陰の剣聖になりたくて!   作:川井 アザト

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1話

異世界に転生、したと言っても過言ではない状況に、俺は置かれていた。

 

転生した理由は、わかっている。

 

ほんのマヌケな、自分でも顔を覆いたくなるような結末。

 

溝の側溝の蓋の上で、滑って転んでそのまま転生という、あまり迎えたくない自分の人生の終わり。

 

俺は、その時点で想像などしていなかった。

 

新たな生を受けることになるとは。

 

人生の終わりを体験し、次に俺が目覚めた時、俺は赤ん坊だった。

 

見知らぬ男女、おそらく、俺の新たな両親が、俺の顔を覗き込んでいる。

 

赤ん坊である俺は、この、突然の転生劇に驚きを隠せなかったのか、ピクリとも泣き喚かなかった。

 

不安そうな両親を尻目に、俺は、赤ん坊の身でありながらも、思考を揺らしていた。

 

この世界のこと、俺自身のこと、そして、俺のすべきことを。

 

 

〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈

 

 

この世界に転生して、12年の歳月が経った。

 

ユーリ「父さん!畑の収穫、終わったよ!」

 

ゼイン「おう!お疲れさんユーリ!先に休んでていいぞ。」

 

俺のこの世界での名前は、ユーリ。

 

父の名前は、ゼイン。母の名前は、セイリア。

 

俺たち3人の家族は、ミドガル王国の辺境の村で、畑を耕しながら暮らしていた。

 

今年も、ミドガル王国は暑い季節に変わり、日の光を浴びた野菜達が輝いていた。

 

収穫物を持ち、我が家へと帰る。

 

家の中では、母が、織物をしていた。

 

ユーリ「ただいま!母さん!」

 

セイリア「おかえりなさいユーリ。お昼ご飯、すぐ作るからね。」

 

ユーリ「うん!」

 

俺は、収穫物を倉庫に置き、テーブルへと向かう。

 

椅子に座り、母の手料理を待つ。

 

セイリア「はい。ユーリ。冷めないうちに召し上がれ。」

 

ユーリ「いただきます!」

 

出来立ての、母の手料理に、俺はがっつきながら食す。

 

辺境の農民の食事、それは、野菜と狩猟で採れた獣肉を使った、田舎らしい味付けの料理。

 

街の平民や、王都の貴族にとっては、さしたる価値も考えられない物かもしれない。

 

だが、俺は、この辺境の村の食事が好きだった。

 

シンプルな味付けに、飽きはこないし、栄養も満点、食べるだけで、体も生き生きとしているのが感じられた。

 

ユーリ「ごちそうさま!おいしかった!」

 

セイリア「はい。お粗末さまでした。」

 

昼ごはんを、食べ終え、食器を重ね、台所へと持って行く。

 

そして、俺は、外へと向かう。

 

セイリア「ユーリ。いつもの鍛錬?」

 

ユーリ「そうだよ!今日もがんばらなくちゃ!」

 

俺には、ある「日課」がある。

 

〈剣〉の修行だ。

 

この世界には、魔力というものが、そこかしこの生命に宿っている。

 

人間、動物、植物、あらゆるものが、魔力の恩恵を受けている。

 

その魔力を力へと変え、戦う者たちが、この世界にはいた。

 

〈魔剣士〉たちだ。

 

自身の魔力を、剣や自身の身へと宿し、人によっては、莫大な力へと変わる者たちの総称。

 

ミドガル王国では、魔剣士の育成に力を入れており、王都の学園で、魔剣士の教育を施している。

 

魔剣士の才能が開花し、実力を積めば、王国の直属の魔剣士になれる可能性もある。

 

そう、才能と努力さえあれば、身分に囚われず、高みを目指せるのだ。

 

ユーリ「父さんや母さんに楽させてあげたいし、僕も強くなりたいからね!」

 

セイリア「頼もしいわね。でも、あまり無理はしないでね。母さんも父さんも、あなたが一番大切なんだから。」

 

ユーリ「うん。ありがとう。母さん。」

 

俺は、家族に恵まれている。

 

両親は、俺のことを、心から大切に想ってくれている。

 

俺は、その気持ちに、応えたかった。

 

ユーリ「じゃあ、行ってきます!」

 

セイリア「気をつけてね。」

 

俺は、家を出て、村の北側の山へと向かった。

 

そこが、俺の〈鍛錬場〉だ。

 

 

〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈

 

 

〈鍛錬場〉に着いた俺は、いつもの稽古に取り組んでいた。

 

俺には、前世で憧れていたモノや、人物がいた。

 

前世での、日本の歴史に名だたる、剣豪、剣聖、そして、刀匠たちの名刀を映画や本で鑑賞し、それに向かって目指すのが、俺の趣味みたいなものだった。

 

この世界に転生してからも、〈魔剣士〉という存在を知り、剣に生きられる世界だと知れた時は、嬉しかった。

 

ユーリ「ふぅ・・・・・・」

 

俺は、今、木剣を下段に構えて、瞑想をしている。

 

剣、もとい、〈武〉というものに、最初に必要なのは、心の鍛錬だ。

 

瞑想し、自分の心の奥深くへと意識を向け、己と向き合う大切な鍛錬。

 

この時に、重要なポイントが2つある。

 

まず、自身と周囲の魔力を読み、自分の置かれている状況の中での魔力を吸収し、腹の丹田に集める意識で集中し、練り上げること。

 

もうひとつは、極限まで脱力すること。

 

筋肉や体幹、心の強張りは、それだけで、実戦の場では命取りになる。

 

脱力することを意識し、自分の体の隅々に、魔力と氣力を行き渡らせることを体に覚えさせる。

 

瞑想の鍛錬は、この2つを重視し、稽古している。

 

俺の鍛錬は瞑想だけではないが、この修練だけでも、十年は取り組んでいる。

 

ユーリ「こんなものか・・・・・」

 

俺は瞑想を解き、構えるのをやめた。

 

ユーリ「さて、次はと・・・・・」

 

俺は、瞑想から、次の鍛錬へと移行しようとしていた。

 

だが、妙な気配が、周りに集まってきていた。

 

山賊「ヒヒヒヒヒ!ガキだ!ガキがいるぜ!」

 

山賊の集団が、俺の周りを取り囲んでいた。

 

200人くらいは、いるだろうか。

 

山賊「アニキぃ!近くの村のガキでさ!」

 

山賊の一人が、集団の奥の人物と向き合う。  

 

出てきた人物は、体格も筋肉も、周りの山賊と比べ物にならないくらい大きかった。

 

おそらく、この山賊の集団の長だろう。

 

山賊長「ハハッ!いいねぇ!こいつを人質に、麓の村で暴れまくるってのは、どうだ?」

 

山賊「いいですねぇ!んじゃ!野郎共!そのガキをふん縛れぇ!」

 

山賊の集団は、縄を持って俺に近づいてくる。

 

ユーリ「はぁ・・・・、まだ、鍛錬の途中なんだけどな・・・」

 

俺の意見も聞かず、空気も読まず、俺を、エサのように見つめるハイエナのような山賊たちに、俺は、憤りを感じていた。

 

嫌いなのだ、自分の、ただ唯一の楽しみの、〈剣〉の鍛錬を邪魔されるのが。

 

ユーリ「ったく・・・・ホントに、クソ気分の良い日になりそうだね・・・・・」

 

俺はうんざりしながらも、山賊との時間は、夕方ぐらいまで続いた。

 

 

〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈

 

 

ゼイン「離せ!あそこには!俺の息子が!」

 

村人「よせ!ゼイン!お前一人が行ってもどうにもならないだろ!」

 

日が暮れた村で、ユーリの父親、ゼインが、焦りと動揺に駆られ、騒いでいた。

 

理由は、狩猟に出ていた一人の村の人間が、北の山に、山賊の大集団を目撃したことからだ。

 

ゼインは、ユーリが、北の山の森林で、剣の鍛錬をしていることを知っている。

 

ゼインは、刈り入れ用の大鎌を持って、自分の息子のユーリを、単身助けに行こうとしていた。

 

それを村人たちが、必死で止めているという状況だ。

 

ゼイン「俺のことはどうだっていい!ユーリが、俺にとっては、何よりも大切なんだ!」  

 

村人「気持ちはわかる!だかどうか!今はこらえてくれ!」

 

ゼインは、この村の農地の大半を指揮する立場にある人間だった。

 

彼のおかげで、村人たちの作業ははかどっているし、毎年、農作物の収穫量は増えている。

 

村の人たちが、彼を頼り、心強く思っているのは、周知の事実、失うことの意味は、よく理解しているだろう。

 

村人「すぐにミドガルの兵士たちが駆けつけてくれる!応援要請の使いはもう出した!彼らに任せよう!」

 

ゼイン「もういい!俺は行く!ユーリは、俺の!俺たちの!この村の未来だ!失ってたまるか!」

 

ゼインは、村人の制止を振りほどき、大鎌を持って、飛び込んでいこうとしていた。

 

村人「待て!ゼイン!」

 

飛び込んでいくゼインを、村人たちは追いかける。

 

ゼインは、息子のユーリのことだけを思いながら、北の山へと向かう。

 

だが、その時だった。

 

北の山へと続く道から、一人の少年が駆けてくるのが見えた。

 

村人「あれは・・・・ユーリじゃないか!」

 

ゼイン「っ!ユーリっ!」

 

ゼインは、持っていた大鎌を手放し、駆けてくるユーリを迎える。

 

ユーリ「父さん!」

 

ゼイン「ユーリっ!」

 

ゼインはユーリを抱きとめる。

 

ゼイン「よかった・・・・本当によかった・・・お前が無事で・・・」  

 

ユーリ「ごめん・・・ごめんね、父さん・・・」

 

ゼインと、村人の緊張は、一気にほぐれていった。

 

ゼイン「ユーリっ!山賊たちはどうした!この村に向かっているのか!」

 

ユーリ「いや、その・・・実は・・・」

 

ゼイン「?」

 

ユーリは、ゼインと村人たちに、事の顛末を話した。

 

彼が話すには、山賊たちに遭遇したユーリは、捕まる直前に助かったという。

 

理由は、ユーリの見た〈化け物〉の仕業らしい。

 

〈化け物〉は、山賊たちを、次々と切り刻み、あたり一面を、血の大地へと変えるほどだったという。

 

おかげで、ユーリは隙を見つけ、逃げることができたのだという。

 

ゼイン「その化け物は、なんなんだ・・・・?」

 

村人「うちらの村の山に、そんな化け物が・・・・」

 

ユーリ「うん・・・・あれは、全てを切り刻んでた・・・・まるで〈鎌鼬〉だよ・・・・」

 

ゼイン「〈鎌鼬〉、か・・・・」

 

ユーリの話は、ともかくして、彼の無事に、ゼインや村人たちは、非常に安堵していた。

 

ゼインも失わず、ユーリも失わず、セイリアが悲しむ必要もなくなった。

 

化け物、もとい、〈鎌鼬〉のことは懸念されるが、ひとまず解決したこととなった。

 

ユーリが、山から帰ってきた1時間後、ミドガル王国直轄領の兵士たちが到着した。

 

ゼインと村人は、兵士たちに、事の顛末を話し、彼らは事の事実を確かめるため、北の山へと向かっていった。

 

後日、兵士たちの話によると、北の山の、少し開けた場所で、山賊の長とみられる人物を含め、200人の、切り刻まれた死体が、おびただしく広がっていたという。

 

 

〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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