この素晴らしい世界に祝福を!オールマイティ!   作:円卓騎士夫婦別姓

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この素晴らしい世界に同郷を

「「「て、転生者ーっ!?」」」

 

「……左様でございます」

 

 私は高慢な笑みを浮かべてそれに応える。

 

 

 ――風呂上がり。

 

 

 餅つき芸人よろしく一斉に振り向いた三人は、その転生者宣言に度肝を抜かれたようで、目を丸くするとはこの事かという具合だった。

 

 興奮冷めやらぬ様子のめぐみんが、

「……つ、つまりその……カズマのそれと同じように、別の世界から……その、この世界にやってきたっていうそういう事ですよね……?!」

 

「そうね。……なんなら国籍もカズマと同じだよ」

 

「国籍もぉ?! ……じゃあ、アナタ達二人は……っ同じ国を祖国を持った、同郷の転生者という事ですか……?!」

 

「んいかにもっ」

 

「……そんな、ことが……っ!」

 

 言いながら私は、構築魔法(ビルド)で作った白黒のハイバックオフィスチェアの上で回る。

 

 この回転椅子もなかなか魔力を食ったものだが、まあ今日のところは筋トレして寝るだけだし、あっちから生活の為の諸々のモノは転移させ終わっている事だから、良しとしよう。

 

 と、訝しげな顔の女神様が何やら手のひらを向けて来て。

 

「は? ……ちょっと待ちなさい……。私は分かるわよ。ずっとあっちで日本人の転生担当させられてた私は分かるわよぉっ……!! ……私の頃にアンタみたいな顔の日本人が転生に来た覚えは無いし……私が天界を勇退した後だって、あの子が上手くやらないせいで日本からの転生者はめっきりゼロになったハズなのよ!」

 

 ハッとした様子のララティーナも。

 

「あぁ、そういえば……ソードマスターの冒険者がそんな事を口走っていたような、いなかった、ような……」

 

 フンっ、という様子で、女神様は追い風感じながら。

 

「……っソレを何よ、カズマと同郷とか言ってみたりして変に懐入ろうとして……。つまらないホラ吹くのは構わないけどねぇ、女神様の慧眼はそう簡単に欺けるものじゃないって事を覚え──」

「埼玉県川口市出身好きな歴史人物はオットー・ビスマルク別名鉄血宰相だ」

 

 女神の慧眼を貶めるべく私は、視界の回転をそのままに人差し指を立てながらかなりの早口で言い放つ。

 別に特に歴史人物に思い入れがあるわけではないが、この方がなんか圧倒してる感じなので、この感じで。

 

 考えてみれば、鉄血宰相のとこは別に言わなくて良かったかも知れない。

 

「…………あ、そう……。……ビスマルク、ビスマルク、ね……。……カッコ良いわよね……」

 

 聞いたアクアのだらっとした口の開き方からして、推理としてかなり自信があったようだ。

 

 というかまあコッチも、最後がどうとか担当者がどうとか知らんしな。

 

 ジャージ姿で猫を撫でながら、脇目にソレを見ていたカズマが。

 

「残念な事にアクア……コイツは多分マジのマジで日本人だ。まずコイツは、あっち特有の都道府県っつー地方区分の概念を前提に喋ってる。加えて、あっちの歴史上の人物を知ってる上に二つ名までスっと出てくると来た。これはもう日本人じゃない方が不思議なくらい。……というかまあ、俺以前の転生者なら幾らでもいるだろうしな。……ま、だがしかしだ」

 

 言うと、猫をドサッと膝に収め私を小さく指差しながら。

 

「コイツ……気持ち悪いことに、2026年とかいう近未来から転生して来たらしくてな」

 

「……に、にじゅうろくねん? ……ソレって、今度こそおかしいじゃないの、カズマがコッチに来た時なんて、10年前11年……いや、なんならもっと昔だったはずよ? 未来人が転生して来るなんてことは、常識的に考えてありえない……! やっぱり、なんかしら隠してるんでしょ、アンタぁ!!」

 

「……うーん……」

 

 アクアはそう言うと、シュワシュワの瓶を掴むその手で、尊大に人差し指を突き向けて来た。

 

 いや、別に私も知らないんですけど。

 まあしかも……。

 

 私は人差し指を立てながら、深海魚的なひしゃげ口で。

 

「……あれだもんね? 常識的に考えたら、転生なんて普通に起こりうることだもんね?」

 

「…………っあぁー……」

 

 ソファの気怠げなカズマは、女神様の口ごもりを聞いてニヤッとし。

 

「……あー、なるほど。常識的に考えて……日本で死んだ人間が天界に行って、そっからどの世界に行くかを聞かれる、なんてことはあるにしろ……時間軸を超えるなんてそんな超常的で非現実的なことは、常識じゃありえない……って、そういうこったな」

 

「もちろん」

 

 相当性格の悪い顔でコチラに寝返ったカズマに、シグマフェイス的な顔で私は右手を鳴らす。

 

 いいねいいね。

 カズマーがパーティにいれば、メンバーイジりには事欠かなそうだ。

 まあいなかったとてここには、私が想像する以上に広大な()()がありそうなものではあるが。

 

 途中からついていけなかったであろう二人が、ヒソヒソしていて。

 

「……陰湿だな」

 

「……ですね」

 

 聞いたカズマ―は、わざとらしく私の髪かきあげを真似たようで。

 

「おいおい心外だぜ……俺達はただ、迷える子羊に向けて論理的に導きを与えてやっただけだ」

 

 加わる。

 

「丁度……女神様のようにね」

 

 ……言って私達は小さく笑い、自身の手に顎を載せる。

 

 いじけた様子のアクアが、

「……んもうっ、カズマの引きこもり陰湿ニート!! 私もう寝るからぁっ! ……あ、言っとくけどねロナ! ……余計な通報して私達パーティの輪を乱した罪は、絶対どこかで償わせてやるんだからぁっ! 覚えときなさい!!」

 

「あ、おい! 引きこもりニートは別に良かっただろ!」

 

 ──バタム。

 

 的外れな恨み言を述べてアクアは、一瞬ドアの隙間に親指を挟んでからリビングを出て行った。

 

 ……この自称女神様、相当可愛らしい脳みそをしてる可能性があるな。

 

 * * *

 

 コロコロ。

 

「しかし、アレイと言っても相当種類があるんだな。……というか、これはもうアレイですら無くないか?」

 

「あぁ……コレはベンチって言ってね。体幹を鍛える時は可動域取らなきゃってので、地面と体の間に距離を取るために使うんだ。まぁメニューによっちゃ脚とか腕でも使うけどね」

 

 廊下を歩くダクネスについて行って私は、筋トレ道具を荷台に引いて運ぶ。

 

 転移魔法でシュッシュシュッシュとちびちび前に転移させながら運んでいるからまぁ行けるが、それでも体感二百キロくらいはありそうな感じなので、全然キツい。

 

 コロコロ。

 

「なるほどな……本格的に身体を鍛えるとなると、より動きを大きくした方が鍛わるという感じか」

 

「そうそう、だからダクネスも自重だけで頑張ってくより、こうやってウェイト使ってトレーニングした方がより早く筋肉着くよ」

 

 コロコロ。

 

「……あぁ……ロナ、それの事なんだが……私は、あまりその……筋肉を着けるつもりは、無くて、だな……」

 

「ん? ……いやいや、クルセイダーなんだったら、ガタイ良くして耐久力上げてった方が良いでしょ。……あ、もしかして、弱い身体の方がダイレクトに痛みを感じれるからとか?」

 

 コロコロ。

 

「……あぁ、まあそう、そういう、ことだ。私はーそのー、より虐められるような状況の方がー、滾るという、もの、でな……」

 

「ふーん、そう。……まぁでも、結果人守れれば、何でもいいよね」

 

「…………っ。……ふっ……そうだな」

 

 コロロロ、ガチャン。

 

「…………で。……だ」

 

 自室であろう部屋のノブに手をかけたダクネスは、私に背を向けたままで。

 

「なにかな?」

 

 

「……何故お前は……私の部屋まで着いてきたんだ?」

 

 

「…………部屋までの道が、同じだったからね」

 

 

「………………そうか」

 

 そして、私は……

 

 ……ダクネスの隣の部屋のドアノブに、しっっっとりと手を掛ける。

 

 

「……」

 

 

「……」

 

 

 ……剣を交える者同士が互いの切っ先の動きを見逃さないような、そんな鋭さの沈黙。

 

 

「…………っ良いわけ無いだろおおおおおおおおぉっ!!」

 

「どぉほっうるさ!!」

 

 ダイナマイト爆破か何かのような轟音と共にダクネスの俊足の手が伸び、私の白無地のTシャツの首元を掴んだ。

 

 必死の形相で、

「……ん何故だあっ!! ……何故そうも私のプライベートにぬけぬけ入って来ようとする!!」

「……いやいや私は別に、君のプライベートを侵したいとか、懐に入りたいとかそういうのでは無いよ?」

「じゃあなんでだ! いくらでも部屋があるだろぉ!」

 

 ……溜めて、溜めて。

 

「……ギシギシ、ゴソゴソ……ってのが、少々気がかりでね。……解明しに、やって参りました」

 

「……ッハーっ……!」

 

 息を吸うダクネスの赤かった顔は最早青白くなり、絶望の目で自分の頬を両手で包んだ。

 

 膝を震わせて、

「……や、やめろ、やめてくれお願いだ。……別に、別にそんなこと解き明かした所で……お前には、何の得も利益も無いだろう……?」

「いやいや、知的好奇心が満たされるんだから万々歳だよね。私の目的そのものだ」

 

「……あ、あわぁ……はわああぁ……っ」

 

 ……と、ダクネスは震えるついには膝を折り、そのまま廊下の床にへたれ込んだようだ。

 

 解明しなきゃだからね、しょうがないね。

 

「……っハァ……ハアッ……」

 

 床を見つめて悶絶するダクネス。

 

「ぅ……ハアッ……ぅう……」

 

 さあ、ここで自白したってそれはそれで良いぞ。

 

「……ッへへ、ッハァ、ハアッ……。……ハッヘェッハ、ヘッ、へへへ、へ…………」

 

「…………。……ん?」

 

 ……絶望に打ちひしがれていた筈のララティーナは……なんだかいつの間に、喜悦っぽい感じの吐息をしていて。

 

 私を見上げながら、覚束(おぼつか)ない手で再び胸倉を掴み取り。

 

「……この、っ鬼畜めが……っ」

 

「……んん?」

 

 ドカッと立ち上がり。

 

「鬼畜めがあ……ッ!!」

 

「ぉ……?!」

 

 その眼前の表情は、興奮しているのか羞恥しているのか分からない、とんでもなく……とんでもなく、厳しい表情だった。

 

 震える口元が。

 

「……ぉ、お前は……私の鍛錬に向かって……『尊敬』等と……甘い、言葉をかけて、その末に懐に潜り込み、夜な夜な私が自分を慰める音を聞きにゃがら頭の中でわたひの事をめちゃくちゃにするつもりなのだなぁっ!! ……鬼畜! なんという鬼畜……っ! 私の心を弄んだ末に最後には、最後には……妄想の中のにゃぐさみ者にしようとしてぇ……っ」

 

 

 

 解明……しちゃった……。

 

 ダクネスは、構わず。

 

「……ロナ! ……私を……っ! ……エロい目で見るなぁ……ッ!! 」

 

 …………。

 

 言動に一貫性が無い。

 

 理解不能。

 

 決め台詞を終えたダクネスは荒い息を吐きながら、とんでもない表情をそのままに私を見上げ続けた。

 

 ……ここから、どうなるんだろう。

 このまま私が何もせずに永遠にこうだったら、クソ面白いぞ。

 

「……ご愁傷、さんです……」

 

 言って私は扉の前から立ち退こうとしたのだが、そもそも荷台がクソ重いし、且つ何故かダクネスの手が一切緩まないので、本当に永遠にこうなんじゃないかとすら。

 

「……ェ……ヘロい……目でぇ……っ」

 

 ……厳しい。

 

 言っときながら、ピンクのネグリジェの胸元を強調しようとしてるのが特に厳しい。

 

 ……まあなんだろう、ちゃんと見ればそりゃあカズマーの言う通りグラマラス系の体型なんだろうが……今の私には、それに興奮を覚えるだけの脂質すらも足りていない。

 

 ……てか貴族なんでしょ、王女様の前でもこうなのかな。

 こうだったら相当だけどな。

 

 私はもう扉の前から動く事を禁じられたような状態だったので、思い切って扉を開けて入ってアレイやらベンチやらを置き、そこを筋トレ部屋として使うことにした。

 

 ダクネスが去って行ったのを見てから、もう一つ隣の部屋に家具を持って行った。

 その日は、筋トレしてから寝た。

 

 二つ隣だけど、聞こえて来るかな。

 

 「音」。

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