この素晴らしい世界に祝福を!オールマイティ! 作:円卓騎士夫婦別姓
俺の問いかけは相当優先順位が低かったらしく、直ぐダクネスを向き直ったロナの声が。
「まぁじゃあ、よろしく、ララティーナ」
……ダクネスの脳は、処理限界を超えていたようで。
握手のつもりだろうが、ロナの手はダクネスの右腕を包んだまま、レギ〇ラーよろしく上下にブンブンされている。
ダクネスの肩の羽板が間抜けな音を立てて跳ねた。
「っ————」
ダクネスの驚愕は、声になっていなかった。
いつもだったらというか、少なくとも俺の初対面すぐのときだったら、『ララティ』と文字列が並んだ瞬間に剣の柄に手が伸びるか、拳が振りかぶられている。
いやまあさすがにちょっと誇張だが、よろしく思う事は確実に無い、絶対無い。
俺が悪ふざけでコイツの本名を呼ぶたび、ジョッキの持ち手だったものが俺の頬を掠める。
それが、ララティーナという呪文を詠唱するという行いだった。
だと言うのに、ダクネスの右手は剣の柄ではなく、ロナの掌の中でバカ正直に揺られている。
ポニーテールの付け根から、本当に湯気が立っているようにも見えた。
……扱いの差。
流石の俺も、固まってそれを見ていた。
「…………」
俺の前のめった上体は、名刺交換するサラリーマンのように六十度に曲がって固まっていた。
おいなんだ、この空気。
なんで知らん男に本名言われて蒸気機関になってんだ、どういうこった。
差がありすぎだろう。
俺のことが「自分で思っている以上に」好きなんじゃなかったのか、こいつは。
……だあ、いやまぁ、プラマイ自体はプラスに振れるんだろうな。
収穫収穫。
横を見ると、めぐみんは紅い瞳をまん丸に見開いていて、フォークを握ったまま微動だにしていない。
口元が半開きになっている。
紅魔族随一の頭脳をもってしても、眼前の現象は理解の範疇を超えていたのだろう。
「……カズマ」
めぐみんのおぼつかない口が音を発して。
「ダクネスが……壊れました」
「……ああ」
なんか、コイツが壊してくれてる。
崩壊寸前のダクネスに、追い打ちがかかった。
「あ、私も十九だ。ふっ」
「…………あー」
俺は、再び向かいの席から目を背けた。
……知らねぇよ。
ってか、俺よりも生きててそんなんなのかよお前は。
まぁそれに関しては、このドM騎士もそうだが。
その時。
ダクネスの俯いた顔から、ぽたり、と。
汗が一滴、テーブルに落ちた。
その音で俺は気づいて視線を戻した。
……ん?
汗?
ダクネスが、汗?
コイツは……鎧着て全力疾走しても、汗一つかかねぇ化け物体力の女だぞ。
んで、たまに汗かいたときにはちょっと臭う時があるぞ。
どこまで壊れるんだ、このポンコツは。
ロナの視線が、俺に向き直った。
「手懐けるって何だ?」とでも言いたげな、きょとんとしたとぼけ顔で、未だにダクネスの右腕をホールドしたまま。
……このキノコは、全く気づいていない。
コイツは今、このパーティ最強の(本当に純粋な防御に限る)盾、魔王を討ち滅ぼしたパーティの盾を、たった数分で機能停止させたのだ。
なんかホント、良いですよ、その娘引き取っちゃってもらって。
昨今隆盛しているドM性癖のカスタマーセンターとして優秀過ぎる。
ここに預けとけば更生するんじゃないかな。
ロナの首が傾き、ダクネスの目を捉えて、
「……ん? ダクネス? でも今君、ララティーナって――」
ダクネスは、顔を上げた。
ロナの目が逃がしていなかった。
恐らく、嘲りも欲望も計算もない。
……それが怖い。
というか、気色が良くない。
「……あ、いや……」
「これ、どっちで呼べばいいの。ダクネス? ララティーナ?」
ロナはただ、「どっちの名前が良い?」という子供が飴の味を選ぶような、呆れるほど純朴な顔で疑問を浮かべていた。
タラシタラシしているデカい男、珍妙すぎる。
ダクネスの唇が、わなわな震えながら声を絞って。
「あ、あぁ、そ、そうだ……。先程からずっと言っているが、本名でなくダク――」
ロナが遮って。
「まあ、ララティーナでいいや」
……と、
——ぶつん、と。
ダクネスの鎧の中から、何故か本当に何かが切れる音が聞こえた気すらした。
……俺はもう、ため息をテーブルに走らせるしかなかった。
「——―っ、」
ダメだ。
これは、拗れてめんどくなる。
シンプルにコイツが全然話を聞いてない、意味がわからない。
やっぱり弾いとくかなコイツ。
……いやダメだわ。
俺の胃が限界だったんだわ。
……ダクネスの目が、だんだんと見開かれる。
瞬間、勢いよく立ち上がった。
椅子が後ろに吹っ飛び、背後の冒険者のテーブルに激突する。
ジョッキが落ちて安酒が床にぶちまけられた。
ほれみたことか、めんどい。
俺は、ゴミを見るような視線でそれを向く。
「……何、してんの?」
ジョッキ舐めに興じていた駄女神でさえも、ダクネスの暴走に手を止めているようだ。
「え? ねぇねダクネス、大丈夫? ……顔真っ赤よ? 熱? 熱にあてられてんの?」
後ろの冒険者の嘆きが、ダクネスの背に降りかかっている。
「……っおわっ!? 何だよララティーナ!」
ララティーナは、聞いていなかった。
二つのララティーナに、一体なんの差があるのか。
ダクネスの目は潤み、頬から首筋までが赤く塗られているように見える。
インナーの首元の動脈が浮いている。
ポニーテールが立ち上がった勢いで大きく揺れて、
「だっ——ダクネスでいい!! 」
ギルドに響き渡る大声だった。
……クソうるさい。
祝杯を上げていた冒険者たちが一斉に振り向く。
受付に戻ったルナが書類を取り落とすのが聞こえる。
隅っこで酔い潰れていた冒険者が「うるせぇ」と寝返りを打った。
ロナの眉が、片方上がって。
「……?! ぉ……?!」
しらこきやがって、てめぇのせいだボケ。
困惑するロナの口が開いて、
「ララティーナっ?!」
なんでまだ聞いてねぇんだよ。
目の前のララティーナ必死で赤ペン握ってんぞ。
ダクネスの両腕が、胸の前でグッと寄せられて。
「っダクネスだぁっ! ダクネスと呼べ!! ララティーナは……その名はっ……」
騎士の公共心など捨て去った声量で言いかけたダクネスは、自分の右腕を見下ろした。
ロナの手から離れたダクネスの腕が、所在なさげに浮いている。
黒い肌着越しに、ダクネスは腕に残された掌の温度を気にしているようだった。
ロナの能天気な声が再び響いて。
「……ん? いやだってさっき、ララティーナって――」
「ッ違う!!」
聞けよ。
本名やめろしか言ってねぇんだぞ。
……遂には、己も超然主義者化してしまったロナの態度に、ダクネスは唇を噛んで呼吸を整えていた。
しかし、その呼吸はいつもの「ハアハア」ではなかった。
ドMの悦楽の感じじゃなかった。
ダクネスの知りえない感情を、こいつは一分で引き出したということなのだろうか。
タラシ、恐るべし……。
横から、めぐみんの眉が顰められる音が聞こえた気がした。
まあ多分、俺も同じ気持ちだよ。
言語化は分かんねぇけどさ。
……というか、ホントにうるさい。
声がデカすぎる。
めぐみんの冷静な声色が、目を静かに背けながら、
「落ち着いてくださいダクネス。おそらくこの人は、地で『そういう人』なんでしょう」
その、一見しても何見してもよく分からない形で差し出されたそのフォローに、ロナの顔が一瞬めぐみんに向いた。
「なにそういう人って……私はただ最初に教えてもらった名前で――」
「違うと言っている!」
……うるせぇ。
「ご自分で言ってたでしょう?」
「……ぅぅうっ、と、とにかくダクネスだ! それ以上は——」
……うるっせぇ。
「もう……何のこだわりなの、ララティーナ」
「……っうぅっ、……っうおぉぉぉあぁぁああ!」
「っるっせぇぇぇぇ!!」
俺は抑わらず、両手でテーブルを叩いた。
請求書の山が宙に舞い、メシの皿が回る音を立てた。
空ジョッキがゴロゴロ転がり落ち、駄女神の足先に激突したらしい。
「ったあぁぁあぃっ!!」
……知らんもう知らん、まずこっち。
俺の形相は最早般若のそれだったろう。
「っるせんだよテメェら。そのカスみてぇな夫婦漫才で雄叫び上げちゃってくれてんじゃねえぞ筋肉界隈共がよぉ……?! 大体ダクネスお前……俺がパーティ入れてちょっとした頃にララティーナ呼びした時は、あんだけ暴れて大剣ぶん回して来たくせに、他の初対面の男に言われたら蒸気機関になんのか? 仮にも俺に惚れた女だろうが……んだこれはよぉ! 扱いの差ぁ!!」
俺のその必死の叫びに、横からめぐみんの宥める声が入って。
「カズマも落ち着いてください。夫婦漫才なぞという比喩は流石に早すぎます。それにダクネスはきっと、その……」
再度平定に入っためぐみんは、机の向かいを見ながら言葉を探していたが、言葉に詰まったのかモジモジと黙っていた。
紅魔族のおかしな頭にも、この現象を説明する語彙は存在しないだろう。
そりゃそうだ。
初対面の奴と夫婦漫才なんて、人ならそんなことはありえない。
あ、因みに、散々言われてきた俺とアクアは違う。
アクアは人では無い。
ダブルミーニングだ。
めぐみんの噤まれていた口が動いて、
「……新種の病気、かもしれません」
「っもうちょい頭捻れや!」
そうして俺が悲鳴を上げる間、横でアクアがようやく状況を認識したらしく、何故か直ぐに痛みを忘れた感じで顔を上げた。
口の周りに泡をつけたまま、きょろきょろと周囲を見回している。
今日何回目か分からないマヌケ顔。
ポンコツのシンボル的顔だ。
「なになに、ダクネスが……熱? 病気? やっぱり呪い? あ、もしかしてこの男にやられた?」
意図してはいないであろう核心をついたアクアの質問に、ダクネスの両腕が上がった。
「………っ! 違――」
「大丈夫よダクネス、私が浄化してあげるから! ターン・アンデッド!」
「……私はアンデッドじゃない!!」
そうして、光の柱がダクネスに降り——何の効果もなく消えた。
ただし、俺の髪を揺らす余波で隣のテーブルの蝋燭が吹き飛び、冒険者の髭が焦げた。
「あっつ?! おいアクア!」
「……あっ……あら、ごめんなさいね! でも女神様の聖なる光を浴びれたんだから、その辺感謝しときなさい!」
……俺は、静かに両眼を閉じた。
まごう事なき、混沌だった。
……あの、誰か。
収集つけてくれませんか。
俺はただ……お金が欲しかっただけなんです。
俺の乾いた視界の端で、ダクネスはつっ立ったまま右腕を左手で押さえていた。
まるで、火傷した跡を庇うような感じで。
俺はその様子を額に青筋を浮かべながら観察していた。
死んだ魚の目の奥で俺は、脳内スパコンによって新しい数式をなんとか弾き出す。
コイツ……ロナは、ダクネスのストッパーどころの騒ぎでは無い。
低燃費でダクネスをドMでない別の生き物にできるのだろう。
昨今悪化している癖を是正するにはうってつけだ、嬉しい。
使える。
それは分かる。
だがだ。
ちびっこい懸念点が乱立してやがる。
多分冷笑主義者なこと、顔がちょっと良いこと、俺より身長が十二、三センチくらい高いこと、脚長なこと……挙げればキリが無い。
……めんどくせぇ。
この混沌と借金の毎日に、バニルが高笑いしながら実況解説入れて来るようなもんだ。
どうする。
俺は唇からそれを出さず、小さく舌舐った。
……いや、使える方に賭ける。
どの道入れないと俺が地獄なんだわ。
咳払いを入れてから、俺はわざとらしく平静を装って。
「あーまあスマン、こんな感じだ。見ての通り、こいつらは一人残らずイカれてる。……でもまあ、愉快そうって分析は、割と正しいのかもな」
聞いたロナが俺の言葉に片眉を下げた。
……その顔に、何故かほんのりとした不満が見える。
ロナは右手でダクネスを指しながら。
「イカれてる、ね。この子が? 相当筋トレしてるっぽいけどね、頑張ってるんでしょ?」
…………ええ……。
もう良いって、くどいって。
……その言葉に、ダクネスの僧帽に新たな緊張が齎されている。
そうだ、この新人にはコレもある。
筋肉バカ属性。
俺の目が爬虫類ズ・アイを湛えて。
「あぁ、コイツは頑張ってるよ。スパートかけた追い込みで一人で気持ちよくなるためにな」
「だっ、カズマぁっ! それは違――」
ダクネスが訂正に入ろうとしたその時、ロナの口元が深海魚のようにひしゃげて。
「んー……筋トレの痛みって、そういう感じじゃないと思うんだけど」
……ああもう、口挟まないで下さい。
逐一止まるんですよこのマゾっ娘。
ロナの弁舌は、止まらなかった。
「この子がどんなゲテモノか知らないけど、私が見る限り……本当に頑張ってるだけだと思うよ」
……まぁそうだよな、初見そう思うかも知れないけどな。
見ればわかるんだ見れば。
腕立て百回をモチベーションじゃなくて性癖でこなす女なんだ、コイツは。
「……っぁ……っ………」
ロナのべた褒めを聞いて、呆然と立つダクネス。
黒い両腕が、ロボットダンサーのように手持ち無沙汰に固まっている。
ロナの現場を知らない激甘解釈に俺は、気を逆撫でしないよう応えて。
「あぁもうわかった、コイツは頑張ってる。頑張ってくれてる。そういう事にしといてやる」
その時、あしらわれているのを不満に思ったのかアクアが声を絞って。
「……ねえ、なーんかみんなさっきからやたらダクネスダクネスってさぁ? 私も――」
「はい女神さんは人一倍十倍頑張ってますよーぉっ」
「分かってんじゃない!」
はっ。
……お前のがちょれえわ。
ロナはアクアの痴態にニヤけを深くしながらも、俺の姿勢に少しだけ顔を険しくしている。
それから顎をさすって偉そうにニヤけて指を差した。
「んー……君さ、筋トレしてないでしょ、多分。なんでそのスタンスなのかな?」
……あ?
「は?」
……コイツは、却下だ。
キモい。
今ので、加えてウザい。
知らねぇよ筋トレの感じとか。
知りたくもねぇ。
あれだろ、どうせ気持ちよくもないんだろ、この変態以外は。
……あぁうわ待て。
ダメだ、ダメなんだった。
そうだ。
コイツはこのポンコツパーティの加速した惨状を見て、「愉快」とかほざいて足突っ込む奴だ。
悲しいかな、天賦の逸材。
喉から千住観音出せるくらいには欲しいシュチュなんだ。
この気を逃してはいけないのだぞ、佐藤和真。
俺は何とか顔を歪ませぬようにして。
「……あぁそうだな。ダクネスは頑張ってる」
「……分かれば良い」
ロナの言葉に、ダクネスの頬の赤みがすくすく育っている。
「……っ」
……お前はもう、喋らんでくれ。
俺は一度溜息を吐いて、
「ロナ、すまないがお前は、暫くダクネスに関連する話で相槌打つの禁止な。もちろん会話も。あらぬ方向に制御がかかるのは避けたい」
「ん、え? それはリーダー格の君が制御しようよ」
「……だから今、喋らないようにっつって制御入れてんだけど」
「いやいや、施さなきゃなのは適解じゃなくて、最適解ね。君のはただの適解」
……は?
コイツ、うるせぇ。小うるせぇ。
「……知らねぇよハゲ」
瞬間、図らずとも俺の喉奥から飛び出してしまった小声の悪態に、アクアが人差し指を突き出していて。
「え、この子別に禿げてなくない? サラサラじゃない? サラサラのフサフサブラックじゃない?」
「駄女神にはそう見えるかもな」
俺が再び常套句でアクアをあしらうと、ロナは下唇をこれみよがしに突き出し、肩を竦ませて。
「タッパが無いと頭見えないよね。雲の上の神様には見えても」
……は?
……聞いて、横でアクアの威勢が急激に落ち、酒で上気していた顔色が元に戻る。
ジョッキを持っていた肩の力が抜け、視線が外に向く。
「あっ……」
その発言は、俺との間の現実―俺165、ロナ175以上―を引き合いに出した返しだった。
「そ、そうね。……そんなところだと思う……私も」
アクアの珍しく慎ましい声が聞こえた。
「………」
よーし。
殺す。
絶対殺す。
目の前のロナは全顔面に力みを入れて、全身全霊で笑みを堪えている。
口元の皺が異常に多い。
首筋が山脈のように隆々だ。
……グギっているのだ。
殺す。
ロナの震える殺したい肩が、
「……じ……冗談冗談。さっきの君の冗談も事実に反した事だったでしょ? そういうことよ」
……無念にもな、こっちは反さねぇんだよクソが。
………………マジでダルい。
なんで、なんでなんだ。
俺は魔王ぶっ倒したんだぞ。
それがこんな……
ただのクソガキに身長差イジられる人生にはなっちゃならんだろ……絶対に……。
その、おそらくバニルにも目の当てられない惨禍を見かねためぐみんが、ジト目で割り込んで。
「カズマ。これに関しては、貴方の方から軽口を飛ばしましたから、貴方側の責任問題でもあります。……私は、私はカズマの身長でも――」
「だあ、うるせえ、俺を憐れむんじゃねぇ……。魔王倒した英雄が低身長で憐れまれる程惨めなことなんて、この世界のどこほっつき探しても存在しねぇんだよ……クソがぁ!」
めぐみんの再びの的外れフォローに嘆き上げた俺の前で、ロナが背もたれに寄りかかりながら、口元を右手で大きく被せてるのが見える。
……コイツ、未だに肩で笑っていやがる。
殺したい。
モーレツに殺したい。
「リーダー……ご乱心は……っ、ご乱心はいけませんっ……ぅリーダーっ……っ」
「テメェはまだパーティ入ってすらねぇんだよハゲ!」
そこに、アクアのアホ声が塞いで。
「え? いやだからフサフサ――」
「ん黙りゃぁ!」
……………………あー限界。
もう限界だ。
……っいやぁっ。
……クソッ……留まれぇっ留まれぇ……!!
…………落ち着け、佐藤和真。
大丈夫だ。6秒だ6秒。
――いいか。
コイツは、救世主だ。
俺の精神的負担と経済的負担を、一挙に背負ってくれる筈の、言わばメシア。
……身長イジり?
そんなものは日本にいた頃幾度と無く抗体を作った病な筈。
それに、今ムカつくという小さなデメリットよりも、長期的に見た時の負担軽減のメリットの方がデケェ筈だ。
その筈なんだ。
俺は気合いで先程までの般若の形相をなんとかを振り払い、ルナの笑みを真似る。
請求書を一枚拾い上げ、ロナの前にぴらりと置いて。
「——んで、これな。見ろ」
「……急に落ち着くわね」
「うるせえ、もうお前は黙れ……と、これ、さっきルナが持ってきた巨大トカゲの依頼。……報酬百二十万エリス。五人で割れば一人二十四万だが、新人歓迎ってことで、お前の取り分は二十万でいいよな? この
その言葉に、ロナの口元は上弦の月のように弧を描いた。
クソ。
窮地に立たせようとしても余裕が深えなクソ。
鼻につきまくる。
首を少し傾げたロナの深緑のマントのような羽織が揺れ、同時に黒い前髪も揺れる。
「ふぅん?」
初任給を聞いためぐみんは、顔を顰めて、
「カズマ。それは弱い立場の者への搾取では」
「いいや、これはただ新人研修費というだけだ、ここに不当性はない。以上」
……で、一方。
ロナの隣で立ち尽くすダクネスの意識は、未だに右腕に残されたロナの手の当たり……の、温度か何かに向いているようで、何も聞いちゃない。
代わりに、この変態の耳に
ロナの隣で、手持ちぶたさに突っ立っているダクネスが小さく呟いた。
「ロナ、と言ったか。私は……ダクネスだ。ダクネスと、呼べ」
……お前、まだそこかよ。
その声はもう、怒声では無かった。
つい最近まで「代官仕事だ!」だの言って、仰々しくバリキャリしてた良家の家督のそれでは無かった。
防御全振りクルセイダーさん。
雑魚すぎますよ。