この素晴らしい世界に祝福を!オールマイティ!   作:円卓騎士夫婦別姓

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この英雄パーティに新たなる風を!(3)

 平和な、魔王討伐後のアクセルだった。

 

「ははっ、財布の予備ね、愉快そうじゃない」

 

 新人くんは、向かいに座る俺とアクア、めぐみんの姿を顎を擦りながらニヤけた顔で観察し始めた。

 何に笑ってるのかわからんが、まあ、取り敢えずちょっと鼻につく。

 しかしまあ、財布の予備と聞いて『愉快』とかほざくんだろ?

 

 ……アツいぞ、マジで、お願いします。

 

 新人候補は再び両腕を広げた。

 

「いいよ、付き合っても」

 

 ………………っ来た!

 

 ……ぃよっっっっっっっっしゃあぁぁぁぁ! 

 

 なんかちょっとの口上だけでイケたあ! ちょれええ!

 

 ……解放。

 自由都市、アクセル。

 俺のエンドルフィンは、それはもうあん時の爆裂連射並に賑やかに溢れて、みちゃみちゃだった。

 

 あーりがとうございます。

 俺、アナタみたいな人パーティに欲しかったんですよ。

 

 そうして俺が、一人で脳内麻薬の滝行に興ずる間。

 

 沈黙があった。

 アクアが破る。

 

「どぅえっ?! チョロっ! チョロお!」

 

 俺はその甲高い声で滝行から意識を戻した。

 

 そう、チョロい。

 

 俺も思ってる。強かそうなナリしてる割にすごいチョロかったと思ってる。

 

 だから、お願いだ……!

 このひとつなぎの奇跡(ミラクル)を、お釈迦にしないでくれませんか……駄女神様!

 

「っねぇカズマカズマぁ! この男、自分から財布なりに来てるんだけど! こんなスマートそうなナリしちゃって、実は頭悪いんじゃないの?」

 

 ……そうほざき上げやがったアクアの右腕がガッツポーズを取り、肘がテーブルに激突した。

 振動で新人の前に申し訳程度に出されているジョッキの水面が揺れ、その深緑にシミを作る。

 羽織の緑が濃ゆーくなって行っている。

 

 ……おゎーあ、いつも通り。

 

 新人は軽く笑いながら濃くなっていく部分を一瞥して。

 

「おっ、……こういった感じね」

 

 俺は即座にアクアの髪を掴んで、

「馬っ鹿! テメっせっかく……っ」

 

 ……予備の財布が手に入るのにお前は。

 俺は小声で言いかけながら、新人の方に乗り出しているアクアの顔を机に押し付け た。

「ふぎゃっ!」

 

 俺はそうして爆発物を処理し、再び新人に視線を戻そうとした。

 

 すると。

 

 ……かなり、きっしょかった。

 

 新人はその光景を見て、下っ歯を出したり下げたりしながら全力でニヤけているのだ。

 

 ……おい、待て。

 この男、ワンチャンだが。

 

 俺のパーティにぶち込んだら、四人目のポンコツになる可能性があるんじゃないか。

 

 いや流石に、それは流石にだ。

 勘弁してくれ。

 

 俺の幸運はどこへ行った。

 

 セラピストが欲しい男だぞ。

 なんでまた介護に走んなきゃならねぇんだ。

 俺だけ働き方が労基を粉砕する勢いじゃないか。

 

 キショ新人は満足するまでその上下運動をすると、口元の動きをしっとり止めてニヤけ顔を再び浮かべた。

 

 右手の人差し指を得意げに立てて。

 

「まぁでもさ、見たところ君たち……この金髪の女の子は見るからに騎士だもんね。前衛の役回りだろう」

 

 …………。

 

 俺の目が細まる。

 

「……と、赤い子は魔法使い」

 

 と、俺が新人の分析力査定に眉を上げていたその時。

 めぐみんの肩が跳ね、瞳が紅く光った。

 

 おっとっと、頼むから喋らないでくれよ。

 

 俺は今このワンチャンポンコツもありうるデカいクソガキに、健気にも希望を見ようとしている。

 尊い行いだ、邪魔をするな。

 

 ……紅魔の血の胎動は、止まらなかった。

 

「おい、その評価は口が滑っても適切とは言い難いぞ。……我が身に宿す強大な魔力は、紅魔の血族の中でも随一の――」

 

「続けてくれ」

 

「……カズマぁ! 今良いとこだったのに!」

 

 え、言わせねぇよ?

 俺今、瀬戸際だもん。

 

 それを見た新人のニヤけた顔は、なかなかどうして一層深まっている。

 

 マジで意味が分からない。

 

 新人は、黒髪を少し揺らしながら続けた。

 

「……んー、なんかごめんね。で、あとこの青い子は多分、アークプリーストとかの僧侶の類だよね、役の余り方からしても、何れにしろヒーラーの役回りだろう。となると、前後衛に回復も揃ってる……君は特徴つかみずらいし、まあ多分支援系、冒険者やらなにやらの、フットワークの軽い幅のある職業だ。でまあ、もしこの通りの編成だったとして、このパーティには必要十分な編成の三人、プラスしてサポート役も着いてるわけだ。……私の職業、見当たらないんだけど。パーティに私が入ったところで、そこまで戦力変わらないんじゃない? それとも、本気でただのお財布ってだけ? ホントに?」

 

「あー……」

 

 …………良いぞ。コイツ。

 

 見た目で職を当てる。

 そんで、そこから自分の役割難民を考えられている。

 頭に論理を持っている。

 

 いずれにしろこの中で相対的に見れば、デキる奴の部類だ。

 ……この中で、相対的に見れば。そこは強調する。

 

 新人くんが言い終えた後の再びの沈黙を、勿論アクアが破って。

 

呑気に指を差す。

「ねぇカズマぁ、……この子偉そう――」

「いやなんでもない、良い観察眼だと思う」

 

 ニヤけ顔でアナライズを終えた新人くんは、アクアをシニカルなニヤけ顔で一瞥してから、隣に座るダクネスに再び観察眼を戻した。

 

 ぅし、こりゃあ来たぞ。

 

 この新人、多少クソガキっぽいところはある。

 

 キモいとこもある。

 

 あるにはあるが、それ以上にしっかり頭が回る。

 

 少なくとも、アクアよか。

 ……それはプラス評価できてねぇか、最低限、人間ならば全員そうだ。

 

 まあ兎にも角にも、コイツは良い。

 

 と、新人は俺の期待の視線を浴びながら、俺たち四人を観察していた。

 すると、ある一点でその値踏みの視線の動きが止まる。

 

 新人のニヤけた眉間が、少し顰められた。

 

 ……ん?

 

 待て。

 なんだそれは。

 何を見てる。

 

 ダクネスの……?

 肩? 腕? 

 いやいや、いずれにしろだわ。

 

 ……その目に留まったのは、ダクネスの右肩の羽に覆われた腕のあたりだった。

 黒い肌着の上からも分かるくらいに発達している。

 

 ……俺の乾いた脳みそに、最悪の予感が渦巻いていく。

 

 非常にまずい事態かもしれないぞ、これは……。

 

 もしや、もしやこいつも……

 

 

 変……態……っ

 

 

 ……いぃやいや。

 

 そんなはずはない。

 そんな、そんなはずないんだよ。

 

 ……もしそうでも、この変態騎士よか常識的な変態のハズ。

 

 いや、問題はそこじゃねえな。

 ……このコ入れたら、変態増えちゃう。

 変態なんかが増えちゃう。どうしよもう。

 

 俺は諦念の混じる顔で鼻をほじりながら、死んだ魚のような目で新人を見返した。

 

 でもまあ……うん……一旦。

 見てるだけだ。

 そのままにしとこう、ダルいし。

 

 取り敢えず引き込むだけ引き込もう。

 それしかできん、俺には。

 

 ……なんかあれだな、一々ステータスとか気にして面接してた頃が懐かしーわ。

 いやまあ流石に後で確認はするが。

 

 俺は思考を無理やり断ち切り、死んだ目で応答した。

 

 職業ね、揃ってますよ。

 

「あーそうだな、確かに役職は揃ってるよ、でもだ――」

 

 その時、アクアが勢いよく立ち上がり、またまたテーブルをバカンと叩きやがる。

 

 空のジョッキがガシャンと音を立てて転がる。

 

 俺の膝元に落ちそうになるが、持ち手がつっかえて目前で止まる。

 

 ……はぁ。

 

 俺は心中でため息をついた。

 まあ勿論、安堵の吐息では無い。

 

「っそんであとねぇ……ただのアークプリーストじゃないわよ、私は! 人々を一段上で見守る天界から舞い降りた、迷える子羊を導く、女神様なのよ! め・が・み!」

 

 鼻水を拭いもせず、アクアは胸を張って女神宣言をする。

 

 ……最悪。

 

 安酒の質の悪い酔いが回っており、いつも通りのダメダメコミュニケーションだ。

 隣のテーブルの冒険者が「あー、またアクア様が酔っ払ってるよ」と苦笑いを浮かべている。

 

 俺は、生気のない眉間をアクアに向けて。

 

「おーわかったわかった、女神様だなお前は」

 

 めぐみんもジト目で加勢する。

 

「声が大きいですアクア、そしてそれは、そもそも声に出してはいけません」

 

 マジでそう、ありがたい。

 

 色々文句あるが、やはり俺の理解者だお前は。

 

 中二病だけど。

 

 行き倒れ荷物だけど。

 

 俺は、めぐみんの立てた追い風――但し、圧倒的に向かい風の風向きが続いている――を受けて、再び口を開く。

 

「……で、この駄女神様のせいで、俺たちの懐は常にマイナスだ。昨日もシュワシュワを一ダース空けやがった」

 

「……シュワシュワは神聖な儀式に必要なのよ!」

 

「鼻水拭けよ、微塵も神聖じゃねぇぞ……はぁ」

 

 俺がそうして溜息を吹かしながら、再び長ったらしく説明を続けようとした、その時だった。

 

 ようやく、ダクネスが新人の視線に気付いた。

 碧眼が新人の観察する視線と交差している。

 

 あっちゃー……気づいちゃいましたか。

 

 どうしよう。

 今の俺には、これから目の前で起こるであろうことを、直視するだけの体力がない。

 

ダクネスの、まだ落ち着いた声が。

 

「……何だ、その目は」

 

 観察の目は動かない。

 

「……」

 

 新人のその顔は、未だ不敵に笑んでいる。

 

 未だに笑んではいるのだが、その視線は少し、堅くなっているというか……なんか諧謔が無い。

 目の笑みがちゃんと薄くなっている。

 

 マジで、勘弁してくれ。

 その目がマジであればあるほどキツいぞ。

 

 ダクネスの頬がうっすらと赤らんで行っている。

 

 ……まあ知ってましたよ、知ってましたけどね。

 

 ダクネスの震える口が、荒い息遣いの中で開いて。

 

「なんだ貴殿のその目は、私はっ、エリス様の聖なる盾、聖騎士(クルセイダー)であるぞっ! いや、待てよ? これはまさか、私の武骨なこの肉体を品定めしているのか? っ家畜を見るような目でっ! いや、よく考えろ違うか? ……これはそうだ、これはつまり、私を徹底的に痛めつける際の耐久性について、色慾の混じる邪険な眼で推し量っているという事で……!」

 

「おい変態……妄想すんな、考えんな」

 

 ダクネスはすでに、妄想の世界に突入済みだった。

 

 荒い息を吐きながら、新人くんを見つめている。

 片道切符なのかね、戻って来れないのね。

 

 ……もう、疲れたな、普通に。

 

 あれだ、こいつが入ってくれた時の事考えるか。

 逃避しよう。

 

 ……こいつはあれだな、積極的なM妄想の餌食だな。

 

 こんだけマゾマゾしてる時のコイツに突っ込める馬力は頼もしいわ。

 あとはもう知らん。

 投げ出させてくれ。

 

 生粋マゾのインスピレーション暴走は、留まる所を知らなくて。

 

「……そうか、貴様は私を『使える道具』として値踏みしているのだな!? 私の鍛え上げた肉体を盾として、肉のぉ、壁として、ホネのじゅいまで利用し尽くすつもりなのだな!」

 

「ダクネス、初対面の人間ですよ。落ち着いてください」

 

「もういいぞめぐみん、これはもうこうなんだ」

 

 そう言って、俺は頭を抱える。

 

 ……ああ、いつものだ。

 なんかしらで品定め的な展開になると、必ずこの変態イエローが先陣切って暴走する。

 

 この状況はあまりに案の定な有様だった。

 

 俺は好印象だのなんだの言って、変にマニピュレーター気取りしていた頃の余裕など、完全に剥がれていた。

 

 俺は、乾いたメンタルを悟られぬよう気を付けて。

 

「あーもう、見ての通りだ。まぁ確かに役職は揃ってる、揃ってはいる。 ……但し、『まともに機能』はしてねぇ」

 

 そう言って俺は指を折って数え始める。

 顔に生気は無いと思う。

 

「駄女神は回復、蘇生はできるが、アンデッド以外には基本役立たず、おまけに金遣いが荒い」

 

「役立たずじゃないもん! あんたねえ、私のリザレクションが無かったら、何回この冒険終わってたと思ってんのよ!」

 

と、新人は軽口を入れて来て。

 

「あー、あれだよね? 駄女神ではあるんだもんね?」

 

「っ駄女神でも無いわよ! ……なによアンタ生意気ね! いい? 私はね、この美貌を持ち合わせながら、魔王城に単独突入するくらいの勇猛果敢さも――」

 

「王都中の全酒を単独購入した勇者様だもんな、凄い凄い」

 

「っそれはもう良いでしょ!」

 

「良いわきゃねぇ」

 

「単独購入……。相当凄腕のプリーストだね」

 

「褒めてないでしょ!」

 

 ……マジでこいつ。

 

 新人のそれは流れるようで、酒が入っているとは言え、初対面のアクアに、違和感無くツッコミを入れられている。

 

 ダクネスの熱視線を受けながらだ。

 

 やはり。

 

 俺と同じ匂いを感じる。

 捻くれ、或いは他人のコンテンツ化。

 

 新人くんのニヤけた瞳は、俺の指折りが指し示す順に向けられている。

 でも、その度にダクネスの腕に視線が戻るのが怖い。

 

 一息置いてから、俺は続けて。

 

「……で、だ。この赤い魔法使いは一発撃ったら戦闘不能。毎回俺がおんぶして帰ってる。かなりの負担」

 

「まあ、それが爆裂魔法の宿命ですからね、大いなる力には、大いなる代償が付きまとうものです」

 

「ネタ魔法のな」

 

「ですから!」

 

 俺が新人を試す横槍に、新人くんの口角はやはり上がっている。

 

 ほら、やっぱりそうだ。

 

多分、性格悪いぞこの男。

 

 初対面の奴に愛想撒きすらしねぇ。

 その点では俺よりも遥かに性格が悪い。

 

 ほー、シンパシ〜。

 俺は心中で独白しながら続けて。

 

「……そして騎士は攻撃が一切当たらない。盾にはなるが、敵を倒せない。つまり決着がつかない。防御以外で言うならはっきり無能だ」

 

「っはっきり無能っ! やはりこれは、二人からの板挟みの状況を余儀なくさせる為のぉ……!」

 

 いつになくフルスロットルな変態に、俺は、深い深いため息を聞かせる。

 

 この変態の是正に精神を割くのはもう無駄なのだ。

 最近は特に。

 

 深い深いため息を聞かせてから、俺は新人くんの視線を確認する。

 

 ……マジか。

 

 未だに眺めてやがる、筋肉。

 

 何でそんなに集中できんだよ、筋肉の主今マゾまっしぐらだぞ、キモい。

 

 ……いいや、肩代わりだ肩代わり。

 流せ流せ。

 

 俺は、一瞬唇を巻き込んでから。

 

「つまり、『普通に戦える』奴が必要なんだよ。あとはまぁ……こいつらの暴走を止めてくれる常識人も必要だが」

 

 そう、常識人がな。

 

 ……クソが。

 

 最近のこいつらときたら、「カズマさんパーティ」のステレオになってやがる。

 

 そんで、目の前の縋った藁はと言えば、筋肉フェチの推定変態。

 

 一回ぐらい、マトモな奴入ってくれないのかな、このパーティ。

 

 俺が常識人不足のテーブルを憂いていたその時、受付の方から足音が近づいてきた。

 

 ルナが歩いて来ていた。

 

 その手には新しい依頼書を持っていて、ちゃっかりの営業スマイルだ。

 New債権の返済の為に、未だに依頼を持って来てくれていて、ありがたい。

 

「お疲れ様ですサトウ様、新しい依頼が……って――あら、新しい冒険者の方ですかね? あまり見ないお顔ですが……。うふふ、魔王討伐が嘘のように余裕が無いんですね」

 

 ルナはそう言ってから新人候補を一瞥し、職業的な笑顔を浮かべた。

 

 ……そう。

 最近は、ルナでさえも調子がおかしいのだ。

 腐っても英雄パーティではある筈の俺達に、何かと毒突きやら嫌みやらを、これでもかとミニガンよろしくぶつけてくる。

 

 ……いやまあ確かに、魔王を蹴散らし終えたからには、今度こそ俺達はただのポンコツ四人組だ。

 

 加えて、コイツらの欠点は現在、絶賛隆盛の時代をお迎え中。

 期待も常識も無い頭の狂ったスクワッドにしびれを切らして、こういう激塩対応になってしまうのは、塩されている立場からしても、まあ分からんでもない。

 分からんでもないが、英雄の筈の俺の精神は、さらに不当にゴリゴリゴリゴリされていくのである。

 

 ……助けて。

 俺、アクセルのために、一生懸命戦ったよ。

 

 ……そして、対する新人。

 

 

 ……………………ルナの方を、一切見向きもしないで、筋肉見て顎を摩っていた。

 

 

 キモい。

 

 

 なんだよ、それ見て考える事ねぇだろ。

 何があって、こんな竜王戦みたいな顔できるんだ、コイツは。

 

 そんな新人くんの沈黙と、ダクネスの荒い息遣いを、ルナが破る。

 

「もしかして、サトウ様のパーティに?」

 

「あーまあ、勧誘中ってとこだ」

 

「あらそうですか、まぁ、一年か二年四人でもっていたというのが、信じられない奇跡ですもんね。サトウ様のパーティに入られるなんて、珍しい方もいらっしゃる」

 

「あらそうですか、で良いだろ。英雄の面子ボロクソに削ってんくんな」

 

「事実ですから」

 

「……反論ができん」

 

 俺を制圧して、ルナは続ける。

 

「新人さんでしたら、この依頼はちょうど良いかもしれませんよ。アクアさんの酒代のツケもきっちり納めていただかなきゃですし」

 

 俺を木っ端みじんに制圧した後、ルナはそう言って手元の書類をテーブルに置いた。

 書類には、『巨大トカゲの討伐』と書かれている。

 

 ……泥っくせえ。

 泥くせえよ。

 

 遊んで暮らそうぜ、アイリス様。

 

「報酬金は120万エリスです」

 

 ルナの口がそう告げた時、安酒に全てを明け渡していたアクアの目が、ギラリと光った。

 

「ひゃくにじゅうまんぅ⁉」

 

「……おい、酒代じゃねぇからな。……いや酒代ではあるのか、返済の元手だからな」

 

 ……マジで、お金使わしてくださいよ。

 俺英雄です、何とかなりませんか。

 

 その額に目を見開いためぐみんが。

 

「それだけあれば新しい杖が買えますね、どれだけ爆裂魔法の足しになってくれるのか、拝見しようじゃないですか」

 

 ダクネスも続く。

 

「巨大トカゲか。っへへ……きっと、きっと強力な顎で私の身体を――」

 

 ……おぉおぉ、オッケーオッケー。

 

 一斉に個性出して来やがってバカ共が、取り敢えずミュートだ。

 頑張れば環境音にできないことも無い。

 

 俺の王都残業続きの、疲れて干上がった脳みそが編み出した、最強の御業だ。

 

 ……よし。

 

 ……少しばかり、だ。

 

 この筋肉フェチ新人候補の出方が気になる。

 コイツはどう動く人間なのか。

 

 ……そうだな。

 

 無意味に、プレッシャーかけてみるか。

 人格を測りたい。

 この方法が最適解かは知らんが、まあ、大まかにニンは掴める筈。

 

 俺は体をロナの方に向き直り、一転して厳格な声で。

 

「おい、まだ正式に仲間になったわけじゃねえぞ」

 

 新人くんの声が返って。

 

「……ぉぉん」

 

 ……俺の試みは、全く意味を成さなかった。

 

 まだ鑑賞タイムを継続している、キモい。

 

 目が深くてキモい。

 

 

 ……いやしかし、しかしだ。

 

 

 多少ならば、変態でも良い。

 下衆でもいい、冷笑主義者でもいい。

 

 何れにしろ分散先なんだ、負担の。

 

 俺はみちゃみちゃと溢れる嫌悪を必死に抑え込む。

 

「……いやまぁ、何でもねぇ。ほら、どうだこのクエスト。アンタだって、俺達の手の内が多少見たいだろう。実戦で俺たちの『実力』を見て、いろいろ考えるか?」

 

 新人は、俺達の喧騒など何処吹く風という具合でダクネスの腕を鑑賞している。

 

 あぁ、キツい。

 

 顔良くても、ほぼ漏れなく全員こうだからな、俺の周りは。

 

 ――その時。

 

 

「……失礼っ」

 

 

 ……その時。

 

 

 あろうことか。

 

 あろうことかだった。

 

 新人の上体が動き、隣に座るダクネスに体をぐっと寄せた。

 

 超寄せた。

 

 そして再びの、あろうことか。

 

 ダクネスの黒いインナーの右腕をそっと両手で持ち上げて、あろうことか……

 

 まじまじと、観察を始めた。

 

 

 …………そして、ダクネスは当然。

 

 

「……くっううっ!」

 

 

 ……俺は思わず、真顔の絵画のように顔を硬直させてしまった。

 

 何してんの?

 

 何、してんの……?

 

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