アイリスは、ミドガル王国の王族専用車両の中で、考えにふけっていた。
アイリス「何者かしら・・・・ユーリって・・・」
アイリスは、ユーリと手合わせをし、完膚なきまでに叩きのめされたと感じていた。
アイリスは、学園では並ぶもの無しの、無敗の魔剣士だった。
学園の試合では、どれだけの相手をし、はねのけてきたかは、数え切れない程だ。
ブシン祭の際も、世界各地の剣豪を相手にし、優勝を勝ち取ってきた。
だが、ユーリだけは、別格だった。
ユーリと手合わせをした際、アイリスがユーリに感じたものは、圧倒的なまでの氣勢と魔力。
おおよそ、人の理屈の範疇を超えたような、鬼神の如き強さを、アイリスはユーリと対峙して感じていた。
アイリス「遊ばれてたのかしら・・・私・・・」
ユーリに打ち込んだ斬撃は、どれも本気だった。
立ち合いの後半からは、殺気もこもっていたかもしれない。
だが、そのどれも、ユーリには通じなかった。
アイリス「そういえば、ユーリに教えてもらった瞑想の鍛錬方法、試してみようかしら・・・・」
アイリスは、ユーリに、彼の独自の鍛錬方法を教わっていた。
瞑想は、ブシン流にも存在する。
しかし、ユーリの瞑想は、どの流派にも属さないやり方だった。
体の力を完全に抜き、周りの魔力を丹田に集め、練り上げるという独特の瞑想のイメージ。
彼は、この鍛錬に慣れれば、魔力量の上昇と操作を効率よく行えると言っていた。
アイリス「私は、背負わなければならない・・・王国を、領土を、国民を、そのためなら私は・・・・」
アイリスの気負いは、彼女自身の剣を迷わせている。
それに彼女はまだ気づいていない。
アイリス「ユーリ・・・・・もっと、早くに、あなたに会えていたらね・・・・」
アイリスは、魔剣士としての強さから、尊敬と期待の視線を、普段から向けられていた。
王家の第一王女というのもあるが、周りからの彼女に対する感情は、決して親しくはなれなかった。
それ故、今まで友人というものができたことがない。
彼女は、心からの親友を、心の何処かで欲していたのだ。
アイリスは、ユーリという身分も年齢も関係なく、友人になれたことを、心強く、嬉しく思っていた。
アイリス「また会えるわよね、ユーリ・・・・」
彼女は、王都に帰るまでの道中、彼のことを頭の中で、ずっと考え、思い続けていた。
いつになく、思い出にふけながら。
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アイリス王女が、村から離れた2日後、やっと北の山の調査が終わり、兵士が引き上げ、本格的な鍛錬を再開することができた。
兵士が引き上げた後、俺はすぐに山へと向かい、いつもの瞑想と基礎鍛錬を行い、〈実戦〉の稽古を始めようとしていた。
ユーリ「よーし!やっと本格的にできるぞー!今日は少し飛ばして、〈俵断ち〉は、十本は行きたいな!」
木剣を握り、鍛錬場の周辺にある、霊樹の元へと向かう。
霊樹の前まで立ち、脇を締め、木剣を横に構える。
ユーリ「フーー・・・・・・・」
氣と魔力を全身に行き渡らせ、左手を握りしめる。
腰を溜め、重心を落とす。
ユーリ「・・・・・・・・・またか」
俺が、霊樹に向けて、斬撃を放とうとしたときだった。
また、何者かの気配が、森の方から感じられた。
ユーリ「出てきてもいいよ。何もしないから。」
感じた気配に、敵意は感じられない。
あるとすればそれは、好奇心の気配だった。
俺が、気配の主に対し、話しかけ、しばらくした後に、俺の前に一瞬で、黒いローブを着た人物が現れた。
「さすがね。」
ローブの下からのぞかせた煌めく金髪、そして声から、目の前の人物が、女性だということがわかった。
身長も俺と同じくらいで、少女といえる背丈くらいだ。
ユーリ「そりゃどーも。それで、君は?」
「・・・・・・・・・」
ユーリ「だんまりだと困るんだけど・・・・」
その時だった
目の前の少女が、消え、俺の目の前まで肉薄した。
ユーリ「マジか・・・・・」
少女の手には、黒い魔力の塊の剣が握られており、俺の心臓めがけて一閃に突きを放ってきた。
ユーリ「あぶな・・・・」
俺は、即座に半身になり、彼女の突きを避けると、避けられた彼女の体が目の前まで来た。
俺は、彼女の頭を掴み、地面に叩きつけた。
「ッッ・・・・!」
俺は、叩きつけた彼女に対し、手にしていた木剣を、首元に添えた。
ユーリ「抵抗はしないでね。ただの木剣でも、君のことを殺せるから。」
俺は彼女にそう警告した。
「・・・・・・・やっぱり、間違いではないようね。」
少女から、殺気が消えるのが感じた。
どうやら、抵抗する意思は無いらしい。
俺はそっと木剣を遠ざけ、彼女の頭から手を離した。
すると、少女はゆっくりと起き上がり、立ち上がった。
「やっと見つけたわ・・・・」
彼女は、そう言うと、ゆっくりとローブを解除した。
どうやら、ローブ自体も魔力の塊らしい。
まるで、スライムのようだった。
ローブを解除した彼女は、金髪の長髪をなびかせ、青い瞳はラピスラズリの宝石のように煌めいていた。
「私の名はアルファ。初めまして、〈鎌鼬〉さん。」
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目の前に突如として現れ、殺気を込めた一閃突きを放ってきた少女は、アルファと名乗った。
ユーリ「なんで、俺が鎌鼬だと思ったの?」
俺は、彼女の言葉に引っかかった。
〈鎌鼬〉、その単語は、あの夜の村の人間しか知らない言葉だ。
アルファ「事実を述べたまでよ。あなたの戦いぶりは見ていたわ。まあ、戦いっていうより、一方的な殺戮だったけど。」
ユーリ「・・・・・・・・どこまで知ってるの?」
アルファ「全部よ。あなたが剣の鍛錬をしていること、家族のために魔剣士を目指していること、あなたが〈鎌鼬〉の正体だということも。」
彼女は知っていた。俺が、この世界でやってきたことの全てを。
どうやら、いつの間にか、観客がいたらしい。
それも、厄介そうな世界の住人の観客に。
ユーリ「なんで、俺なの?」
情報は、世界の中にある人間一人一人にあることだ。
アルファが、わざわざ俺一人を、そこまで注視することに疑問を感じた。
アルファ「答えは単純よ。あなたが、この世界を、一人で平らげてしまうくらいの強さを持っていると感じたから。そして・・・・・」
アルファは、突然、俺の前でひざまずいた。
まるで、王に謁見する、騎士のように。
アルファ「あなたに、私たちを、鍛えてもらいたいの。」
アルファの願いは、至極単純だった。
鍛えるという行為は、人それぞれに理由がある。
強くなるため、健康のため、自分以外の誰かのためと、様々だ。
だが、アルファの鍛えて欲しいという言葉には、様々な含みがあると、俺は感じた。
俺のことを監視する分、彼女が、表の世界の人間ではないことは明白だった。
ユーリ「・・・・・どうしても?」
アルファ「どうしてもよ。」
ユーリ「ただの村の男の子だよ?」
アルファ「関係ないわ。」
ユーリ「嫌だと言ったら?」
アルファ「何度だってお願いしにくるわ。」
アルファが、強硬手段をあまり使わない、冷静な判断のできる女性だということは、彼女の落ち着いた言動から察せられた。
俺がここで嫌だと言って、しつこくお願いに来られるのも、鍛錬の邪魔になって困る。
それに、彼女に、俺の家族を知られている分、あまり俺には、選択肢がないように思えた。
ユーリ「ハァ・・・・人数は?どうせ一人じゃないんでしょ?」
アルファの魔力の気配から、他の複数の人物の魔力が感じ取れた。
匂いではないが、染み付いた魔力の痕跡は、早々消えるものではない。
アルファ「話が早くて助かるわ。まずは、私を入れた七人ってところね。追々、あなたに鍛えてもらえる人数を、増やせられれば良いのだけれど。」
ユーリ「男女比の割合は?」
アルファ「私の主人を入れると、9:1の割合で、女性が多いわね。」
ユーリ「ギャルゲーかよ・・・・」
アルファ「ギャル、ゲー・・・?」
俺の口走った前世の単語に、アルファが反応した。
9:1ってことは、彼女たちの主人は男性。
はたから見れば、ただのハーレムだ。
ユーリ「なんでもない。それで、何を鍛えてほしいの?」
アルファ「全般といったところね。戦闘面もそうだけれど、魔力量の増強、魔力操作の効率、精神修行、その他諸々・・・」
ユーリ「時間がかかるね・・・・まあ、一朝一夕じゃ強くはなれないし」
アルファ「その通りね。どう?引き受けてもらえるかしら?」
彼女は立ち上がり、右手を俺に差し出した。
どうやら、契約成立の握手を交わしたいらしい。
ユーリ「ハァ・・・・しょうがないから、付き合ってあげるよ・・・」
俺は、アルファの右手を掴み、握手を交わした。
ここに、一つの契約が成り立ったのだ。
ユーリ(俺の鍛錬の時間、取れるかなぁ・・・・)
これから徐々に奪われていく自分のプライベートの時間をよそに、闇の住人との付き合いが、ここから始まってしまった。
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