思いついたので書いた、後悔はしていない
ではどうぞ
「夜空は綺麗だ、そう思わないだろうか?」
座って夜空を眺めながら問いと口に出すが、誰からも答えが返ってくることはない
それは当然だ、なんせ俺一人だけでここにいて、この美しい夜空を見ているのだから
もし他人がいるのであれば俺は、すぐにでもここから去って自室の暗い部屋の隅で本を読むだろうから
…まぁ、ここには誰も来ることはないだろうが
ここは俺が数年前に見つけた自分だけの場所、自分だけの世界だ
それなりに山の中へと入らなければまず立ち寄ることはないだろう場所
近所に住んで山の1部を秘密基地にしている知らないであろうこの場所、ここが俺の最も気楽で居られる場所だ
俺はその場で横たわり、瞼を閉じて陰鬱な日常生活を思い出す
あることないこと言いふらされて精神が病み、夫婦の溝が決定打となり家庭崩壊し、暴力や暴言などが飛び交い、俺にまで浴びせてくるようになった家族
目立つようなものはないが、陰口や文房具などの小さい道具を壊すか隠すかして俺の反応を楽しむ同級生
偽告白をしたくせに、それを振ると自分をチヤホヤしている男共に俺への暴力を指示する腹黒い後輩
これらが立て続けに起こり、人というのは根本が腐っている人ばかりなのだと思うようになった
どれだけ優しい人だろうと、その根本では人と見下し、馬鹿にし、我が身が一番可愛いのだと
なんせ、「俺達はお前の味方でいる」と言っていた奴らも、俺がいじめられるようになると言葉を撤回して距離を置くようになり、なんならいじめの加担をしていた
だからこそ、人というのは我が身が可愛いければそれでいいのだ
他人なんぞを褒めていても、それは褒めた自分が「人のことを褒めてあげられてる、自分は優しくて良い奴」と思いたいからこそ出てくる言葉なのだ
気持ちが悪い、そこまでして自分を良く見せようとして何になるんだ?
一歩下がって見れば気持ち悪い本心が丸見えでしかないだろうに
…当たり前だが、俺は人間が嫌いだ
いや、なんなら動物全般が嫌いかもしれない
人懐っこい犬猫も、過酷な自然を生き抜く猪や熊も…何もかも
全てが敵にしか見えないのだ
餌を貰うため、生活の安全を守るため、明日へと食いつなぐため、我が子を守るため…
動物としての本能などもあるのだろうが、それすら気持ち悪く見えてしまう
だからなのだろうか?
俺は瞼を開け、月明かりに照らされた自身の腕を見る
そこには肌色をしたボヤけた腕のようなものがある
いつの間にか自分ですらも嫌いになり、信じられなくなり、自分の見る世界では動物が全てボヤけてみえるようになった
鮮明に見られるのは本やこういった景色だけ、自然にいる動物も、街中で見る人も、全てがボヤけてはっきり見えない
でも、それでいいと俺は思う
上辺だけ取り繕って気味の悪い笑顔を向ける顔より、輪郭すらもわからないほどボヤけた顔の方が見ていられる
そんなことを考えながら俺は再び夜空を見る
やはり夜空は良い、ちっぽけで、大した力もないくせに傲慢で、強欲に振る舞う俺達とは違って雄大で、美しくて、嫌なことを忘れさせてくれる
時間が許すのなら、俺は何時までもこうしていたいと思っていた
「おいお前、何してるんだ?」
俺は無言で起き上がり、声のした方を振り向く
しかし、そこに人はおらず、幻聴だったのかと思った
「上だよ、上」
確かに声は少し上で聞こえる
面倒だと思いながら声の通り少し上を見る
「お、やっとこっちを見たな。こんなところで何してたんだ?」
箒に乗っている丸い、黒い影がいた
声からして女か…いや、それよりも何故箒で浮いている?
そんなの、まるで本に登場するような魔女ではないか、何かトリックでもあって揶揄っているのだろうか?
では何のために?俺はこんな黒い女のことを知らない、無差別でマジックでも見せているはた迷惑なマジシャンなのだろうか?
俺が女について考えていると、女は地上に降りてこちらへ近付いてくる
なんだ?マジックの評価でも聞きたいのだろうか?
だとしたら酷評してやろう、俺だけの世界を壊した罰だ
マジシャン女が近付くにつれ、丸いと思っていた身体は細身であることに気付く
どうやら丸いと思っていたのは帽子を被っていたからのようで、下から見た時に帽子のつばが丸い影だと誤認させていたらしい
女はある程度距離が近くなると、その場に立ち止まる
「こんな時間に外うろついてると危ないぞ?」
そして、俺に指を指して怪訝な声で聞いてくる
人を指で指すなと教育されなかったのか?随分と礼儀のない人間だ
俺はコイツへの言葉をまともに返す気がなくったので、突き放すように言う
まぁ、端からまともに話す気なんて毛頭ないけどな
「お前が気にすることじゃないだろ。それと、話し掛けてくるな、不愉快」
「はぁ!?人が心配して声掛けてやったってのに、それはあんまりだろ!?」
話し掛けて「やった」か…コイツは傲慢なことを隠していないようで良かったよ
お陰でこっちも遠慮なく言える
「お前に心配される筋合いはないし、意味のわからない浮遊トリックを勝手に見せてきた奴とは話す気にもならん、さっさと帰って新しい手品の練習でもすればいいんじゃないか?」
「な、なぁ……!!!」
女の声に怒りの感情が混ざっていることに気付く
しかし、女が勝手に怒ろうが俺には知ったこっちゃないので女を無視して森の中へと歩く
コイツといるのは時間の無駄だ、さっさと家に帰って本でも読むとしよう
マジシャン女のせいで、気分は台無しだ
「おい!」
女が叫んでいるが、それを無視して森の中へと入る
たがその直前、強く肩を捕まれて足が止まる
忌々しく思いながら振り向けば、案の定さっきのマジシャン女
「手を離せ」
少し怒気を含ませた声で、不満を露わにする
一瞬だけ女の手が跳ねるが、それでも女は手を退けなかった
「お前と話してて、凄くムカつく奴なのはわかった…だけどお前人間だろ?こんな夜の森を一人で帰らして、妖怪にでも襲われて死んだなんて話を聞いたら流石に私の寝覚めが悪い」
「妖怪?ハッ、胡散臭い手品師と思っていたけどただのおかしい奴だったか。妖怪なんて非科学的な存在がいるわけないだろ」
いるのなら国が研究してるだろうし、その姿は目撃されることが多いはずだ
しかしそんな話は聞かないし、映像に映っていた妖怪と思われていたものの正体は結局実在する動物か自然が偶然起こした現象だ
妖怪なんているわけないのに、何をおかしいことを言っているのだろうか
手品のやりすぎで、この女は頭でもイカれたのだろうか
そんなことを考えていると、不意に女からおかしな言葉が飛んでくる
「お前、もしかして外の世界の人間か?」
外の世界?外国のことを言っているのだろうか?
だとすればコイツの目は節穴なのだろうか、どう考えても純日本人の見た目、格好をしているだろうに
呆れた、コイツは頭だけでなく目までおかしくなっているようだ
女にミジンコ程の憐憫を覚え、口を開く
「俺は外国人じゃない、純日本人だぞ」
「やっぱり外来人か、なら見たとこないその服装も納得だ」
人の話を聞かず、ブツブツと一人言を零しながら考え始めるマジシャン女
俺の心の中では、コイツに覚えていた憐憫すら消え、怒りだけが増していく
コイツを1度くらい殴っても許されるんじゃないか?そう思い始めた頃にやっとこちらへ言葉を投げてきた
「よし、霊夢のところに行くぞ。この時間だから起きてるかわからないが…まぁいい、霊夢の所に行くまでに色々教えてやる」
そういうと女は箒を横にして、跨った
…また妙なマジックでも見せるつもりなのか
女の行動に眉を顰めていると、女は不思議そうな声で問いかけてくる
「何してるんだ?早く乗れよ」
「何故乗らないといけない?箒に跨ったところで飛んで移動できる訳ないだろ」
「また非科学的うんぬんって言いたいのか?いいから1回乗ってみろって!」
ほら、ほら!と言って催促してくる女に付き合い、しぶしぶ箒へ跨る
俺が跨ったことを確認すると、女は前を向いた
「それじゃ振り落とされないようにしっかり掴まってろよ?」
「わかった、まぁ飛べる訳…………………は?」
飛べる訳がない…そう言おうとした瞬間、身体はジャンプした時のような浮遊感に包まれる
足には先程まで踏み締めていた地面の感覚がなく、下を向けば地面から2メートル程足が浮いていた
俺が跨った時、この箒には糸やワイヤーらしきものはついていなかった
この竹箒に何か仕込まれていると思いたいが、ホームセンターで売られているようなものと酷似しており、人間2人を乗せて飛べるような機械を取り付けられるスペースなどどこにもない
つまり、本当に箒だけで空を飛んでいるのだ
俺がありえない光景を見て絶句していると、女は箒を発進させ、夜空へと駆ける
その進むスピードが思ったよりも早く、俺は慌てて女の左肩を掴む
「うおっ!?っと、びっくりするから急に掴むのはやめてくれよ。そんなんじゃ女の子にモテないぞ」
「す、すまん…」
さすがに急に掴んでしまったので謝罪をする
生物全般を敵と認識していても、礼儀というものはきちんと学んでいるのだ
「まぁ、この魔理沙様は寛大だからな!さっきのことは許してやる。それよりお前、外来人だろ?霊夢の所に行くまでにこの幻想郷について教えておいてやるよ」
魔理沙と名乗った女は、幻想郷という聞いた事もない場所の話を教えてくれるそうだ
…はっきり言って興味がない、そもそも霊夢って誰だよ
俺はそんなことを考えていると、偉い偉い魔理沙様のご高説が始まった
「まず、幻想郷ってのは今私達がいるここの場所だ。ここには妖怪、幽霊、神様なんて奴らがわんさかいる…人間もいるんだかだ、妖怪達に比べたら少ないな」
「妖怪?幽霊?神様?そんなのがいるわけ」
「でもよ、今のお前の状況見てみろよ。何の変哲もない箒一本で空を飛んでるんだぜ?」
俺はその言葉に何も返せなかった
妖怪も、幽霊も、神も、そんなものいないと言いたいが箒一本で実際に空を飛ぶ非現実的な現実を見せつけられ、あまつさえ体験しているから
…実際に見るまで信じないでおくとしよう
俺はそう考えることで無理矢理会話を納得した
「納得したか?次の話するからな?」
女はこちらの返事を待たず、話を続けた
…返事を聞かないなら最初から聞くなよ
やはり少しムカつく奴だ
「さっきから名前を出している霊夢ってのは私のライバルで親友の博麗霊夢って巫女だ。普段はぐーたらしてる怠け者だが、やるときはやる奴だ」
霊夢という奴を語る魔理沙の言葉は少し柔らかく、絶対的な信頼ようなものが感じ取れた
…反吐が出そうだ、気持ちが悪い。どうせいつか壊れるものだろうに
「そして、幻想郷は博麗大結界ってのに囲まれてて、外との関わりを遮断してるんだが、何かしらが原因で幻想郷に迷いこんだ人間…要はお前みたいな奴だな、ソイツらを外来人って言うんだ。私の知り合いにも一人、外からやってきた奴がいるからもしかしたらそのうち会うかもな」
外の世界…か、そしてそこからやってきた俺と同じような奴
一応覚えていて損はないだろう、記憶の片隅にでもしまっておくとしよう
その後も魔理沙は、博麗霊夢という巫女の場所に着くまで幻想郷とやらについて色々と語った
空が紅くなったり、春が訪れるはずなのに一行に春がこなかったりする異変?とかいう話なんかも聞いたが誇張された武勇伝のようにしか聞こえなかったので半分以上聞き流していたが
「ここが霊夢の住んでる博麗神社ってところだが…」
「まぁ、寝てるだろうな」
魔理沙が「到着」と言って降ろしたのは山の途中にある神社の境内
目の前にある建物に霊夢が住んでいるようだが明かりはついていない
当たり前である、そもそも俺が外出したのが夜の10時でそこから1時間山へ入り、2時間程一人で夜空を眺めていたのだから魔理沙に出会って1、2時間経っていたとしてもド深夜丁度の時間だ
「参ったな、一旦私の家に泊めて明日に出直してもいいが、生身の人間じゃ
「いっそ霊夢起こすか…?」なんて非常識なことを考えている魔理沙を無視して俺は境内の外へと出ようとする
それに気付いた魔理沙は、慌ててこちらへ駆け寄ってくる
「ちょちょちょ!?お前何しようとしてんだ!?」
「時刻は深夜だろ?ならここの主は寝てるだろう、そんな時間に訪問するほど俺は非常識ではないんでな。そこら辺で野宿する」
魔理沙と空を飛んでいる時、俺の街があるはずの方をみてもそこにはデカイ森しかなかった…つまり、俺は魔理沙のいう通り幻想郷という場所に迷い込んだのだ
正直、未だに信じられないのが本音だが、街明かりらしきものも、マンションなどの高い建造物も見当たらないから信じるしかない
ならば住処のない、誰も頼れないのならば野宿するしかないだろう
腹も空いていないし喉も乾いていない、明日の10時までなら余裕で待てるだろう
そんな考えを否定するように、魔理沙は強めの口調で言った
「夜は妖怪が活発に動く時間だ、その中には人を喰う妖怪だっている。本来妖怪達は人間を喰っちゃだめだと言われてるんだが、お前みたいな外来人は喰ってもいいって言われてるんだ」
「よそ者の排除が目的地か、幻想郷ってのは排他的な場所なんだな」
「まぁ、それを決めた奴にも色々と考えがあるんだろ…って、それより!流石に野宿はさせられなねぇよ、そうなるくらいならお前の気分が悪くなること覚悟で私の家に泊まらせる」
「他人の家で世話になるつもりはない、それよりも未知の男を家に連れ込むとはどういう神経してるんだお前?」
「仕方ないだろ?時間が時間で、状況が状況なんだから」
暫く押し問答していたが、コイツとの会話に疲れたので俺が折れて、今晩は魔理沙の家でお世話になることとなった
「今日はもう帰るから、また私の後ろに乗れ…今度は急に掴まないでくれよ?」
「慣れたから平気だ…はぁ、面倒なことになった」
夜空を見ていたら魔女みたいな奴にあって、ソイツの親友のところに向かうと思ったら今度はソイツの家に行くなんてな
…変な要求だけされないように祈るとしよう
長時間人と関わって疲れた俺は、大人しく箒に跨ると魔理沙の両肩を掴む
俺が跨ったことを確認した魔理沙はあの場所と同じようにふわりと箒を浮かせて、夜の空を駆けるのだった
本当に突発の作品なので筆が乗れば書きます
宜しければお気に入り、お願いします