いやぁ、やっぱり楽しいパーティなんだね、ここは。これから私も入って五人組になる訳だから、何卒、宜しくお願いしますね」

 

 と、腰を少し低くして。

 

「予備の、財布役として……ね」

 

 皮肉を言い終えたロナは後ろ手を俺たちに見せて、再び歩き出した。

 

 ……そういや、そうだった。

 そういう都合で勧誘したんだったわ。

 

 それを聞いた、ダクネスとめぐみんの視線のせいで、俺は両サイドからチクリと痛い。

 

「(……カズマ)」

 

「(っ! ……なんだよ急にびっくりするだろ……! ……なんだ、ロナに聞かれたくない事か?)」

 

 ……ヒソヒソ話の為のめぐみんの手が、右耳に当てられていて。

 

「(……少し今更な部分はありますが、本当に、ロナをパーティに入れるんですか? あれだけハーレムがどうのと悦に浸って、イケメンを徹底して忌避し、呪っていた筈の、アナタが……)」

 

「(……あ、ああ……)」

 

 いきなり耳打ちで何を言いだすかと思ったが、まあ、至極真っ当な分析だ。

 

 ダクネスが負債を肩変わってくれる以上、これからの俺達に、予備の財布役の人間が必要かと言われるとそうでもないし、加えてロナは、俺よりも顔が良い。

 身長も高い、身体も良い、頭も良い。

 ……あと、腕っぷしの意味でも魔法の腕前とかの意味でも、多分俺より普通に強い。

 

 ハーレム状態の根幹が揺らぎかねない、俺がもっとも忌避する人材だ。

 

 ……まあしかし、どっかしら気が合う所があるのも事実ではある。

 さっきのダクネスイジりなんて自然にやってて楽しかったし、普通に男同士で話ができる点は、非常にありがたいところでもあるんだよな。

 

 ……さてはて、どうしたものか……。

 

 この段階でも俺は、全然普通に罷免を選び取れる、優秀な人事担当者なので、今追い出す事自体に憚られる事は無い、が……。

 

 俺は、再びめぐみんに耳打ちして。

 

「(まあな、確かにもう少し、考えるべきとこがあったかもしれん。ありがとうな)」

 

「(……いえ。私はその、私達三人だけでは、カズマを息苦しくさせてしまったのかと、思ってしまいまして……)」

 

 ……なるほど、めぐみんは俺を心配してそういう事を。

 

 うん、まあでも実際この一ヶ月はかなりエグかった。

 

「(あぁ、息苦しかったぞこの一ヶ月。割とマジで会話すらキツかったし)」

 

「(……っそこは『そんな事ないぜ』でビシッと格好つけるとこしょうが……! 本当に貴方という人は、素直が下手なんですから)」

 

「…………はぁ? これ以上無いくらいに素直だよ、今の俺は。この一月の惨状は、ダクネスの払ってくれる金額にそのまま映し出されるからな、お前もその時になったら、どれだけの規模で自分が暴れてたかを、ちゃんとその目に焼き付けとけよ? それが今お前にできるせめてもの贖罪だ!」

 

「……っ急に普通に喋らないでください! ……ほう、良いでしょう、カズマがそこまで言うのならば、我が爆裂魔法が成した功績の一端を、数字という明確な形で拝見することにしましょうか」

 

「……なんっでお前は誇らしげだ、あぁ?」

 

「……ぅ」

 

 と、案外すぐに撃沈しためぐみんの帽子の鍔が、俯いて。

 

「私は、アナタの、その……恋人、なんですから……私だって、私だって……ダクネスのように、体でお詫びすることだって」

 

「だあっ! もももうその話をするな! もう止めてくれ!」

 

 ……………………。

 

 ……いやぁ。

 

 やはり、ハーレム生活捨て難し。

 

 かなり罷免を迷うぞ。

 

 と、聞いたであろうロナの背中から笑い声がした。

 

「……やっぱり、このパーティに入れば元気には困らなそうだね。楽しみだ」

 

 やはりまあ、こういう余裕が一切剥がれない感じは、変わらずちゃんとウザいな。

 

「……まぁでも、さっきから、女神様の方の元気が無いのだけ、心配だけど」

 

 ……あれ。

 

 そういえば確かに、アクアにしては流石に大人し過ぎていた。

 こいつがわざわざ言ったってことは、何かしら意図があるのか。 

 

 俺が右端のアクアを見やると、ロナの言葉にギクッとしたように視線を逸らしていて、何処か怪しい。

 

 と、アクアの細声は。

 

「……え? いや、いやいや、そんな……そんな事無いわよ? 別に。アンタたちが四人で盛り上がってたから、ちょっと会話に入りずらかっただけで……」

 

 ありえないので俺は、凛とした口振りで。

 

「いやいや、天下のKYのお前が、そんな人の心の機微を分かったような立ち回りする訳ないだろ」

 

「それは流石にヒドくないですか……?」

 

「そうですね、あのアクアが会話に入りずらいなんて、マトモな葛藤を抱えるはずがありません。こういう時は大体、疚しいことを隠してこうなってるんですよ。アクア、正直に。一体何を隠してるんです?」

 

 めぐみんの分かっている指摘に、アクアの首が背いた。

 

 確定。

 

「か、くす? い……一体、なんの事を言っているのかしらぁ、この子達は……」

 

 俺達の詰問が魔女アクアを斬らんとしていると、ロナの背中が前に翻って両腕を広げた。

 

「聞く限り、やっぱ変だね。あの紫の玉が女神様には逆に効いてるのかな? ……あ、でもそれだとおかしいか。……だって、あの玉の効果は――」

 

 そこまでロナが言うと、魔女の両目からは卑しい二粒の雫が弾けた。

 

「あ……ロナ! ちょっと待って言わないで、お願い、お願いだから! 後でシュワシュワ一杯奢ってあげるから――」

 

 ……いいぞ、もっとやってくれ。

 

 見極めとしても丁度良い、賢者様の脳みそも伊達じゃないところを見せろ。

 アクアの落ち度を暴けば、相対的に俺の屋敷の暮らしぶりは快適平穏になる。

 

 ロナのニヤけた顔は、容赦無く、ありがたく続けた。

 

「玉の効果は……『アクア様のような特別な方には効かないものだった』……訳だからね。……それがあろうと無かろうと、アクア様だけは普通でいられたはずだもの」

 

「…………確かに、言ってたなそんなこと」

 

 名探偵サトウカズマが続けて。

 

「となると……つまりこの駄女神は、なんの外的要因も無く、ただのコイツ自身の地のポンコツ性だけで、借金を無限に錬成する腑抜けのヒモ女に成り上がっていた……という訳か」

 

「は……はわわわわ……」

 

 ……暴かれたアクアの顔面は、恐怖に歪んでいる。

 

 安心しろ。

 お前の予想通り、いや、予想以上の恐怖をこれから俺が与えてやるから。

 

「お願い……って、言ったのに――」

 

 帯びた小刀を、俺は無機質な笑顔で抜いて。

 

「……ロナ、今日からお前は、正式に俺達のパーティメンバーだ。色々迷惑かけるかもしれんが、これから宜しくな」

 

 と、切っ先を向けながらアクアに向かう。

 

「……カズマさん! ロナに挨拶してるんならロナの方向いて下さいよ!」

 

「うん、そうだな」

 

「…………っ違う! 聞いて! 違う、これは違うの! 私はただ、皆がはっちゃけてて……良いな私も自由にやりたいなって、そう出来心で思っちゃっただけなの!」

 

「うん、そうだな」

 

「…………だから……だから、刀の錆にしちまうのはお願いだから止めてぇ! カズマ様ぁあぁあ!」

 

「お前の洞察力と支援力は、このパーティの土台を頑強にしてくれるだろうからな。色々、期待させてもらうぞ。これからよろしくな、ロナ」

 

 と、ダクネスの声も無機質。

 

「ああいえ、とんでもない」

 

 めぐみんも続く。

 

「ええ、アナタの魔法理論に対する理解には、同じく魔法を司る者として頼らせてもらうでしょうから。何卒、よろしくお願いしますね」

 

「いやいや、こんなに褒められると流石になあ、照れるよなあ」

 

 ダクネスとめぐみんの冷えた機械の視線も、アクアに向きっぱなし。

 

「ううぅ……なんで?! なんでみんなこっち見て来るのよぉ……! やめて、私を、私を……見ないで下さああああああい!」

 

 ……俺達三人は、屋敷に着くなり三人総出でアクアをしょっぴく事を決めたのだった。

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