異世界に転生、したと言っても過言ではない状況に、俺は置かれていた。
転生した理由は、わかっている。
ほんのマヌケな、自分でも顔を覆いたくなるような結末。
溝の側溝の蓋の上で、滑って転んでそのまま転生という、あまり迎えたくない自分の人生の終わり。
俺は、その時点で想像などしていなかった。
新たな生を受けることになるとは。
人生の終わりを体験し、次に俺が目覚めた時、俺は赤ん坊だった。
見知らぬ男女、おそらく、俺の新たな両親が、俺の顔を覗き込んでいる。
赤ん坊である俺は、この、突然の転生劇に驚きを隠せなかったのか、ピクリとも泣き喚かなかった。
不安そうな両親を尻目に、俺は、赤ん坊の身でありながらも、思考を揺らしていた。
この世界のこと、俺自身のこと、そして、俺のすべきことを。
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この世界に転生して、12年の歳月が経った。
ユーリ「父さん!畑の収穫、終わったよ!」
ゼイン「おう!お疲れさんユーリ!先に休んでていいぞ。」
俺のこの世界での名前は、ユーリ。
父の名前は、ゼイン。母の名前は、セイリア。
俺たち3人の家族は、ミドガル王国の辺境の村で、畑を耕しながら暮らしていた。
今年も、ミドガル王国は暑い季節に変わり、日の光を浴びた野菜達が輝いていた。
収穫物を持ち、我が家へと帰る。
家の中では、母が、織物をしていた。
ユーリ「ただいま!母さん!」
セイリア「おかえりなさいユーリ。お昼ご飯、すぐ作るからね。」
ユーリ「うん!」
俺は、収穫物を倉庫に置き、テーブルへと向かう。
椅子に座り、母の手料理を待つ。
セイリア「はい。ユーリ。冷めないうちに召し上がれ。」
ユーリ「いただきます!」
出来立ての、母の手料理に、俺はがっつきながら食す。
辺境の農民の食事、それは、野菜と狩猟で採れた獣肉を使った、田舎らしい味付けの料理。
街の平民や、王都の貴族にとっては、さしたる価値も考えられない物かもしれない。
だが、俺は、この辺境の村の食事が好きだった。
シンプルな味付けに、飽きはこないし、栄養も満点、食べるだけで、体も生き生きとしているのが感じられた。
ユーリ「ごちそうさま!おいしかった!」
セイリア「はい。お粗末さまでした。」
昼ごはんを、食べ終え、食器を重ね、台所へと持って行く。
そして、俺は、外へと向かう。
セイリア「ユーリ。いつもの鍛錬?」
ユーリ「そうだよ!今日もがんばらなくちゃ!」
俺には、ある「日課」がある。
〈剣〉の修行だ。
この世界には、魔力というものが、そこかしこの生命に宿っている。
人間、動物、植物、あらゆるものが、魔力の恩恵を受けている。
その魔力を力へと変え、戦う者たちが、この世界にはいた。
〈魔剣士〉たちだ。
自身の魔力を、剣や自身の身へと宿し、人によっては、莫大な力へと変わる者たちの総称。
ミドガル王国では、魔剣士の育成に力を入れており、王都の学園で、魔剣士の教育を施している。
魔剣士の才能が開花し、実力を積めば、王国の直属の魔剣士になれる可能性もある。
そう、才能と努力さえあれば、身分に囚われず、高みを目指せるのだ。
ユーリ「父さんや母さんに楽させてあげたいし、僕も強くなりたいからね!」
セイリア「頼もしいわね。でも、あまり無理はしないでね。母さんも父さんも、あなたが一番大切なんだから。」
ユーリ「うん。ありがとう。母さん。」
俺は、家族に恵まれている。
両親は、俺のことを、心から大切に想ってくれている。
俺は、その気持ちに、応えたかった。
ユーリ「じゃあ、行ってきます!」
セイリア「気をつけてね。」
俺は、家を出て、村の北側の山へと向かった。
そこが、俺の〈鍛錬場〉だ。
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〈鍛錬場〉に着いた俺は、いつもの稽古に取り組んでいた。
俺には、前世で憧れていたモノや、人物がいた。
前世での、日本の歴史に名だたる、剣豪、剣聖、そして、刀匠たちの名刀を映画や本で鑑賞し、それに向かって目指すのが、俺の趣味みたいなものだった。
この世界に転生してからも、〈魔剣士〉という存在を知り、剣に生きられる世界だと知れた時は、嬉しかった。
ユーリ「ふぅ・・・・・・」
俺は、今、木剣を下段に構えて、瞑想をしている。
剣、もとい、〈武〉というものに、最初に必要なのは、心の鍛錬だ。
瞑想し、自分の心の奥深くへと意識を向け、己と向き合う大切な鍛錬。
この時に、重要なポイントが2つある。
まず、自身と周囲の魔力を読み、自分の置かれている状況の中での魔力を吸収し、腹の丹田に集める意識で集中し、練り上げること。
もうひとつは、極限まで脱力すること。
筋肉や体幹、心の強張りは、それだけで、実戦の場では命取りになる。
脱力することを意識し、自分の体の隅々に、魔力と氣力を行き渡らせることを体に覚えさせる。
瞑想の鍛錬は、この2つを重視し、稽古している。
俺の鍛錬は瞑想だけではないが、この修練だけでも、十年は取り組んでいる。
ユーリ「こんなものか・・・・・」
俺は瞑想を解き、構えるのをやめた。
ユーリ「さて、次はと・・・・・」
俺は、瞑想から、次の鍛錬へと移行しようとしていた。
だが、妙な気配が、周りに集まってきていた。
山賊「ヒヒヒヒヒ!ガキだ!ガキがいるぜ!」
山賊の集団が、俺の周りを取り囲んでいた。
200人くらいは、いるだろうか。
山賊「アニキぃ!近くの村のガキでさ!」
山賊の一人が、集団の奥の人物と向き合う。
出てきた人物は、体格も筋肉も、周りの山賊と比べ物にならないくらい大きかった。
おそらく、この山賊の集団の長だろう。
山賊長「ハハッ!いいねぇ!こいつを人質に、麓の村で暴れまくるってのは、どうだ?」
山賊「いいですねぇ!んじゃ!野郎共!そのガキをふん縛れぇ!」
山賊の集団は、縄を持って俺に近づいてくる。
ユーリ「はぁ・・・・、まだ、鍛錬の途中なんだけどな・・・」
俺の意見も聞かず、空気も読まず、俺を、エサのように見つめるハイエナのような山賊たちに、俺は、憤りを感じていた。
嫌いなのだ、自分の、ただ唯一の楽しみの、〈剣〉の鍛錬を邪魔されるのが。
ユーリ「ったく・・・・ホントに、クソ気分の良い日になりそうだね・・・・・」
俺はうんざりしながらも、山賊との時間は、夕方ぐらいまで続いた。
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ゼイン「離せ!あそこには!俺の息子が!」
村人「よせ!ゼイン!お前一人が行ってもどうにもならないだろ!」
日が暮れた村で、ユーリの父親、ゼインが、焦りと動揺に駆られ、騒いでいた。
理由は、狩猟に出ていた一人の村の人間が、北の山に、山賊の大集団を目撃したことからだ。
ゼインは、ユーリが、北の山の森林で、剣の鍛錬をしていることを知っている。
ゼインは、刈り入れ用の大鎌を持って、自分の息子のユーリを、単身助けに行こうとしていた。
それを村人たちが、必死で止めているという状況だ。
ゼイン「俺のことはどうだっていい!ユーリが、俺にとっては、何よりも大切なんだ!」
村人「気持ちはわかる!だかどうか!今はこらえてくれ!」
ゼインは、この村の農地の大半を指揮する立場にある人間だった。
彼のおかげで、村人たちの作業ははかどっているし、毎年、農作物の収穫量は増えている。
村の人たちが、彼を頼り、心強く思っているのは、周知の事実、失うことの意味は、よく理解しているだろう。
村人「すぐにミドガルの兵士たちが駆けつけてくれる!応援要請の使いはもう出した!彼らに任せよう!」
ゼイン「もういい!俺は行く!ユーリは、俺の!俺たちの!この村の未来だ!失ってたまるか!」
ゼインは、村人の制止を振りほどき、大鎌を持って、飛び込んでいこうとしていた。
村人「待て!ゼイン!」
飛び込んでいくゼインを、村人たちは追いかける。
ゼインは、息子のユーリのことだけを思いながら、北の山へと向かう。
だが、その時だった。
北の山へと続く道から、一人の少年が駆けてくるのが見えた。
村人「あれは・・・・ユーリじゃないか!」
ゼイン「っ!ユーリっ!」
ゼインは、持っていた大鎌を手放し、駆けてくるユーリを迎える。
ユーリ「父さん!」
ゼイン「ユーリっ!」
ゼインはユーリを抱きとめる。
ゼイン「よかった・・・・本当によかった・・・お前が無事で・・・」
ユーリ「ごめん・・・ごめんね、父さん・・・」
ゼインと、村人の緊張は、一気にほぐれていった。
ゼイン「ユーリっ!山賊たちはどうした!この村に向かっているのか!」
ユーリ「いや、その・・・実は・・・」
ゼイン「?」
ユーリは、ゼインと村人たちに、事の顛末を話した。
彼が話すには、山賊たちに遭遇したユーリは、捕まる直前に助かったという。
理由は、ユーリの見た〈化け物〉の仕業らしい。
〈化け物〉は、山賊たちを、次々と切り刻み、あたり一面を、血の大地へと変えるほどだったという。
おかげで、ユーリは隙を見つけ、逃げることができたのだという。
ゼイン「その化け物は、なんなんだ・・・・?」
村人「うちらの村の山に、そんな化け物が・・・・」
ユーリ「うん・・・・あれは、全てを切り刻んでた・・・・まるで〈鎌鼬〉だよ・・・・」
ゼイン「〈鎌鼬〉、か・・・・」
ユーリの話は、ともかくして、彼の無事に、ゼインや村人たちは、非常に安堵していた。
ゼインも失わず、ユーリも失わず、セイリアが悲しむ必要もなくなった。
化け物、もとい、〈鎌鼬〉のことは懸念されるが、ひとまず解決したこととなった。
ユーリが、山から帰ってきた1時間後、ミドガル王国直轄領の兵士たちが到着した。
ゼインと村人は、兵士たちに、事の顛末を話し、彼らは事の事実を確かめるため、北の山へと向かっていった。
後日、兵士たちの話によると、北の山の、少し開けた場所で、山賊の長とみられる人物を含め、200人の、切り刻まれた死体が、おびただしく広がっていたという。
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