十師族ーーー。簡単に言ってしまえば、現在の日本の各地方を守護するという名目で置かれた……昔風に言えば守護大名みたいな立場と役職を与えられた十の魔法の家があるらしい。
もっともその殆どは、十までの数字で区分された魔法遺伝子研究所が置かれた地域の家がほぼほぼ担当するという。
「つまり第一研究所は金沢に置かれたから一の数字を持った魔法の家が守護して」
「第九研究所はキョウト・オオサカ付近に置かれたから
知識が足りなかったのは、驚いたことにアンジェリーナの方も同じだった。
原作の彼女は、アンジー・シリウスという軍人で戦略級魔法師とかいう立場ではなくとも、自分のルーツを知っているものだと思っていたのだが……。
「リーナ、アナタのご家族の誰かから教えてもらわなかったの?アナタも十師族の家系なのに」
司波深雪の驚きながらの疑問は当然のようだった。というよりその言動は、穿って聞こうとすれば同じ立場の人間が同胞を咎めるようにも聞こえる。
「ウン、ワタシのクドウの字は違うものダト聞いていたんダケド……」
「せやかて工藤の方の
戸惑った様子のアンジェリーナに助け舟ではないが、言葉をねじ込んで場を少し動かす。
「イエス!YES!グランパの生家もまさか言った方の『ベジータ』の出身地方であるとも初耳だワ」
どうやら『DB』も『名探偵』も現地声優起用の北米版を視聴していたわけではないようだ。それでいいのかクドウ・シールズ家?と思いながらも。
「で、岬さんのお兄さんがどうしたんですか?」
話を戻すことにした。
何故にこんな役目を俺がやらねばならないのかと思うも、とりあえず岬をフォローせねばなるまい。
「そ、そうね。なんかジューシー族で話の腰を折られた感バリバリだったけど、なんとなくね。今の一高のことにも繋がる話が始まった時代だから」
気を取り直した七草会長曰く、岬 美涼の兄『岬 寛』が入学して在籍していた期間は『改悪の年』であった。
曰くその年に二科制度が年度途中から始まり現在に至るまでのことが始まった年だった。
「教員の増加なんて無いのに生徒を増やしても、意味はない。むしろ集められた生徒が不遇をかこつだけだと訴えていたようだから……」
詳しくは割愛するが、原作通りにそれがスタートした後はお定まりの現在点に至るだけだ。
「ーーーお前は、このことをどう思う?」
十文字会頭の言葉ーーーそれに対して……。
「司波君、会頭が回答を要求しているけど」
「俺はお前に問うたんだよ。石田。固有名詞が足らなくて申し訳ないな。そしてさり気にギャグを入れるな」
この世界に飛び込んで一年も経っていないアキラに答えられることなど無いはずだ。魔法に疎い自分に、それでも所感を求めるならば……。
「まぁ随分と腐っていますね。俺が言えるのは会長は今年度から二科生募集を打ち切れ。あるいは100人ではなく50人に半減とか学校側に要求しても良かったんじゃないですか?」
そんな風なことを言うのだった。
「ーーー随分と無情なのね石田君は……」
その言葉を受けて七草会長は目を鋭くするが、何も怖くないアキラは言う。
「と言っても教員もいないのに、教えられるやつもいないのに結果を出せってのは、その方が無情で非情だと思いますけどね」
「……それはお前がジュニアサッカーの日本代表だったからか?」
「皆さんこそ中学までに、誰からも教えられず結果を出すような、出さなければならない『授業』を受けたことあるんですか?ああ、自習とかは抜きで」
それは関係ないとして、『学校教育』という面での問題点と魔法師の人間性の問題点だとしておく。
「俺が言えるのはそこまでです。皆さんは魔法師の能力値という生まれた時に配られた『手札』は一生涯変わらないという『物の道理』を
結論としては、そういうことだった。所詮、この魔法科高校の二科制度というのはタツヤデモートを輝かせるための舞台装置であり、そこにいる人間たちの気持ちなど考えないシステムであった。
物語として読んでいた時には、そんな感想を持つだけだったが、現実にここに来ると生臭さだけが漂っていたのだ。みんなして何を目的に、目標にして走り抜ければいいのか分からないという表情だったのだから。
想像力が希薄だった自分を恥じるのみ。
「まぁ俺は新入生200人中200位なので、今年度どころか来期を迎えることなくこの学校からーーーー、な、なんですかその顔は?」
ものの見事に、全員からシラケるような顔をされてしまう。
「……わずか2ヶ月の修練で
昨日のアイネブリーゼでの言を引きずっているらしき司波達也のセリフに嘆息しながら口を開く。
「それはまだ分かんないだろ。俺の手札が黄金の切り札か、
司波達也が言うようなオシリス、ラー、オベリスクは場に出した時に、本当の意味での価値が分かるはずだ。持っている(と思われる)アキラ自身にも分かっていないのだが。
「それが知りたくて、私は石田君を食事に誘って教えてほしかったんですけどね」
岬美涼の言葉を聞いた時に、少しだけアキラは落ち込んだ。いや、まぁそんな理由じゃないかなーとかは考えないわけではなかったけど……。
「ミスズに、シタゴコロが無いとか夢見ていたノネ」
「そ、そんなこたぁないですけど、やめろ。俺を哀れむなぁ」
「モウ、そんなナイーブなダーリンのハートを癒すのがワタシの特等席!」
そんな様子に、美涼は少しだけ物申す。
「といっても、昨日の放課後の喫茶店で、いま抱きついているクドウさんとE組の柴田さんとに囲まれていたのに、まだ女の子口説くの?」
「人聞きが悪い。俺は決して自分からやっていないし、何で柴田さんが俺に構うのかを理解していない」
そんな風に見られていたのかと少し傷つくも、まぁ見たままならば、そう取られても仕方ない。
「本人曰く、「好きなものは好きだからしょうがない!!」とのことだ」
司波達也によって、いつの時代のBLゲームのタイトルだよと言わんばかりの柴田美月の心が知れたが、少々戸惑っていると。
「待て、お前は放課後にそんなアナーキーなことをやっていたのか?」
「まぁ見たままならば、女の子2人を侍らせていたとしか見えないかと」
渡辺風紀委員長に援護射撃をする司波深雪に、もはや嘆息するしかない。
この後の展開が読めてしまった。
「まぁ風紀委員にはならなくていい。私の方で森崎をスカウトしたというカタチで風紀委員にはしているからな」
だったら俺をスカウトする意味はないーーー、人員はいくらいてもいいということかと思っておく。チームでも怪我で戦線離脱する人間はいるので、その都度招集しているのでは当たり前のごとく間に合わない。
メンバー選定は余裕を持っておくべきなのだ。
当然の話ではあるが、魔法の世界でもそうなのかと認識を改める。
「よって生徒風紀を乱したペナルティとして、石田アキラ。君には部活勧誘期間は生徒会書記アンジェリーナ・クドウ・シールズの『補佐』を命じる」
どういう権限で発された命令で、それに従う義務はあるのか分からないが、昨日の俺のありようは、放課後にゲーセンで問題起こした生徒と同レベルの行為かと納得させつつ、それを受けるのだった。
「アキラ、
何か変な副音声が聞こえた気がしたが、気にしないことにした。
ただ補佐といっても何をやるのやらとは思う。
「まぁとりあえずシールズさんに色々と言っておくから、それに着いていくカタチでお願いするわ」
そんな適当でいいのかね。と思いながらも特に反論することもなく、了承するのだが……。
「ところで十文字君は部活連の会頭として、こういうことに何も言わないの?」
岬が端末で示した昨日のアイネブリーゼでのアキラの「酒池肉林」(間違い)の様子に対して。
「七草、俺がこういうことに何か言えると思うのか?」
半眼で会長を見ながら言う会頭は、少々トゲを発しているようにも思えた。
「だって部活連の会頭じゃない」
「そうだな。だが俺がこの件に対して何か言ってみろ。それはーーー」
一拍外してから会頭は口を開く。
「ーーー非モテの僻みにしか思われんだろうが」
腕組みをして目を閉じながら放たれたその言葉は重すぎた。というか自分を卑下しすぎである。
……誰でもいいから、受け止めてフォローしろよ…。
「なんか……スミマセンでした」
「やめろ。謝るな」
「ごめんね十文字君。私が悪かったわ」
「やめろ。哀れむな」
アキラと会長の謝罪のニュアンスの違いを感じ取ることは出来るようだ。そんな会頭を癒すためか、漢臭い舎弟たちがやって来たりした(本人望まず)昼休みだったが。
「ありがとうね。石田君、お兄ちゃんの気持ちを理解してくれて」
「モノ知らぬ男の外からの意見なんで、いいのかどうかは分かりませんけどね」
ただ100人の募集があったからこその出会いに感謝するぐらいは、いいはずだ。
F組のクラスメイトが少しだけ前向きになったのならば、とその笑顔に思うのだった。
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「あいつは一体何なんだよ……!?」
「俺が知るか。言ってしまえば……異業種からの参入というところだろう。どんな共同体でも時に多様性は必要だな」
「魔法科高校は企業や会社じゃない……!」
憤る森崎に、若干同情してしまうもこれ以上は達也も言えない。
結局の所、どんな分野でも突然現れる才能のバケモノというのはいるのだろう。
そいつが才能頼りのものならば、そこまでだが……。
(アキラは努力をするのだろう)
どうにも当初は魔法科高校を出ていきたいみたいな感じを受けていたが、アンジェリーナがアタック(LOVE)しまくったせいか森崎にアタック(BREAK)が尽く決まったからか何なのか分からないが、そうなっていくのだろう。
結局、達也に対しては暖簾に腕押しだと悟ったのか、校庭に出て風紀活動に出るようだ。
「さて、俺も行くか」
御覧の通りの盛況具合だが、ふと考えるにこれだけの群衆のどまんなかに入り込もうとアキラは普通に無傷なのだろう。
フットボーラー時代のアイツの字名は……。
「アンクラッシャブルプレイヤー」
イエローやレッドも同然の削りを受けたとしても平然と立ち上がりプレーを続行する。恐ろしくタフネスとハードな身体をしていたがゆえに審判も流してしまうほどだったとか。そこからのプレーが凄まじく技巧極まるものになるとかなんとか……。
(これがヤツの秘密にもつながっているならば、俺の常識では測れんな)
だが、この肉体の資質が魔法の資質に直結しているならば、それはーーー。
(……考えたくないな)
自分たち、魔法師の全てが辿ってきた1世紀近くにも及ぶ研鑽が、遺伝子を弄った結果すら……真逆のものだったと証明してしまいかねないのだった。