この素晴らしい世界に祝福を!オールマイティ!   作:円卓騎士夫婦別姓

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(更新遅れましてすいません、風邪気味でした、エタりません。)


この忙しない王室と遠征を(2)

「フッ……甘いな……」

 

 呟いて私は、黒い炭酸を流し込む。

 

 アクアが言うには、この世界のコーラは独自のレシピを採用しているらしく、成分表示の一番左側にあった七味の豊かな風味が鼻を抜けるのを感じる。

 

 エルケントニスに向かう、王室護送車。

 

 設計者の中に日本人転生者でもいたのか、その内装はなんだかジャパニーズで、こだまでのぞみでひかりな内装をしている。

 車内サービスもかなり豊富で、私達の座す車内右側の反対、左側には、広めの円卓スペースとドリンクバーが設置されている。

 

 速度だけは馬車というのも新鮮な感じで、私はそれなりにバイブス上げていた。

 

 かなり安全な夜のアクセルの道を、眠目の私達は活動着に着替えてから車に揺られ。

 

「てか、お前もコーラとか飲むんだな。てっきり『清涼飲料は愚者への当てつけさ』とか言って中指立てるもんだと思ってたわ」

 

「私が避けてるのは主に脂質だからね。コップ一杯程度のちょっと質の悪い糖質じゃ、私のこの黄金の肉体には何ら影響ないよ」

 

 前の座席でメロンソーダを呷るカズマに聞かれて、私は手元の水面を覗きながら応える。

 

 ホント、座席を決めるのは本当面倒だった。

 

 同担トライアングルの方々のせいで、どのように席を決めたとしても誰かしら(わだかま)る事になってしまうようだったので、思い切って私が全員飛ばして無理矢理決定した。

 

 まず先頭、カズマーの隣は誰になっても御の字は書けない感じだったので、思い切ってクレアの人。

 私は二列目で、三列目窓側にアクア、めぐみん。

 最後列の四列目に、なんか優しそうな側近の人と窓側に王女様が。

 勿論、マイサンドバックネキ(ダクネス)は窓側二列目に配置している。

 

 いきなりのティア表で申し訳ないが、コイツの筋肉がAティアだとした場合を考えれば、カズマにロリコンだのなんだの言われてた側近の人は、大体Bマイナスくらいだったろう。

 因みに私は地のテストステロン値からして除外されざるを得ない為、今回はティアリングを見送らせて貰った。

 

「あーらら、めぐみんったらまだまだ子どもね。コーラにオレンジジュース混ぜたってどうにもならないわよ」

「……な、誰が子どもですか! 私はただ、この漆黒(しっこく)の『こーら』とやらが宿す毒を少しでも薄める為に……仕方無くオレンジジュースとの邂逅(かいこう)を強いたまでです!」

「ソレただのソフトドリンクだからな、なんの毒杯と勘違いしてんだお前」

 

 と、席が離れていても鋭利に入れ込んでくれるカズマ。

 

「……はぁあ、まぁでも、めぐみんくらいの子がドリンクバーを見てはしゃぐなんてこと、そう珍しくないわ。みんながみんな通る道ね」

「そう言う女神様は……メロンソーダとジンジャーエールのブレンド美味しい?」

 

 私が右後ろを座席の隙間から覗いて言うと、女神の眼球が接近して来て。

 

「……何か勘違いしてるかもだけどねぇロナ、どっちの世界も知り尽くしてる私は、普段からこうやって祝杯を(たしな)んでるのよってねぇ、何笑ってんのよ!」

「……いやその……飯屋行って、一席分のとこにドリンクジョッキが……二つ……運ばれて来るのを……想像してしまって……」

「……てか、お前のコーラもそれ二種類入れてただろ……。なんだ黒コーラと赤コーラのブレンドって、互いの良さ打ち消し合ってんだろ」

 

 と、またもやツッコミにかかってくれたカズマー。

 人工甘味料のコーラを黒コーラと呼ぶあたり、やはり生粋の日本人というか。

 

 私はアクアの憤慨無視して、

「……そんなことないよ。これは私独自の賢い人工甘味料摂取の為のライフハックだからね。脳の報酬系をバカにさせない目的だ、ちゃんと意味はある」

 

「糖質摂ったら本末転倒だろうが。おめぇのが甘ぇよ」

「あーそっか……っていうか、人工甘味料なんてピーキーなものあるんだね、この世界にしては随分(ずいぶん)現代的な気がするけど」

 

「…………あーそっかって言った? ……今あーそっかって言った? 流石に適当が過ぎ……っ」

 

 私がコーラを横から眺めながら疑問を口にすると、ダクネスが前座席の背中に着いてる折りたたみ机にティーカップを置いて。

 

「……そういう類のモノは殆ど、隣国のリドルから来るモノだな。魔法はさることながら、科学技術の方はかなり発展しているらしい。お前達と同じような、科学の発展した国からの転生者が居るのかもな」

 

「ふーん。……まぁ、案の定と言えば案の定だけど。これだけサイエンスの注目が低い世界で人工甘味料なんて、それこそ異星人でもいないと作れないもんね。というかそもそも『コーラ』なんて私達のいた世界まんまの名前──」

 

 ぞぞぞぞぞ……っ。

 

 そこまで言って私は、何故かは分からないが背筋に寒いものが走ったのを感じた。

 

「……ん? どうした、ロナ……顔色が悪いぞ……」

「……ね、どうしたんだろうホントに……」

 

 なんだろう、自律神経の乱れかしら……最近は少々コンパウンド系の種目を増やしたので動作がデカい分身体への負担が──

 

 ──トントン。

 

 ふと、私は音がしている方を見る。

 

 前の座席の脇から手のひらが小ぶりに出されていて、しきりに指を動かしていた。

 カズマだ。

 

 親指を内側に折り、残り四本の指を……開けたり、閉じたり。

 

 開けたり、閉じたり、開けたり閉じたり、開けたり閉じたり開けたり閉じたり開けたり閉じたり──

 

 

 ……ハンドサインで……『ヘルプミー』ってやってたぁぁ……!! 

 

 

 私の心中にて、細身の金髪マッシュの男がそれを叫んでいた。

 

 いやはや、異世界の地でこれを口にする(していない)日が来るとは夢にも思っていなかったが……。

 それにしても急だ。

 カズマーは、一体私に何から救い出してもらうべくハンドサインを。

 

 と、手の形を無理やりに変えるカズマ。

 その形は、懐かしき日本語カタカナで、

 

 ク、

 

 レ、

 

 ……フ? 

 

 …………ア? 

 アかな? 

 

 なんか動かし方からしてそうっぽいな、ぎょうさん必死だもんでわろけてきますわ。

 

 ク、レ、ア。

 クレアだ。

 

 クレアがなんかヤバいってことかね。

 いやいや、クレアに問題があったからと言ってなんでそんなハンドサインなんかしたんだい

 ぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞ……っ!! 

 

 再び私の背筋には、とんでもない寒気が走って行ってしまって。

 

 ……理解した気がする。

 

 本能的な恐怖が示すままに、目を向けろとしきりに警鐘を鳴らされる方向……正確に言えば、絶対に目を向けるなと本能が言っている方向──前席二つの隙間──に、視線を向けた……。

 

「………………………………アイリス様の隣に相応しいのは私である筈だというのに賢者だなんだと抜かすこの男は中々どうしてそれ程簡単なことも……(中略)……アイリス様アイリス様アイリス様アイリス様私の…………」

 

 ……視線を逸らした。

 

 凶針の眼光が、狭い狭い隙間の奥で私に穴を穿(うが)たんとしていた。

 

 よく音を聞いてみれば一定のリズムの金属の音も聞こえるので、持ってた大剣みたいなやつを床にコンコンしてもらっしゃるみたいで。

 カズマーもこんなのを無理に刺激してしまったら、どうなるものかわかったものじゃないんだろう。

 

 緊張で(すぼ)んだ口をそのままに私は小さく右手を鳴らした。

 最後列と最前列が視界に収まるように、席から腰を上げて。

 

「……え、へ? ……あれ、なんで私こんなところに…………あ。……そういう事でしたか……」

 

 いきなりの対角移動で当然困惑するレイン。

 

「…………ッハァー……ハァーッ……ハァーッ……。助かったぁぁ……。…………おいロナ、いいか……よーく覚えとけ。……俺の周りには、本当にマトモな奴なんざ……一人もいないんだ。そんな奴らの周りにいりゃ、ちょっとやそっとの(おご)りが命を揺るがす、そういう世界なんだってこと、よーく覚えとけ……」

 

「……ごめんなさい。…………改心の意味ね」

「……それで良い」

 

 後ろの方から戸惑うロリの声と荒い吐息が聞こえることだし、これで良しとしよう。

 

 * * *

 

 夜が深まって、エルケントニスまでもう二、三時間という所。

 車内で皆が仮眠を取ろうという中、一人全然寝れなかった私は、天才的な構ってもらい方を考案する。

 

「えむびーてぃーあい……診断?」

「……ヒェス……」

 

 眠目のカズマに指で輪っかを作りながら応えて、仮眠を取ろうとする者も居る七名の前で私は円卓にスマホを置く。

 既に作ってあるそれに、MBTI診断の機能だけをトレースしたものだ。

 

 バカみたいにべーんり。

 

「……私のいた時代のアッチで流行ってたやつなんだけど、性格診断の一種らしくてね。心理学を本にしたかなり精緻(せいち)なロジックがあると聞くんだ。みんなちょっと元気無くなってきてるし、王室とのお近づきのしるしにも丁度良いかなとか思ってね」

 

「……あー…………。……いや、俺は良いや……。つか、みんなねみぃんだからそりゃあ元気なんてねぇだろうがよ……」

 

 そう言ってカズマは被っていた布を更に深くし、座席の上で夢の中へ沈もうとする。

 

「……まあ、君の言うことは分かる、眠いだろうね。王女様の仮眠の為にみんな静かにお利口にしていたし、そもそも私達は徹夜してこの護送車に乗ってる。……眠目になるのも頷けるだろう」

 

 私が身振り手振りを交えて演説すると、窓際で一人余裕持って起きてるダクネスが、

「……なら、お前も寝れば良いだろう。何も今やらなければいけないことでも無い……」

 

「…………うん、その通りだと思うよ。君の意見は珍しく正しい」

「珍しく?」

「……皆が皆寝ようとしているこの静かな真夜中に、人数多くやるタイプの(もよお)しを持って来るというのはあまりにナンセンス……しかしだ」

 

 

 右手の人差し指を顔の前で立てて。

 

「…………私はね、全っ然……もう全っっ然眠くない…………寝る前に筋トレができんせいでもう、ずっと変な感じしちゃって、もう全っ然眠くない……! ……という状態に、あるんだよね……」

 

 

「…………フッ…………」

 

 窓際で、アクアの鼻笑いが聞こえた。

 

「……ん……うぅんん……?」

「…………へ、へへ無防備なお顔もすごく素敵ではっ、アイリス様……? もしや、あの者の声にお眠りを妨げてさせてしまいましたか……!? ……おのれ、賢者を名乗る者よ……健やかでとっても可愛らしいアイリス様のお眠りを害するとは、一体どういう了見だ……!」

 

 そう睨んだロリコン騎士の人は、私が重要参考人である事などお構い無しにスラリと剣を抜き、その切っ先を向けて来た。

 

 それに着いて行くように、徐々に皆が眠りかけた目を覚ましていく。

 

「……ロナ……そういうのはどうせ後から幾らでも出来ることでしょ……。今はみんな寝てんだから静かにしときなさい」

「……うんうん」

 

「……ほら、あのアクアに言われてんぞお前。ダンベル恋しくてウズウズしてんのは分かったから、とりあえず静かにしててくれ」

「ちょっと、『あの』ってのはどういう意味なのか教えてくれませんか?」

「……やだね俺はもう寝るんだ」

「うんうんうん」

 

「……ふぁーあ、ほらもう二時ですよ、ロナ。寝れない時は無理やり目瞑って呼吸してれば大体寝れます、寝て下さい」

 

 ……という感じで、割と結構寝たそうな感じの一同は、案の定私の急なイベント開催を快く思っていないらしく。

 

「……うんうんうんうんうん、そう言うだろうね。しかし私だって、勝算なくしてここに座っている訳ではない。ここまでの反響は織り込み済み……私の退屈に、無理矢理にでも皆を付き合わせる算段を私は持っているからね……」

 

 ゲンドウ的な姿勢で私が言い放ってみせると、聞いたカズマの肩がギクッとして。

 

「……おいロナ、お前の事だから一応言っておくが、悪い意味で軽々常識を(くつがえ)すお前の事だから言っておくが……転移させて無理矢理起こすとかし出したら、俺はお前を青龍と同じ目に合わせてやる気概でいるからな。多少は弁えてやりやがれよ?」

 

「……おい待て、何故私の憤慨を流した…………賢者か何か知らないが、アイリス様への冒涜はこの私が──」

「人聞き悪いじゃないかカズマ、私がしたのは……皆をどうしても惹き付けてしまう金言というのを既に知っている、というだけの話だよ」

「……え? なんで、なんでそんなに無視する?」

 

「……ぁー……。まあでも、お前の言う金言は信用ならんからな……まぁ良い、言うだけ言ってみろ、聞くだけ聞いてやるから。ホントに聞くだけ」

 

「…………素晴らしい……では……」

 

 

 人差し指を立てて。

 

「なんとこの性格診断、恋愛相性とかも分かっちゃうらしいんですわ」

 

「…………」

 

 

 私がそう言うと、馬車が進む地面のその音を際立たせるように、寝ようとする息の数が明らかに減った。

 

 

「……」

 

 カズマーの呆然の沈黙の後に。

 

「…………い、いやーロナ殿、何かと思えば、アイリス様の為にご歓談(かんだん)の時間を、作ろうという、そういうことだったかー。そうとなると、こちらとて、相応の態度で、望まねばという所だなー……」

 

「……クレア、私も、賢者様のありがたいご厚意に沿いたいとも、思っているのだけれど、大丈夫そう、かし、ら……」

「……ハァッ! ……ええええ、大丈夫ですとも! 是非とも相性を診断して私達二人の将ら……アイリス様のご将来を見据えた、ロジカルな分析に肖りましょう!」

 

 本音の透けるロリコンはそう言って早々に剣を納め、私に期待の視線と熱い吐息を送ってくる。

 

 お前は多分壁だからな。

 婚約とかまで行かないからな。

 

 と、その前席には、急な風向(ふうこう)逆転に呆然とするアクアとしらこいた顔のめぐみん。

 あと、ダクネスの視線も私には分かる。

 

「……あぁー、なんだかー、闇夜の月明かりにー照らされて、紅魔の血が(たぎ)って来ましたー、これは最早ー、最早もう眠りにつくなどー以ての外ーというかー……」

「わ……私私もぉー、あまり眠く無かったしぃー? なんだか、暇を潰せるような事がー、したいー、というかー? あったらいいなーというかー?」

 

 と、カスみたいな独白の小芝居を打ちながら私の手元をチラチラ見てくる正妻(めぐみん)対抗馬(ララティーナ)

 

 私は心底気持ちの悪い笑みを浮かべ。

 

「…………受け身かぁー……。感心しないなぁ……」

 

 

「「「「やらせて下さい」」」」

 

 

「……素直で宜しい」

 

 四人が座席から飛び出して願い出て来たのを、私はありがたく快く迎え入れる。

 

 さてさて、昔友達に『お前コレっぽいよな』って言われて見せられた、あのちょっとネイチャーバーガーみたいなヤツは果たして出るのだろうか。

 

 

 ……と、ふと、カズマの顔を見ると。

 

 

 かなり、面白い顔だった。

 

 

「…………顎の上、縮んでますよ」

 

「……鼻の下伸ばしてんだよ」

 

 伸ばしてるんだ。

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