魔法科高校の退学希望者   作:無淵玄白

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今さらながらスレイヤーズの呪文のASMRというものがあることを知ってしまった。

ろいやる、ろいやる2ぐらいでしか各種呪文の詠唱文なんて聞けないと思っていたからな。

しかも閣下が声をーーーまぁともかく新話どうぞ


第二四話「マギア・スクールパニック6」

 

目の前の少年の放った言葉に、意味を理解するまで少しかかるも、それでも再起動した百山東は、一高の生徒の言葉を問う。

 

「ナニモノでもないーーーどういうことだ?」

 

「言葉通りです。確かに俺はどうやらそれなりに魔法を達者に使うことは出来るようですね。ただ……それだけです。魔法を使えるだけで、俺は『魔法師』じゃないんだなと感じていますよ」

 

「それはつまり心持ちや気構えなどは魔法師ではないと、そう言いたいのか?」

 

「そんな所です。どんな経緯であれ、魔法を使える人間というのは何かの目標や目的意識があるようですね。とりわけ政府都合で作られた数字持ちの人々というのは、その魔法を基に進んでいける様子……豆腐屋の息子に生まれたからと豆腐作りを、豆腐屋を継がなきゃならないわけではなくとも、それで家が食っていける(一家の支え)ならば、それをとりあえず学ぼうとするのは当然の話ですからね」

 

人によりけりだろうが、それでもそういうものだろう。

人間というものは、時に自分の生まれに沿って生きることが求められる。

 

「俺が主に関わり話してきたのは二科の人々ですが、やはり能力の高低に関わらず魔法師は、大なり小なり「目的」がある。E組の司波達也君は魔工技師として身を立てたいと思っているし、千葉エリカさんはご実家が魔法剣術の大家(たいか)らしい……F組のクラスメイトたる岬美涼さんは家の再興を願っている様子ですからね」

 

一区切り置いてから告げる。

 

「けれど、俺は……俺には何もないから「ナニモノ」でもないんですよ。俺には魔法師としてのバックボーンなんてなんもない。空っぽですから」

 

「ーーーーーーだから一科生との戦いを望んでいたのか?」

 

「そこで俺が負けていれば、それで俺は「ああ、俺はこの程度なんだ」と思って、そこからどうなるか……まぁ一番あり得そうなのは、身の程を弁えて生きていくんじゃないですかね?……そうなることを願っていた」

 

だが、勝ってはいけないゲームに勝ってしまったからには超人としての業が、自分に発生してしまう。身に覚えのないチカラの根源を知るなんて作業が必要になってしまう。

 

「しかし……フットボーラーとしての君はそんな人間かね? 少々、見たし調べさせてもらったが、中学三年の頃に海外リーグのジュニアでプレーしている君はそういう風には見えなかったがね」

 

「サッカーは好きでしたから、それだけです。そして俺は魔法を好きになれそうにない。俺にとって身近な魔法はラノベやRPGでポピュラーなファイアーボールやハリー・ポッターが使うようなエクスペクト・パトローナムですから」

 

それとは真逆すぎるものばかりが、正道とされてはシラケる思いばかりだ。

 

「けれど頑張ったからと、意味があるようにも思えない。ハリー・ポッターが、先のエクスペクト・パトローナムをダンブルドア軍団に教えたからと、それを認められないと謗られて、挙句には決闘です……」

 

だったら最初っから「ナニカ」であったなら良かった。

 

最後に加えるべき言葉をアキラは呑み込んだ。

 

多くの魔法科高校の二次創作オリ主のように、四葉近縁の家の生まれ、あるいは他の十師族、数字持ち、数字落ちの家に生まれていたならばラクであった。

 

そこには能力というものに対する生き方もあったはずだから。

 

もしくは、それとは別に政府の研究所が、それら数字持ちの家の研究成果を基に作り上げたウルヴァリンかホームランダー…またはミュウツーのような本当に人造にして人工のバイオニックマギソルジャー……魔法超戦士とでもいうべき存在ならば、生き方はラクだった。

 

誰かの都合で生み出されたバケモノとしての自分ならば、もしかしたらば世界への、ニンゲンへの復讐や逆襲だってやろうと思えたかも知れない。

 

あるいは従順を装いながら自分の欲望を満たしていくことも出来たかもしれない。

 

どちらにせよ自分の能力に肯定的でいられただろう。

 

だが……アキラにあるのは、理由付けがなされていない他を圧倒するチカラと反比例するように「空っぽ」のなんの動機も衝動もない心だ。

 

「君は自分を空っぽというが、それでも君は自分の考案した方法で二科生たちを飛躍的に伸ばしたじゃないか」

 

「二科の授業では先生方は、何もしてくれませんから」

 

皮肉を差し込むと少しだけ舌が止まる校長先生だが、続ける。

 

「それは君の生きる目的なのではないのか?」

 

「誰だって、掃除のやり方が雑で下手くそな人間がいれば、是正したくなるでしょ。あるいは、どうせ言っても無理そうだから後で自分の方で手直ししておくかぐらいには。

けど魔法の実践で後者は無理そうだから、前者でやっただけです。金槌で釘を打つべきところをノコギリでやっているような人間がいれば、誰だって一家言ありそうなもんですけどね」

 

比喩表現としては古めかしいかもしれないが、それでもそういうものだと知れればいいだけだ。

 

「ーーー………それだけが理由かね?」

 

「まぁそんな所です。ただ雑草だなんだとうるさいから、一科生を黙らせるにはそうした方がいいかなと思いましてね」

 

救世主なんて上等なものではない。

 

「我が校の悪しき風習、レッテル貼りの雑草(ウィード)呼びか。君はどう思うかね?」

「校長先生、さっきから質問ばかりですね」

「君を知るには、その方がいいだろう。そして私が表明すべきことはしておくさ」

「ふぅんーーーだからーーーこの部屋にカメラが仕掛けられて余さず外部に配信しているんですね。校長先生の言葉だけでなく、俺の言葉も皆が聞いているわけだ」

 

その言葉は様々な意味で核心を突いていた。  

 

★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆

 

校長室でのやり取りは、アキラが言う通りことの始まりから生中継されていた。告知があったわけではないが、それでも全校の共有映像端末に流されたものに全員の目が釘付けになるのは仕方がなかった。

 

話の始まりこそ生意気な二科生が!ぐらいのものもあったのだが、話が進むにつれて一科生が意気消沈していくのだった。

 

当然、深雪がいる1−Aの教室は、そんな二科生であるアキラと好悪どうあれ関わりある存在が多かった。

 

男子の殆どが俯いてしまっていた。こんなにまでも虚無的な人間が自分たちを倒したのか? 

 

なんの目的意識もなく、ただ自分探しのためだけに、自分(魔法師)たちが得意な魔法戦で倒したという事実が、この上なく伸し掛かる。

 

魔法を習って一年どころか半年もあやしい人間に負けたという事実は、一人相撲をやったピエロ(道化師)の気分があるのかもしれない。

 

ついでにいえばリーナは既に校長室に向かっている。

 

二科の方ではどんな感じなんだろうと思いながらも分からぬままに話は続き……。

 

『別に呼びたきゃ呼べばいいんじゃないですか?』

 

そんな無情なことを言う石田アキラに憤慨するも、こいつの虚無と思考は深すぎると次の言葉で理解してしまう司波深雪であった……。

 

☆ ★ ☆ ★ ☆ ★

 

「ほう、差別をそのままにしておけというのかね?」

「問題は見える差をそのままにしておく制服だと思いますけど、言葉狩りしたところで無理でしょ。俺との決闘でも一科一年生も度々口端に乗せてました。呪文の代わりに口汚くスラングを、差別用語を叫ぶのが魔法師のトレンドなんですかね?」

 

そう言われては百山も、どうしようもなくなる。この制服の問題を放置していた『裏側の理由』を言えるわけないのだから。

 

「そもそも魔法師、特に優秀な人間たちは何が見えているんですかね?

『魔法師は事象をあるがままに、冷静に、論理的に認識できなければなりません』とか言っていた人間を知っていますが」

 

「むっ、誰が言っていたのかね?」

 

「それは言わないでおきますよ。ただ、目に見えているものが正しいならば、認識を正しくするならば二科生には雑草どころか「ナニモナイ」(からっぽ)とするのが正しくないですか?」

 

自らの制服……校章のあるべきところを人差し指で叩きながら、魔法師になったばかりの男子は言う。

その認識は、流石にあまりにも自虐がすぎるか、さらなる差別であった。

 

そして……そこまで言うほど、言えてしまうならば……魔法師としてのアイデンティティや共感性すら尽く消すものだ。

 

そこまで言えてしまうならば、現在の一科生は……想像したくない「現実」が百山を待っていた。

 

「ここにあるものを正しく見るならば、俺には「無」「虚無」しか見えませんよ。ペンペン草の一本も見当たらない」

 

そういうアキラは、ペンペン草は花をつけるよなと思い直したが、あえて訂正はしないでおいた。

 

「ただ……他の二科生には相応しくなくても俺には相応しい。このゼロ(虚無)の限りが、俺を正しくさせてくれる……。ナニモノデモナイ(ゼロ)ならば、何でも出来る。自分の魔法の手法を広めようが、一科生をぶちのめそうがーーー俺は」

 

ーーーなにも感じていない。

 

「……まるで『俺を退学にするならば今しかない』と脅されている気分だよ。伝記やドラマでよく見る芹沢鴨が『近藤、俺を斬れ』と促しているかのようだ」

 

「あれはドラマチックに描きすぎですね。まぁ、そういう事です」

 

「だが君の望みは叶えない。キミに何の咎がある?ここで罪をでっち上げれば、それは正しくこの学校の拭えぬ瑕疵となる。私や他の先生方を『ドローレス・アンブリッジ』だと思うのも仕方ない。しかしーーー今、キミのやっていることは止めてはならない……私の罪を清算するには、それしかないのだからな」

 

罪……それはーーーなどと思った瞬間、校長室が開け放たれそこから一人の少女がやってきて、勝って知ったる様子で「ドスン」という音がする勢いでアキラの隣に座り腕を取るのだった。

 

「ココを辞めないでよ!絶対にリタイアなんてしないで!!ワタシを思い出にしないで!!」

 

怒りの表情と悲しみの顔でこちらを見てくるアンジェリーナに、苦しくなりながらもアキラの状況を伝えておく。

 

「ーーーけども、俺は本当に魔法師としては何の寄る辺もなく、ただひたすらに非魔法家(孤児)でしかなく、はぐれもの(魔法無関係)なんだ。あえて言うならば『はぐれ魔法師オーフェン』としか言えないのにーーー」

 

アンジェリーナのどこまでもアキラを優先してくる態度から出た言葉だが。

 

何か体調不良にでもなったのか、百山校長が咳込んだわけだ。

 

「「校長先生!?」」

 

驚いて立ち上がる2人を見て焦った様子で手でこちらを抑える様子に気圧された。

 

「いや、構わん! シットダウンだ2人とも!!ーーー少し驚いてむせただけだ…年寄りのクセだよ………まさかその字名を再び聞くことになるとは……」

 

なんか小声で言ったが……。

 

「大丈夫なんですか?」

 

「ああ、若い頃は牛一頭でも食うんじゃないかと噂されたが、まぁ今も昔も無理だ。とはいえ……親友と食べた焼肉の味を思い出してしまった」

 

なんのことやら?という思いでアンジェリーナと顔を見合わせてから疑問を浮かべたが……。

 

「ともかく、私は魔法師ではない場所からやってきた君に所感を聞きたいんだ。この二科の創設の目的、その裏側をーーー分かっているのではないかね?」

 

「分かるわけ無いでしょ!俺は、魔法師の社会と関わりなかったんですから!!ーーーけど……先に言った通り、俺は創作物……いわゆるファンタジーやサイエンス・フィクション……藤子・F・不二雄の「すこしふしぎ」も読んでいるーーーこの妄想とも想像とも言えるものを考慮すれば……二科の創設の理由はーーー」

 

言いたくない。本当に言いたくない。なんでこんな役回りが俺なんかに来るんだと思いながらも、気付いてしまったからには、言ってしまう。

 

頼むから否定してくれという願いと共に言葉を呪文のように吐き出す。

 

「ーーー何かの実験で魔法能力を強化する検体の確保。言葉は違うかもしれませんが、人体実験の為だったんじゃないですか?」

 

言葉が足りない、知らないかも知れませんが、と髪を掻きながら捨て鉢気味に放ったアキラの言葉は。

 

「ようやく『真実』に辿り着き、世界に『疑問』を持つ者が現れてくれたか……それが魔法の世界とは縁遠かった人間とは恐れ入るがな」

 

目の前の老人から力強く肯定されてしまい、やはりどうにもこの世界は好きになれないなと感じてしまう。

 

そう感じたあとに、持ち込んだ個人端末に何故か、スレイヤーズ十巻 ソラリアの謀略の表紙が表示される。

 

それを偶然と思える感性は残念ながらアキラには無かった……。

 

 

 

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