この素晴らしい世界に祝福を!オールマイティ!   作:円卓騎士夫婦別姓

15 / 16
この素晴らしい世界に同郷を!(2)

 俺は久しい、アクセルのギルド。

 

 最近何かと増えているらしいアンデッド大量発生のクエストを終え、冒険者達はちゃっちゃと酒場に集まっていた。

 

「のぉっぞむところよォッ!」

 

 一ヶ月経った。

 

 ロナが予備財布の役割を受け入れてから、一ヶ月。

 

 俺が王都アクセルシャトルランにヒーヒーと音を上げていた間、腹の立つ事に賢者様はこの騒がしい街と屋敷を存分に堪能していたようだ。

 

 ロナの来た2026年というのはどうやら、かなりネットのアツい時代が到来しているそうで、ネット発の文化が今や学校やらテレビやらという表舞台に進出するのも珍しくない、そういう感じの文化革命(ルネサンス)が起こったらしい。

 

 万人受けするその文化を転用してこの異世界の人間にウケそうなモノを提供し、酒場での宴会の台風の目を担っていやがる。

 

 ギルドの真ん中のテーブルで酒を酌み交わす冒険者達も、ロナの持ち込んだミーム的なネットの文化で盛り上がっているようで、今だって『ピーポーピーポー』とかなんとかいう掛け声に乗せられて、アクアが小躍りしながら人の円の中に飛び込んだところだ。

 

 ……ネットがイケてる側の時代か、俺もその時に産まれたかったわぁ。

 

 かなり盛り上がってはいるが、最近は四六時中こうなのでルナのお姉さんの殺意が痛い。

 

 コップをコトンと置いた席のロナは、振り付けを律儀にするアクアに手拍子をしながら。

 

「はいアクアは神神ほっそいかっすい信仰人口アクアは神神〜!」

「はい……って、はあぁ?! アンタ今なんつったのよ!! ……ほっそいかっすい何よ! もう一回言ってみなさいよ!!」

 

「ッブーッ!! ……ぶはっはっは! ……言われてんぞアクアの姉ちゃん!! 賢者様にもライムで返してやんねぇと無作法ってもんじゃねぇの?!」

 

 笑いながらアクアの詰問を凌ぐロナを見て、酒を吹き出した金髪のチンピラが野次を飛ばし、更に冒険者の円は騒がしさを増していく。

 

 俺だって酒場で何度も騒いで来た口だが、ああいうのは途端に『違う』と分かる。

 

 なんだろう、アレルギーかもしれない。

 

「……やってられっか、陽キャ集団が」

 

 俺は言いながら、円の外に弾き出された小集団の中でちびっとシュワシュワを呷る。

 

「……アイツは、本当にアレでシラフなんだろうか……」

 

「あぁ、シラフでいてくれてありがたいな。……あの賢者様にもし酒が入ったらなんて考えるだけで、ルナの胃壁が削られる音が聞こえて来る」

 

 呆れたダクネスの視線に、俺はもう一度受付のお姉さんの顔色を確認して応えた。

 

 この一ヶ月、ダクネスはロナとの関係を相当深めていたようだ。

 トレーニー同士で通ずる部分があるのか部屋の位置がめちゃくちゃ近いし、どうやらダクネスは食事管理を教えてもらったそうで、土日にあったダクネス自身の誕生日にも、ケーキを一口しか食べれずに悶絶していた。

 

 乙女の端くれよ、タンパク質摂取は筋肉量を増やすぞ。

 

「なんでしょうね……ロナは確実に頭は良いはずなんですが……。世の言う『賢さ』とは一体なんなのか、考えさせられる画ですね……」

 

 めぐみんが写真を撮るように指を作り、ロナの方を覗いて言った。

 

「いやアレはバカだろ、絶対に……バカだろ。……なんでバカじゃないんだよ」

 

 この様子のめぐみんだって、最近はかなりロナにかなり肩入れしている様子がある。

 

 俺が王都に居る時の爆裂はもうほぼ全てロナが付き合っているらしいし、魔法回路の弄り方とかいう激ヤバ付け焼き刃技術を使って、郊外のそこらの構造物を変な形に爆裂させて回った跡がある。

 

 挙句の果てに賢者は『エクスプロージョン・オウネイジ』とかいう、もう目も当てられない名前の新技を考案させてしまった。

 

 ロナのふざけた声が、

「……え何で何で、『信仰人口』って韻全踏みだよ? 何がダメなんでおま?」

「は?! ライムの事なんか聞いてないわよ!!」

 

「……あでも『ん』があるか、二回。そこか」

「だっからあ!!」

 

「いいぞやれやれー!」

 

 ああしてロナの胸倉に食ってかかるアクアですらも、この一ヶ月で賢者のバカさと完璧にシンクロを決め込んでいる。

 

 魔法で日本のモノをトレースしているんだろうか、ギルドで意味わからん音楽を流しながら変な踊りを踊ることの多いロナ。

 アレだけ自分を傾国顔とか豪語しておきながらも、一切イケメンの自覚がないその動きぶりと表情管理に乗せられて、ウチの駄女神様はノリでその地獄に飛び込んで行ってしまう。

 

 大体の場合アクアはロナのおもちゃにされて宴を終えるが、酔いが覚めると同時にその怨念も吹き飛ぶようだ。

 

 ……本当にうるさい。

 あの二人は、オンオフ関係無くずっとああなのが信じ難いところ。

 

 まあでも、アイツらも楽しそうだし騒がしいとこだけは堪忍してやるか。

 俺への注目度を削ぐであろうあの塩顔が、常時ちょけた顔のおかげで上の下から下の上くらいにランクダウンされる事だしな。

 

 顎を摩るダクネスが、

「なあカズマ、アレはその、私が止めに行くべきなんだろうか……私しかアイツを止められんだろう」

 

「あぁ。あのアンデッドの群れ討伐の時に、お前とロナで群れの中を追いかけっこして、クエストが一時間余計に長引いた借りがあるからな。……存分に借りを返せ」

 

「……へ? ああいや……ア、アレは、その……転移して先回りをしないロナだって、悪い所はあるだろう?」

 

「は? いや、お前がそもそも『アンデッド達の容赦ない蹂躙……!』とか恍惚して群れの真ん中に滞在してなかったら、アイツだってお前のこと捕まえて転移させに行く必要無かったんだよ! ……いやまぁ、アイツもなんか本心楽しそうに鬼ごっこしてたのもムカつくが!」

 

 思わず席からケツを浮かして俺はツッコむ。

 

 ……そう。

 ダクネスは何故か、一番転移魔法にかかってもらえないと厳しい前衛の人は何故か、生来の魔力抵抗がエグすぎて、ロナと直接体を触れないと転移ができないらしい。

 加えてその場合、二人同時でしかテレポートできないようだ。

 

 サラブレッド故の不便か……いや別に、コイツにとってはご褒美を邪魔されないでくれる特権なのか。

 

 怒り心頭のアクアを振り払ってきた様子のロナは、かなり性格の悪い顔で俺達のテーブルに戻って来た。

 

「……あー面白かった、トップオブザヘッドでぶちかまして来ましたわ」

 

「おーそうか……じゃあお願いするが、あの受付のお姉さんが向けてくる鋭利な殺意も、そのトップオブザヘッドとやらでぶちかまして来てくれねぇか……。このままだと俺が殺される気がする」

 

 ニタっとして人差し指を立て、

「……オッッケーです」

「あおい、お前も焚きつけるなカズマ!」

 

 と、踵を返して受付カウンターに走るロナを羽交い締めるダクネス。

 

 その必死の取り押さえをジト目で見るめぐみんは、オレンジジュースを呷りながら。

 

「まあでも、ちょっと前の青龍(せいりゅう)撃退クエストでもロナは相当活躍してましたから……これくらいの羽伸ばしなら大目に見てくれるでしょう」

 

「……ああ、青龍撃た……って、え、は?! いやいや、青龍撃退ってお前それ……億とか行くクエストじゃ無かったか?」

 

 聞いて俺は、あまりの驚きで席から浮かした腰をテーブルにぶち当てた。

 

「ええ。それでロナは、そのクエストのMVP(エムブイピー)ということで、分前(わけまえ)の二割の7000万エリスを……」

 

「……っかー、なな……千万……」

 

 ……いやはや急に何かと思えば、俺がいない間にそんな大仕事を片していたとは……。

 

 青龍撃退と言えば、そう……。

 

 アクセルの春先恒例、近くの森に巣作りの為の(みき)を取りに飛来する危険な青龍。

 

 森の生態系を(ことごと)く破壊するその龍を撃退するという超高給クエストで、蒼炎(そうえん)無尽蔵(むじんぞう)に吐き散らすとにかく強いトンデモドラゴンを、強すぎて倒せる見込みが無いので取り敢えず追い払おうという趣旨のものだったはず。

 アクセルの街の凄腕冒険者達が凌ぎを削りに削った末に、ようやく(ねぐら)に追い返すことができるというあのクエストだ。

 しかも、ロナがそのクエストのMVP(エムブイピー)だとは……。

 

 ……というか待て、普通にロナの口からそんなの聞いてないぞ、こいつの報連相はどうなってんだ。

 

「はぁ……またアクアさんで好き勝手大騒ぎして。まぁでも、例のクエストの活躍もありますから多少は目を瞑りますが、やり過ぎないようにしてくださいね」

 

「ほら……お前も反省しろ、温情で許してもらってるんだぞ!」

 

「ほっ、割とすぐ許されて草」

「っく、臭……だと……?! ……な何言ってるお前、デリカシーというものが無いのか!」

「そっちちゃうわボケ」

 

 受付カウンターには相変わらず騒がしい賢者を諌めるルナと、賢者に頭を下げさせるダクネス。

 いつの間に行ってたのを見る限り、ロナは羽交い締めごと転移したらしい。

 何故だ、何がお前をそうさせる。

 

 と、重力の音と一緒に俺達のテーブルに戻って来た。

 ひとしきり騒いで、既に先程の心頭など忘れた様子のアクアもスタスタと。

 

「……っつーかすげぇな、青龍撃退クエストのMVP(エムブイピー)だなんて。お前あれじゃなかったか? 確かに魔法の腕は高かったかもしれんが、覚えてるの魔法は遊びのヤツが殆どだし、徒手空拳っつっても限界があんだろ。なんだってそんな……」

 

「……チッ、ノンノン。……あのクエストの趣旨はあくまで『討伐』ではなく『撃退』。私のように、転移魔法を扱えて且つ空中戦にも強い最強の冒険者にとっては? ……格好の稼ぎ場なのさ」

 

「……いやいや、頭悪いのかお前。青龍の背中にタッチして巣にぶっ飛ばした所で、また巣作りの為にせっせこ帰ってくるだけだろ。……だから帰って来ないように、毎年冒険者達の必死の抵抗で怯えさせてんだろ。……近々また襲撃してくんじゃねぇの?」

 

 と、フルフルと首を横に。

 

「いや、それは無いよ」

「なんで言い切れる」

 

 ロナは人差し指を立てて悪魔のように笑い、

「ちょっと気になってドラゴンの股間に転移して見てみたんだけど……。オスだったのよ、青龍」

 

「……はぁーん、オスだった。だからなんっハーッ……!」

 

 我が子の巣を作ろうとしただけだと言うのに……。

 可哀想な青龍。

 

 ニッタニッタニッタニッタして、

「そうそう、それもサッカーボールくらいの大きさでさ。まあなんだ……。バチバチ手応え感じたよね」

 

 そう言ってロナは、ストリートファイターよろしくヤケに華麗なハイキックを素振りした。

 

 事情を知っているであろうダクネスとめぐみんも、俺と同じ冷めた目で見ていた。

 

「あーまぁ、大体分かった……ソレでお前は、オスの青龍にトラウマ植え付けさせて、クエストのMVP(エムブイピー)もついでにもぎ取って来たわけか……」

「っねーロナロナァーっ、あ、カズマでも良いわ、もっと良いシュワシュワ頼みましょうよー。私たちもうどうせ大金持ちなんだからさあ!」

 

「やはり私が払ってやった分を、今一度お前に払わせるべきだろうか……?」

 

 ダクネスのもっともの威嚇に、シュッと柱に身を潜めるアクア。

 女神とクソザコを行き来する駄女神に、俺は軽く鼻で笑って。

 

「だとよロナ、宴会の女神様は高級シュワシュワをご所望だ。お前のエンタメの足しになるんじゃねぇの、奢ってやれよ」

「ちょっと待ちなさいよ、何私がマリオネットみたいな言い方してんのよ。……女神様ってのは、アンタたちみたいな陰湿な男達の愚行を雲の上から嘲笑う──」

「宴会の女神ではあるからなぁ」

 

 ロナのいつもの重箱隅突(じゅうばこすみつき)ムーブに、アクアの肩がカッといかって、

「っだあもう!! いちいちいちいち揚げ足取るのが上手ね、アンタ達はぁっ!」

 

「アクアは確か、この一ヶ月奢られっぱなしでしたよね。数え切れない数のジョッキがロナの懐から出ていた気がするんですが……」

 

 と、鼻で笑いながら告げ口するめぐみん。

 

「うん。クリムゾンは十二、三杯。無印のシュワシュワに至ってはもう数えて無いよ」

 

「……っあー……ソレはですね……」

 

 アクアは口ごもって、ギルドの何もない方に視線を向けた。

 

 ……マジかこいつ。

 そんだけのお得意さんにあの態度って、相当肝座ってやがるな。

 

「まぁ、ロナがその感じなんだったら、暫く屋敷側の資金問題には困らんな。王都からの月々の小遣いもあるし、予備の財布ってのは半分冗談だったんだが──」

「いや? 私もう、お財布スッッッッカラだけど。1万ないんじゃないかな」

 

 

「…………ん? ……は?」

 

 ……俺が困惑でジョッキの手を固めていると、ため息をついたダクネスが。

 

「あぁ、それのことなんだがな……」

 

 鎧を鳴らしながら席に着いて、ロナの肩に触れ、

「……コイツはな、あのよくわからん魔法で『すまほ』とやらを作ったんだが……。それだけでは騒ぐのに必要な音楽が流せないらしくてな、それで……」

 

 顔を俯かせて、

「……ウィズの店の……ポーションを……」

 

 

 …………嘘。

 

 

「…………因みに、いくらでお買上げに……?」

 

 ロナが、ムカつくピースをたたえて。

 

「……んななせんまんっえりすですっ!」

 

 ……。

 

 ……俺はもう、アンコントロールの賢者様に言えることが数える程しか無く、ロナの両肩を両手で叩き。

 

「…………今度から、逐一……報連相を宜しくな……」

 

「…………ごめんなさい。……拒否の意味ね」

 

「……断るな」

「ごめんなさい」

 

  * * *

 

 屋敷に帰還し、夜。

 

 勉強椅子なのかオフィスの椅子なのかという回転式の椅子に座るロナは、よく分からん題名の厚い羊皮紙の本を片手に回転していた。

 

 膝の上には、相変わらず表情の読めないゼル帝。

 

「……このヒヨコには果たして、三半規管さんが備わっているのかな……? 私もう吐きそうなんだけど」

 

「あー? ……無いんじゃねぇの知らねぇけど。言っとくけどソイツめちゃくちゃ魔力量多いから、その点においてはMVP(モストバリアブルポコチンキッカー)のお前でも劣ると思うぞ」

 

 ダクネスの紅茶吹き出しやら、めぐみんの冷めた視線を無視して。

 

「……あぁ、そうなの、だからか……。……まぁでも、私がしたのは金的な訳だから、ポコチンキッカーと言うよりもタマキンキッカ──」

「ぅるさい黙っ」

 

『キーンコーン』

 

「……んー?」

 

 ……アクアがロナの椅子に前蹴りをかまそうとした時、不可解にも屋敷の呼び鈴が鳴った……。

 

 椅子から徐に腰を上げたニヤ顔のロナは、アクアにゼル帝を預けてから。

 

「……カズマ、私は人転移させる時、その人に一度でも触れてなきゃいけないから……空間ごと転移させるよ。何人か来るかもしれないから用意して、あそこの隅ね。ダクネス、めぐみんと固まっててね」

 

「……ああ、めぐみん……!」

 

 リビングの隅を指すロナに、俺はジャージの腰をソファから上げて。

 

「……あぁ、前回来た時はかなりの失態をかましたが、今回こそは不届き者に違いねぇ……。アクア、お前も動けるな?」

 

 俺の確認に、アクアもこくっと頷く……。

 

「……じゃあ、行くよ」

 

 そう言ってロナが、パチンと右手を鳴らす。

 

「「……っオラアア!! 英雄舐めんなぁああああ!!」」

 

 俺とアクアは重力のような、脳波のような音がするのと同時に、ロナの指した方へ一直線に飛びかかった……!! 

 

「……へ? ッきゃああっ!!」

 

 ……飛び掛かった。

 

「……ん?」

 

 

 ……俺の聞いたその悲鳴は、なんだか、すごく聞き覚えのあるものな気がして、俺は即座に拘束の手を止めた。

 

 

 ロナの笑い混じりの声が、

「……アラマカワイラシイコッ!」

 

 気付かない、アクアは。

 

「……ほら観念しなさいコノ野郎……ってあれ? 何この、無駄に仕立ての良い服の感触は……」

 

「……お兄様、お兄様……!」

 

 …………俺が、ゆっっっっくりと顔を上げると。

 

「……私です、アイリスですよ、お兄様!!」

 

 

「……っすいませんしたああああああ!!」

 

 

 ……全っっ力土下座をかました。

 

 

 その後、英雄であるハズの俺とアクアは、ダクネスに加え後々入ってきたクレアによって散々な折檻を食らう事となった……。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。