この素晴らしい世界に祝福を!オールマイティ! 作:円卓騎士夫婦別姓
「…………どんな女がタイプだ……!」
屋敷の、風呂。
並ばない肩を無理やり並べて俺たちは、男二人で湯舟に浸かっていた。
俺は今、無駄に彫刻よろしくの身体をこさえていやがるロナに向かって、
「……ドンナオンナ……?」
問われたロナは、なにやら芸人のコンビ名とでも思ったのか、顎をしゃくらせながら怪訝な顔を浮かべやがる。
湯面の上の上半身に、アクアのそれよりあるんじゃないかというサイズの大胸筋が付いていて心底憎たらしい。
頼むから、人より綺麗に生まれたんなら努力しないでくれないか。
「……なんかお前、勘違いしてるか? ……『どんな』、『女』だぞ。何も、突然そういう異国の珍味みたいなヤツの名前を口走った訳ではない。単純に、女の好みだ。……どういう女にお前はそそられるのか、そういう話をしてんだよ」
通常あり得ない俺の説明で、ロナはようやく合点がいったようで、右手の人差し指を湯から出して。
「……あ、なるほど! ……つまり、私はどうゆう女性に魅力を感じるのか、それが聞きたいって話ね?」
「噛み砕くことでもねぇけど……まぁ、そういうことだ。ハイスペのお前の事だし、何人も女食ってきて自分の好みくらいは――」
と、ロナは組んだ足首を
「そそられると言えばそう! ……ラモントにおけるジョンヌなんて魅力的な女性だったよねぇ……?」
「ジョンヌ、か。あんまり知らん名前だが、どんな女なんだソイツは」
……ジョンヌ……。
なんだか知らないが、とりあえずお姉さんっぽい感じの名前な気がする。
どうにかここから、グラマラス体型が好みみたいな言質に繋げたいものだが……。
と、ロナは人差し指を得意げに振って。
「……そう、『Nフリックスドラマ』の『ラモント』におけるジョンヌ……! 元シリアルキラーである彼女を、一方的に信仰している模倣犯より向けられたシグナルから、犯人の動機には承認欲求が根強くある事を分析し、それを逆手にとって『当該犯行は拙い出来損ないによる模倣に過ぎない』と公表させ、激昂した犯人に計画外の行動を起こさせてボロを作らせる……! あのシーンのジョンヌの智将ぶりと来たらもう……もうだったよなぁ。……まあ、ああいう深い思索家な女性は、なんだか見ていて飽きないよね」
大仰に身振り手振りを付けて、クラシックでも指揮しているのかという感じで言ってみせた。
よくあるドラマの知能犯的な奴だろうか。
「……あぁー…………はぁぁああ……?」
……俺は、その回答を一瞬だけ受け入れてやろうかとも思ったが、普通に看過できず、疑問符付けて言葉尻を上げた。
同性にも発動するタイプのムッツリかよ。
俺に聞かれた以上、それで行けると思うなよ。
「ん? 何か変だった? ……あ、もしかして被っちゃった?」
とぼけ顔で戯言を吐くクソガキを置いて、俺は凛とした口元を開き。
「……俺は、そんな陳腐な話をした覚えは一切無い」
眉間に皺を寄せて。
「俺が聞いたのは『どんな女にそそられるか』、だ……」
「んん……? 別に、その通り答えたけど」
ロナの瞳をギラッと睨み、その瞳孔を突き刺すように……。
「どんな『カタチ』の女にそそられるか、それが、今お前が問われている問題だ……」
「……カ、タチ……?」
もっどかしい。
人を苛々させる天才だな。
「……とぼけるな。……普通どんな女がタイプかなんて聞かれた時ゃなあ、お姉さんっぽいクール系の顔が好きですとか
……と、呼吸が足りなくなって来たので俺は一度、目一杯肺に酸素を取り込んでから。
「そういう話を……しに来てんだよ!」
言い終えて俺は、赤い
「…………はぁ〜ん、そういうことで……」
塩顔イケメンはようやく俺の問いが示す方向を分かったようで、ちょっと鼻で笑いやがりながら眉を下げた。
「……そういう『タイプ』かぁ……。……うぅーん……」
そう顎を指で摩りながら、何を思ったかロナは思考の淵に沈む。
俺は、そのうざったい作法で思考するロナを横目に、更に深い
コイツの好みは当然知ったこっちゃないが……まぁ推し量るに、一度ああいう、性格的な面しか見てませんよ、的な隠し方をしたということは、恐らくムッツリの方向ではあるはず……そして女食いにムッツリなど存在しない。
まあコイツの動機に女食いは無い可能性が高いのは分かったが、何れにしろ俺の目的は恋愛圏内からの追放……実際どうであるか等どうでもいい。
……そしてムッツリ系男子というのは往々にして、王道の性癖を持っているものだ……内向的に測るが故に癖の新陳代謝が落ちる。
つまりコイツの持つ癖は、十中八九スタイルの良い同世代女的な、若しくは巨乳的な……そういう捻りない、面白み無い、当たり障り無いヤツ……!
つまり、ドンピシャでダクネスの筈なのだ……!
ダクネスの身体が目的みたいな言質に繋がる発言を引き出して、それを通報すれば、必然的に俺のハーレムライフは円満に継続させることができる……。
「……うーん、それだとねぇ……」
と、ロナは顎を摩っていた指を人差し指に変えた。
期待通りに言ってくれると……。
「私、あんまり考えたこと無かったから分かんなかったんだけど……」
あーいいいいそういうの、とりあえず
「……まあ、とりあえずここで考えてみた末……」
と、俺の方を見て。
「……悪いけど、分かんなかったわ。タイプ」
「…………あー……」
……静寂。
それを跨いで俺は、湯船の湯を小さくパシャッと顔に浴び、再び静かに浸かる。
再び、静寂。
「いやそれで良いわけねぇだろうがテメェええええええええええええええええ!」
血を吐く思いで沈黙を破った俺は、同時に浴槽の水面も切り裂いてお湯カッターを飛ばした……!
カッターをものともしないでやがる、ロナの憎たらしいニヤけ口は。
「おぉおぉ、大きい声出すとまた三人に勘違いされちゃいますよ」
「っ黙れカス! 俺はお前のニヤニヤ詭弁はもう聞き飽きたんだよ!」
そう一喝し俺は、賢者気取りのこの愚か者を裁くべく……ザバンと立ち上がってロナを力強く人差し指で差す!
「……さっきからある程度自由に言わせてやってたがもう限界だ……! んだよタイブが分かんなかったってよ!! ……そもそも隠してやがんのもいけ好かねぇが、隠すにしろもっとやり方ってもんがあるだろうが! なんなんだ、ふざけてんだろ「分かんない」ってぇッ!」
「ぉ……? おほぉ……っ?」
未だに俺をコンテンツ化して笑ってやがるので、俺は更に迫ってニヤけ面の額を人差し指でコネ回し……!
「良いかよく聞け……? 俺たち男ってのはなあ、男として生を受けちまった以上、大抵の女を一定以上のエロい目で観察するスケベ野郎になる以外ありえねぇんだよ!! 知らねぇドラマのスマートっぽい女出して理性派気取りやがってよぉ……? ……あーもういい、分かった、今から俺がお前の具体的な好みをスパッと当ててやる。……巨乳筋肉女だ。若しくはそこに高身長付き。……どうせあのよく分からん魔法玉に性欲増進されて、ダクネスの無駄にエロい身体食うために口説きに来ただけなんだろ! なぁ、そうなんだろ……? 男しか居ねぇんだ、こんな所くらいちょっとは正直になってみやがれこのムッツリ童貞大賢者がぁっ!」
……俺の荒い息の叱咤を受け止めたロナは、流石に少しは動揺したのか一瞬脇の方を向いた。
再び俺に向き直って。
気色悪いほど、穏やかに。
「……大丈夫? ……なんか、あった?」
「……はぁッ!? お前に優しくされる筋合い無いわッ!」
……クソ歯痒い問答の中で急に優しくされた俺は、そのロナの
……覚えた、のだが。
なんだか、コイツの顔を見る限り本当に隠し事は無さそうな感じだったので、俺は渋々腰を下ろし、再び湯に浸かる。
呆れ顔で。
「……………………はぁ……。……まぁ、なんだ。……お前がちょっくらモテそうで、顔もイケメンだったから、ちょっと不安になっちまっただけだ。……大した話じゃない、忘れてくれ」
俺が浴槽の
「……え、なに? もしかしてカズマさん、パーティに誰か好きな人でも居――」
「居る」
「……うえ、速ぇなおい」
アイスクリームを勧められた小学生ばりの即答をかました俺に、ロナは口を
「……居る。俺が好きなヤツも居るし、俺を好きなヤツもいる」
「わざわざ分けたね」
「あぁ、わざわざな」
と、俺はこの複雑怪奇な屋敷の恋愛事情を説明すべく、右手の指を折り始め。
「まずな……あの赤毛ロリの少女めぐみん、コイツは今、実質俺の嫁状態だ。お互いに好き同士だし、なんなら大人チックなキスも既に済ましてある。……もっと深い事をしようと誘われちゃいるが、まぁ、なんだ。……今はまだ、その頃合いを待ってる状態だな」
「……コロアイ?」
「…………そう、頃合い」
と、ロナは真顔で背骨を立てて。
「完全に納得した」
「黙れ」
ソレをいなして俺はもう一本指を折る。
「……そんで、お前が初対面でショートさせた筋肉女のダクネス、コイツは俺に惚れている。……好かれた心当たりと言えばまあ、
「ほえ〜、略奪。……悲しかったんだ。……やっぱカズマさん的には、めぐみんがファーストキスが良かった?」
「……違う。お前への皮肉だ」
聞いてロナは、さも理解不能という感じで斜めに口をひしゃげさせて。
「ん? なにどゆこと、私がカズマのファーストキスが良かったの? ……やっぱ両刀?」
「……もういい黙れ」
「……今日超然多いな……」
俺は無視して続ける。
「で、アクア。コイツはそもそも俺の恋愛対象外。アッチから一方的に惚れられてるかは知らんが、ペットくらいに俺は思ってるのでまぁ今回は関係無し。……加えて俺は、魔王ぶち殺した英雄の特権って事で、
……と、俺のそのハーレム系主人公的なポジショニングを聞き終えたロナの口角が、クィっとして。
「なるほどね、性処理ペットのアクア様って訳か」
「喋るな」
「……図星だったか」
「喋るなっつったぞカス」
流石にキモいしムカついたので俺は、ロナの顔面目掛けて両手の水鉄砲をかますが、なんとガパっと大きく口を開けられてしまい、
えゎー気持ち悪、うそ。
「っげ……っ! ……うわお前……やっぱ変態だったか気持ち悪いな」
俺の当惑と嫌悪を無視して当然のようにうがいをしやがり喉仏を上下させてから、ロナは再び大口を開けて俺に見せて来た。
「実は転移させたんで、お腹にお湯は行ってません」
「……あぁ、そうだったか。……気持ち悪いな」
当たり前に変わらない俺の悪態に、ロナはスンと戻ったかと思えば、髪をかきあげながら。
「『エグい』とかの類の褒め言葉かな」
「……あぁ。……そうそう。流石は賢者様だな、頭の回転が早い」
「んー、異存無し」
棒読みのそれに対し満足げに言ったロナは、左手をヒョイと俺に振って、その気持ち悪いニヤけ顔にドヤを混ぜる。
……まあ、心配しなくても、コイツが異性に好かれたりする事は無さそうだな。
あぁでも、ふとした時のタラシとかはあるのか……。
コイツ黙ってりゃただのイケメンだしな、黙ってりゃ。
……あぁ、クソ。
……なんでこんな
ふと、俺のモツをイチ瞥してから、再び鼻で笑いやがりながらロナは。
「いやぁ、なるほど。話聞いてて、妙にこのパーティ湿度高いなと思ってたら、そういう事だったんだね。……この不思議な屋敷のその正体は、なんとカズマさん専用のトルコ風呂ハウスだった訳だ」
トルコ風呂とかいう比喩は流石に最悪過ぎてムカつくので、俺はそこそこ憎しみを込めてロナを睨み。
「……は? おいクソガキ、勘違いするなよ? 自分で言うのもなんだが、俺はまあ確かにスケベだし、おこぼれエロ体験の機会があろうもんならマグマの中でも飛び込むような
俺は割としんみりとそれを言い終え、再び前を向いた。
言ってから気付いたが、ちょいとばかしクソガキに
……と、反応が気になって、俺はチラッと聞き終えたロナの顔を覗き見た……。
……ところ、俺の魂込めたボーダーライン設定を聞いても、ニタニタ笑ったままだった。
どうやら賢者様の目には、俺の描く極めて人間的な線引きさえもバカバカしい喜劇に映るらしい……。
人差し指を立てて。
「因みに、トルコ風呂の由来はね……オスマン帝国の政治の中枢にもなった、王家側室候補の女官を雇ってたハレムから来てるんだよ。帝国衰退の十八、九世紀頃には無くなったらしいけど」
ありがたい叱咤を無視して、ロナはヤケに博識感のある雑学を垂れた。
「…………」
……なんか普通に、コイツとマトモに取り合うのがバカバカしくなって来たので、俺はもういっそ肩を竦めて。
「…………はっ、知らねぇよ。俺は高校行かずにヒキニートしてたから、そういうチャチでアカデミックな知識に、関して……は……」
…………………………あれ。
待て。
「……へぇ。
……トルコ。
……オスマン帝国。
……十八、九世紀頃?
てかさっきコイツ、あっちの神様って……。
……と、俺が気付いた時には既に、ロナのニヤけフェイスがこちらを見据えていた。
「じゃあカズマはさ、どこ住みだったの?」
「どこ、住み……ですか?」
……アクセルと答えるか、それとも……。
「そうそう」
わざとらしく、低い声が。
「……
ロナは人差し指を立て、悪戯っぽく問うて来た。
……聞いて俺は、風呂場の天井を見渡した。
嘘ぉ……。
……