アイリスとの親交を深めた夜の次の日。
俺は、定期的なシャドウガーデンへの指南のため、彼女たちの拠点である古都アレクサンドリアにいた。
アルファ「すごいじゃない。学園の講師の推薦に、騎士号の叙勲なんて。」
俺は、シャドウガーデンのメンバーの鍛錬を見る傍ら、アルファと話をしていた。
ユーリ「うん。まあ、ね・・・・」
アルファ「?。どうしたの?あなたにとっては、この上なく光栄なことのはずよ?どこか、落ち込んでるように見えるけれど。」
ユーリ「いや、落ち込んではいないんだけどね・・・・」
王都での魔剣士学園の講師、王国の騎士への仲間入り。
それは、アイリスからもらった名誉であり、彼女自身の誠意と敬意の気持ちそのもの。
それは大事にして、ありがたく、名誉を頂戴することに決めた。
だが、俺は彼女たち、シャドウガーデンという陰の者たちとの繋がりもある。
アイリスにはバレていないが、何処かでボロを出したり、あるいは、王国の騎士の任務上、彼女たちと敵対する可能性もある。
俺は、そのことを危惧していた。
アルファ「なるほど。そういうことだったのね・・・。」
ユーリ「うん。アイリスからの名誉は、絶対大事にしたい。だけど、君たちとの繋がりや親交も失いたくない。この3年間で、君たちとは、かなり濃密な時間を過ごさせてもらったから。」
シャドウガーデンと関わりを持って3年。
この時間は、彼女たちとの、大切な思い出と記憶が詰まったものだ。
彼女たちと共に鍛錬し、成長し、先生として慕われた時間は、俺にとって、かけがえのないものの一つだ。
ユーリ「アルファ。君たちは十分に強くなった。魔力量も、魔力操作も、かなり上達したように見える。君たちを倒せる敵は、そうそういるものではないと思う。」
アイリスも、大陸に名を轟かせるほど強くなったが、アルファたちも、世に出ないだけで、アイリスに引けを取らないくらいの実力者になった。
俺が教えることは、ほぼ無いほどに。
ユーリ「俺はもう、君たちに教えられることはない。俺との縁は、切ってくれてかまわない。それぐらい覚悟の上だ。」
アルファ「・・・・・・・・・」
アルファは、すこし黙り込み、何かを考えたかと思うと、そっと口を開いた。
アルファ「いいんじゃないかしら。大切にしたいことを増やしても。」
ユーリ「アルファ・・・・?」
彼女の口から出てきた言葉は、予想外だった。
アルファ「大切にしたいことを決めるのは、その人自身で決めるものよ。失うのも、守れるのも、すべては自分次第。それだけのことじゃないかしら。」
ユーリ「自分、次第・・・。」
てっきり、アルファからは、現実主義的な意見をもらうと思っていた。
どうやら、彼女のことを勘違いしていたのは、俺の方らしい。
アルファ「私も、シャドウガーデンのみんなも、あなたと縁を切りたいなんて、思っていないわ。あなたにはまだ勝てたことはないし、それだけでも、あなたが私たちに教えられていると感じていることの一つよ。」
ユーリ「そう、なんだ・・・・」
彼女たちの刃が、シャドウガーデンの鍛錬中に届いたことはないが、届くのは時間の問題だと、俺は思っていた。
だが、アルファたちから見れば、俺のことは、まだまだ勝利するには遠い存在に感じていたらしい。
アルファ「ユーリ。あなたは強い人間よ。自信を持っていいわ。それは私たちが、ちゃんと保証するから。」
ユーリ「アルファ・・・・・」
見失いそうになっていたのは、俺のほうかもしれない。
シャドウガーデンの彼女たちは、俺のことを、ちゃんと真剣に想ってくれていたのだ。
俺はアルファにそう言われるまで、彼女たちの気持ちに気づけないでいたようだ。
ユーリ「ありがとう。感謝するよ・・・。俺も、君たちの気持ちが聞けて良かった。これからも、どうかよろしく頼むよ。」
アルファ「こちらこそ、あなたとの長い縁が続くことを願うわ。」
俺はアルファと互いに見つめ合い、信頼の眼差しで向かい合った。
これから先も、お互いの縁が続くことを確認し合うように。
見失いかけていたものを、失わずに済んだこの時間が、俺を強く鼓舞していた。
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翌朝。
俺は、村の人達に盛大に門出を祝ってもらった。
両親はもちろん、村長や村民、診療所のパラケルスス先生にも。
俺の出世は、辺境の村開拓以来の、大快挙だった。
別に出世を望んで行くのではなく、親友のアイリスのために俺は行くのだ。
それでも、この村には、ずいぶんと箔が付いたようだった。
ゼイン「ユーリ!風引くなよ!絶対無理はしなくていいからなぁ!」
セイリア「あなたと離れるのは寂しいけれど、あなたの将来への道が拓けたことが、母さんたちはうれしいわ・・・。辛くなったら、いつでも帰って来てもいいからね。」
ユーリ「うん。ありがとう。父さん。母さん。それじゃあ、行ってきます!」
俺は迎えに来た王国の馬車に乗りこみ、両親と村人たちの祝福を受けながら、村を後にした。
道中は、何事もなく、ただ平穏な時間が続いていた。
シャドウガーデンの彼女たちに会うために、村の外を出たことはあるが、王都へと向かうこの道は、初めての景色だった。
ユーリ「俺のいたところって、よっぽどのどかだったんだなぁ〜」
俺は外の景色ぼーっとながめ、時間が経つのを忘れていると、馬車が中継点の停留所まで着いた。
停留所からは、機関車へと乗り込み、そのまま王都を目指す予定だ。
車掌から案内された機関車の車両を見て、俺は驚いた。
案内された車両は、貴族が使うような、セレブの色に塗装された、VIP車両で、しかも貸切状態だった。
中は、高級な家具に囲まれ、高級なグラスやワインセラーもあった。
ただの農民には、絶対に手の出せない領域の車両に、俺は促されるまま乗り込み、機関車は、動き出した。
動き出した機関車は、王都へと一直線の特急便で、窓からながめる車窓からの景色も、絶景だった。
どこまでも広がる大地、点々と見える街や村、遠くの空に飛んでいるドラゴン。
前世の電車からの車窓の景色とは真反対の、ファンタジーに溢れた世界の景色に、俺は、今一度、転生したことの実感を感じていた。
景色を眺めてる内に機関車は、終着駅へとたどり着いた。
ついに足を運べたこの世界での初めての街。王都へと。
俺は、荷物を持って機関車の車両を降りた。
降りた先のホームで、俺を待っていたのは、王国の騎士たちと王宮のメイドだった。
騎士「ユーリ殿ですね?アイリス・ミドガル王女殿下より、あなたを宮殿へと案内するよう仰せつかりました。どうぞこちらへ。」
メイド「お荷物をお預かりいたします。」
ユーリ「ど、どうも・・・・」
俺は、慣れない出迎えに動揺しながらも、騎士たちとメイドに促され、荷物を預け、駅に着けてある馬車へと乗り込んだ。
馬車には、俺と騎士数人、メイドが一人乗り込み、王都の中心の王宮へと向かい始めた。
王宮へ向かう道中、馬車からは、王都の街並みが見えた。
大勢の人間が行き交い、多くの店が立ち並び、大きな運河やミツゴシと書かれた大きなデパートまで見えた。
どこかで見覚えのあるようなデパートの形だが、初めてのこの世界での街ということもあり、そういうものかと納得する自分もいた。
そうこうしているうちに、馬車は王宮へとたどり着いた。
王宮へと着いた俺は、馬車を降り、騎士たちに王宮内へと案内された。
そして、王宮の中へ入ると、そこには、大勢のメイドと数人の執事が俺を迎えた。
その光景は、まるで、貴族の見ている景色そのものだった。
俺は、自分の荷物を持ったメイドと王宮内のメイドの一人に連れられ、客室へと案内された。
メイド「こちらにて、しばしお待ち下さい。後に、ユーリ様の身なりを整える者が参りますので、その間、どうぞおくつろぎくださいませ。」
ユーリ「ありがとう、ございます・・・・」
メイド「それでは。」
客室のドアが閉まり、メイドは去っていった。
ユーリ「広いなぁ・・・・」
客室の広さは、俺の故郷の家くらいの広さがあった。
圧倒的なまでの空間の広さに、あまり落ち着かない。
ユーリ「おくつろぎくださいとは言われたものの、くつろげないよなぁ・・・・」
俺は、これから、人生で最大のイベントが待っている。
ミドガル王国国王陛下への謁見と、騎士号の叙勲式だ。
謁見の作法と、騎士としての所作は、前世の知識でなんとかなるものの、緊張で跳ね上がりそうだった。
俺は、落ち着きを取り戻すため、少しの間瞑想をし、体をリラックスさせた。
身をほぐし、俺の身だしなみを整えるメイドの到着を待っていると、客室のドアが開いた。
ドアが開いた先には、王宮のメイドが、3人ほど立っていた。
「失礼します。ユーリ様の謁見のための準備に伺いました。ご準備はよろしいでしょうか?」
ユーリ「はい。よろしくお願いします。」
「それでは、始めさせていただきます。」
メイドの3人は、俺の周りまで来ると、化粧台の前に座るよう促し、俺はそれに従い、椅子に座った。
メイドの3人は、俺の髪を整え、正装の準備をし、着々と仕上げていく。
その最中のことだった。
「おめでとうございます。先生。事情はアルファ様から聞いております。ですので、どうかご心配はなさらぬように」
ユーリ「やっぱり、君たちだったんだね・・・」
3人が、俺の目に入った時にわかった。
彼女たちは、シャドウガーデンのメンバーたちだ。
この王宮内の中で、人一倍高い魔力の気配を纏った彼女たちは一目で見てわかった。
アレクサンドリアでも、彼女たちのことを見かけたことがあり、名前は確か、111番、112番、113番、だと記憶している。
112「覚えてくださっていたのですね。先生。」
113「光栄です!先生!」
彼女たち3人は、シャドウガーデンの下級の構成員の中でも、剣の才能が特に優れていたことを、俺は覚えていた。
茶髪でボブカットの出で立ちに全体的に整った顔立ちで、落ち着いた雰囲気を醸し出している111。
紺色の艶めく髪と美しく尖ったつり目が特徴のクールビューティー、112。
ひまわりのような金髪に、可愛らしい顔立ちと活発な性格が印象的な113。
彼女たちは、アルファからの命令で、俺のそばで世話をしてくれる世話係兼護衛の任務を託されていた。
111「ここでは、番号の名前は目立ちますので、偽名を名乗らせてもらっています。私のここでの名前は、イチカとお知り置きください。」
112「私は、ニーナと名乗らせていただいております。よろしくお願いします。先生。」
113「私はサリーって名乗ってます!お願いしますね!先生!」
ユーリ「よろしくね。イチカ、ニーナ、サリー。」
彼女たちの状況を把握し、お互い認識し合ったところで、俺の身だしなみの準備は完成した。
3年の間に肩まで伸びた髪は、後ろで綺麗に束ねられ、服は、士官服のような儀式用の正装。
手足には、手袋と光沢の輝くブーツが履かされている。
鏡に映る自分の姿は、どこから見ても、王国の騎士のように見えた。
イチカ「お似合いです。先生。とても凛々しく見えますね。」
ニーナ「先生のお姿、いつになく輝いています。ご立派な先生の姿、この目に焼き付けました。」
サリー「先生!かっこいい!」
ユーリ「3人のおかげだよ。かっこよく仕立ててくれて、ありがとう。」
俺は3人に感謝の意を示し、3人もそれに応えるように、姿勢を正して一礼した。
騎士「失礼します。」
騎士の一人が、客室に入ってきた。
3人はそれに気づき、部屋の隅へと下がり、頭を下げている。
騎士「ご準備は整われたようですね。これより、謁見と騎士号の叙勲式が始まりますのでご案内いたします。こちらへ。」
ユーリ「わかりました。」
イチカ ニーナ サリー 「「「行ってらっしゃいませ、ユーリ様」」」
俺は3人に見送られ、騎士の案内の元、式の催される大広間へと向かった。
緊張で胸が高鳴りながらも、戦へと向かう武将の気持ちで、俺は式へと臨むのだった。
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