アイリスと立ち合った日の2日後。
俺は、自分のここでの、本来の役目のための準備をしていた。
昨日、俺は、王宮から、自分の家と世話係のメイドを、正式に下賜された。
家は、王宮近くの一等地で、農民出身の俺からしたら、身に余るような立派な邸宅だった。
そして側仕えのメイドは、もちろんあの三人、イチカ、ニーナ、サリーだった。
ユーリ「今日から学園の講師か・・・なんか、実感湧かないなぁ・・・・」
俺はそんなことを呟きながら、もらった家の自室で、彼女たち3人に、身だしなみを整えてもらっていた。
イチカ「先生ならできますよ。私たちを導いてくれたように、学園でも変わらぬご指導をするだけです。」
ニーナ「先生に導いてもらえる学生たちの、なんと羨ましいことでしょうか。ぜひ、先生の剣技を、存分に生徒たちに見せつけてあげてください。」
サリー「先生かっこいいから、めちゃくちゃモテモテだったりしてぇ〜!」
3人とも、講師になる不安を抱えた俺を励まそうとしてくれている。
ユーリ「3人ともありがとうね。かっこいいかどうかはさておき、君たちの言うように、いつも通りやってみるよ。それと、君たちも、俺の愛弟子だと思ってるから、いつでも剣の相手ならしてあげるよ。」
サリー「やった〜!またよろしくね!先生!」
イチカ「ありがとうございます。先生。」
ニーナ「また、先生にご指導いただけるのですね。このニーナ、感謝の極みです」
3人と、再び剣の鍛錬をする話題をしている内に、身なりの準備は整った。
騎士のサーコートにローブ、ガントレットと鋼鉄のブーツを履き、格好は、王国の騎士そのもの。
仕事着とはいえ、すこし武骨な出で立ちは、俺を王国の騎士、ならびに、一人の魔剣士たらしめる故のものだ。
俺はそのことを理解し、この格好でいる時は、そのように振る舞おうと心に決めた。
友人であり、講師に推薦してくれたアイリスの顔に、泥を塗らないようにするためでもあるからだ。
ユーリ「ありがとう3人とも。それじゃあ、行ってくる。」
イチカ「行ってらっしゃいませ、先生。」
ニーナ「ご活躍をお祈りしています。」
サリー「がんばれ~!先生〜!」
俺は3人に見送られ、邸宅を後にした。
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ミドガル魔剣士学園。
王国の才ある若者たちを、魔剣士としての道へ拓くために存在する、王都きっての大学校。
俺はアイリスから、そこの講師に推薦され、こうして今日、学園内を歩いていた。
まずは、学園長と副学園長に挨拶をした。
彼らには自己紹介をし、2人からは、アイリスから認められた実力を称えるような内容の会話が切り出された。
この学園の副学園長である、ルスラン・バーネットは、特に、俺の剣技について質問してくることが、多々あった。
なんでも、先日のアイリスと俺の立ち合いの話は、もう学園どころか、王都中で話題を呼んでいたらしい。
少々、派手にやりすぎたのを後悔しながら、俺は出された茶をすすった。
学園長と副学園長の話が終わると、今度は、学園の教頭に、一つの教室へと案内された。
なんでも、俺は今年から、この春に転入してきた新入生のクラスを、一つ受け持つことになっているらしい。
俺も、この学園に推薦されたとはいえ、新入生たちと同世代の人間だ。
ナメられて当然、信頼を勝ち取るのも、困難な道のりだろう。
俺は、教頭に案内された教室へとたどり着き、部屋のドアを開けた。
中には、30〜40人程度の学生たちが席に着いており、教室に入ってきた俺に注目してきた。
教頭「ええ〜前日に通達した通り、このクラスの新たな担任に就くことになったユーリ君だ。皆とは同じ年齢ではあるが、アイリス王女殿下も認めた彼の実力は、折り紙つきだ。では、ユーリ君。自己紹介を」
俺は、教頭に促され、教壇へと進んだ。
教壇へと立った俺は、皆に、簡潔に自己紹介をする。
ユーリ「ご紹介に預かりました。ユーリと申します。若輩者ではありますが、皆と有意義な時間を過ごせればと思います。どうぞ、よろしくお願いします。」
俺の自己紹介に対し、教室が異様なまでに静かだった。
おそらく、疑心暗鬼に駆られているに違いない。
教頭「では、ユーリ君。君の授業は・・・・」
「待ってください!」
教室に、一人の甲高い声が響いた。
声の主は、前から3番目の窓際にいる、紫髪紫瞳の、女子生徒だった。
「私は認めません!同世代の講師なんてありえない!」
予想していた通りのセリフが、彼女の口から紡がれる。
教頭「シャイラ君!静粛にしたまえ!」
シャイラ「いいえ!教頭先生!私は、一人の魔剣士として、この学園の生徒の一人として、この方を認められません!」
シャイラという女子生徒は、誇り高そうな性格だった。
彼女の、紫色に光る目からは、堂々とした剣士らしさを感じた。
「シャイラ〜!先生に失礼だよ〜!」
シャイラの横にも、一人の女子生徒がいた。
彼女は、シャイラの袖を引っ張って、止めようとしていた。
シャイラ「離して!リーシャ!私は、彼に確かめなきゃいけないことがあるの!」
シャイラは、リーシャという名の生徒の制止を振り切り、足取り荒く、俺の前へと向かってきた。
向かってきた彼女は、俺の前に立ち、指を差す。
シャイラ「ユーリと言いいましたね?私、シャイラ・アルデバランは、あなたに、決闘を申し込みます!異議は認めません!いいですね!?」
彼女は、相変わらず、俺を敵視するような眼差しで見つめている。
彼女の不信を払拭させるには、それ相応の答えが必要になるだろう。
教頭「いい加減にしたまえ!これ以上は・・・!」
ユーリ「いいですよ。受けましょう。その決闘を。」
俺は、彼女の挑戦を受けることにした。
これは彼女への信頼、ひいては、クラス全員の信頼を勝ち取るためのものだ。
避けて通ることはできないと、俺は判断した。
シャイラ「では、覚悟を決めておいてください!ユーリ!」
教頭も、頭を抱えている。
クラスの皆も、呆気にとられている。
突然の立ち合いの火蓋が、ここに切って落とされた。
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学園内の闘技場で、ユーリと彼女、シャイラとの一戦は、繰り広げられていた。
シャイラ・アルデバラン。
ミドガル王国の貴族、アルデバラン公爵家の次女であり、魔剣士としての素質は、学年の中で群を抜いていた。
その才覚は、学園の生徒会長でありオリアナ王国の王女、ローズ・オリアナにも匹敵すると言われている。
ローズ・オリアナもまた、言わずと知れた学園最強格の魔剣士で、王国最強のアイリスに次ぐ実力だと言われている。
シャイラの持ち味は、魔力を下半身に集中させ、一撃の踏み込みの速さを活かした、速攻の剣だ。
その速さから、学園内では、〈閃迅剣〉の異名を取るほどだった。
そんな、〈閃迅剣〉であるシャイラは、今、学園に突如として現れた辺境の村出身の剣士、ユーリとの立ち合いに臨んでいた。
シャイラは、時間をかけず、最短で終わらせる腹づもりで、ユーリと立ち合った。
試合開始の合図が鳴り、クラスの学生たちが見守る中、シャイラは、自身の必殺剣で、ユーリの心臓めがけて突きを放つ。
刃引きをしてある訓練用の剣とはいえ、彼女の一撃を食らえば、命に達する危険性はある。
だが、その躊躇もなく、シャイラは、ユーリに向かって剣を向け続けた。
誰しもが、シャイラの一撃で、試合は、終わると思っていた。
だが・・・・。
シャイラ「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・」
シャイラは、息を切らしながら、ユーリと立ち合っていた。
ユーリ「どうしたの?シャイラさん。もう終わりなの?」
シャイラの前に、剣を片手に持ったまま、平然と立つユーリ。
そう、彼女の剣は、ユーリに何一つ届いていなかったのだ。
シャイラの攻撃は、すべて躱され、受け流され、弾かれた。
その捌きのほとんどに、ユーリは魔力を使っていなかった。
シャイラ「ハァ・・・ハァ・・・ナメないで、ください・・・私はまだ・・・!」
彼女の剣は震えている。
疲れと、体験したことのない、剣の感触に、困惑しているようだった。
シャイラ「これから・・・!これからなのにィ・・・!」
ユーリ「・・・なるほどね・・・・」
彼女の誇り高さと、気骨。そして、剣への一途さを、ユーリは感じ取っていた。
家名を背負った気負い、そして、焦りさえも。
シャイラ「ハァ・・・ハァ・・・フゥゥゥ・・・・・・・ハァァァァァァァァァァッッッ!!!」
シャイラは、今一度、剣に己の全力の魔力を乗せ、ユーリへと飛び込んでいく。
彼女自身、人生で最高の到達点の一撃。
その速さは、常軌を逸していた。
ユーリ「・・・・・・・・いいね。」
ユーリは、彼女の一撃を前にして、ふと、不敵に笑った。
シャイラの攻撃は、ユーリへの直撃コース。
この試合を見ている学生たちは、ユーリの体が、バラバラに離散することをイメージし、皆一様に目を覆った。
彼女の剣戟が、場内に響き渡ろうと誰もが予想した。
だが、どれだけ待っても、音はしない。
学生たちが、恐る恐る目を開けると、そこには。
シャイラの剣を、片手で奪い取っていたユーリの姿と、闘技場の床に倒れた彼女の姿があった。
彼女は、ユーリへ攻撃を当てる直前、彼に剣を奪われ、みぞおちへの一撃をもらい、それを原因に気絶していた。
リーシャ「シャ、シャイラ〜〜!!」
シャイラの友達であるリーシャが、倒れている彼女にそっと駆け寄る。
ユーリ「彼女は大丈夫だ。気絶してるだけだから・・・・。誰か!担架を持ってきて!」
ユーリは、すぐさま、彼女を医務室へと運ぶよう手配した。
担架に乗せられた彼女の目からは、一筋の涙が、こぼれ落ちていた。
こうして、シャイラの不信から端を発した立ち合いは、幕を閉じたのだった。
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