この素晴らしい世界に祝福を!オールマイティ! 作:円卓騎士夫婦別姓
「……うわぁ、カズマさんカズマさん。ほれ、ご覧なさいよ」
「ん? ……うわ……」
アクアの呼び掛けで、俺は洞の脇にあった白骨に目をやった。
……凄惨だ。
白骨のなんとなしの配置だけが、それが生き物だったことを語っている。
「……仏さん、なのかも分かんねぇな。モンスターの頭蓋か、人の頭蓋か見分けも付かん。聞かない名前だとは思っちゃいたが、巨大トカゲ……相当厄介なモンスターかも知れないな。骨がここまで壊れるなんて、一体どんな破壊力で……」
「まあでも、骨格の感じとか見る限り、人っぽいね。……さてはて、どんな相手なのやら」
ロナがニヤけ顔で言うので、俺は頑張って胸を張った。
「ま……基本どんな相手だろうが、多分負けるこた無いぜ。なんてったって俺達は、数多の幹部に加えて魔王さえ討ち取った、最強の英雄パーティだからな」
俺が思ってもない自画自賛を吐くと、横のロナは薄茶色のちっちゃい板を持っていて。
「へぇ、負けることは無い、ね。……最弱職の冒険者で、どうにかお姫様されて生き残ってそうな人が言うことかな」
こいつ、いつの間に冒険者カードを。
実力が悪い方向に使われてやがるぞ、前列三人と共通点が多いなコラ。
「おい、やめろ勝手に人のカードを。……あとさっきも言ったが、一見最弱ワッショイのこのパーティも実のとこ、借金生成トラブル醸造イカレ野郎の集まりだからな。もし俺がここの参謀してなかったら、なんて考えるだけで、コイツらの地下労働してる背中が思い浮かぶ。そういうパーティをまとめてきたリーダーだ俺は。……分かったら、早くそのカードを返せ、というか人のやつまじまじ見んじゃねぇよ、……あ、おい! ずりいぞ、上に上げたら届かねぇだろ!」
……と、ニヤケ顔で俺の冒険者カードを盗み見やがる。
「んーどれどれ? ……《スティール》、《潜伏》、《千里眼》、《読唇術スキル》……《爆裂魔法》? ……はっ、マトモに戦えるスキルじゃないね。これで姫じゃなかったらなんだってんだマジで」
「おーそうか? そこまで言うんだったら、お前の言うそのマトモに戦えないスキルで、今から泣かしてやって……」
「泣かしてやって、何? ……使役?」
「……いや良い。とりあえず何でもいいからカードを返せクソガキ。俺には今こんな下らん小喧嘩に付き合う気力すら――」
「……んほぉっ?!」
「……っ、なんだ?!」
ダクネスの喜悦で俺は、洞一体を動かし始めた地鳴りの存在に気付いた……!
「……クソ、よりによってこんな時に地震かよ……おいお前ら、取り敢えず今は一旦退避だ。来た道戻って、また揺れが収まってから向かうぞ! ……って、なんだ、アレ?」
俺が一時撤退の指示を出そうとすると、洞の先に……なにやら、その面積いっぱいの大きさの、塊のようなものが蠢いているのが見える。
ダクネスもそれを捉えたようで、大剣を抜きながら。
「おおおお! 来た! ようやく来てくれたぞカズマぁ! ……あれは、あれは確か、強力な顎で私を心行くまで甚振ってくれるという……!」
……クソ、そういやコイツは、夢小説だけで現実を完結する変態になってやがったんだ。
ダクネスの果敢さに、真っ当な異を唱えるアクアがダッシュの足踏みをしていて。
「ん何言ってんのよダクネス! 早く早く、一時撤退よ撤退!」
……と、案の定ダクネスは迫り来る何かの方に一直線なので、俺は鎧の襟を掴んで逆に走る。
「それはテメェの妄想の話だろうが! 先に向かってないで、いいから早く入口に走りやがれ変態! タダでさえ、こんなブヨブヨしてて気持ち悪い洞だってのに、更に生き埋めで全身粉砕なんてどんな悪魔の殺し方だ!」
……も、重いので、動かない。
筋肉かしら。
もはや乙女の端くれでも何でもない変態は、俺の引きずりをものともせず。
「っそうだ! どんな悪魔の所業が待っているか、どんな強力な責め苦が待っているか……! クルセイダーである私には、一部始終を見届けるだけの権利がある!」
「ねぇよ! ただお前のエクスタシーの為だろうが! クルセイダーだのなんだの言って美談の感じにしやがって、気持ちわりぃ!」
「……くっ! 気持ち悪――」
「ほら、めぐみんだって……あんなの食らっちまったら一溜りもねぇんだ!」
と、ダクネスの横のめぐみんも、それはそれはいつもの感じで眼帯を押さえていた。
これはもう、そういうことだ。
「ほほう……? 我が爆裂魔法の御業がある上で、このような杜撰な輩の偏差値の低い攻撃が、脅威足りうる……と? いい度胸……その挑戦、最強の爆裂魔法使いであるこのめぐみんが受けて立ってやろう!」
「そういやお前もだったな! くそぉ!」
横のロナは、勿論笑っている。
「おおすごいすごい、流石に転移使った方が良いかなとか思ったけど、どうやら迷惑っぽいね……。こりゃ失礼、慎ませていただきますわ」
「何笑ってやがんだテメェは! ……というか、ここで転移使えんだったら早く使えよ! ……ああくそ! 俺に使われる筈の金銀財宝が……今頃俺たちの帰りを――」
俺が必死の心残りを言いかけると、アクアの嗚咽がそれを汚く塞いだ。
「っヴぉええええええ! カズマさんカズマさん、なんかあっちのモンスター? ……の方から、トンデモ刺激臭がするんですけど! なに、何よあれ! ホントにただのモンスターなわけ?!」
「……あ? 刺激臭? んなもんどうせ、さっきのよく分からん雑草の残り香だろ! 良いから早くこいつを説得するか、この変態を引き摺るのを手伝え……って、ヴぉぉおおおええ!」
……珍しくアクアのそれは譫言でなく、本当に臭かった。
俺は、掻き抱くように自分の鼻を摘まむしか無かった。
「……マジで臭ぇじゃねえか、んだよこりゃ! ケホッケホッ……いやマジ、ホントに臭すぎる……! この感じはもう、吐瀉物とか人糞とか、その類の……」
……すると、洞の先から近付いてくる蠢きに、ランタンの灯火が微かに当たり始めた。
…………その、見てくれというと。
茶色い。
はっきりした形が無い。
何というか、塊。
……………………ん?
俺は、一瞬立ち止まる。
ちょっと待てよ。
……ブヨブヨ壁、人糞とかの類の臭さ、完膚なきまでに分解された仏さん。
これ、もしかすると。
……俺は、ダクネスの襟からそっと手を離して。
「おいアクア、ロナ……先を急ぐぞ」
「っはあ? 何言ってんのよ、それじゃあダクネスとめぐみんが生き埋めなっちゃうでしょ! 人の心が雀の涙くらいはあったはずのカズマは、一体どこ行っちゃったのよぉ!」
俺は、無理やりアクアの腕を引きながら。
「いや、いいかアクア、よく聞け。……あの迫ってきてる謎の構造物は多分な…………クソだ。『糞』。冗談でも無ければ比喩でもない、排泄物だ。……俺たちは、巨大トカゲの潜む洞に潜入したもんだと勝手に思っていたが……実際潜入してたのは、超巨大トカゲの後ろの穴だったんだよ!! ブヨブヨの壁と刺激臭がその悲しみの証拠だ!」
アクアはその推定事実を信じられず、引きちぎれるほどに顔を引き攣らせ。
「え……? ……えぇ? ……いや、いやいや、そんなハズないじゃないですかあ! だって、だって……来た時は臭くもなんとも無かったのよ、普通そういう臭いはずっと漂ってるもんでしょ! ……そんなの嘘よ、嘘!」
「テメェが入口バンバン叩いた時に勝手に浄化しやがったんだよ多分! そのせいで、腸内活動活発な今になって、このお陀仏ロケーション発覚して来てんだよ! どうせただの脱糞だったなら、コイツらも死ぬわけじゃねぇ……! 正気保ってる俺達だけでも、キレイサッパリなまんま帰るぞ!」
やはりアクアは、どうしてもそれを認めたくないようだった。
……まあ、それを認めて、イキイキ顔に皺作って楽しんでいる奴もいるが。
「そんなぁ……うぅっ、ダクネス、めぐみん! 屋敷に帰ったら、私が全部、全部全部綺麗になるまで浄化してあげるからあああ! ごめんなさあああい!」
と、泣きわめきながら俺の逃げ足に着いて来たアクア。
……決死のガンダ中の俺たちの前に、そういや居なかったロナが忽然と現れて。
「リーダーリーダー」
「……あんだよっお前も走れよ!」
「そうよ早く早く!」
「仲間を、トカゲに排便させたく無いかな?」
「そりゃさせたくねぇよ! させたくねぇけどしょうがねえじゃねぇかよ!? アイツらは今話通じねぇし、お前だってどうせ本当は、大口叩いた割に役立たねぇ魔法使いなんだろ? ……だからそうやって、冗談のフリして無能隠してるだけなんだろ! どうせ俺のパーティには、まともな戦力なんて一人も入って来ねえんだからなぁ!」
「……ちょっと、まともな戦力が入ってこないってどういうこ」
「お前は喋るな! もう俺には捌く気力が無い!」
「冷たぁ!」
それを見ながら、何故か俺らの前を通せんぼして来るロナは、ムカつく人差し指を立てた。
「私もちょっと、これからの仲間が汚物と一緒に流されるのは……あんまり見たくないんだよね」
「じゃあどうすんだよ! テメェの言う《転移魔法》は使えんのか?! どうせまともに機能するもんじゃねぇんだろ! 俺は知ってるからな! 長年そういうのに囲まれてきた俺は知ってるからな!! というかお前、さっき自分の私欲の為のなんとかとか――」
「……まぁ、見てな」
俺の糾弾を遮って言ったロナは、右手をパチンと鳴らし……
* * *
……先ほどまでの熱気が晴れ、大気が澄んでいる。
気付けば俺達は、重力のような音が聞こえるのと共に、洞(嘘)のあった森の入口付近に戻っていた。
……びっくらこいた。
こいつの転移はどうやら、本物の最強支援魔法らしい。
……あー、空気がおいしい。
日々の当たり前に感謝だな。
と、突如現れた俺達五人の存在に、森前にいた冒険者達が。
「――どわっ?! なんだ、急に人が四人も出現したぞ!」
「――この四人……もしやこれは、あの高位魔法のテレポートか?」
「――四人一気に転移なんてただもんじゃねぇ……! 一体、どんな凄腕魔法使いがいてやがるんだ!」
ステレオに塗りつぶされたようなその賛辞を皮切りに、俺たちへの黄色い視線と声が、冒険者たちの中で伝播していく……。
……いやはや、こういうのには慣れて来たとは思っちゃいたが、改めて……こうして視線を集めてしまうとやはり、ほんのりと照れくさい所が
ん?
四人?
……と、他の冒険者が。
「――あぁ、きっとあの新人っぽい冒険者は、きっと只者じゃねぇ!」
「――だってアイツは、
え?
……ララティーナ、以外?
「……へ?」
……俺が、首をギリギリと回すと。
歯間に息を通しながら、ロナは澄んだ綺麗な空を仰いでいて。
「……あの子の魔力抵抗、最強さんだね」
……そういうことでしたか。
その後。
俺たちはめぐみんの爆裂魔法で超巨大トカゲを粉砕し、己の生まれの低さを祝福しながら汚物を掻き分けて、ダクネスを回収した。
ドンマイ、サラブレッドのダクネス。