陰の剣聖になりたくて!   作:川井 アザト

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9話

 

謁見と騎士号の叙勲式には、多くの貴族や国の重役、騎士団の面々が一挙に勢揃いしていた。

 

王家からも、国王陛下はもちろん、皇后、アイリスの妹である、アレクシア・ミドガル第2王女殿下、そして、第一王女である、アイリス・ミドガルも、参加していた。

 

俺は、大広間の扉から、名前を呼ばれ、国王陛下の元へと、足を運んだ。

 

ゆっくりと歩み続け、陛下の前へと来ると、跪き、頭を下げた。

 

そして、陛下の口から、俺の功績が、広間の面々に伝えられる。

 

貴族たちからは、俺を称賛するような言動も聞こえたが、俺の身分のことから、蔑むようなひそひそ声も聞こえた。

 

陛下が、俺に対する功績を伝え終わると、陛下は剣を持ち、俺の前へと進んだ。

 

そして、剣を両手に構え、俺の両肩交互と頭へ、順に剣を添え、俺の前へと、剣の切っ先を添えた。

 

俺は、作法にならい、剣の切っ先へと口づけをすると、陛下は剣を戻し、侍従にそれを預けた。

 

その儀式が終わり、晴れて俺は、騎士号の叙勲を、正式にもらい受ける形になり、広間中から、たくさんの称賛の拍手が、俺に贈られた。

 

終始緊張していた俺は、謁見と、叙勲が終わり、少し力が抜け、肩の荷が下りたような気持ちになっていた。

 

こうして、昼間の式典は、幕を閉じた。

 

 

〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈

 

 

謁見と、叙勲式の終わったその日の夜。

 

俺は、アイリス主催の、夜会パーティーへと、招待され、足を運んでいた。

 

主催をしたアイリスは、自分からすすんで、パーティーを催したことは、あまりないようで、その珍しさからか、大勢の貴族が、夜会に出席していた。

 

俺は、昼間の式典が終わった後、イチカとニーナ、サリーに身だしなみを再度整えてもらって、パーティー用の身だしなみへと身を包んだ。

 

パーティーへと出席した時、たくさんの貴族のご令嬢や、御子息の方からの質問攻めにあった。

 

普通、農民の出身ということで、身分の差のことを引き合いに出され、あまり歓待されないのが一般的だが、この日はそうでもなかった。

 

貴族のご令嬢や御子息からは、俺は見目麗しいとか、剣をどれだけ使えるのかとか、色々と言われたり、聞かれたりした。

 

俺は別段普通の顔立ちだと、今まで思っていたが、この世界では、俺の顔は、どうやらイケメンの類に入るらしい。

 

俺の見た目のことからなのか、ご令嬢方からお茶会に誘われたりしたり、貴族の御子息からは、俺が陛下から称えられた功績から、剣の手合わせをしないかとか、色々と農民出身の俺からしたら、手に余るようなことばかりを告げられ続けた。

 

俺は、それらをやんわりと断り続け、即座にその場から立ち去ると、会場の外の空気を吸うため、ベランダのようになっている区画へと逃げていた。

 

ユーリ「疲れるなぁ・・・お貴族様も、楽じゃないや・・・」

 

貴族の世界に入る覚悟もないままに、俺はこの世界へと足を踏み入れてしまった。

 

陰の者達との関わりよりも、数段厄介だ。

 

ユーリ「はぁ・・・剣でも振って、楽になりたい」

 

剣は、俺の命だ。

 

騎士になるまで、俺は、剣のことばかりを考え続け、活かすための技を研ぎ続けてきた。

 

剣のことばかり考えられない身の上になって、少しだけ残念な気持ちもあるが、友人の頼みを聞き入れた以上、腹を括るしかなかった。

 

アイリス「ここにいたのね。」

 

後ろから、友人である彼女の声がした。

 

ユーリ「アイリス・・・。」

 

振り返ると、そこには、艶めく赤髪を後ろで丁寧に纏められ、深紅の煌めくドレスに身を包んだアイリスの姿があった。

 

アイリス「やっぱり、慣れないかしら?貴族との関わりは。」

 

ユーリ「うん。正直言って、かなり苦手だ。」

 

アイリスが、パーティーを催した理由は、俺のためでもあったらしい。

 

貴族社会の一員の自覚を持ってもらうため、そして、アイリス個人の、俺への祝杯の気持ちも兼ねて。

 

ユーリ「ごめんね、アイリス。ここまでのことをしてもらって、疲れちゃうなんて・・・」

 

アイリス「気にしなくていいわ、ユーリ。私も、あんまり得意ではないから・・・パーティーでの貴族との関わり合いなんて・・・」

 

アイリスも、王家の身の上、貴族の汚いところや、陰の部分も、幼少のころより、少なからず感じ取っていたらしい。

 

貴族への不信感は、今も拭いきれず、貴族間の宴にも、あまり顔を出したことが無いようだった。

 

ユーリ「そっか・・・大変だったんだね、アイリス。」

 

アイリス「まあね・・・・でも、そんなことに惑わされる程、今の私は、ヤワじゃないつもりよ。あなたも来てくれたし、それだけで、どれほど心強いことか・・・」

 

友人として、できる限りのことは、してあげたい。

 

精神的ストレスを抱えてるのなら、少しでも分け合ってあげたいし、愚痴だって、いくらでも聞いてあげられる。

 

彼女との友情に、並々ならない誇りを持っているからだ。

 

ユーリ「無理はしないでね、アイリス。俺にも、君の重荷を、少しぐらい分けてくれたって良いんだから。」

 

アイリス「ユーリ・・・・・」

 

彼女は、微笑ましく、俺を見つめた。

 

彼女の微笑みは、とても美しく、煌めく太陽のように、明るく、温かいものだった。

 

アイリス「ありがとう。ユーリ。あなたの気持ち、ずっと大切に想ってるからね。」

 

ユーリ「こちらこそだよ。アイリス。また、一緒に剣の稽古でもしたいな・・・」

 

アイリスが、この3年間で、どれほど強くなったのかは、俺自身、非常に気になっていた。

 

今わかることは、アイリスは、3年前よりも魔力量が、さらに膨大になっていることだ。

 

そのことは、彼女の魔力の気配から、感じ取れていた。

 

アイリス「私も、あなたと剣を交えたいわ。3年間の修行の成果を、あなたにも見てもらいたいから。」

 

ユーリ「じゃあ、明日にでもしてみる?俺もアイリスと、久々に剣を交えてみたいから。」

 

アイリス「構わないわ。じゃあ明日、楽しみにしてるわね。」

 

俺は、アイリスと、次の日に、騎士団の訓練場で、立ち合いをする約束をした。

 

ここでの新たな剣の楽しみが、俺の中で広がっていった。

 

友人との、剣の交じり合いができ、今の俺は、かけがえのない喜びに満ち溢れていた。

 

 

〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈

 

 

アイリスとの約束の日。

 

ユーリとアイリスは、騎士団の訓練場にいた。

 

騎士団の訓練場では、駐屯所の一番広い場所を貸し切って、ユーリたち2人だけの、稽古場とさせてもらっているようだった。

 

ユーリ「やろうか。アイリス。」

 

アイリス「ええ。いつでも、いいわ。」

 

周りには、王国の騎士団のギャラリーができており、辺境の村出身の剣士と、大陸に名を轟かせる王女の立ち合いを、今か今かと待っていた。

 

ユーリとアイリスは、互いに、訓練用の鉄の剣を中段に構えた。

 

ユーリ「お願いします。」

 

アイリス「お願いします。」

 

互いに一礼し、2人の氣は、戦闘モードに入った。

 

剣の切っ先は、お互い、一つもブレない。

 

はたから見れば、互角同士の、氣のせめぎ合いに見える。

 

アイリス (ッ・・・・!)

 

だが、アイリスだけには、ユーリの実力が見えていた。

 

アイリス (なんて氣勢・・・!魔力が放たれずに、ここまでのプレッシャーを感じるなんて・・・)

 

ユーリは、中段の構えのまま、じっとアイリスを見ている。

 

何気ないその姿からは、想像を絶するほどの、氣の圧力が、彼女を突き刺していた。

 

アイリス (3年間で成長したのは、私だけじゃないわよね・・・。正直、嬉しいわ。ユーリ。)

 

彼女は、内心、プレッシャーに脅かされながらも、どことなく、ユーリという強者と立ち会えていることの幸せを、感じていた。

 

アイリス (私の剣を、あなたへ届かせるために、私は、この3年間で、修行を重ねて来たわ)

 

アイリスは、グッと地面を踏みしめる。

 

アイリス (だからこそ、あなたへ届かせてみせる!今度こそ!)

 

アイリスから、突如として、猛烈な魔力の波動が放たれる。

 

駐屯所を覆い尽くすほどの彼女の魔力に、周りのギャラリーの騎士たちは、大きく動揺していた。

 

彼女の猛烈な魔力は、彼女自身と剣に宿り、一つの剛剣へと姿を変える。

 

アイリス 「ハァァァァァァァッッッ!!!」

 

先に仕掛けたのは、アイリスの方からだった。

 

彼女の剛剣は、上段から、まっすぐに彼を捕らえている。

 

アイリス (届く!絶対に!)

 

アイリスは、確信の一撃を、ユーリに対して放つ。

 

彼女の一撃は、ユーリの体へと届く・・・・・・

 

 

はずだった・・・・

 

 

 

アイリスの剛剣の一撃が、ユーリへと届く瞬間。

 

彼は、彼女の剣のスピードにタイミングを合わせ、剣を引っかけるように重ね、円の動きのように、受け流した。

 

アイリス (!?・・・・・)

 

受け流されたアイリスは、剣を飛ばされ、そのまま宙を舞いながら、訓練場の地面へと落ちた。

 

彼女自身の、剛剣の力と魔力を、彼にそのまま返されたのだ。

 

仰向けに倒され、何が起こったのかわからず、空を見上げている彼女の首元に、そっと、ユーリの剣が添えられた。

 

ユーリ「一本・・・・」

 

アイリス「・・・・・・・」

 

2人の立ち合いを見ていた騎士たちも、呆然と、その光景を見ている。

 

大陸で、5本の指に入る実力者である、アイリスが倒された事実を、誰も飲み込めていないようだった。

 

ユーリ「強くなったね。アイリス。3年前とは大違いだ。」

 

アイリス「・・・・・・・・・やっぱり。あなたには、かなわないわね。ユーリ。」

 

ユーリは、アイリスの手を取り、彼女を地面から起き上がらせた。

 

アイリス「届かなかったわね・・・私の剣・・・」

 

アイリスは、少し残念そうな顔をしながら、自分の手を見ていた。

 

3年間、彼から教わった修行をこなしても、ユーリの実力には届かなかった悔しさが込み上げていた。

 

ユーリ「そんなことないよ。アイリス。ほら、見て。」

 

アイリス「?」

 

ユーリは、自身の体の一部を指さす。

 

そこには、わずかではあるが、服の肩の部分に、布の切れた跡が残っていた。

 

アイリス「ッ・・・!!」

 

切れた跡を見たアイリスは、自身の剣が、ユーリに少し届いたことに、驚きを隠せずにいた。

 

ユーリ「届いてるよ。アイリスの剣は確かに・・・。君の成長を見れて、俺は嬉しいよ。」

 

アイリス「届いた・・・?私の剣が、ユーリに・・・?」

 

ユーリ「うん。そうだよ。」

 

アイリス「やった・・・・・やったのね・・・!」

 

ずっと敵わないと思っていた相手に、ようやくわずかに一太刀入れられことができたのだ。

 

彼女は、自身の剣が、彼に届いた喜びに耐えきれず、ユーリをその場で抱きしめた。

 

ユーリ「アイリス・・・・!?」

 

アイリス「やっと、やっと、あなたに届いた・・・・嬉しい・・・」

 

アイリスは、自分の実力が上がったことの実感と、友人に少しだけ追いつけた喜びに浸っていた。

 

ユーリもまた、アイリスの剣が、さらに研ぎ澄まされたことに、喜びを感じていた。

 

お互いの剣は、ここに、惹かれ合っていた。

 

 

「「「「「ウオオオオオオオオオッッッッッッ」」」」」

 

騎士団の歓喜の声が、遅れてやってきた。

 

彼らは、歓声を上げると同時に、アイリスとユーリのそばまで駆け寄り、2人を称えた。

 

騎士団であり、魔剣士でもある彼らもまた、2人の剣に惹かれたのだ。

 

騎士団の訓練場では、騒がしくも、楽しさを感じさせる声が、この日しばらく続いたという。

 

〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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