この素晴らしい世界に祝福を!オールマイティ! 作:円卓騎士夫婦別姓
「なに、何よこれ。……私、アクシズ教の聖なる御神体なんですけど……誇り高い、いっぱいいっぱい尊厳ある女神様なんですけどぉ!」
――アクセルの、屋敷。
現在アクアは、こっぴどく俺達に折檻された末に、
一緒にゴム鉄砲を持つロナも、楽しそうで何よりだ。
「いやアクア、神様ってのはな……こうやって縦横クロスにして張り付けられるもんなんだ。どこの世界でもな」
「……何これ、クソみたいなメタファーというか、不敬極まりないね。勿論あっちの神様に」
言いながらロナはペチっと割り箸の引き金を引いたが、アクアの脇の下を通って壁に当たる。
「……ヒイっ! ……っカズマさんカズマさん、私ただみんなと一緒に馬鹿やってただけなんですけどドワッ! ……なんで、なんでよ! お願いだから撃たないで、ロナぁ! アンタは別に関係ないでしょ? 痛くも痒くもないでしょう!! ……もうッ! ……ねぇカズマさん! 私ホントに、ホントにこんなに怒られる筋合いあるんですかぁ!」
ボコボコのアクアは胸を張り出して訴えたが、気にせず俺はゴム鉄砲をパチン。
「あああるぞ。だって、ホントは魔法かかってなかったハズのお前が一番借金作ったし、普通にクソうるさかったし、あと何より勘付いててなにも言わずにあろうことか自分も乗り始めてたわけだし、相当な大罪だ。どんな博愛主義のエリス教徒でも、唾吐いて問答無用でドアスラムする位の酷さだったからな、あれは。悪質教教義を見事にトレースしやがって」
パチンパチン。
「なに、アクア様も
パチパチパチン。
「ああ、使えるんじゃないのか? 別に俺は知らんけど」
パッチパチパチパッチン。
「ぎぃやあああああああ!! すいばせん!! すいばせんでしたああ!! もうしませんもうしません! 許してくださあああああい!!」
パチコパチコパチコパチコパチコーン。
……と、俺達がガトリングガン的な輪ゴム蹂躙をかましていると。
「……二人とも、アクアもこう言ってる事だし、そこまでにしないか。可哀想だろう」
寝巻姿のダクネスが、椅子に座す俺達二人の肩を触れて宥めて来た。
ほほう、敬虔なエリス教徒と言うのは、ここまで博愛主義者なものなのか。
「えー、折角正当な感じで神様虐めれるのに勿体無い。ララティーナもやる?」
「お、おいロナ、その名前で呼ぶんじゃないぞ。あの時の私はただ……魔法にかけられて、少しおかしくなってただけだ。ダクネスと呼べ」
ロナの再度のララティーナ呼びを聞いて、ダクネスの顔がゲッとして少し赤くなった。
ロナは、ゴム鉄砲を軽くダクネスに向けながら。
「あーそっか、もう魔法解けてるんだったか。解けてなかったら今はもう『そこを代われアクアああ』とか言って全裸で暴れ出してたもんね」
「……っは、はぁ?! あ、暴れ出さないわぁ!!」
「おーよく分かってるじゃないか。……コイツは一応エリス教徒ではあるらしいが、欲望の節制に関しちゃ、自分の性癖五体満足で放し飼いにしてるからな」
「して無い!」
「してるだろ、この一月除いたとしても」
「して無ぁい!!」
と、ロナがいきなり身体を前のめらせて。
「して無いだろ失礼な!!」
「……へ?」
妙な擁護に、困惑するダクネス。
ふと、ロナはすんっと元に戻り。
「いや、してるか」
「だよな」
「ななん、なんだったんだ今のは!」
……良いね、俺も好きだぞそういうの。
コイツが俺達の普段の動向を知る訳が無いが、まあ合ってる。
「……んんう!」
「アァアァアァ、イタイイタイイタイイタイ」
ダクネスにポカポカ肩を叩かれるロナの後ろに、冒険者カードを手に持っためぐみんが、ちょむすけを抱きながら歩いて来て。
「ロナあなた、凄いですよこれは。レベル自体変哲ですが、それが1だというのに魔法をこれだけ……しかも、冒険者カードに載せずに魔法を覚えているとは。悔しいですが、流石の私でも何が何だかサッパリです」
「ああ、それなぁ……俺もちょっと気になってたとこなんだ、なあロナ。なんだってお前、スキルポイント以外で魔法とか覚えたりしてんだ。っていうかそもそも、そんなこと出来るもんなのか?」
聞かれるとロナは、今度は俺の方に銃の先を向けて。
「んん、ナイスな質問だね」
と、いきなりでびっくりしたが、拍子木に銃を見立てたのか膝に打ちながら、ロナは落語のようにリズムをつけて。
「……さてさてポイントを媒介しないスキル習得っつー御業の妙について、えー皆々様から耳を澄まして聞かれちまったわけですけれどもッたいねぇ! なによ、あっちに撃ちゃいいでしょ」
いつの間に俺は、ロナの五分丈程の藍のショートパンツの右腿に向けて、ゴムを発砲してしまっていた。
おっと失敬失敬、ウザかったもんで。
「いやぁすまんすまん、またなんか『であるからして私を礼賛しろ』とか着地しかねんと思ってな。ちょっとした気つけだ」
「……ねぇねぇ、カズマさん? ……私、ずっと放置されッたいッ!!」
と、俺はまたまた知らないうちに発砲している。
……『ずっと放置されたい』って、聞こえたぜ?
「ほうかほうか、お前が放置をお望みならば仕方も無い、その通りにしてやろう」
「……はぁっ?! そんな気持ち悪い願望誰も持たないでしょうが! ダクネスじゃないんだかッたい!」
「おっとっと放置しなきゃだってのに、勢い余っちまった……すまんなお楽しみ中に」
「……なによ! 私になんの恨みがあるってのよ!」
「……そうだなあ、負債に騒音、あと精神的被害。それが一ヶ月分だ。大丈夫、今日でまとめて支払ってもらうんだし、すぐ終わるさ」
「…………っうっ……グスッ……なんで……なんでぇ……っ」
そう言ってアクアは、俺に銃口を向けられながら項垂れてしまう。
これに気が悪くない俺はやはりというか、Sっ気が強いみたいだ。
「……やはり、やはりカズマは、昔から容赦ないな……。これだけ懇願するアクアを……え、えはへへ」
「おいダクネス、お前も同じ目に遭いたいみたいだな?」
「……っは、はあっ! やめろぉっ!! 私にまで、私にまでお前のサディズムの魔の手を伸ばそうと言うのかぁっ!」
「……っは?! おいちょっと待て、お前と同列みたいな扱いすんじゃねぇよ、ふざけんな!」
「……私と同列な事の何がダメなんだ!」
「全部に決まってんだろ変態!」
「へ、変態っ…?!」
俺たちが諍う混沌の外から、ちょむすけを撫でながら溜息を吹かすめぐみんの吐息が聞こえる。
と、ロナの細声は。
「……んー。……私、話さない方が良いかな?」
……あ、そうだそうだ、お前の魔法の話だった。
「……あぁいや、別に普通に話してくれる分には、俺達も知りたいし、聞かして欲しいぜ。……お前まさかだが、こんなもんは気合いで覚えたんですよ、なんて言い出さないだろうな?」
冗談混じりに言ってロナに向き直ると、俺の手元のゴム鉄砲は音もなくフゥッと消える。
そうか、これも魔法で作ってたんだったな。
「んー……。半分、合ってるかな。気合いみたいなものだと思うよ」
「……気合いが、半分合っている……? そんな事で、難解な魔法習得が適うものなのか?」
ダクネスの示した疑問を聞いて、ロナは得意げに人差し指を立てる。
「ギルドで登録手続きしたときに最初に貰えたポイント使って、このカードに載ってる魔法覚えたんだ。遊びでね。楽しい事できるやつ覚えたいなと思って」
ウザいことに、もう片方の人差し指も立てる。
「でも私ねぇ、色々あって、レベルを1の状態から上げられなかったんだ。最初のスキルポイントは遊びに使っちゃったし、これじゃ他のマトモな魔法が覚えられない、タダの逆張り賢者になっちゃう、どうしたものか困った困った、と。……でもね、考えたんだ、私」
胸の前に二本の指を寄せる。
「スキルポイントを使って、魔法を覚える事ができる、これは正しいね。実際それがここらの主流だし、私だってスキルポイントで魔法を覚えた。……だけど、だ。……スキルポイント以外の方法では、魔法を覚える事はできない……これは、真偽が不確かじゃないかい?」
と、聞いた俺たち四人の間には、静寂が流れる。
……何言ってんだコイツ。
「いや、不確かじゃないだろ。んなものあったら……今頃めぐみんがこの街一体を爆焔で包んでる筈だ」
気味の悪い話を聞いて、顎に手を当てて考えていたダクネスも。
「……ああ、意味が分からんな。……流石に、屁理屈にも程があると思うが……」
「……でもまあ、その認識があって今のアナタがあるんでしょう? それで、その真偽が不確かだからどうしたんです?」
めぐみんだけが、そのアホ話を掘る余地のあるものとして聞いていた。
「……良いね」
ロナは更に注目しやすい様、両手を少し上げて。
「現行の魔法習得の方法が、スキルポイントを使ったモノだけになっている理由として、考えられるパターンは二つ。一つ目は、単純にそれしか方法が無いパターン。もう一つは……」
右手の人差し指を得意げに振る。
「スキルポイント経由の習得の方が、より多くの人間のシェアを獲得できる、手頃で人を選ばない方法であった故に、当該以外の方法が淘汰された、ってパターンだ」
左手をスっと下げた。
なんか、ボディランゲージも一々色気でウザい。
「果たして今のこの魔法習得の体系は、スキルポイントしか無かったからこうなのか、違うのか。私はね、こっちに着目してみたんだ。淘汰されたパターン。それだったらまだ、無駄にスキルポイント使って、なんにも覚えられない状態の私にも、習得の見込みがあるだろう?」
困惑の三人を置いてけぼりにするロナ。
「……だから、色んな魔導書を読んで、色んな人の話を聞いたんだ。この魔法はどう使って、どういう仕組みで、どんな人が使うのか。毎日毎日魔法について考えて、感覚的なイメージトレーニングも欠かさなかった。……そしたら、仰天。ある日、私は魔法を習得していた。それが、今のテレポートって訳だね」
「「「…………えぇー」」」
……聞いた俺とダクネスと、ビルドの拘束を解かれたアクアは、そのゴリ押し理論に顎を落とすしか無かった。
まあ確かに発想自体は画期的だし、流石は賢者という感じではあるのだが……そんな取ってつけたような事でいけるとは、到底……。
と、唯一頷いていためぐみんが、聞き入った様子で手を挙げて。
「すみません、それだと、アナタのテレポートが特別な理由が説明されていないと思うのですが、それともなにか、他の理由があって?」
「……ああ、それもまあ、感覚的な部分が大きい話なんだけど、魔法回路を弄ったんだ。運用が難しくなりそうな所に関しては、魔力出力を大きくして代替した。それで私の転移魔法は、魔力をより多く使う代わりに、位置の登録とか無しに自在に飛ばせるようになってる訳。多分、私がそういうのしやすいカタチで生まれたからってのも、大きいだろうけどね」
「……なるほど、私は爆裂魔法の回路を弄るなんて、想像もできませんが……それも、個人の体質に依存するものなんでしょうか?」
「ん? ああ、魔法回路を弄ること自体は、一回認識しちゃえば全然簡単にできるよ。ただ、私の体質が、
「感覚的な部分が大きい、ですか……やはり理論的な部分だけでは、最終的には限界が来るものなんですね。……魔法回路の弄り方、気になります! 是非、是非今度教えて頂きたい!」
「おお良いじゃない、知的好奇心強い子嫌いじゃないよ」
「「うぇーい」」
……。
……白熱した二人は、満足気に拳を付き合わせて勝手に意気を投合させた。
それを聞いていた俺は、天井を見ていた。
アクアはまあ多分、泡吹いたりしてるんじゃないかな、知らないけど。
怪訝に顎を指でつまみながら、固まっていたダクネスが。
「…………いや、ちょ、ちょっと待ってくれ、二人とも。二人が楽しそうなのは良いんだが……私達はその、一つも付いていけてなくて、だな……。……まずなんだ、その、魔法回路を弄る、というのは。……なんか危なくないか? ……何かしらの決まりに触れてたりしないのか、それは」
「んー? ……あーでも、私が確認した感じ特許の申請とかも無かったから、そもそもまだ見つかってないものだと思うよ。見つかってからどうなるかはまあ、知らないけど」
「……知らない……? なんだ、それは。……なんだか凄く、不安になって来るぞ……」
至極真っ当な困惑を浮かべるダクネスに、めぐみんが据わった目で立ちはだかって。
「ダクネス……アナタはやはり未だに頭が硬いみたいですねぇ。……良いですか、あるかどうかも分からない法律の事を気にするより、私の爆裂魔法がいかにより格好良く、より最強に押し上げられていくかという事の方が、圧倒的に優先順位が高いのです! ……というかなんなら、もし法律的にアレなやつだったとしても、この話には全然乗っからせてもらいますからね、私は!」
「なななんて事を言うめぐみん! ……私は、めぐみんに犯罪者にはなって欲しく無いぞ!」
「そっこぉが頭の硬いクルセイダーだと言っているんです! 私の爆裂魔法への深淵の愛は最早、言語体系すらも軽く超越した――」
そこまで聞いて俺は、魔法期間中に作り上げたモジュールを死に顔で有効にする。
あぁあ、増幅されなくなっただけだもんな。
……はーい! コイツらの欠陥自体ホントはありませんでしたードッキリ大成功ー、なんつって、俺のこの二年弱を笑いに変えに来てくれる奴はいないものだろうか。
……ふと。
めぐみんのいつもの爆裂トークで思い出したが、ロナはなんで、さっきのエクスプロージョン直前に突如としてスティール依頼を入れ込んで来たのかという疑問が、まだ解消してなかった。
流石にちょっと
「なあロナ、めぐみんの爆裂で思い出したんだが、あの紫の、よく分からん玉あったろ? お前が爆裂の直前で、なんでか俺にスティール頼んで来たやつ。どうやってアレがトカゲの中に潜んでるモンだって、分かったんだ?」
と、ダクネスとめぐみんの喧騒を横目に、ニヤついたロナの目が向いて。
「ああ、あれ? ……そんなに気になるもんかな。カズマだって分かっててあの感じだったんじゃないの?」
確信犯的に俺をイジって来ている。
……こいつマジで、これ無きゃほぼ完璧なんだがな、勿体無い。
「……。ああいえ、私はロナ様ほど頭も回りませんし顔も良くありませんし身体も動きませんそういう下等な生物です分かりませんでした、故に賢者様の見解をお聞かせ願いたく尋ねました次第です。あぁあ、これで満足かクソガキ」
「……ちょ……っと待てよ……? クソ……ガキ……?」
「……賢者様」
「……なに、賢者さm」
「大賢者様!」
「……おお、ケンメーケンメー」
……聞いといてなんだが、お前はもう黙っていてくれ。
黙ってくれないロナは。
「……別に、私も最初からあの玉の存在だの機能だのを分かってああした訳じゃない。ただ、観察してるうちに怪しく思えて来たんだ」
「ほーん、観察……」
肩を竦めて。
「そもそも、君が言う金にがめついはずのこの街の冒険者達が、四人で割ってもひと月はジャブジャブで暮らせるくらいの額のクエストを放置するわけが無い。それも、一ヶ月。だから塩漬けと言っても沢山の冒険者が挑んで挑んで挑んだ末に、皆難航して片付かなかった、みたいな事なら、まあ納得できるんだけどね……」
ニヤつきながら言う憎たらしいロナは、針を刺すように人差し指を前に突き出して。
「あのクエストの依頼書をちょっと見てたら、気付いたんだ。……表も裏も、凄く綺麗な状態だったんだよ、あの依頼書」
「……ああ、あんまりそこは見ちゃなかったが、それがどうしたってんだ? 別に綺麗な状態だったからって、なにも……」
……依頼書が、綺麗。
何故、綺麗な事に着目したのか。
と、いつの間に手を止めて参加していためぐみんが。
「……この街の冒険者が、あの額の依頼書を剥がさずにいるハズが無い、という事ですか?」
……あ、そういう事か。
人が沢山依頼書を剥がせばもっと汚くなるハズ。
そんで、あの依頼書は何故か綺麗だった……。
俺の考えていた唇は、少し開いた。
「……ふふ、分かった? 画鋲にしろテープにしろ、何かで留められて掲示板に貼られる訳だから、荒くれ達がそれを手に取る度、紙の上部は極小の穴やら剥がれやらがつく筈なんだ。しかも掲示板を見る限り、どんなに汚い依頼書でも紙自体が取り替えられてる感じは無かった。他のがそうだったからね。まああの依頼書が特別汚すぎて、私達が来る直前に取り替えられた可能性もあるけど、掲示板全体を見ればその可能性自体は低いだろう。めっちゃ汚い奴でも変えられてなかったし。そう考えるとあのクエストは、アクセルの街の荒くれ達の手にすら負えないレベルで難しくて難航していたんじゃなく、荒くれ達のがめつさすら手を引かせるほどの、操作、隠匿、或いは圧力があって、難航
……俺は思わず聞き入って、上体を前のめらせてしまう。
講釈に感化されたのか、アクアとダクネスも横で一丁前に思索を巡らせている。
「あの無駄にデカくて広い箱を選んだのも、何かを隠すのには広くて頑丈、うってつけだった、だから隠れ蓑にさせた。そこだってあれが原因物の在り処に選ばれる動機付けとしてピッタリだ。塩漬けにされてた期間も一ヶ月、この街がおかしくなり始めたのも聞く限り一か月前。……まぁ別に、確信しててああ言ったわけじゃない。そもそも、この街に異変をもたらす何かが、今回みたいに明確に物体を媒介にしてる確信も得られなかったからね。けど、気になってたらやるべき事だろう? あのまま爆破させて消し飛ばしても良かったけど、あの魔法玉をもっと解析すればいずれ、あれを設置した人間の能力やら思惑の手がかりが、それは言い過ぎでも、なにかしらの糸口が見えて来るハズだ。不思議な事もあったよな、で、なあなあで終わらずに、次の相手の行動への予防になる。これ以上この街に手を出させないためにも、カズマがあそこでスティールしといてくれて、結果良かったね」
……なるほど。
それでコイツはクリムゾンを差し出してまで。
その長ったらしい種明かしを、何とか噛み砕いた様子のアクアが。
「…………っへえぇ! ロナあんた、口と見てくればかりの男だと思ってたけど、結構頭良いのね! なんかあれよ……天才探偵がちょっとの手がかりだけで、連続なんとか犯を追い詰める……みたいな、そういう感じ? 良いじゃない良いじゃない、ちょっとだけ私、感動しちゃったかも!」
あの引かれたトリガーの数々を忘れたのか、という具合でつらつら褒めを口にするアクアに、同調する形でめぐみんも。
「……同感です。多少理知に富んだ人と思ってはいましたが……やはり、賢者の名は伊達でないようですね」
「そうだな……魔法の理論にも詳しい、それだけ頭も回る、それとその、まあ、肉体も申し分無い……となると、なんでもできるんじゃないか? ……どこをとっても頼もしい――」
と、ダクネスのほんのりの照れ混じりの褒誉も静かに受け取っていたロナは……。
……急に、立ち上がって。
「……っっっっそうっ!! どこをとっても頼もしい、何をやらせてもトップレベル、どんなカテゴリーでも非の打ち所が無い!! ……そういうにくめる男なのだ私はよく分かってるじゃないかぁ特にアクア、君はいい所に目をつけてくれたねえ、私の見てくれが良いのは勿論のこと、その本髄はこの犀利な脳ミソにあるという本質をよく考え取っている! そうだそこなのだよ、私が賢者たる所以は……っ! 一見関係が無さそうに見える点と点を線で結び、設計図を描き上げその盤面を手に取るように支配するそれがっ!! ……私と言う賢者、いや大賢者が……選ばれし者としてこの地で授かった、無二の権能であるのだから!!」
…………。
……言ってロナは、再び座す。
脚を組みながら、化粧水のコマーシャルでも撮るかのように髪をかきあげた。
……冷え目の、アクアが。
「……うん、アンタは、完璧よ……。……もし、それが無かったらの話ですけどね」
俺は、全員から冷めた目で見られる賢者の小さく見える肩を触れて。
「…………まぁなんだ、アクアが言うってのは、その、相当に相当だからな。……早めに気付けよ、大賢者様」
聞いたロナは、顔を深海魚のようにクシャッとさせて。
「……っるさいっ、大いなる力には大いなるなんとかなの! フゥンっ!」
「ドゥワァッ……なんだお前びっくりした、急に肩に力入れんじゃねぇよ爆発したかと思ったぞ!」
ATフィー〇ドで拒絶されたかのように、ムキッという音と共に俺の手はロナの肉体から弾かれた。
そういや、そうなんだよなコイツ。
ナルシがあるからギリ良いが、腹の立つ事に頭良い上、体も良いんだよな。
ムキッしてから、左右の肩を交互にムキムキさせるロナは、なぜか思い出したようにスンとし、ダクネスに向き直って。
「……あ、そういやさ、ダクネスってどういう筋トレしてんの? どうやってメニュー組んでる?」
……は?
今の話の流れを忘れたのか、コイツは。
と、いきなりアタックされたダクネスは、どうやら初対面の時のアレを思い出したようで、ちょっとタジっとしている。
「ふぇっ?! ……めめ、メニュー、だと? ……メニュー……メニュー……か……。……いや、その、あまりそういうのは、共有すべき、ものでは……」
「いや共有すべきでしょ絶対。その肥大の感じだと君、自重メインでしょ? その完成度なら結構というかかなり効率よく鍛えられてるハズだ。若しくは回数をちゃんとこなせてる。私もウェイト無い時は自重やるし、その身体を作ったメニューなら信用できる。ほら、私もアレイ貸してあげるからさ、お願いできないかな?」
「…………し、信よぉ……?」
聞いたダクネスの顔は、筋肉に関してあれだけ現実から逃げ回っていた、自称乙女の端くれとは思えない程満更でもない。
「……ああそうだぞダクネス。コイツからダンベルでも借りて、もっと褒めてもらえる身体になった方が良い……と、思う、が……」
あれ?
……ちょっと待てよ?
「ほほ、褒められる身体とはなんだ!」
「はは、非トレーニーは愚かね。そんなのが目的でやってる身体じゃないよ、この子は」
「…………お、おい! お前もその、喋り過ぎだ!」
……そうだ。
「ふぇっ? なによ喋り過ぎって」
「……言わなくても良い、というか、好ましくもないことを、わざわざ言うだろう、お前は!」
「なんで、言うべきでしょ。というかパーティの為に頑張ってる人間が、卑俗に批判される方が好ましくない事の筈だ」
「…………っ! ……んんむぅ……!」
「…………ねぇねぇめぐみん、この男、本気でダクネスの事落とす気無い訳?」
「……ですよね。でも、セリフはマジでほとんどナンパなのに、態度だけがアスリートのそれです。……本当に気色悪いですが、素でマジでアレなだけのように見えます。ただのイケメン万能キモナルシストかと思っていれば、いやはや、恐ろしい……」
……そうだ。
初対面の時から多少は危惧しちゃいたが、コイツ、ワンチャン……。
二年弱率いてきたパーティの俺への恋愛注目度を、一瞬で一網打尽にして来る可能性がある……。
単純な黒一点ボジの喪失では無い、深部の喪失だ……。
俺は、四人が喋っている方から身体を背けて思案する。
……二人のヒソヒソ話が愚痴る通り、コイツはイケメンで万能だけどキモナルシストだし、多分性格もそこまで良かないはずだ……アクアの磔刑と銃殺刑をグギりながら楽しんでた奴は、絶対にどこか倫理破綻している。
だが、それ故かなにか、人間的な心が分からないが故か……人の人生の核にクリーンヒットする事を、コイツは平気で言いやがる……。
なんだよこれ、口説いてるだろ絶対……!
なんでそんな、授業中の納得できない小学生みたいな顔できんだよ……!
……さっきの感じ見る限り、めぐみんとは既に意気投合してる……。
この流れだと、ダクネスを完全に手懐けるのも時間の問題だろう……。
アクアに関しちゃ分からんが、そもそもこいつは対象外だ。
どうする……二人は既にウェルカムポーズだ、ロナを今更追い出すことは現実的じゃない……。
……なんとか、なんとかめぐみんだけでも、コイツの術中にかけられんようにしてやれないものか……。
……考えた末。
俺は、全力で椅子から立ち上がる。
満面の笑みで。
「あーそうだ、ロナ。いきなりですまないが、これから一緒に風呂に入ろう。……男同士の、深い深い対話だ」
決めた。
……コイツの深層心理にある、というかあって欲しい、女を食いたいだけのナンパ的なメンタリティを暴き出す……!
そんで、めぐみんにだけは手を出させないようダメを押す!
……あわよくば、コイツの口からホントは身体が目的でしたみたいな言質をとって、無理矢理にでも恋愛対象外に引きずり出してやる……!
……と、何故か四人の視線は、俺を怪しんでいる。
めぐみんとダクネスに至っては、口元を震わせている。
……アクアの神妙そうな声が。
「……カズマさん……? ……この子は確かに、顔自体は可愛いかもしれないけど、もう少し……段階を踏むってもんがあるじゃない……?」
ん?
どういう……何を言ってるんだ、コイツは。
「…………カズマ? ……私のアピールが、消極的過ぎたのが、問題だったでしょうか……?」
と、今にも泣きそうな顔で俺の袖を小さく引いてきためぐみん。
……え、待って。
横の椅子に座していたロナは、軽く笑いをこらえながら、負けたサッカーチームの控え室のように、徐に上体を伏せて。
「…………リーダー……やっぱり……っ! ……両刀使いの英雄さんなんじゃないすかぁ……!」
…………っハァン!
すいませんホント、違いますぅ……ッ!
「……っ違いまああああす!! 絶対! 絶対に、違いまああああす!!」
……最悪の懐疑に身を灼かれた俺は、必死の弁明の末にロナとの入浴を果たすのだった。