魔法科高校の退学希望者   作:無淵玄白

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第十話「ランチタイムパニック」

 

『まさか美月があんな大胆な行動に出るだなんて、まだまだ付き合い浅いから私も友人を理解できていなかったね』

 

今日のアイネブリーゼでの自分の行動を言われて風呂から出て勉強机に向かっていた美月は端末に映る最近出来た友人に言う。

 

「そうだね。魔法を使っているアキラ君の姿が眩しくて、『いいな』って思えたの、アンジェリーナさんと違って一目惚れって訳じゃないけど」

 

そういう意味では出遅れた感はあるが、どうしても関心を惹きたかった…美月からすれば驚愕してしまうぐらいに単純な感想ーーー「イイ男」という気持ちしか出てこなかったのだ。

 

美月は恋とか愛とかはもう少しお互いのことを深く知ってこそ発生する気持ちだと思っていたのだが、ただ何かに集中して懸命になる男子の姿…石田アキラを見ただけで心が動いてしまったのだ。

 

中学の美術部でも時に運動部員の動体写生をすることはあった。その時に感じたものは確かにそういう選手が見せる一瞬の煌めきをキャンバスに乗せることの素晴らしさはあった。

 

ただ、それとは違うものをアキラに見てしまったのだ。彼の光は、魔法師の誰よりも穏やかだ。巨大な樹を連想させたのだ。そこに威圧感などはない。

 

だから惹かれてしまったのだ。

 

『想子の光とか?』

 

自分の目が見えすぎることを分かっているエリカの質問に、それもあると答えた美月。

 

その際の笑顔を見てエリカは応援することにした。

 

『がんばりなさいよ!私はリーナよりも美月を応援しちゃうから!!』

 

「ありがとうエリカちゃん」

 

『そのデッカイおっぱいはアメリカ産よりもBIGだからアキラ君も落とせる!!ふたつの胸のふくらみは何でも出来る証拠なんだから!』

 

「エリカちゃん!!!!」

 

真夜中にイヤホン越しとはいえなんちゅーことを言ってくれてるんだということで怒ってしまって、その事で翻訳作業中だったらしき母に窘められてしまう柴田美月15の夜であった。

 

 

「それじゃ明日は学食で食べなさいよ」

「了解。なんか随分と忙しないね」

「お父さんの仕事の関係でね。もしかしたらば長期で北米の方にいるかもしれないわ」

 

成程、父は総合商社のサラリーマンであり、この時代では珍しく現地法人というもので仕事をしている人間ではあった。

そして、母はその仕事の関係で父の所に行くこと多い人間でもあった。

 

前世のアレコレがあって小学校高学年頃には自分のことは自分で出来るので父の世話に行ってきていいよとは言ってきた。

 

ぶっちゃけアキラもサッカーをやるためにあちこちに行くので家族が中々一つに纏まらないところもあるのだ。だからと冷めているわけではないのだが。

 

「しかし、まさかアンタが魔法の学校に合格するなんてね。父さんも母さんも喜んだけど、アンタ個人はどうだった?」

「受かるとは思っていなかったからね。ただフットボール一本で食っていけるとも限らない父さんの言い分も分かっていたから」

 

確かにサッカーは好きだし、優秀な選手ではあったと思う。ただ、それでもこのままサッカーだけでやっていけるか?という不安はいつでもあった。

 

前世では、その仕事すらなくなり、やむを得ずというか半ば強制徴募されるカタチで軍隊に入ったが……あちこちが廃墟も同然となるほどの大戦争の前ではそうせざるを得なかった。

 

その記憶と感情が……今でもある。

 

「ただ魔法師としてもやっていけるかってのは不安だよ」

「だよねー。アタシも仕事の関係で魔法師の人とも時に話すけど、結構長い訓練期間とか必要らしいからね。アキラが魔法大学付属に入れただけでもスゴイとは言ってはいたよ」

 

じゃあ何で入れたんだよ?と悪態を突きたくなるも、そういう幅広い分野の商材を取り扱う仕事をやっているから慢性的な魔法師の不足……要するに様々な分野での魔法技能持ちの人材需給があっていないことを理解していたのだろう。

 

そこに息子が入れるかどうかまでは流石に分からなかったのだろう。それ自体は責められない話だ。

 

「まっ、そんなわけで母さんは父さんのヘルプに行って参ります!! お留守番よろしくねアキラ」

「いってらっしゃい。気をつけて」

 

荷物を纏めて出発準備をした母の荷物はキャリーケースなどではなく少し大きめのバッグが一つで済んでいる。そこまで多くないのは母がいわゆるバリキャリでもフットワークが軽いからだろう。

 

必要なものは現地でということでもある。

 

「ああっと……半ば一人暮らしだからってアナーキーに女の子連れ込んで性活すんなよ〜♪帰ってきたらば孫が出来ているなんてカンベン!!」

「ねーよ」

 

思い出したかのように戒めの言葉を言うが、最初っからこれを言うつもりだったろう母に呆れながらもコミューターまで見送ってから家に戻る。

 

(退学を俺自身は望んでいるが、どうしても状況がそうじゃない。そうは転がっていかない)

 

これは明らかに異常だ。

 

ーーー実体的なコンセントレーションを持ち合わせた■魔術は、もし武器化できたら最強だったろうね。ーーー

 

ーーー訓練によって制御された■魔術が最大の脅威です。研ぎ澄まされた■■を実現する力こそ、■王の力。ーーー

 

この世界に転生する前に読んだこの魔法科世界の下地というか参考になった作品の最新巻でもたらされた衝撃の設定。後付かもしれんけど。

 

とにかくそれは実用性ばかりを求める■魔術とは正反対のものだった。

 

(司波達也のアレは確かに意味消滅を連発しているようなものだが、本当の意味で『消滅』しているわけではない。分子レベルにまで散ってしまった物質は確かに存在していないと同義だが、この世界から消え去っているわけではない)

 

だからなんだというわけではないが、まぁつまり……。

 

(どうでもいいや)

 

所詮、自分に出来ることなど何もないのだから考えることを放棄して眼の前のことに取り組むのであった。

 

退学をするためにアナーキーなことをしようという考えもないのだから。

 

そうして、眠りに就く……。

 

 

入学してから5日目。

 

昨日の森崎との決闘は色々な意味で耳目を集めていたが……。

 

原作通りならば、今日辺りから部活勧誘期間のはずだ。

 

(時系列が分からんが休日を挟んではいないはず)

 

そして魔法科高校には土曜日休みがない。

 

木曜、金曜からの勧誘という感じであろうか、まぁ悪くはない。

 

特に部活に入らず帰宅部でいようと思うアキラとしては、放課後にボールを蹴らないでいるという手持ち無沙汰をどうしようかと思いつつも、この学校にはサッカー部はないのだ。

 

あったとしても入ろうとは思わないが。

 

そんなこんなで五日目、いつも通りのランチタイム。「普通」に教師のいない授業を終えて学食に行こうとした時に。

 

「石田君、私と昼食取らない?」

「岬さんでしたよね。何で俺と?」

 

質問に質問で返すな!とか植物のような人生を送る男に言われそうな返しではあったが、特に無く。

 

「ダメ?クドウさんと先約あったりする?」

「いや、無いですよ。けど俺、今日は弁当じゃなくてーーー」

 

上目遣いで不安げに見てくる美少女に弱いアキラは内心ウキウキで了承しようとしたのだが。

 

「アキラーーー!!! 今日は生徒会でランチよ!!」

 

そこにID確認はどうなってるんだよという勢いでF組のドアが開かれてA組のバクダン娘がやってくるのだった。

 

だが、今日は流されない!! 絶対にこの非日常から逃れてみせる!!

そして岬美涼(みすず)ちゃんという(健全な)魔法科女子と楽しくOHANASHIするのだ!!

 

「いやアンジェリーナ。別に俺は会長その他諸々から誘いを受けてないし、何の役職にも就いていないし」

「ワタシが出頭させるようにオーダー受けたノ!」

 

お前は警察署に自首する犯人の付添人かよ!?と内心でのみ驚きながらも。

 

「とにかく今日はダメだ。俺に来てほしいならば、せめて一回は生徒会からメールなりなんなり連絡が来てこそ道理、礼儀……マナーが通る話だ。だから先に誘われた岬さんと今日は食堂で昼食を摂るよ」

 

手でアンジェリーナを制しつつ男として譲れぬところを譲らないのだった。

 

「ソッカ、ソウヨネ……確かにアキラの意見はモノノドウリだわ」

 

難しい言葉知ってるなと変な感心しつつも落ち込むアンジェリーナに少しの罪悪感を感じつつも、折れないでいたのだがーーーー

 

 

☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★

 

 

「ならコウすればイイわけネ!!!」

「なんでやっ!!!」

 

思わず関西弁を出してしまうほどに理不尽な状況があったのだ。

 

食堂の大テーブルの一つに生徒会長、風紀委員長、生徒会役員のルーキー2人(♀)、そして部活連会頭、2科生のイレギュラーが集った場所に何故かアキラと美涼は同じく座っていたのだ。

 

「なんだこの幻影旅団が集まったテーブルのような状況は……」

「そ、その場合、私も団員(クモ)の一員なんだけど!?」

 

ド ド ド ド などという効果音が聞こえそうな場所にて一高のVIPが揃っていた。アキラと岬はあまりにも場違い極まる。

 

「私達はアキラ君と話したいことがあったんですよ」

「昨日、森崎君ノックダウン事件でいっぱい話したと思いますけど?」

 

口火を切った会長に返すも、続けて話すは風紀委員長だ。

 

「君は隠し事が多すぎる……まぁいい本題を話そう。食べながらでいいから聞いてくれ」

 

風紀委員長曰くの話は、原作通りに今日から始まる部活勧誘期間に関することであった。

一通り聞いてる間にアキラの食事は終わって緑茶を飲んでいたのだが。

 

「ーーー俺に関わる話ってありますかね?」

「先日の森崎との戦いで、当人は回復は出来た。今日も登校している」

 

確認のために自分の腕に抱きつきながらサンドイッチを食べるアンジェリーナに視線だけで聞くと。こくこくと頷く。

モノを食べきってからにしなさいと思いながらも、聞いたのがそのタイミングなので特に言わない。

 

「しかし、森崎を推薦した教職員方から風紀委員推薦を取り消されてな」

「……まさか代わりに俺を入れようってんじゃないでしょうね?」

「その、まさかだ」

 

あり得ない。首を横に振って本当にあり得ないとする。

 

「お断りします」

「むぅ。予想通りの答えだな。理由を聞いてもいいか?」

「俺は魔法は使えても、いわゆる武術に関連する荒事のスキルを持ちません。ドリブルのトップスピードに乗って芝のフィールドを走り抜けることは出来ても自己加速魔法を使っての動体視力の養われも然程じゃない。つまりはーーーシロウトであるということです」

 

ぐぅの音も出ないほどの正論を叩きつけられて上役も黙らざるを得ない。

 

そう。本当にこの男は魔法のシロウトであるので本来ならば、今日に至るまで普通の魔法師ならば鍛えられているものが無いのだと気付かされる。

 

「本当に石田君ってそうなんだね……」

「シロウト、ビギナー、初心者、見習い、半人前以下。呼称は、なんでもいいが俺はそういう人間ですよ。岬さん」

 

例え空気弾で一科生をぶちのめせたとしても魔法師としてここに至るまでに備わってあるべき自然(じねん)のものがアキラにはないのだ。

 

嘆息していると、興味はどうやら岬に移ったようだ。

 

「間違っていたら申し訳ないけど岬さんって、我が校のOBである岬(ひろし)さんの関係者?」

 

そんな切り出しで声掛けされたが岬美涼だが。

 

「はい、妹です。ーーーあの、こう言ってはなんですけど、私の兄が入学したのは凡そ10年前ですよ? 七草会長、よく知っていましたね……」

 

緊張気味に恐れるように言う岬にアキラは疑問を持つも、アンジェリーナ以外の生徒はそれを当然と考えているようだ。

 

「ごめんなさい。あなたのお兄さんの在学年間は今に続くものが、『色々』とあったから、もちろん彼の興した魔法理論もすごかったけどーーー」

 

「『エクストラ』には過ぎた功績(モノ)だと思いますか?」

 

一転して少しだけ怒気を強めて言う岬に七草会長は押され気味だ。

 

どういうことなんだろうと思い腕に抱きつくアンジェリーナに聞く。この辺りの知識は、なんだか最近不透明気味だから補足が欲しいのだ。

 

(タブンだけど、ニホンのナンバータイトルでの家のコトよ。ワタシもグランパから、詳しくは聞いていないんだけどネ)

 

(そういや魔法の公立塾で習ったか、漢数字を名字…姓に持つ人間の能力値は高いってその中でも特別に高い家を……)

 

(イエス、タシカーーー)

 

『『ジューシー族って言うんだったかな(カシラ)?』』

 

アキラとアンジェリーナのナイショバナシは存外、聞かれていたらしく何故か知らんが、食堂内にいるほぼ全員が机に突っ伏したりコケたりするのであった。

それでも食事を粗末にしていない辺りは流石と言えるか。

 

どうやら自分たちは、余程ズレたことを言っていたようだが分からぬ以上は仕方ない。

 

と思っていたら……。

 

「「「「そんな美味しそうな名前の呼称があってたまるかぁあああ!!!」」」」

 

(あっ、いま思い出した。十師族(じゅっしぞく)だ) 

 

昨日はオーフェンからシャンクの事にまで思考を増やした弊害だろうかと思いながらも、学校にいる四人(・・)の十師族の抗議を受けて反省することにするのであった。

 

 

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