陰の剣聖になりたくて!   作:川井 アザト

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5話

アルファと鍛錬の契約を結んだ2日後の昼過ぎ。

 

俺は彼女たちの拠点、古都アレクサンドリアで、アルファとその仲間たちを相手に、鍛錬を開始していた。

 

ユーリ「いいぞ。ゼータ。イプシロン。」

 

ゼータ「はい!」

 

イプシロン「行きます!先生!」

 

アルファの仲間の内の2人が、俺に攻撃を打ち込んでくる。

 

2人は、ゼータとイプシロン。

 

アルファの仲間であり、アルファ達が最初期に仲間に引き入れた内の2人である。

 

他にも、ベータ、ガンマ、デルタ、イータ、ラムダ、などのメンバーがおり、ラムダを除く、最初期の七人のメンバーを、アルファは、〈七陰〉と呼んでいた。

 

彼女たちの組織名は、〈シャドウガーデン〉。

 

アルファたちの主人曰く、陰に潜み、陰を狩る者という名分があるらしい。

 

デルタ「ししょ〜〜、全然この木切れないのです〜〜!」

 

ユーリ「柔らかく引っかけるイメージだと言っただろー?魔力量は十分にあるんだからできるはずだよー。」

 

デルタ「そんなこと言われても〜〜〜!」

 

デルタに切らせているのは、霊樹。

 

俺が、彼女たちの拠点にあった木に魔力を注ぎ込み、強制的に成熟させたものだ。

 

ユーリ「獲物のイメージだよ!獲物のー!」

 

俺は、ゼータとイプシロンの攻撃を捌きながら、デルタにアドバイスを送る。

 

ゼータ「くっ・・・!届かない・・・!」

 

イプシロン「よそ見しながら捌くなんて・・・!」

 

2人は果敢に攻めるが、俺の体には届かない。

 

悔しがる2人の顔が、目の前にあった。

 

ユーリ「ベータ!ガンマ!イータ!まだ体が強張ってるぞー!常にリラックスだー!」

 

ベータ「はい!」

 

ガンマ「リラックス・・・リラックス〜〜・・・!」

 

イータ「・・・・・・・・・」

 

ベータ、ガンマ、イータの3人は、瞑想を教え、魔力の増強と操作の効率化を図ってもらっていた。

 

3人も、他のメンバーと同様に、魔力量は申し分なく、ガンマを除く2人は、戦闘面の実力も確かだった。

 

ガンマは、運動音痴なところもあり、何もないところで転んだりと、身体能力が壊滅的に悪い。

 

故に、心のゆとりを持たせることと、基礎鍛錬の基盤を固めれば、ガンマも他の2人も、さらなる戦闘力の向上につながるだろう。

 

ユーリ「ラムダ!あと素振り三千回!魔力と氣力の練り上げも忘れるな!気張れよ!」

 

ラムダ「サー!イエッサー!」

 

ラムダは、シャドウガーデンの中で、一番の年長者で元軍人、戦闘経験も豊富で、組織の教育係になっているメンバーだ。

 

彼女のスペックは組織の中でもかなり高く、アルファに続く実力者の一人だが、まだ心の強張りもあり、魔力操作にも少しだけ荒らさがある。

 

故に、基礎鍛錬と並行して、瞑想の鍛錬にも注力させている。

 

ユーリ「よーし!そこまでだ!2人とも!」

 

ゼータ「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・」

 

イプシロン「フゥ・・・フゥ・・・フゥ・・・」

 

ゼータとイプシロンは、全力にも近い攻撃で、俺を攻めていた。

 

魔力を帯びた2人の攻撃は、速さも重みもあり悪くない。

 

だが、攻めている時に、少しだけアツくなってしまうのが、2人の課題でもある。

 

アルファ「的確な指導ね。ユーリ。」

 

そばで、シャドウガーデンのメンバーを見ていたアルファが、水を持って、俺に近づいてきた。

 

ユーリ「それぞれの欠点を見つけて補わせる鍛錬をさせてるだけだよ。皆、実力はあるし、すぐに上達しそうだ。」

 

アルファ「そう・・・やはり、あなたに頼んで良かったわ。はい、お水。」

 

ユーリ「ありがと。」  

 

俺は、アルファから渡された水を飲み、一息ついた。

 

二日前、ここに来たときのことを思い出す。

 

アルファとの契約が成立したあと、俺は彼女に案内され、この地へとやってきた。

 

俺のいる村からは、3日かかる道のりだったが、そこは魔力の力で身体強化し、2時間くらいで着くことができた。

 

途中、アルファを追い越してしまうこともあったが、なんとか彼女たちの拠点へとたどり着き、シャドウガーデンのメンバーと、顔を合わせることができた。

 

シャドウガーデンのメンバーは、最初、俺のことを、懐疑的な目で見ていた。

 

アルファは、俺を、組織の指導係として紹介しても、彼女たちの疑いが晴れることはなかった。

 

ならばとアルファが提案したのは、シャドウガーデンの幹部の中で最も腕の立つアルファとの模擬試合だった。

 

俺は2時間前にアルファと立ち合いをしているので、これが2回目。

 

アルファの剣筋は、大体わかっているつもりだった。

 

だが、2回目の戦闘では、アルファはさらに力を引き出し、ほぼ全力で、俺に向かってきた。

 

北の山の鍛錬場で見せた動きではなく、すさまじい魔力とともに、雷鳴の如き一撃が、俺に迫った。

 

だが、

 

アルファ「当たらなかったのよね・・・私の全力も・・・」

 

アルファは、そう呟いた。

 

彼女にとって、二日前の立ち合いは、一回目の時よりも、さらに印象的だったという。

 

彼女が言うには、俺が、柳のごとく、透けたと言っている。

 

俺の姿がそう見えた途端、自分の首筋に、俺の剣が添えられていたという結果になったことは、彼女にとって、鮮烈に記憶に刻まれたらしい。

 

俺はただ、アルファの攻撃に合わせるように、先の先を取っただけなのだが。

 

アルファと俺の立ち合いを見た彼女らは、アルファが負けたことに驚愕していた。

 

結果として、彼女たちに実力を認められ、今はこうして、皆の先生として慕われている。

 

アルファ「あの時ほど、全力を出したことは、他にないわ。」

 

ユーリ「まあ、アルファが本気できてくれたからこそ、皆に信頼されたんだけどね。あの時のことは、感謝してるよ。」

 

アルファ「少し悔しい気持ちもあるけど、結果的に良かったのなら光栄だわ。」

 

ユーリ「うん・・・・・あ、そうだ。」

 

アルファ「どうかしたの?」

 

俺は、ポケットから一つの瓶を取り出した。

 

瓶の中には、青色の液体が入っている。

 

アルファ「それは・・・?」

 

ユーリ「エリクサー。俺の村の診療所の先生が作った秘薬だよ。」

 

俺の村には、一人の医術の先生がいる。

 

彼の名前は、パラケルスス。

 

村一番、個人的には、世界一の医者だと、俺は思っている。

 

手足を失くした人の患部を再生させたり、この世界で、不治の病とされる病気や感染症を治したりと、前世で言うスーパードクターといえる存在だった。

 

ユーリ「これをイータに預けてあげて。彼女なら、この薬の価値が理解できるだろうし、研究にも役立つと思う。」

 

シャドウガーデンの研究者であるイータは、発明に関していえば、この世界の右に出るものいないだろう。

 

彼女たちの拠点であるここには、前世の現代日本で見たようなモノが、いくつかあった。

 

全ては、イータの開発したもので、彼女たちの主人の〈影の叡智〉とやらを参考にして作ったという。

 

アルファ「わかったわ。貴重な物をありがとう。ユーリ。」

 

ユーリ「いいってことだよ。さてと・・・・」

 

俺は、空になったグラスをアルファへと預けた。

 

そろそろ戻らないと、両親も心配するし、畑の仕事も残っている。

 

アルファ「もう時間なのね。遅れないように気をつけて。」

 

ユーリ「ああ。ありがとうアルファ。それじゃあ、後半の鍛錬は、よろしくね。」

 

アルファ「任せて。」

 

ユーリ「うん。それじゃ。」

 

俺は、魔力を使い、身体能力を強化した。

 

そこから俺は、全力で、元の村へと急いだ。

 

アルファ「相変わらずね。光にでもなったのかしら・・・」

 

彼女が、そう言ったことを、俺は知る由もなかった。

 

 

〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈

 

1週間後。

 

俺のもとに、一つの手紙が送られてきた。

 

封筒の宛名には、俺の名前が書いてあり、封蝋には、ミドガル王国の紋章が押されていた。

 

紋章を見た時、これは開けちゃダメなやつな手紙なのでは、と思ったが、宛名に俺の名前が書いてある以上、気になってしょうがなかった。

 

封筒の封を開けると、中には、一通の手紙が入っていた。

 

〈拝啓 ユーリへ。あの時、数日お世話になったことと、私の友人になってくれたことへの感謝の手紙を贈ります。その後、いかがお過ごしでしょうか。〉

 

文面の文章からして、あの日のことを書いてあるということは、この手紙は、アイリス様からのものだと理解した。

 

〈私は、今でも、あの数日間が、忘れられません。王家の責務を忘れ、共に語らった日々は、今でも鮮烈に、私の記憶に残っています。〉

 

〈あなたと、立ち合ったことも、よく覚えています。あの時、私はあなたに、手も足も出ませんでした。あんなに負けたことは、私の人生の中で初めてのことであり、とても、貴重な体験となりました。〉

 

〈そうそう、あなたに教えてもらった鍛錬方法を、私は今でも続けています。この鍛錬方法は、とても良いものですね。肩の力が抜け、普段よりも、魔力の増え方が高くなったことを、実感しています。本当に教えてくれてありがとう。〉

 

〈最後になりますが、私は、あなたと出会えたことの奇跡と喜びを噛み締めています。また、あなたに友人として会えることを、心待ちにしています。何かあれば、遠慮なく、私を頼ってください。あなたとあなたの家族の健康を心から想っております。 アイリス・ミドガル より〉

 

ユーリ「アイリス様・・・・・」  

 

アイリス様の、丁寧で、優しさに溢れた文章に、思わず、心から込み上げてくるものがあった。

 

彼女がここまで、俺や家族のことを想ってくれていることに、心から感謝した。

 

ユーリ「俺も、あなたに出会えてよかった・・・・」

 

俺は、アイリス様の手紙を綺麗にたたみ、封筒の中へとしまった。

 

この世界での、初めての友達の手紙。

 

その価値は、俺の中で計り知れないものになっていた。

 

ユーリ「俺も書こう。返事を・・・」  

 

俺は家を飛び出し、村の商店へと急いだ。

 

手紙を書くための紙を買うためと、アイリス様へ早く返答したい気持ちが、俺の心を駆り立てていた。

 

この想いをわすれないために、俺は、目的の場所へと駆けていった。

 

 

〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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