謁見と騎士号の叙勲式には、多くの貴族や国の重役、騎士団の面々が一挙に勢揃いしていた。
王家からも、国王陛下はもちろん、皇后、アイリスの妹である、アレクシア・ミドガル第2王女殿下、そして、第一王女である、アイリス・ミドガルも、参加していた。
俺は、大広間の扉から、名前を呼ばれ、国王陛下の元へと、足を運んだ。
ゆっくりと歩み続け、陛下の前へと来ると、跪き、頭を下げた。
そして、陛下の口から、俺の功績が、広間の面々に伝えられる。
貴族たちからは、俺を称賛するような言動も聞こえたが、俺の身分のことから、蔑むようなひそひそ声も聞こえた。
陛下が、俺に対する功績を伝え終わると、陛下は剣を持ち、俺の前へと進んだ。
そして、剣を両手に構え、俺の両肩交互と頭へ、順に剣を添え、俺の前へと、剣の切っ先を添えた。
俺は、作法にならい、剣の切っ先へと口づけをすると、陛下は剣を戻し、侍従にそれを預けた。
その儀式が終わり、晴れて俺は、騎士号の叙勲を、正式にもらい受ける形になり、広間中から、たくさんの称賛の拍手が、俺に贈られた。
終始緊張していた俺は、謁見と、叙勲が終わり、少し力が抜け、肩の荷が下りたような気持ちになっていた。
こうして、昼間の式典は、幕を閉じた。
〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈
謁見と、叙勲式の終わったその日の夜。
俺は、アイリス主催の、夜会パーティーへと、招待され、足を運んでいた。
主催をしたアイリスは、自分からすすんで、パーティーを催したことは、あまりないようで、その珍しさからか、大勢の貴族が、夜会に出席していた。
俺は、昼間の式典が終わった後、イチカとニーナ、サリーに身だしなみを再度整えてもらって、パーティー用の身だしなみへと身を包んだ。
パーティーへと出席した時、たくさんの貴族のご令嬢や、御子息の方からの質問攻めにあった。
普通、農民の出身ということで、身分の差のことを引き合いに出され、あまり歓待されないのが一般的だが、この日はそうでもなかった。
貴族のご令嬢や御子息からは、俺は見目麗しいとか、剣をどれだけ使えるのかとか、色々と言われたり、聞かれたりした。
俺は別段普通の顔立ちだと、今まで思っていたが、この世界では、俺の顔は、どうやらイケメンの類に入るらしい。
俺の見た目のことからなのか、ご令嬢方からお茶会に誘われたりしたり、貴族の御子息からは、俺が陛下から称えられた功績から、剣の手合わせをしないかとか、色々と農民出身の俺からしたら、手に余るようなことばかりを告げられ続けた。
俺は、それらをやんわりと断り続け、即座にその場から立ち去ると、会場の外の空気を吸うため、ベランダのようになっている区画へと逃げていた。
ユーリ「疲れるなぁ・・・お貴族様も、楽じゃないや・・・」
貴族の世界に入る覚悟もないままに、俺はこの世界へと足を踏み入れてしまった。
陰の者達との関わりよりも、数段厄介だ。
ユーリ「はぁ・・・剣でも振って、楽になりたい」
剣は、俺の命だ。
騎士になるまで、俺は、剣のことばかりを考え続け、活かすための技を研ぎ続けてきた。
剣のことばかり考えられない身の上になって、少しだけ残念な気持ちもあるが、友人の頼みを聞き入れた以上、腹を括るしかなかった。
アイリス「ここにいたのね。」
後ろから、友人である彼女の声がした。
ユーリ「アイリス・・・。」
振り返ると、そこには、艶めく赤髪を後ろで丁寧に纏められ、深紅の煌めくドレスに身を包んだアイリスの姿があった。
アイリス「やっぱり、慣れないかしら?貴族との関わりは。」
ユーリ「うん。正直言って、かなり苦手だ。」
アイリスが、パーティーを催した理由は、俺のためでもあったらしい。
貴族社会の一員の自覚を持ってもらうため、そして、アイリス個人の、俺への祝杯の気持ちも兼ねて。
ユーリ「ごめんね、アイリス。ここまでのことをしてもらって、疲れちゃうなんて・・・」
アイリス「気にしなくていいわ、ユーリ。私も、あんまり得意ではないから・・・パーティーでの貴族との関わり合いなんて・・・」
アイリスも、王家の身の上、貴族の汚いところや、陰の部分も、幼少のころより、少なからず感じ取っていたらしい。
貴族への不信感は、今も拭いきれず、貴族間の宴にも、あまり顔を出したことが無いようだった。
ユーリ「そっか・・・大変だったんだね、アイリス。」
アイリス「まあね・・・・でも、そんなことに惑わされる程、今の私は、ヤワじゃないつもりよ。あなたも来てくれたし、それだけで、どれほど心強いことか・・・」
友人として、できる限りのことは、してあげたい。
精神的ストレスを抱えてるのなら、少しでも分け合ってあげたいし、愚痴だって、いくらでも聞いてあげられる。
彼女との友情に、並々ならない誇りを持っているからだ。
ユーリ「無理はしないでね、アイリス。俺にも、君の重荷を、少しぐらい分けてくれたって良いんだから。」
アイリス「ユーリ・・・・・」
彼女は、微笑ましく、俺を見つめた。
彼女の微笑みは、とても美しく、煌めく太陽のように、明るく、温かいものだった。
アイリス「ありがとう。ユーリ。あなたの気持ち、ずっと大切に想ってるからね。」
ユーリ「こちらこそだよ。アイリス。また、一緒に剣の稽古でもしたいな・・・」
アイリスが、この3年間で、どれほど強くなったのかは、俺自身、非常に気になっていた。
今わかることは、アイリスは、3年前よりも魔力量が、さらに膨大になっていることだ。
そのことは、彼女の魔力の気配から、感じ取れていた。
アイリス「私も、あなたと剣を交えたいわ。3年間の修行の成果を、あなたにも見てもらいたいから。」
ユーリ「じゃあ、明日にでもしてみる?俺もアイリスと、久々に剣を交えてみたいから。」
アイリス「構わないわ。じゃあ明日、楽しみにしてるわね。」
俺は、アイリスと、次の日に、騎士団の訓練場で、立ち合いをする約束をした。
ここでの新たな剣の楽しみが、俺の中で広がっていった。
友人との、剣の交じり合いができ、今の俺は、かけがえのない喜びに満ち溢れていた。
〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈
アイリスとの約束の日。
ユーリとアイリスは、騎士団の訓練場にいた。
騎士団の訓練場では、駐屯所の一番広い場所を貸し切って、ユーリたち2人だけの、稽古場とさせてもらっているようだった。
ユーリ「やろうか。アイリス。」
アイリス「ええ。いつでも、いいわ。」
周りには、王国の騎士団のギャラリーができており、辺境の村出身の剣士と、大陸に名を轟かせる王女の立ち合いを、今か今かと待っていた。
ユーリとアイリスは、互いに、訓練用の鉄の剣を中段に構えた。
ユーリ「お願いします。」
アイリス「お願いします。」
互いに一礼し、2人の氣は、戦闘モードに入った。
剣の切っ先は、お互い、一つもブレない。
はたから見れば、互角同士の、氣のせめぎ合いに見える。
アイリス (ッ・・・・!)
だが、アイリスだけには、ユーリの実力が見えていた。
アイリス (なんて氣勢・・・!魔力が放たれずに、ここまでのプレッシャーを感じるなんて・・・)
ユーリは、中段の構えのまま、じっとアイリスを見ている。
何気ないその姿からは、想像を絶するほどの、氣の圧力が、彼女を突き刺していた。
アイリス (3年間で成長したのは、私だけじゃないわよね・・・。正直、嬉しいわ。ユーリ。)
彼女は、内心、プレッシャーに脅かされながらも、どことなく、ユーリという強者と立ち会えていることの幸せを、感じていた。
アイリス (私の剣を、あなたへ届かせるために、私は、この3年間で、修行を重ねて来たわ)
アイリスは、グッと地面を踏みしめる。
アイリス (だからこそ、あなたへ届かせてみせる!今度こそ!)
アイリスから、突如として、猛烈な魔力の波動が放たれる。
駐屯所を覆い尽くすほどの彼女の魔力に、周りのギャラリーの騎士たちは、大きく動揺していた。
彼女の猛烈な魔力は、彼女自身と剣に宿り、一つの剛剣へと姿を変える。
アイリス 「ハァァァァァァァッッッ!!!」
先に仕掛けたのは、アイリスの方からだった。
彼女の剛剣は、上段から、まっすぐに彼を捕らえている。
アイリス (届く!絶対に!)
アイリスは、確信の一撃を、ユーリに対して放つ。
彼女の一撃は、ユーリの体へと届く・・・・・・
はずだった・・・・
アイリスの剛剣の一撃が、ユーリへと届く瞬間。
彼は、彼女の剣のスピードにタイミングを合わせ、剣を引っかけるように重ね、円の動きのように、受け流した。
アイリス (!?・・・・・)
受け流されたアイリスは、剣を飛ばされ、そのまま宙を舞いながら、訓練場の地面へと落ちた。
彼女自身の、剛剣の力と魔力を、彼にそのまま返されたのだ。
仰向けに倒され、何が起こったのかわからず、空を見上げている彼女の首元に、そっと、ユーリの剣が添えられた。
ユーリ「一本・・・・」
アイリス「・・・・・・・」
2人の立ち合いを見ていた騎士たちも、呆然と、その光景を見ている。
大陸で、5本の指に入る実力者である、アイリスが倒された事実を、誰も飲み込めていないようだった。
ユーリ「強くなったね。アイリス。3年前とは大違いだ。」
アイリス「・・・・・・・・・やっぱり。あなたには、かなわないわね。ユーリ。」
ユーリは、アイリスの手を取り、彼女を地面から起き上がらせた。
アイリス「届かなかったわね・・・私の剣・・・」
アイリスは、少し残念そうな顔をしながら、自分の手を見ていた。
3年間、彼から教わった修行をこなしても、ユーリの実力には届かなかった悔しさが込み上げていた。
ユーリ「そんなことないよ。アイリス。ほら、見て。」
アイリス「?」
ユーリは、自身の体の一部を指さす。
そこには、わずかではあるが、服の肩の部分に、布の切れた跡が残っていた。
アイリス「ッ・・・!!」
切れた跡を見たアイリスは、自身の剣が、ユーリに少し届いたことに、驚きを隠せずにいた。
ユーリ「届いてるよ。アイリスの剣は確かに・・・。君の成長を見れて、俺は嬉しいよ。」
アイリス「届いた・・・?私の剣が、ユーリに・・・?」
ユーリ「うん。そうだよ。」
アイリス「やった・・・・・やったのね・・・!」
ずっと敵わないと思っていた相手に、ようやくわずかに一太刀入れられことができたのだ。
彼女は、自身の剣が、彼に届いた喜びに耐えきれず、ユーリをその場で抱きしめた。
ユーリ「アイリス・・・・!?」
アイリス「やっと、やっと、あなたに届いた・・・・嬉しい・・・」
アイリスは、自分の実力が上がったことの実感と、友人に少しだけ追いつけた喜びに浸っていた。
ユーリもまた、アイリスの剣が、さらに研ぎ澄まされたことに、喜びを感じていた。
お互いの剣は、ここに、惹かれ合っていた。
「「「「「ウオオオオオオオオオッッッッッッ」」」」」
騎士団の歓喜の声が、遅れてやってきた。
彼らは、歓声を上げると同時に、アイリスとユーリのそばまで駆け寄り、2人を称えた。
騎士団であり、魔剣士でもある彼らもまた、2人の剣に惹かれたのだ。
騎士団の訓練場では、騒がしくも、楽しさを感じさせる声が、この日しばらく続いたという。
〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈