陰の剣聖になりたくて!   作:川井 アザト

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2話

辺境の村の〈鎌鼬〉事件から、3日後。

 

俺は、いつものように、父の畑の仕事を手伝い、母の手づくりの昼ごはんを食べ、剣の鍛錬をする生活を送っていた。

 

北の山の鍛錬場は、今は、ミドガル王国直轄領の兵士たちが、調査をしているため使えない。

 

剣の鍛錬は、基本どこででもできる。

 

瞑想や、基礎鍛錬は、家の軒先の庭でできるし、木剣はいくつも作って振っている。

 

問題なのは、〈実戦〉の鍛錬ができないことだ。

 

ユーリ「ふぅ・・・・」

 

いつもの瞑想と、基礎鍛錬を終え、俺は、家の屋根の影で腰掛け、休んでいた。

 

体はいつも通り動く。

 

変な体の違和感は微塵もない。

 

ユーリ「みんなには、あれくらいの話でいいか・・・・」

 

両手のマメが潰れた痕を見ながら、三日前のことを思い出そうとしていた。

 

「ごめんください。」

 

思い出そうとしていた矢先、家の入り口から女性の声がした。

 

「ごめんください。どなたかいらっしゃいませんか?」

 

母は今は、村の知り合いの家にいる。

 

自宅に残っているのは、俺だけだった。

 

ユーリ「はーい。ただいまー。」

 

俺は、木剣を置き、家の入り口へと向かった。

 

入り口へと向かった先には、一人の女性がいた。

 

綺麗な赤髪、深紅にきらめく瞳、壮麗さと愛らしさを兼ね備えた顔立ちの美人だった。

 

「突然の訪問申し訳ありません。北の山へと続く道を知りたくて。」

 

ユーリ「北の山ですか?あそこは、今はミドガルの兵士たちが調査をしている最中ですが?」

 

「ええ。だからこそです。道に詳しい人を探していまして。」

 

彼女を見るに、位の高そうな服や装飾品をつけている。

 

調査中の兵士に用があるということは、王国の関係者だろうか。

 

ユーリ「失礼ながら、どなたさまでいらっしゃいますか?」

 

「あ!申し訳ございません!名乗るのが遅れました!私は、ミドガル王国第一王女、アイリス・ミドガルと申します。」

 

彼女がそう名乗ったとき、俺は、姿勢を低くし、頭を下げた。

 

ユーリ「王女殿下でいらっしゃったとは!すみません!失礼なことを!」

 

アイリス「あ、頭をお上げください!こちらが名乗らなかった事に、非礼があります!お気になさらないでください!」

 

アイリス王女は、そっと、俺と同じ体勢になると、頭を下げ、名乗らなかった非礼を詫びた。

 

ユーリ「王女殿下!?頭をお上げください!私のような農民に、王家の方がそのような・・・・!」

 

アイリス「いえ!詫びさせてください!名を名乗らなかったのは、騎士の行為にあるまじき非礼!そこに、王族も農民も、なにも関係はありません!」

 

アイリス王女は、頭を上げようとしない。

 

本当に王族かと、疑うほどの腰の低さに驚いた。

 

ユーリ「どうか頭をお上げください。名乗らなかったのは、私も同じです。だからどうか・・・・」

 

俺はそっと、アイリス王女に優しく語りかける。

 

彼女は、それを察し、徐々に頭を上げていった。

 

アイリス「ありがとう、ございます・・・・それでは、あなたの名は?」

 

ユーリ「ユーリと申します。北の山への案内は、私がしましょう。」 

 

改めて自分の名を名乗り、俺は、アイリス王女に、北の山への道案内を買って出た。

 

王女殿下の道案内をするというのは、そうそう来ることのないチャンスであり、名誉。

 

俺の家にも、泊がつく。

 

アイリス「ありがとうございます。それでは、ユーリ。お願いします。」

 

ユーリ「ええ。それでは。」

 

俺は、彼女をエスコートし、北の山へと向かった。

 

〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈

 

 

北の山へと向かう道中、アイリス王女と、色んな話をする機会があった。

 

アイリス王女は、俺のような農民に対しても、丁寧な言葉づかいだ。

 

だが、王家の人間に、そこまで畏まられると、俺の立場もない。

 

アイリス王女には、もっと目上の人物としての言い方にしてもらえるよう頼んだ。

 

実際、年齢も上であるし。

 

アイリス「ユーリ。あなたは、どこかの貴族とつながりがあるの?」

 

ユーリ「いえ?どうしてそう思われたのですか?」

 

アイリス「さっき、出発する前にも感じたのだけれど、あなたにはなんとなく、気品のようなものが感じ取られたわ。もしかしてと思ったけれど、没落した貴族の家の人だったりする?」

 

アイリス王女を、エスコートした際のことを言っているのだろう。

 

それは、前世の知識からのものである。

 

貴族社会や武家社会の本を、前世ではいくつか読んでいた。

 

それが、いつの間にやら身についてしまっていたらしい。

 

ユーリ「いえいえ。私は、生まれてこの方、農民ですよ。王家や貴族への礼儀は、聞きかじった程度のことです。お気になさらず。」

 

アイリス「そう、なの・・・・」

 

さすがに、前世の記憶があるからとは、言えない。

 

アイリス「もう一つ聞いてもいいかしら?」

 

ユーリ「なんなりと。」

 

アイリス「あなた、相当鍛えているわね。重心や筋肉の付き方からして、剣を使うんじゃないかしら。」

 

ユーリ「・・・・・・・・」

 

やはり、わかる人には、わかるものなのだろう。

 

アイリス王女は、腰に剣を差しているし、まごうことなき魔剣士の一人だろう。

 

実力を量れるのも、アイリス王女が、手練であることの証拠だ。

 

ユーリ「おっしゃる通りです。私は将来、魔剣士を目指しています。この村に箔をつけたいのもありますが、なによりも、父と母への恩義に報いるため、日々、鍛錬に勤しんでおります。」

 

アイリス「そうだったのね・・・・ユーリ、あなたは、優しい人ね。剣を恩義のために使えるなんて。」

 

ユーリ「もったいなきお言葉です。」 

 

アイリス王女と、そういったやり取りをしているうちに、北の山の現場へと、たどり着いた。

 

現場には、数人の兵士が、山賊の遺体を処理したり、周辺の痕跡を調査していた。

 

兵士の一人がこちらに気づき、近寄ってくる。

 

兵士「アイリス王女殿下!?なぜここに!?」

 

アイリス「ご苦労様。私は、王家の務めを果たすために馳せ参じた次第。調査に協力するわ」

 

アイリス王女は、ミドガル魔剣士学園の生徒であり、将来、国を任される人間の一人だ。

 

彼女から聞いたが、学園の夏休みの期間を使い、お忍びで、この辺境の地域に赴いたという。

 

アイリス「現状を教えてちょうだい。」

 

兵士「はい!報告します!やはり、今回の山賊の集団は、あの〈白狼の牙〉で、間違いないと思われます。」

 

〈白狼の牙〉。

 

王国を長年悩ませた、山賊集団のひとつ。

 

残忍で冷酷、ミドガル王国領内の民を手に掛けた数は、数え切れないほどある。

 

〈白狼の牙〉は、領内を転々としながら潜伏し、王国の騎士たちも、行方をつかむのに苦労していた。

 

アイリス「最近、領内を移動したとの噂があったけれど、まさか、こんな結末で崩壊するとはね。」

 

兵士「はい。一先ず、この件に関しては、解決したといってもいいでしょう。ですが、もう一つ・・・・」

 

アイリス「なにかあったの?」

 

兵士「こちらへ。」

 

アイリス王女と兵士が、ある場所に向かう。

 

俺も、付き添いで、後を追う。

 

俺たちが、向かったのは、山賊たちが斃れていた周辺の木立だった。

 

アイリス「これって・・・まさか、霊樹!?」

 

兵士「はい、成分分析の結果、霊樹に相違ないと判断されました。」

 

この世界の、霊樹と呼ばれる植物。

 

それは、長年魔力を溜め込んだ、高密度の巨木。

 

人の力や、魔剣士の斬撃ですらも跳ね返してしまうほどの硬度を誇る樹木である。

 

普通、その他の山では見かけることのできない代物だ。

 

兵士「そして見てほしいのは、これです。」

 

兵士が、霊樹の木立のある一角を指す。

 

そこには、横一線に、ひと薙で切断された霊樹が、横たわっていた。

 

アイリス「なんなの、これ・・・・」

 

兵士「はい。そして、あちらにも・・・・」

 

切断された霊樹は、1本だけではなかった、何十本もの霊樹が、この周辺になぎ倒されていた。

 

アイリス「・・・・・・・・・・」

 

アイリス王女は、その光景に絶句していた。

 

魔力を手にした人間でさえ断ち切ることのできない木々が、切り倒されているという事実。

 

とても信じがたい光景だった。

 

兵士「村人からの目撃証言によると、山賊を倒したのは、化け物の仕業だという証言がありました。まるで、〈鎌鼬〉のようだったと。」

 

アイリス「〈鎌鼬〉・・・・」

 

信じがたい光景と、荒唐無稽に聞こえる目撃証言の報告。

 

アイリス王女は、頭を抱え、混乱している様子だった。

 

ユーリ「殿下。少しお休みになられては?」

 

アイリス「え、ええ・・・そうね・・・少し、休ませて頂戴・・・」

 

俺は、アイリス王女に付き添い、兵士たちの野営キャンプへと向かい、彼女を休ませた。

 

今日、彼女が見た光景は、常識を逸脱した、人の理解の外側の光景だっただろう。

 

気疲れするのも無理はなく、その日は、アイリス王女の現地視察だけで終わった。

 

 

〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈

 

アイリス王女が、北の山の兵士の野営テントで休んだ後、俺は、彼女とともに、その日は山を降りた。

 

アイリス王女は、北の山での霊樹の件で、道中も、ずっと考え込んでいるようだった。

 

山を下りる途中、ふと気になったことがあった。

 

アイリス王女の、宿泊場所だ。

 

辺りはもう日が暮れはじめているし、しばらくすれば夜だ。

 

アイリス王女に、泊まる場所はどうするのかと聞くと、彼女は、やってしまったと言わんばかりの表情を浮かべた。

 

学園の夏休み休暇で、半ば飛び出すように、この辺境の村へとやってきていた彼女は、宿泊のことを考えていなかったようだった。

 

アイリス王女は、国難に相当する事案を聞くと、居ても立ってもいられない、そんな性格なのだろうと、俺は、察した。

 

アイリス「ユーリとあなたの両親がよければなんだけど・・・・一夜の宿を、お貸し願えないかしら。」

 

正直、うちの家は、王家や貴族の人を迎えるようにはできておらず、部屋も粗末な作りで、食事も、宮廷クラスとは言えないものだ。

 

この国の第一王女を迎えるには、あまりにもふさわしくないが、このまま夜の闇にほっぽり出すわけにもいかない。

 

ユーリ「殿下の住まう高貴な場所とは、かけ離れた場所でありますが、それでもよろしければ、どうぞ、お泊りください。父と母には、私が言いますので。」

 

アイリス「ありがとう、ユーリ。それと、私は、王族の人間だけれど、あなたが思っている懸念は、心配には及ばないわ。ご厚意には、盛大な感謝を贈ります。」

 

彼女は、自分の高貴な身分を振りかざすような人間ではないことは、わかっていた。

 

だが、ここまで、ただの農民の厚意に応えるとは思ってもみなかった。

 

アイリス王女と家に着くと、父と母は、きょとんとした顔で出迎えた。

 

俺が、見知らぬ美女と帰宅したことに、頭が追いついていなかったのだろう。

 

彼女は、父と母に、自分の名前を名乗ると、昼間に、俺がしたときと同じような態度を両親は見せた。

 

昼間と同じ光景が、しばらく続き、アイリス王女に、宿泊の件を、両親に話すと、快く2人は快諾してくれた。

 

アイリス王女は、母のお古の服に着替え、俺たちと同じように、一人の農民の女性の姿へと変わった。

 

そしてその後、彼女を含めた四人で、食卓を囲み、母の手づくりの料理を、一緒に食べた。

 

王族の方が食べるような、高貴な食事ではないため、父も母も俺も、心配していたが、アイリス王女は、満面の笑みで、母の料理を食べ、美味しいと言ってくれた。

 

俺達はそのことに安堵し、その日の食卓は、王族を迎えた、貴重な晩餐の時間となった。

 

アイリス王女と語らう時間は、夢のような時間だった。

 

王都のこと、学園のこと、アイリス王女自身のこと、こちらは逆に、農村での暮らし、俺の剣の鍛錬のこと、たくさんのことを語らった。

 

アイリス王女の笑顔は、終始、変わることはなかった。

 

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