自分と関わりある世界を閉ざして自分が心地いい世界を作るのが魔王司波達也。
新刊の煽り文を見て、思ったこと。
食堂で公開される形となった先程までの戦いの反省会とも公聴会とも言える場に彼女はいた。
自分と同じ二科生……ウィードなどと一科生から口さがなく言われる立場にありながら、そんなことなんて知らんとばかりに、一科生を倒し、そして多くの人間の耳目を集める。好悪関わらず……。
その姿に羨望を覚える。だが、その一方で全国区に立ったこともある剣道少女の眼は、石田アキラの本心を見抜いていた。
(あんまり嬉しくなさそうだ)
戦いに勝ったことも彼にとっては、特に喜ぶべきことじゃないのだろうか?ともあれ、この場にいてもあまりいい気分にはなれない。
そもそもあんな風に女子にだらしない男子は紗耶香にとって軽蔑すべき存在だ。
ーーー魔法を達者に使える術があろうと……。
そんな食堂から去ろうとした紗耶香の前に。
「よ、よう壬生、ここに来ていたんだな」
二科生が来るべき場所じゃなかったのか?と皮肉を言ってやろうかと思ったが、止めといた。
「そうね。もう帰るけど」
「石田目当てじゃないのか?」
「あの「人いきれ」で私が話せると思う?そもそも彼に用事はないし」
「そ、そうなんだな!いや、そうか……」
何なんだコイツは。不満を表に出さずに平淡に返しながら目の前の男に関して思い出す。
桐原武明。ちょいと前に武術場で、いざこざあった同級生だが一科生の男子。
正直言って苦手な人間だ。高周波振動の剣なんて振るってきたのだから当たり前の話だ。
「……帰っちまうのか?」
「一応、剣道部のミーティングがあるけどね」
「ーーー司先輩と壬生は……付き合ってるのか?」
「仮にそうだとしても、言い触らされたくないから言わないでおくよ」
そうして振り返らずに、食堂を去っていく。
紗耶香の後ろ姿を寂しく見ている男子に気づかずに。
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「えーと、五十嵐先輩でしたっけ。なんでここに?」
さっきまでアンタの弟と干戈を交えていたんだが、などと古めかしい表現を心中でのみ申しながら疑問を投げたのだが。
「いやん♪ そんな他人行儀じゃなくて、つぐみって呼んでくれなきゃ泣いちゃうよ」
ブリっ子なポーズで言う女子の先輩にあんまり関わりのない他人だと思うが、と言わずに。
「いや接点ないじゃないですか、精々この前のOGの捕り物の最後でちょっと見えただけだし」
いまの接点で言えばアキラの決闘相手の姉貴であったという所だろうか。まさか弟の仇討ちにやってきたのかと少しだけ身構える。
「そんな身構えなくていいよ。鷹輔が負けたのは当たり前だしね。その辺の野良猫に寝首を掻かれても驚きはしない」
「弟なのに信用ないんだ……」
少し遠くのほうで泣くような声が聞こえるも、五十嵐姉曰く…。
「戦国時代風に言えばこんな感じ」
朗らかに笑いながら説明するのは今回の一件のことである……。
戦国絵巻のような説明が、始まる。
『
『しかし若君は逃走中に捕らえられたという話も』
『こうなれば、この五十嵐家を守るには三河の石田家に降伏するしかないですね。我が身を人質として送ることで城兵と領民の安堵を得るしかありません。
「ーーーといった感じ。五十嵐家の姫である
笑いながら説明した状況ーーー
一人が口を開く。
「で、つぐみん。本当の所は?」
会長からこの人、つぐみんとか呼ばれてんのかいと思いつつ、本当の所は……。
『
『なお若君は逃走中に捕らえられたとの情報です!!』
『かー!!だから言ったんだ!!アンタが勝てる相手じゃないんだから最初っから城を明け渡して降伏しておけって!!姉である私の意見を無視しやがって!!武士ならば捕らえられる前に切腹して首を取らせないようにせんかい!!』
そこまで一挙に言ってから……落ち着いたのか。あぐらをかく姫は頬杖をつきながらため息突きつつ口を開く。
『とはいえ……弟である鷹輔は家の嫡男。死なせるわけにはいかない。となれば女の身である私が石田の人質となって弟と領民の安堵を願うしかないか……』
「ーーーといった感じ♪ まぁ鷹輔が迷惑掛けたからその御礼ということで私の身体で癒されちゃって♪」
そうしてから、腕を三年の先輩に取られてしまう。
「こんな戦国時代の
「そんな引いた顔で怖気づきながら問うな。気持ちは分からんでもないが、答えは1つだ。
『そんなルールは存在していない』ーーーただ、ある種の家と家を繋げる婚約制度はある……俺と隣の七草で、一度はそういう話が出たことはある。あぶくが消えるように一瞬で立ち消えになったがな」
「そいつはなんとも苦労が多そうな立場になりそうで……」
「ああ、正直消えてしまって良かったよ……」
「おい、ボンクラボーイズ。さり気に私をディスるな」
オレンジジュースを飲む2人の男子の共感に会長は物申す。
そんな中、この状況に不機嫌を出していた女が口を開く。
「弟の敗北をダシにしてオトコを誘う
普通だったら、そこまで気が付かない言葉だが、それでも気付いたからには、アキラは言わなければならない。
「おっ、この間教えた引用を使えてるじゃん」
「ーーー褒めてホメて!!」
捕り物…ラブラブオーバードライブの際のことを思い出していたわけだが、まぁそんなわけでアンジェリーナが甘える様子に。
「私にも構いなさいよ〜。風祭先輩がキミに気になるアイツ状態になったのと同じく、私もそうなんだからさ〜」
めんどくさい女よろしく五十嵐亜実が絡んでくるのだった。
この状況、どうすりゃいいんだ。
そう思った全員を解散させたのは、まだカリキュラムが残っているぞという教師の一言であった。
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翌日の一高では、変な空気が漂いながらもいつも通りに授業は続けられていた。
実習授業は、いつも通りに教師がいないままに、続けられていきーーー今日はG
組との合同だったからか、そばかす顔の少女に睨まれるも岬に諌められてか、何とかアキラの方法論は教授出来たのだが……。
「アンタって本当に魔法を習い始めて一年どころか半年もないの?」
「疑うならば、どうぞ」
アキラの個人端末に映した電子ペーパーの情報は、サイオン操作の適性の有無とその能力値のアレコレが、どの時点から違ってきたのかを映していた。
「……本当にこんな時期に『魔法師』になったのね」
その『言葉』はちょっと違うなと思いながらも言わずに、自分語りをする。
「まぁ、俺のようなシロウトが受かるとは思っていなかったし、受かりたいとは思っていなかっただけに関係各所に申し訳ない限りだよ。平河さん」
この高校で、いや魔法師のいる所で、アキラはどこまでいっても異物だ。そして何より……。
(俺は「ナニモノ」でもないんだからな。そりゃ異物さ)
シニカルな考えを内心で述べていると。
「石田君にメールだよ」
平河から返却される端末。興味があるのか、そのまま近くにいたわけだが。
「誰から?」
「教職員側からだね。どうやら昼休みに校長室に赴いてほしいそうだ」
行くか、行かぬかはアキラの判断次第だが、よく見るとメールを書いたのは校長先生のようだ。
百山 東と表記された書き主の名を信じるならば、だが。
(考えてみれば、一番俺に関わりのある魔法師の教師かもな)
というよりも、2科生であるアキラにとって顔と名前が一致する一高の教師など、この人ぐらいだ。そして……現在、俺を色々と悩ませる元凶の少女の関係者でもある。
「行くの?」
「流石に校長
何より……アキラにとって一番望むものをくれるかもしれないのだ。
一高との別れ。
退学勧告を、退学処分を、無期限停学処分。
何でも良いが、そういうものをくれる可能性を信じるのだ。
そう考えた時に、それを想像した時にーーーまだ一週間しか経っていないはずなのに、脳裏に現れた顔に苦しさを覚える。流れ落ちる水滴の数々にその顔が移っていくイメージ。
最後に落ちた
(思い出の中でじっとしていてくれ、俺も思い出の中にだけ消えるさ)
そう願うしかない。どうせ俺など誰でもないんだから。
そうしてシニカルな考えを持ちながらも授業終了のベルは鳴る。
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「かけたまえ」
「失礼します」
校長室にやってきた後に
「昼食は取ったかね?」
「ええ、少食なもので、俺に構わずどうぞ」
「私は後でいいよ」
自分に遠慮して食事を取らないなどしてほしくないという敬老精神は無駄だった。
もしかしたらば、一緒に食事をしたかったのかもとはあまりにも都合がいい想定だろうか?と思いながらも……。
「さっそくで悪いが、石田君は私が何故呼び出したのかを分かるかね?」
「一番ありそうなのは、俺に大鉈を振るって追い出そうとしている。ですかね?」
「退学などさせんし、退学に相当するものを今のところ出すつもりもない。君がそれを願っていることはそれとなく聞いている……何故、ここを出ていきたがる?」
疑問に疑問をぶつけていく話し合い。その中で俺の飾らぬ気持ちをぶつける。
「俺はこの学校、いや……魔法使い…魔法師の中で異物だからでしょうね。そういう空気や目は感じています。だから親に怒られずに、ここを出ていくためには学校都合での退学が欲しいんです」
「ーーー………」
沈黙を以てこのご老人が何を考えてるかは分からない。ただ、アキラの後ろ向きな考えは、少々この人の想定を超えていたのかもしれない。
「で、なんで校長先生は俺を呼び出したんですか?第二の可能性としてご友人の孫娘に引っ付いている悪い虫に「近づくな」とでも警告するつもりだったのかと考えましたが」
「引っ付いてるのはシールズ君……アンジェリーナちゃんの方だろう。庇い立てしたのか?」
「こういう時に泥をかぶるのは男の務めぐらいには存じているので」
存外、アキラのことはこの人に知られているようだ。当然といえば当然の話である。
一息ついてから、互いに茶を呑むーー。口を互いに開く。
「私が君を呼び立てたのは、一つには謝罪だ」
「なぜ、謝られるようなーーーもしかして昨日の決闘は」
「ああ、私が許可を出した。キミの真価を測るためにな」
その言葉に特に憤ることはない。結局のところ、アキラもまた激突を望んだのだから。
だが、他の人間はどうだか分からない……。
「職員室の先生方は一様に不許可であった。当然だな。このようなリンチも同然のことを許可するわけがない」
「そうなんですか」
あえて探るように問わなかったが、その先生方の中には
なんせ少し前には一年の男子トップともいえる森崎駿がやられたのだ。
これ以上の自分たちの生徒の敗北は、何かの疑義を持たれるに違いない。
そういう心だ。
当然、この『自分たちの生徒』の中に二科生は入っていない。
シニカルに心中でのみ結論を出してから、校長先生の話に耳を傾ける。
「なぜだ? なぜ、こんな無謀な戦いをしたんだ?アンジェリーナちゃんのためだけに、そこまで出来るのか?」
いくらでも拒否をすること出来たはずなのに受けたアキラに校長は戦慄混じりの疑問を呈する。
「もしかしたら「誰か」の疑問を代弁しているのかもしれませんが、否定します。如何に義憤があれど、アンジェリーナという知り合って一週間しかない女子の為にそんなことが出来るほど俺も……まぁ、いいですよ。とにかく俺もあの一科生との対決は望んだものです」
少しだけ言い淀んだあとに、決闘に前のめりだった理由を話す。
「俺が「ナニモノ」でもないからこそ、あの戦いを望んだ。それだけですよ」
その言葉は絶望のままに紡がれる。