この素晴らしい世界に祝福を!オールマイティ!   作:円卓騎士夫婦別姓

7 / 16
このおかしくなってしまった街に疑問符を!

 ……と、いうことで、

 

 ちゃんと、入団面接をする俺。

 

 しっぽりと俺の加入条件(多少金と頭のある人間とかいう、一般人の最低条件)を満たしてはいるものの、いかにもクソ扱いずらそう、いかにも新たな胃痛の火種としてエントリーしそうなそのキャラクター性に見合うほどの有用性が、この男にはあるのか。

 

 この男はどんな人間で、どんな強さで……どんな、金回りなのか……

 

 ……そう、金回り。

 金回りだ……!

 

 今の自転車操業パーティリーダーの俺が最も必要としている、最重要要素、金回りだ。

 

 見た目ゴージャスでスマートな感じではあるが、例に漏れず実の所は使い勝手の悪いポンコツでしたーだの、借金生成悪運野郎でしたー、だなんてことになった場合は本当に笑えない。

 

 あやつらの面倒を散々見てきた俺でも笑えない。

 

 俺は長らく、このパーティの参謀役だから、数少ない能力の要素を最大効率で運用することにかけては、この街の誰にも引けを取らない自信がある。

 

 だって俺は、そんなこんなで一年以上、それを続けて続けて魔王まで討ち取った男なんだ。

 

 ……だがしかし、俺の苦労がこれ以上増えるということは、そもそも俺の勧誘動機に真っ向から反抗する事態である訳で。

 

 俺は楽したくて、新しいお財布の役目が欲しくてこの男を勧誘したのだから、新しいポンコツをもう一人こさえるような事態だけは、何がなんでも回避しなければいけない。

 

 ……あのバカ三人は面接の場にいると色々面倒なので、取り敢えず連れション隔離ということで。

 

 

 現在。

 男子トイレの洗面台前。

 

 用を足し終えてハンカチと共に御手洗を出てこうとするロナを、俺は緑の袖を引いて。

 

「いや……ちょっと待ってくれ。いきなり連れションに走ったのが少し怪しいとか思っちゃったかもしれないが、ちょっと待ってくれ。俺は決して両刀使いでは無い。……アイツら三人がいるとできない話をしたくて、トイレで隔離する形にしたんだ。だからロナ、ちょっと待ってくれ」

 

 懇願を聞いたロナの顔がニヤりとして、

「んー、なに。パーティメンバーの前だと、流石に新人いびりも憚られる?」

 

「違えよ、ただのちょっとした面接だ。そういう場にアイツらがいると、なんて鬼畜な……! だの、この者の語り口はもしや、我が最強の爆裂魔法の引力に寄せられた魔道の者……! だのほざかれて、会話が成り立たん。全自動破談しかねない。……あと、俺はもう別にさっきの低身長イジりなんざ気にしてねぇからな。俺だって一応、魔王倒した英雄様だぜ? そんなに心に余裕の無いパーティリーダーに見えたか」

 

「ふーん、気にしてないんだ。気にしてない……。一つも?」

 

「……………………一つもだ」

 

 明らかに溜めてしまった俺の返答に、ロナの鼻が、

「……スッ……w」

 

「っだあもうわかったよそうだよ、気にしたよ結構……お前が高身長で顔も多少良くて、妙にスタイリッシュな雰囲気醸してんのでよりムカついたのもあって、相当気にしたよ……これで良いか! これでそのよく分からん加虐欲は満たされんのか」

 

「おー良いねそれで良い、むしろそれが良い。当たり障りない、教科書通りで良い『負け』だ」

 

「……ぁああ? 負けに良いも悪いもあるもんかよ。往年の運動部かってんだ」

 

「少なくとも、私は見てて愉快だったけどね」

 

「……そうかよ……」

 

 ロナのニヤけた口振りにムカつきを覚えて、俺は視線を逸らす。

 

 うっぜぇぇぇぇ。

 

 んだよこいつ……。

 

 なにかしらへの怒りとかでやってるでもなく、純粋に揶揄うこと自体を楽しんでるのか?

 

 まぁだとしたら、ウチの三人三色のポンコツぶりが、コイツの目には黄金かなにかに映ってそうなのも頷けるが……。

 

 なんだこれ……マジでバニルの実況解説とおんなじなんじゃねぇのか。

 流石にそれは看過しがたいぞ。

 

 というか、普通に人間としてできて無さすぎるだろう、人が本気で傷付くラインをはかりかねている。

 

 金とかマトモに話せるとか、そういうレベル以前の問題だ。

 

 イカレ野郎どもに囲まれてせっせこ勧誘に走ってしまいはしたが、やっぱり流石にここでこいつは弾いておいて、またの別の機会にラグジュアリーそうな奴を狙ってみるべきなんだろうな。

 

 数多のクズを相手取って来た俺からしても、これだけの根っからのクソガキとなると、手に余るものがある。

 

 と、俺はロナに向き直り、考え直す旨を伝えようと、

 

 ……する。

 

「……」

 

「……? 何よ」

 

「いや……良い」

 

「……そう。早くテーブル戻らないの?」

 

「すまん。それは待ってくれ」

 

 ……したが、言葉が出てこなかった。

 

 俺は再び洗面台に体を向き直った。

 

 ……なんか、緊張するう。

 

 というか、いつもより俺の心臓の鼓動がチキンチキンしてる。

 

 あんな見切り発車的に勧誘しただけみたいな奴を追い出すだけの、コンビニ寄るだけぐらいの小さな気力すら、俺の精神にはなぜだか錬成されないのだ。

 

 なんかこれ、想定よりもっとめんどくなりそうだな。

 

 こんな面倒臭い奴を勧誘してしまった挙句、今の俺にはそいつをシンプルにしょっぴくだけの体力すら無いらしい。

 

 ……俺は思う。

 これは、やっぱりおかしい。

 

 なんでか自分の忌み嫌っている箇所の症状が、これ程までに育って行ってしまってるのか。

 

 一国の王女にタメ口をきき、他国の王子に博打で勝負を挑んだこの俺の『やるときゃやる』メンタルすらもが、今や生来のチキンハートの猛威に侵されているというのだ。

 

 思えば……というかずっと思っていたが、この症状は俺たち四人、もっと言えばこの街の人間のほぼ全員に当てはまっている。

 

 例外と言えば、ウィズやらバニルやらの所謂天井組だ。

 

 ここ一ヶ月弱、アクアの知能は最早地の底を掘削した先にまで落ちたようで、ゾウリムシやらミカヅキモやらの微生物のソレと張り合わんとする知能だし……。

 

 めぐみんの中二病は、頑迷的過ぎて最早敬虔と言える、何かしらの邪教の宗教家とかの段階のふてぶてしさだし……。

 

 ダクネスのドMセンサーに至ってはもう、会話における言葉の一音から音程までの全てがアイツの土俵になるレベルで敏感になっているし……。

 

 端的に言えば、話が通じない。

 誇張は少ししかしてない。

 

 さっきまでのコイツを勧誘する流れだって、今まで通りの三人だったら、勧誘だと分かった時点でなにかしらを考えて意見を挟んでくるはずなのだ。

 

 それすらなかった。

 

 三馬鹿達のステレオタイプだけを忠実にこなす、ただの操り人形になってしまったかのように。

 

 ……しかし不思議なことに、王都の地、たまに出向く他国の地などではその現象の影は見えない。

 

 イグニスの親父さんは相変わらず俺に娘を明け渡そうとしてくる、アイリスの前でのクレアの気の張りようは胸焼けして来るほどにくどい……という根本自体は変わっていないのだが、やはり、しっかり話は通じる。

 

 理性の存在が安心して認められる。

 

 これはやはり、なにかしら。

 

 誰かしらの手によって、このアクセルの街になにかしらが施されているのだろうか。

 

 ……というか、その仮説が合っているとするならば、この緑羽織の男の妙な欠落感にも、説明がつくんじゃないのか。

 

 俺は分かる。

 

 このアクセルの街で、富豪と没落の平家物語を繰り返してきた俺には分かる。

 

 金回りの良い奴というのは、往々にして人脈と人望を獲得することができなければ、作られ得ないものなのだ。

 

 トレーダーとかYouTuberとかそういう職は別だろうが、この世界にそんなハイテックな職業で飯代を稼いでいる人間はいない。

 

 こいつだって、こんなナリでも多くの人間の助力にあやかって、こんな仕立ての良さそうな服を着るような生活を築いて行った筈だ。

 

 しかし、今のこいつの初対面のお人柄からは、そんな人望を生み出せるような人格的なポテンシャルは感じられない。

 

 それこそ、さっきの俺のように見た目で人を惹きつけはしても、話してみたらただのカスでしたーで見放されるのがオチなはずだ。

 

 ……いやまあ流石に言い過ぎかもしれんが、こいつの性格がもしこの通りのものだとした場合、とてもじゃないがこの世界では金を作れない。

 

 人は集まらない。

 

 とするならば。

 

 ……やはり、こいつのメンタリティにも、誰かしらによる何かしらの手が加えられていて、そのせいで、冷笑っぽい感じのヤな部分の性質が、こいつの中で増幅されて行ってるのではないだろうか。

 

 俺は、洗面台に顔を向けたまま。

 

「これは本題じゃないんだが……。お前、多分この街来てから久しくないタチだろ? 魔王討伐なんつービッグニュースも知らないってことは、世俗離れの出身の感じだもんな。うちにもそういう大貴族出身の箱入り娘がいるが、お前は今までどこで何してたんだ?」

 

 洗面台の鏡の向こうで、ロナの肩が竦んで、

「あー……。まあ、別に大したことないよ。趣味で文系の学問をやってるから、それが高じて先生とか講師の仕事とかやらされちゃって。あとはまあ、適当に縁のある人達と食っちゃ寝してただけだからね」

 

「……はーん、適当に縁のある人」

 

「うん。職場で知り合った人とか、学術の催しで気の合った人とか。……というかそれより、あの三人の中にそんな大物の子が紛れ込んでるんだね。おったまげだ」

 

 職場で、催しで……。

 

 やっぱり、その場その場で人に好かれる奴だった筈なんだな。

 

「まあ、俺たちのパーティはパッと見だけ良くても、一度話したらそれが瓦解するポンコツの集まりだからな。信じられないか――」

 

「信じらんないね」

 

「おお、食い気味だな……いや、普通そうなるんだろうが」

 

「まぁ、パッと見でもあの黄色い子は、女性というハードルがあってもちゃんと質の良い筋トレを頑張れていて偉いと思ったけど……やっぱりどっかしら変だったからね。何がどうでああなってるか知らないけど」

 

「へーん……。因みにな、俺の言ったさっきの大貴族の箱入り娘ってのは、お前がさっきオトそうとしてた金ピカ女騎士のことだぜ。……というか、筋肉美女がうじゃうじゃしてるこの世界で『質の良い筋トレ』なんて一目で分からんだろ。ナンパの口実にしちゃ甘いぞ」

 

 俺の煽りを受けたロナは、眉を怪訝にして。

「ええ? 別に、ホントにそんなつもり無かったんだけどね。この世界のトレーニーなら、誰でも分かるんだよ。魔法に頼るでもなく、ただ純粋に自分を追い込み続けることのできる精神を持つ者の『後光』が……ね。透き通る世界みたいなもんだ。やっぱり、筋トレしてないとそういう所には気付きずらいかな」

 

 例のグラップラー漫画みたいなこと言いやがる。

 

「あ? ……んだその透き通る世界って気持ち悪い。筋トレで気持ち良くなる変態に後光もクソもあるかよ」

 

「低身長低所得には後光か何かあるのかな?」

 

「……黙れ」

 

 ……やはりだ。

 

 気を抜くと冷笑主義者が首を擡げる。

 

 俺は、ゆっくりと本題に入って。

「というかお前、職場で関係作ってそこで会った人と食っちゃ寝の生活って、そんだけ人望ありそうな感じなのに、節々でマウント取りの感じするんだよな。そんなんで人脈とか作れないだろ」

 

 俺の攻めた指摘に、ロナの顔が笑んで。

 

「そう? ……あれだけメンバーの前で口数少ないパーティリーダーもどうかと思うけどね」

 

「……ああ、それのことなんだがな……」

 

 鏡越しの会話から、俺は体を翻して。

「最近俺含め、俺のパーティがなんだかおかしいんだ。……いや、俺のパーティというか、もうこの街の殆どの人間が、同じように変哲な症状を被ってる感じなんだ」

 

 ロナが腕を組んで。

「……んん。おかしい、ね。広いね、『おかしい』だと。どうおかしいのかな。みんな借金まみれになっちゃったの? それとも、みんながみんな身長が頭半分縮んじゃったとか」

 

「違う……なにがなんだか俺もさっぱりなんだが……。ここの街の人間のこの所は、妙に欠点が前に出てる感じがするんだ。この街にお前みたいにマトモに話せる人間がいるのは結構珍しいことなんだ。さっきのアイツらだって、お前がダクネスの事を褒めるなんていう展開にならなければ、一向に話が通じなくて結局勧誘の話もご破算になってたと思う。……話が最低限通じるから聞くが、お前にも最近、そういう心当たりねぇか? アクセルに来てからどこかしら変だとか、精神がどうだとか」

 

「ふーん……」

 

 その長い講釈を聞いたロナが、驚くように眉を上げた。

 

「いやはや、精神状態を共有できる事態なんてあるんだね」

 

「そうか……お前も何か最近、この街に来てから自分のことで変に思ったことあるのか?」

 

「そうだね。なにか妙だと、変わってくれたもんだなとは私も思ってたよ」

 

 ……やはり。

 

 まともに話せるこいつなら、何かしら異変を感じていると……その予想は、当たっているらしい。

 

「そうか! やっぱりこの違和感は、俺だけ抱えてるモノじゃなかったってこったな……どんなことだ、聞かせてくれ! どんな小さなことでも、なんでもいいぞ!」

 

「……うーん」

 

 ロナの人差し指の指先が立って。

 

「……まずだ」

 

「おう……」

 

 

 1拍置いて。

 

 

「私が、よりしっかりモテるようになった」

 

「……ん?」

 

 またまた。

 

 ……なにが来るんだろうか。

 

「やっぱり、私が活動してたような他の街だと、理性的で抑制的な人が多くてね。私みたいなイケメン魔法使いには、さぞ近寄り難い感じがあったんだろうさ……」

 

 ……待てよ。

 

 色々厳しいところあるが……そもそも、そんな話では無かっただろう。

 

「…………いやまあ、そういうのもあるだろうが……。なんか自分の中でどういうとこが変とか、この街の人のどういうとこが変とか、そういう類の――」

 

「この街の人々が変? 変? ……いやいやいや、とんでもない。私という世紀の傾国美男子が街を歩いていながら、道脇から黄色い歓声が上がらずにいたのがおかしかったのだよ。その点この街の人々は、さぞ正しい感性を持ってらっしゃるのだろう」

 

 

 お……っと。

 

 

「……ロナ?」

 

 ……ロナの右手が、己の顔を鷲掴んでいる。

 

 指の間で、黒目がギュンギュンと動き回っているのが気持ち悪い。

 

「これだけ天才的で蠱惑的で、最早英雄的ですらある私が……ようやく方々の女性からの評価を得られていることの、何がおかしいと言うのか……?! 他方の捻くれた女共と違って、この街のそれらは私の威光をバカほど正直に礼賛してくれる! ……これが! これこそが! この世界と言う名の私の舞台装置にあるべき姿だろう! 神は君臨し! 人は崇め! 世界は私を不磨の大典とする! これがなされていなかった今までの世界が、それこそおかしかったというものだよ……」

 

 ……。

 

「………………はい、これ。面接とか言うから、冒険者カードね。適当に見といて」

 

 言い終えて、ロナは羽織の内ポケットから茶色い冒険者カードを俺に渡す。

 

 ロナは、勝手にトイレを出て行った。

 

「…………あぁ。……うん。……まあ、見とくわ。ありがとうな……」

 

 どうやら俺のパーティには、未来永劫常識人もまともな戦力も降って来ないらしい。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。