陰の剣聖になりたくて!   作:川井 アザト

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3話

アイリス王女と、同じ屋根の下で寝た次の日の朝。

 

俺は、一人早起きをし、庭の軒先で、朝稽古に励んでいた。

 

いつもの瞑想をし、深く集中する。

 

いつも通り、魔力と氣力が、丹田に集まることを体感できている。

 

ユーリ「ふーっ・・・・よし。」

 

アイリス「精が出るわね。ユーリ。」

 

家のそばから、彼女の声がした。

 

ユーリ「アイリス様。起きていらしたのですね。よく休めましたか?」

 

アイリス「ええ。とてもよく眠れたわ。ここは落ち着いた空気で、居心地が良いわね。」

 

ユーリ「そう言っていただけると、この村の村民として、嬉しいかぎりです。」

 

アイリス王女が寝室に使っていたのは、家の使っていなかった区画の部屋。

 

ベッドはあるが、少し埃っぽかったので、急いで掃除をし、彼女に使ってもらっていた。

 

アイリス「・・・・・・・・ねぇ、ユーリ。」

 

ユーリ「はい?」

 

アイリス「少し、私と手合わせをしてくれないかしら。」

 

王女からの、いきなりの申し出だった。

 

ユーリ「手合わせ、ですか?」  

 

アイリス「ええ。あなたと手合わせをしてみたいの。」

 

正直、俺の剣は、自己鍛錬の末の我流だ。

 

王都のブシン流とは格式も違うし、アイリス王女も、かなりの使い手だ。

 

ユーリ「理由を伺っても?」 

 

アイリス「そうね。昨日の時から思ってたことだけれど、あなたは、相当な魔力を保持した剣の使い手だと感じたわ。おそらく、王都の魔剣士じゃ、あなたには歯が立たないでしょうね。」

 

ユーリ「買いかぶりすぎでは?」  

 

アイリス「いいえ。私は、剣士を見る目には自信があるの、少なくとも、私の相手に不足はないわ。」 

 

その道を極めた達人は、人の力量を量ることができる。

 

アイリス王女は、自分の剣の相手として、俺に期待してくれているのだ。

 

ユーリ「アイリス様がそこまで言われるのならば、私でよければお相手します。」

 

アイリス「感謝するわ、ユーリ。それじゃあ・・・・」

 

彼女は、家の軒先に置いてあった、もう一本の木剣を持ち、俺の前まで来ると、静かに剣を構えた。

 

俺もそれに応え、静かに、下段の構えを取った。

 

ユーリ「お願いします。」

 

アイリス「お願いします。」

 

最低限の礼儀作法を終え、ここに、2人の試合の場が設けられた。

 

アイリス「スゥーーー・・・・ハァァァァッッッ!!」

 

アイリス王女は、魔力で身体能力を強化し、目の前から消えるぐらいのスピードで、俺に打ち込んできた。

 

彼女は、強い。

 

凄まじいまでの、剛剣の気配だ。

 

だが、

 

ユーリ「・・・・・」

 

アイリス王女の剣が、俺の体へと打ち込まれる瞬間、俺は、下段の構えから、掬いあげるように切り返し、彼女の剣を弾き飛ばした。

 

剣を弾き飛ばされたアイリス王女は、体のバランスを崩した。

 

その隙を狙い、彼女の足を払い、そのまま地面に倒れたところに、俺は木剣を首元に優しく当てた。

 

ユーリ「一本、ですね・・・・」

 

アイリス「・・・・・・・・・・」

 

彼女は、呆気にとられた表情で、倒れたまま天を仰いでいた。

 

ユーリ「・・・・・・・はっ!も、申し訳ありません!つい!」

 

俺は、剣を置き、アイリス王女に謝罪した。

 

アイリス「・・・・・・ユーリ。」

 

ユーリ「はい・・・・?」

 

アイリス「もう一本、手合わせをお願いできないかしら・・・・」

 

彼女がそう言うと、アイリス王女は静かに立ち上がり、弾き飛ばされた木剣を拾い、再度構えた。

 

彼女の目は、本気だった。

 

ユーリ「・・・・・・仰せのままに。」

 

俺はまた、木剣を構え、アイリス王女と対峙した。

 

この時間は、昼を超えるギリギリまで続いた。

 

 

〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈

 

ユーリの剣は、アイリス王女の剣を圧倒する状況となっていた。

 

アイリスの、魔力を帯びた剛剣の一撃も、彼には一つも当たらない。

 

剣を弾き飛ばされ、体勢を崩され、トドメをさされて終わり。

 

そんな時間が、6時間にも続いた。

 

アイリス「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・」

 

ユーリ「アイリス様!もうこのくらいで!」

 

アイリス「まだよ・・・・私の剣は、あなたに届いていない!」

 

彼女は、諦めず、絶えず剛剣の一撃を叩き込もうとする。

 

これ以上は、彼女自身の身が持たない。

 

そう判断したユーリは、最後の手段に出る。

 

彼女の、渾身の、全力の剛剣を避け、そっと懐に入り込んだ。

 

ユーリ「もうお休みください。アイリス様。」

 

ユーリは、木剣の柄を、彼女の腹へと叩き込んだ。

 

アイリス「ぐっふっ・・・・」

 

アイリス王女は、そのまま地面へと倒れ、気を失った。

 

ユーリ「やっと終わったか・・・・」

 

ユーリは、地面に倒れている彼女を見下ろした。

 

彼女の剣は悪くない。剣の威力も、魔力の量も申し分ない。

 

だが、それだけだ。

 

彼女には、剛の理力はあっても、柔の理合が無いのだ。

 

それ故、攻撃は単調で、隙はいくらでもあった。

 

ユーリ「よいしょっと。」

 

俺はアイリス王女を抱きかかえ、家の中へと入った。

 

昨日、彼女が使っていた部屋に、彼女を寝かせ、台所から布と水を持っていき、布を湿らせ、そっと彼女の額に乗せた。

 

ユーリ「アイリス様。相当な苦労があるんだろうな・・・」

 

彼女との立ち合いで感じた。

 

彼女の迷いと、焦り。

 

王家を代表する、王室の第一王女としての苦労が、剣を通して伝わってきた。

 

それは、ただの農民では味わうことのできない、高貴な身分としての苦悩だった。

 

ユーリ「もっと自分を大事にしてください、アイリス様。」

 

俺はそっと、彼女の手を握り、そう呟いた。

 

〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈

 

アイリス王女との立ち合った日の、2日後の朝。

 

彼女は、この村を離れることになった。

 

王室に、お忍びでこの村の調査に来たことがバレたらしい。

 

彼女を迎えに、ミドガル王国の馬車が、村に続々と入ってくる。

 

アイリス「随分お世話になってしまったわね。」

 

ユーリ「いえいえ。アイリス様をもてなしたこの3日間は、とてもかけがえのない思い出になりました。」

 

アイリス「そう言ってくれると嬉しいわ。私も楽しかった。王家の責務を一時忘れそうになってしまうくらい。」

 

彼女がやり遂げたいことを成し、心から楽しく過ごし、そして、ゆっくりと休めたことに、俺は安堵した。

 

アイリス「・・・・・・・・ねえ、ユーリ。」

 

ユーリ「なんですか?アイリス様。」

 

アイリス「ひとつ、わがままを言ってもいいかしら。」

 

ユーリ「わがまま?」

 

アイリス「ええ。あなたが良ければなんだけど、その・・・・・・」

 

彼女は少し頬を赤らめて、俺に言った。

 

アイリス「私と!友達になってくれないかしら!」

 

彼女の言葉に、俺は驚いていた。

 

ただの農民が、王家の、それも第一王女殿下と、友達になる。

 

身分違いも甚だしいが、この村で、友達ができたことがない俺にとっては、最上の喜びに感じたことだった。

 

アイリス「その・・・ダメ、かしら・・・?」

 

彼女は、上目遣いでこちらを見つめてくる。

 

そのような愛らしい表情でお願いされたら、俺だって。

 

ユーリ「よろこんで・・・・アイリス様の心からの願い、お受けします。」

 

アイリス「ありがとう!ユーリ!私も、あなたの友達として、助けになれることは、なんでもするわ。」

 

ユーリ「もったいなきお言葉です。」

 

俺は、一礼し、彼女の厚意に感謝した。

 

アイリス「それでは、また会いましょう、ユーリ。ユーリのお父様も、お母様も、大変お世話になりました。」

 

アイリスは、俺の両親にも、感謝の意を示した。

 

ゼイン「また来てください!王女殿下!」

 

セイリア「息子の友達になっていただき、感謝の念に堪えません。どうかまた、この村にいらしてください。」

 

アイリス「ええ。また、そうさせていただきます。それでは。」

 

彼女は、迎えの馬車に乗り込んだ。

 

彼女が馬車に乗り込んだことを兵士が確認し、ミドガル王国の隊列は、村を後にした。

 

ユーリ(まさか、この国の第一王女と友達になるなんて思いもしなかったなぁ・・・・)

 

俺は、初めての友達ができたことに、内心歓喜していた。

 

だが一つ、アイリス王女には、気にかかる事があった。

 

ユーリ(アイリス様。どうか、自分を大切にしてください。それが俺の、友達としての、心からの願いです。)

 

遠くに見える馬車の隊列を見ながら、彼女にそう願い、地平線から隊列が消えるまで、彼女を見送った。

 

〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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