この素晴らしい世界に祝福を!オールマイティ!   作:円卓騎士夫婦別姓

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このおかしくなってしまった街に疑問符を!(2)

「…………嘘だ……」

 

 再び思い出して俺は、今日何回目か分からないそれを吐いた。

 

 ロナから受け取った冒険者カードの内容が、未だに俺の脳みそで繰り返し反芻されている。

 

 早速トカゲ討伐クエストを受けた俺達は、巨大トカゲが出ると言うアクセル近くの森の洞に、五人目候補(まだ全然罷免の余地もあるので)を引き連れて、そっそくさと向かう。

 

 葉っぱを踏むめぐみんが、

「……アクア、ダクネス、見てください! この野草……この野草からは、他の雑草のそれとは明らかに違う、近寄り難い漆黒に塗られたオーラを感じます……! どうか、どうか安易に触れぬよう、気をつけて!」

 

「めぐみん、安心しろ! パーティの絶対的な盾である私が! ……そのようなミステリアスで、魅力的な……いや、どんな攻撃を仕掛けてくるか未知数で大変好ましい好敵手から、……存分に魔の手を引き受けてやろう!!」

 

「えーなになに! この雑草ちゃん超可愛らしいんですけどぉ! 可憐なんですけど美麗なんですけど持って帰りたいんですけどぉ!! ……どう?! そこの可愛らしい緑の妖精ちゃん? 女神様の高尚で清廉な胸の内にアナタだけは特別にお迎え――ってどぅわあ?! なにこれトンデモ刺激臭じゃないのぉ! もう……憎たらしいっ! なにが可憐で可愛らしいってのよぉ!!」

 

 ……。

 

 ……と、何度も唱えるように、ウチのバカ三人は今おおよそ話が通じない状態なので、黄、青、赤の後ろを俺とロナの二人でついて行く。

 

 前列との距離は、勿論必要なだけ取って歩いている。

 

 目の前で繰り広げられる支離滅裂に、最早白目を剥きそうになりながら俺は、手元の冒険者カードに視線を移した。

 

 さっきの面接では、本題の能力とかステータスについて話し損ねたので、冒険者カードの情報一本でこの金回りの良さそうなポンコツ候h……新人候補の価値を計ろう、という試みである訳なのだが……。

 

 ……この男。

 

 冒険者カードに皆同じように記されている、レベル。

 

 そのレベルが、まさかの……。

 

 ……まさかの、1…………なのだ。

 

 これは一体、どういう了見なのだろう。

 

 先程まで自分の事を神だの英雄だの不磨の大典だの豪語して、化粧水のシーエムみたいな顔で髪をかきあげていた男が、なかなかどうして、こんな産地直送ステータスをしているんだ。

 

 やっぱり、あの激ヤバ属性が醸すように、ポンコツイカレの戦い方をする兄ちゃんなのだろうか。

 

 だがまあしかし、冒険者カードを見る限りでは、回復魔法やら、防御魔法やらの当たり障りの無い魔法に加え、よく分からない《構築魔法(ビルド)》だの《再現魔法(トレース)》だのという辺鄙な魔法もあり、なんだか支援系の魔法使いらしい。

 

 肝心の職業はと言うと、ここらではあまり見ない《賢者(セージ)》……というもの。

 

 まぁ推し量るに、色んな支援魔法やら後衛系の魔法やらを使える職業なんだろうか。

 

 その名の通りと言うべきか、関係ないのか知らないが、知力の値は飛び抜けて高い。

 ダクネスにおける防御力、めぐみんにおける魔力、俺における幸運値だ。

 筋力やらなにやらの基本スペックも大体が俺より一回り高い。

 

 ……まあ、幸運に限ってはアクアと張り合わんとするくらいのレベルではあったのだが……。

 

 まあ色々躓くとこあるが、つまるところ、なんでもできるインテリだろうか。

 性格と幸運に難が無ければ。

 

 こいつはまだ、上振れる可能性も下振れる可能性もどちらも大いにある。

 

 レベル1なのにこれだけ魔法を覚えていて、そのラインナップも見た感じ相当変哲。

 

 ……本人が言うには、基本的なそれも含めて、魔法を覚えたりなんなりというのは、一概にただの遊びに過ぎないらしく、そんなのしてもしなくても、私は最強らしい。

 

 レベル1なのも、気にしないでねの一点張り。

 

 本当に、意味を分かりかねているこの頃だ。

 

 ……と、隣を歩くロナが人差し指を立てて。

「んー、そろそろ私のカード返してくれない。そんな板切れでも一応個人情報載り載りボードだからね。…………というか、結構歩いたはずだけどなかなか全然着かないね、例の洞。痛覚が鈍くて戦い辛いとか言ってたけど……さっきの話だと、もうそろ到着するくらいの頃だけど」

 

 急かされた俺は、人差し指と中指にカードを挟んで返しながら、回想して。

 

「あぁすまんすまん、洞なあ……。なんでもこの街にしては珍しく、ここ一ヶ月かそこらの間塩漬けになってたクエストらしいからな。百二十万エリスも報酬があって放られてたクエストなわけだから、あの金にがめついアクセルの冒険者達すら跳ね除ける、何かしら別の厄介さもあるのかもしれない。……もしかしたら俺達はもう既に、良からぬ幻術か何かにかけられている可能性だって……」

 

 俺が冗談半分本気半分で言いながら、鬱屈とした枯葉を踏んでいると。

 

 アクアの声が、

「あっ! カズマさんカズマさん!! 私見つけちゃったかも!」

 

「そうかアクア……どれどれ? 中々たどり着かないとは思ってたが……」

 

 アクアが掌でバンバンと叩いた洞穴を見たところ、木々の青々が擦れる絶壁に、なにやらブヨブヨとした内装の覗く洞穴が見えた。

 

「……ほらこれ、ここここ! こんだけ歩いたんだし、クエストに書いてあった、トカゲが出るっていうあの洞じゃないの? 結構狭い感じだけど、ちょっとこじ開ければ人一人くらい楽ちんで入れるわ! さ、行きましょ行きましょ! ……百二十万百二十万〜♪」

 

「おー、よくやったなアクア、お前にしちゃ手柄だ。お陰でようやくスタートラインだな。ほらロナ、お前も行くぞ」

 

「……ちょっとちょっとサラッと流そうとして、なにがお前にしちゃよ。アンタねぇ、私の女神様の慧眼のお陰で、ポックリからの天界直行ルートを何回回避できたと思ってんのよ! この程度の洞察力、女神の私が持ち合わせてないなんてことありえないのよ、この長い間組んでてまだわかってないっての? パーティリーダー様の目は節穴ね、節穴!」

 

「あぁ悪かったな。……悪いが、今の俺にお前の戯言を逐一処理するだけの気根と気概は無い。どの道俺は、チート要求して駄女神持って帰っちまった両の目節穴野郎だ。まあ色々免じて、堪忍してくれよな」

 

 気も入れられずにあしらった俺は、めぐみんの後ろに続いて洞に入る。

 

 先に入って行ったアクアが、

「その事は言ってないわよ! ……あらら、学校に行かなかったせいで未だに正常な読解力も身について無いのかしら? この引きこもり自宅警備員は!」

 

「……はい。そうですそうです。私は読解力も社交性も、必要なチートを選ぶ判断力も無いヒキニートです、これで満足だな。……ほらロナ、お前のデカさで入れるか」

 

「だから流すのやめなさいよ!」

 

 アクアの不愉快極まりない甲高さが響くと、入口を抜けるロナの口元が、片方クイッと上がった。

 

「やっぱり相当愉快なとこね。このパーティは」

 

「そうかよ。…………そのポーズだとお前、さぞかし余裕も余裕って感じだな。その調子でさっさとクエスト片付けるぞ、お互いに見るもん見れてねぇからな」

 

 あぁ、そうそう、こいつのこの自信過剰の火種になっているであろう要素、《転移魔法》の話をしなきゃなんだった。

 

 何せ、冒険者カードのスキル一覧に見当たらなかったスキルだ。

 シンプルホラの可能性もあるし、ちゃんと探っておかなければいけない。

 

 俺は、再び前三後二の避難隊列に戻って。

 

「お前得意の《転移魔法》ってやつ、一度見てみたいんだよな。《テレポート》のそれとは、幾分ルールも違うんだって?」

 

 聞いたロナの人差し指が立って、

「うん。……でもまぁ、私の使えるテレポートが既存のそれの性能から大きく乖離してるから、差別化として言ってるだけで、本質はそこまで変わらないんだけどね。対象になる人やらモノやらを、指定した位置に一瞬で転送する。私の場合は、従来のテレポートにあった、『転送先の位置を登録しないといけない』ってとこ、あと、『三点まで転送先を登録できる』って条件(せいげん)を、その条件を満たさなくても良いように運用してるんだ。だから今までのテレポートなんかよりも、フットワーク軽く使える魔法に仕上がっているわけよ」

 

「……ほえー、そりゃあ、便利そうなこって……」

 

 目の前の駄女神様よりも、よほどチートチートしているであろうそのクソ長詳細を聞いて、俺は顎を摩っていた腕を軽く広げる。

 

 

 ……ん?

 

 

 いや、待てよ?

 

 

 ……テレポート先の座標登録無し、しかも、テレポートルートの制限無し……。

 

 なんだそれ、なんだそのチート……最強支援魔法じゃねぇかよ。

 

 駄女神様よりよっぽどチートとか、そんなちっぽけなスケールのお話じゃねえんじゃねえのか……?!

 

 いやまあ、コイツの覚えてる技に肝心の攻撃手段が無いってのが、剣も何も持たない奴として普通に致命的な所だが、支援とか防御に回してしまえば、何処までも天井突き抜けて輝ける、クエストらくらくお手軽化ツールに化けるんじゃ……。

 

 ……これはこれは我ながら、年季を積んだ観察眼が冴え渡ってらっしゃるようで。

 ポンコツイカれ兄ちゃんだの、レベル一のクソザコステータスだの言って落胆してたのが馬鹿みたい。

 大収穫中の大収穫でしたわ。

 

 おいらのパーティついに、一躍超王道の最強パーティになっちゃうかも?

 

 俺は態度を一気に柔化。

 顔の周りにお花でも浮かんでいるのではという表情で。

 

「んー、ナルホドなあ。初対面の時から期待はしてたが、やっぱり有能インテリ魔法使いって感じなんだなあ。今までもそういう役回り多かっただったろうが、このクエストでも俺達の頼もしい後方支援、よろしく頼むぞ。俺のチームには、お前みたいななんでもできそうな有能メンバーが今まで足りてな――」

 

「……いや、別に私、後方支援とかするつもり全然無いけど」

 

 

 ……。

 

 

「……え」

 

 

 ……ロナの右手が、左上腕を現場職の親方のようにパツッと叩いて。

 

「私も前衛でバリバリしようと思ってるよ。なんてったって、私の一番のセールスポイントは、この屈強な肢体な訳だからね。あ、いや、一番はこの犀利の頭と端正なお顔か……。どっちも限界値だから、どっちも一位だね」

 

 

 ……話が通じて、いるだろうか。

 

 

「……いや、ちょっと待ってくれ、お前がその……インテリイケメン、なこと自体は、百歩譲ってそうだとして」

 

「何を譲ると言うのか」

 

「…………お前が前衛バリバリは明らかに、最適正じゃ無い。さっきお前の言ってた最適解適解の話にも反してる。……お前にはできれば、ダクネスとかがガンガンやってる後ろの方で、転移使っての支援に集中して欲しいんだ、俺は。その方が、お互い負担も少なくて済むだろ。……な? 考え直してくれ……頼むから……お前の使う魔法はなにやら凄そうだから、俺らも頼りにしてんだ。……頼むから、頼むから考え直して――」

 

「いやいや、だってさ」

 

 

 ……遮ったロナの鼻の奥が憎たらしく鳴って。

 

 

「……おもんないじゃん……もっとヒリヒリしないと。私の培ったテレポートは、私の私欲を充填する為の、らくらくお手軽ツールなのだよ」

 

 

 ……………………。

 

 

 俺は、殆どダメ元で講釈を垂れようと。

 

「いや、その、面白いとかじゃなくて――」

 

「まあというか、私のこの鍛え上げられた肢体とその上で躍動する尊顔と更にはその内側で駆動する超緻密計算機の姿を満足に捉えるためには、この形が最も効率的で最も美しいと言えるのでは無いかとも思ってしまうのがこのインテリイケメン頭脳の至る所であったというのが私の見解なのだが……! まあそもそもの所私という存在はそこに立つだけで並々ならぬ威光を――」

 

 ……ロナが額に手を当てて垂れ流した言葉を、そこまで聞いて俺は聴取を打ち切った。

 

 

 …………撤回。

 やっぱりただの……ポンコツイカれお兄ちゃんでしたわ。

 

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