この素晴らしい世界に祝福を!オールマイティ! 作:円卓騎士夫婦別姓
「あっ……! やめて……そ、そんなに……そんなに深いトコは……!」
チラリ、と朝日の朱が差してくる、エルケントニス
護送車の窓から覗くじわじわと白くなって行く
白髪のショートヘアというボーイッシュな出で立ちに、小柄な身体といういかにも潜入者チックなビジュアルの少女だ。
カズマーが勢いよく座った拍子にめちゃくちゃビクン! ってしてたが、果たしてこの小娘はこの職業に向いているのだろうか。
「……なんか勘違いされそうな……というか勘違いしてそうな声出してるけど、荒くれの側はキミだからね。分かってる?」
そう
「ね、ねぇ賢者様? その子、本当に何も隠していないようだし……それ以上は可哀想だと思うの」
「本当に何も隠してないかってのは、検証して初めて分かることだからね。……お、なにこれ缶バッジ? 痛バみたいな? ……
「……でも、その……。それ以上は、その……色々、やめて、あげて……」
王女が結構来るので私はケツ向けたままで、
「……お言葉ですが王女様、私は
「っそ、そういったモノとはなんですか、そういったモノとは! ……私はそんな事決して考えません! ……ほら、その子は今にも泣きそうな顔じゃないの!」
「うぅ、うぅっ……誰かぁ……! もうしません、もうしませんから……」
と、ピュアピュアな王女様の指差した追い風を受けて、これ見よがしに調子乗る侵入者。
『そういったモノ』にそんだけ反応しちゃったらもうそういう事なんだけどな。
まぁピュアピュアだししょうがないか。
「ところでキミは、初見で私の事を賢者『様』という感じで、呼んだね……? やはり王女の器と言うか、見る目が無い訳じゃないみたいだ嬉しいね」
「…………ぅ、え……? ……なに、どういうこと、なの?」
「…………アイリス様、この者の話をどうか真に受けられませんように。最悪の場合、精神に幾分か異常をきたします故」
「……幾分で済めばいいけどな」
聞こえてきた耳打ちとちくちく言葉とを無視し、私は歯茎むき出しのまま侵入者に向き直り、歯茎むき出しのまま服をまさぐり直す。
「っぅあ! ……だめ、だめ、やめて……下さい……っ!!」
「ああやって……ああやって
ボタンの縫い目の裏、
糸の色が不自然に変わっていたりする部分は無いし、やはりさっきの
「……どうして二人うるさいのかな?」
と、パンツ(下着ではない)の裏地までひん剥いて確認する。
厚めの生地だから色々隠しやすいようになってるな、もっと綿密に確認しなくば。
「きやぁああああぁあんんっ!!」
「……ロ、ロナ?! 大丈夫よ、一度深く深呼吸をして! ……まだまだこれからの人生、何があるか分からないでしょ?」
「そうです、大丈夫です……大丈夫ですから……! 私達だけはアナタが他の誰より、人の為、頑張って来た事を知ってますから……あ、ほら! 倫理がどうこう言ったのは、冗談です、言葉の
「……
という感じで私は侵入者のパンツをひっぺがし、上着を取り払い、白い毛根の最後の一穴まで確認した。
……凄いな、徹底的に何も無い。
逆に何モクで入って来たんだよコイツ。
「んー、気持ち悪いくらいなんにも見当たらないね。……こんなリスク背負ったんだから、何かしら
「待って……待ってぇっ……! ……ダメ……っ! だめぇ……っ」
「……ほれ見ろカズマ! ……アイツはああやって表向きに確認作業という皮を被って……腹の底ではあの小さなカラダに向かって
「……っおおおいロナ! お前そうなのか?! 流石にだと思ってたが、お前のムーブ見る限りホントにマジでそうなのか?!」
と、私が身ぐるみを丁寧に剥がす姿に何か覚えるものがあったのか、レア性癖ネキに同調して鼻息荒く指摘してくるカズマ。
なんだよ、コイツは変態の処理に慣れてるんじゃなかったのか。
肌着の生地に視線を滑らせながら、
「……そうそう、裏に連れてかずに……ましてやテレポートも使わずに、わざわざみんなの前でそうしようとしてるんだよ」
「んなぁっ!! ……認めた! 認めたぞこの男ぉっ! ……公衆の面前での
「……いやバカ、今のは流石に皮肉だ。……あとお前もわざと
じゃあソイツのせいやんけ。
「……いやぁ、おかしいね。あっそうだ、服じゃなくてもしかして、体に隠してるのかな? ……何かしらの危ないヤツを」
「………………ぬぉっ!! ……カラダに」
「っロナさん? ……流石にそれ以上は、倫理的にもよろしくないと思うんです? ……ほら、もう抵抗する様子は無いようですし、どうしてこうなったのかをまずは聞いてみましょうよ、ね?」
屈み込む私の背中を、申し訳無さそうに触れて来た優し過ぎる側近の人。
「ほ、ほらそうだぞロナ、こんな感じでホントに俺たちに敵対的なのかどうかも怪しいだろ、だからもう取り敢えずやめてくれ、コイツがずっとうるせぇんだ!」
「…………っああ、レインの言う通りだ。……この不届き者は本当に危害を加えるつもりだったのか、或いは……このような状況を期待していたのかというのは、と、……とても興味深い事で……っへ」
カズマとダクネスもそれに同調するようで、やはりかなり平和ボケが深刻化していると言わざるを得ない状況だ。
仕方なく私は一度泳がせる事にし、
「少なくとも、君の吐息のせいでこの子もっと恐れ
かなり
「………………ま、まずはその……ご迷惑、おかけして……ごめんなさい、でし、た……。……そ、その……私実は……魔法使いをやってまして……」
「へぇ、その感じで魔法使い? ……ホントのホントに? ……本当は?」
「おい、取り敢えずは聞くんだよバカ」
「…………シュン」
と、カズマ―に
「……それ……それ、で、テレポートの……練習を……していて…………それで……っうぅ……」
「……うん、大丈夫、ゆっくりで良いのよ。……この人の事は怖がらなくて良いからえ? ってロナあんた! 今泣きべそかいてるこの子に、私が特別に女神の洗礼を浴びせてあげてたのよ?! 問答無用でテレポートだなんて、そんなに血も涙もない事ありますかぁ?」
「安全かどうか分からない状態で不要不急の接近が確認されたのでね」
潜伏者の三文芝居にあてられたアクアが、あろうことかギューし出したので、私は即座にテレポートで女神様に距離をとらせた。
「んむぅ……! もう、ロナの頭でっかち! キモナルシスト!」
「キモナルシストは関係ない」
それでやっぱり自爆でしたでマスコット即死はマジで笑えないからな、流石にこうする。
「ほら続き。……テレポートの練習してて、それでどうなったわけ?」
「……っあぁほら、テレポートって習得するの難しいですから、転移先がブレちゃったとか、間違えてランダムのテレポートにしちゃったとか……そういうことなんじゃないですか?」
「………………んっ……! ……そう、なんです……! ……ごめんなさい、ごめんなさい……!」
と、ナチュラルにとんでもない助け舟を出してしまうレインがかなり聖母ぶっていて。
与えちゃう言い訳、抱え出す敵まで。
レペゼン英雄カズマパーティ。
「…………なるほど、そういう事だったなら、ウチのバカが失礼したな。……ほらどうだ、立てるか? ……おいロナ、お前テレポート使えんだろ? この子戻してやれよ罪滅ぼしにってあ! ……お前いい加減人の話聞けや、俺がせっかくイケメンムーブしてたんだぞ!」
またまた、警戒心もクソもなくメンバーがアンノウンに近付いていくので、私のテレポートはしょうがなく再び火を吹く。
「そう言うカズマは、よく私の話を聞いてくれてたみたいだね。イケメンムーブなら不要不急じゃないもんね?」
「……はぁ……? ……いや、お前さぁ……」
「……うーん。……単刀直入に言うとね。………………嘘だよ、今この子が言ってたヤツ全部。……いやまぁ、一応嘘『だと思う』の段階ではあるか」
「…………ロナ、流石にもう許してやらないか。……それに、もうこの小娘に抵抗する手段なんて無いだろう」
カズマをいなして小娘にギルティする私に向かって、さっきの興奮など何処吹く風という顔つきのダクネスが宥めて来て。
さてはて、どんな精神波形をしているのだろう、この変態は。
なので無視して。
「……まず一つに、テレポートは一度見た場所にしか行けない。仮にランダムの方だったとして、この護送車のシートにあれだけすっぽり収まるのは流石に無理がある。……というか、こういうシートって意外と中の骨組みちゃんとしてんだよ? 事前に中抜いてないとそもそも入れないよ」
「…………で、でも!」
「それに、キミはさっき言ったね。『もうしません』って。もうしませんだよ、もうしません。……不慮の事故への
……と、右手人差し指を立てて私が説明を終えると、車内には少しの沈黙が流れ。
カズマの
「……いやいや、いやいやいやいや。お前それ、流石に
「うん、おかしくないね。だけど今ので確定した。…………今、私の次に喋ったのが、この子じゃなくてカズマだったってので、ね」
「……は? ……お前そのレベルは、もうそろそろ常識を疑うぞ。いやまぁそもそもあんま無いだろうが」
「うん……じゃあさ、考えてみて?」
丁度クロロの感じで腕を広げさせてもらい、
「……普通、自分に濡れ衣着せられて
……そう、私が笑顔で言い終えると、案の定不審者の子の私への目付きが鋭くなった気がする。
再びの沈黙は、カズマが頭を
「…………いや、最後のは別に言わねぇだろ……」
「ま、
「…………うぅ、でも……でも──」
「いやいやいや、キミさ、やるんなら最低でも『俺悲しいっすよー』にしなよ。……バレてる上につまんないの?」
「……ひ、控えなさい、愚か者!」
……と、私が侵入生の最後の
「その者は
とんでもない体格差の私に向かって、王女様はそれはそれは勇気を振り絞って来た。
うゎー、こういうのはちょっと弱いな。
「はいはい、ごめんなさいね。……良かったね、無辜の民認定貰ったよ。……どうする? 私がどっかテレポートさせてあげよっか? ……罪滅ぼしにね」
私はそう言ってめぐみんの様子を
「……って、あぁ! ……ほら、そこの人、あの十メートルくらい先の。……気の早い人だなあ、私たちの長旅待ち切れずに来ちゃってたんだねぇ。ほら、ラスディの爺さんだ」
「……ラスディ殿が? ……おいレイン!」
「…………あ、え? ……も、もういらっしゃってるんですか?! ……どこに…………って、え? ……いやいや、誰もいないじゃないですか」
と、レインとクレアが窓を覗きに来て……。
「……ロナ!! 動きました!!」
「うん、だろうね」
私は曲者の方を振り返り、指を鳴らした。
その、直後。
ッッッドゴォォォォォォォオオオオオオン!! …………
…………と、エルケントニス近くの荒山──私の飛ばした山──の方で、爆裂魔法のそれに負けず劣らずというレベルの爆発音が響いた。
レインとクレアの絶叫。
続いて、地面から車輪へ、車輪から車体へ伝わってきた地響きの波が私達を揺らした。
「やっぱり、隠してたのは体だったかな……?」
……咄嗟に耳を塞いだアクアとカズマが、屈みながら目を合わせて震えている。
「…………おいおいおい。……ホントに、自爆特攻だったって……事……かよ……」
「……ねぇねぇねぇカズマさん? ……私、私生きてる? 生きてるよね? これ夢じゃないよね?!」
最初から爺さん
これで車内の全員のフィクサー
素晴らしい。
「いやぁ、ありがとありがと。めぐみんのレベルなら、私の考えも分かってくれてると思ってたよ」
「ふん、当然です。……この紅魔族随一の頭脳をもってして、賢者の思考回路に追いつけないハズがありません……!」
と、割と頼もしい部分の中二病で応えてくれためぐみん。
『追いつく』ね、追いつく。
「……相当エクスタしぃ……」
この子は仲間を守る意識が人一倍強いから、最初から警戒の方向で見てたんだろう。
私はそれはそれは優雅に椅子に座り直し、窓から山の方に立ち込める爆発物が炸裂した後の雲を見て。
「…………どう、やっぱあぁいうのゾクゾクする?」
「…………は、は? ……いやいやいや、何言ってるんだお前。あんなの食らったら……ひとたまりも………………ひとたまりも……っ!」
「まぁ車内であれが起こったら、間違いなくバラバラに四散させられるだろうね。キミの体の方が」
「…………っ! ……ひぃっとたまりもぉっ!」
凄いや。
ブレない精神。
騎士としてのアレみたいなんかな、感心ですわ。
感心しながら再び外に首を向け、
「ねぇレイン、あの山って別に今日用ある所じゃないよね? ……私の記憶じゃ、あそこは人が住める場所じゃなかったハズだからさ」
「…………あぁ、あぁ? ……あ、はい……。そうですね……。何も用はありません。少なくとも、今はもう……」
ん?
何その含み。
お爺さんの時計的なことかしら。
「……今はもう、今はもう……。聞いてもいいかな?」
虚無った感じの顔のレインが、
「……いや……。まぁ別に、自分事ですから……気にしないでください。……今日私達は、エルケントニス全体の護衛と、今度
「……尚更聞きたくなる言い方するよね」
というか、さっきまであんな聖母聖母してた人が自爆の方に思い馳せてないのも変だし。
「…………そうですか、そうですね……」
天を仰いだレインの、力無い口が。
「あの山、絶好の天体観測スポット……らしいんですよ……。…………それで、楽しみだなぁっ……って……」
ぁ……。
「………………………………俺悲しいっすよ……って事?」
「……っふ……。……はは、そうですね。…………そうですね」
すいません、不慮の事故でした。
「…………すいません。…………もうしません……」
そう言って私は、ちょっと汗の臭いが付いた羽織を回収した。